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推しに転生しちゃいました!

「ぎゃああああああああ!!」


穏やかな朝に似つかわしくない悲鳴をあげて私は鏡の前で腰を抜かした。


だって驚かずにはいられない。

そこに映る姿は、自分の世界一大好きな……乙女ゲーム『ファンタジア』の推し。

ヒロインのレイチェル・テイラーだったからだ。


「嘘………」


口から出た小鳥のような可愛らしい声に思わず口を覆う。


(待て待て何だこの声。

天使か?

私の推しは声まで天使なのか?)


いや確かに起き上がった時から妙な違和感はあった。


目を擦ろうとした手は、小さく華奢で滑らかで。

着ている服もダサいスウェットじゃなくて真っ白なレースたっぷりのネグリジェ。

こんな服自分は持ってない。

いや持ってたとしても絶対着ない。

視界にキラキラゆれるサラサラの髪の毛だって、私こんな髪長くないしこんな色に染めた記憶もない!


それでおかしいと思って鏡を覗いたらそこに推しがいて。


しかも自分が話すと、動くと。

鏡の中の推しも同じ行動をして。


ホントなにこれ意味わかんないんですけど。


訳の分からない状況すぎる。

きっと夢だと思い、頬を抓ろうとした……だが。


(いやいやいや!!!レイチェルの頬を??私ごときが抓るなんて出来るか!!!)


推しの姿になっていて、推しの声で話しているだけで烏滸がましいのにまさか推しの柔肌を傷つける?

そんなこと出来るわけが無かった。

オタクを舐めるな。


ひとまず一旦冷静になろう。

とりあえず落ち着いて自分のことを思い出してみることにする。


記憶が確かなら、自分は埼玉の田舎に住むど陰キャニート。

名前は田中 花。

どこにでも居すぎる、なんなら名前の例とかになりそうな単純な名前。それが自分の名前だった。


確か今日は、『ファンタジア』の一番くじの発売日だった。

普段は攻略キャラクターしか出ないのに今回のはレイチェルのフィギュアがラストワンで。

まあ腹立たしいことに1番人気のキャラクターと並べたらダンスを踊ってるようになる為のフィギュアなんだけども。

でも推しは推しだ。

待ちに待った、数少ない推しのグッズ!

しかもフィギュア!


こんなもん買うしかねぇだろ!と思って久しぶりに外に出たんだ。

それで見事ラストワンをゲットしてルンルンで帰ってる途中で………


そうだ、私は。


それで車に跳ねられて。


(いや、ホントにありきたりすぎる転生理由なんですけど!!!)


近頃、異世界転生なんて漫画とかドラマとかで使い尽くされたテーマ。

しかもその転生理由のだいたいが、交通事故!!

よりによって王道中の王道で転生を果たしてしまうとは。


でも、それでも異世界転生なんてバカげた話。

物語の中だけの話だと思っていたのに。

そんなファンタジーではありふれた、けれど現実には起こりえない事がまさか自分の身に起こるなんて!


混乱する頭で、もう一度鏡を覗き込む。


ふわふわのホワイトブロンド。

キラキラ輝くピンクサファイアのような大きな瞳。

ふっくらと愛らしい薄紅…色の唇。


まさに絵に描いたような美少女が、そこにいた。


間違いない、レイチェルだ。

長年主人公推しの自分が、最推しを間違うわけがない。


「嘘、本当に、私が、レイチェルなの……?」


鏡の中の美少女は、自分が話すとやはり同時に口を動かす。

本来の自分のものとは違う可愛らしい囀り。


鏡を見つめながらそっと自分の頬に触れる。


柔らかい。

スベスベ。

自分の体だから分からないが匂いもきっとめちゃくちゃいい匂いなのだと思う。


「……尊い。」


気付けば涙ぐんでしまっていた。

鏡の中の推しも当然ながら涙を流す。


「泣き顔まで可愛いぃ…………」


自分の顔を見ながら自分の可愛さに泣くという傍から見たらなんとも気持ち悪い状況ではあるが、そんなこと知ったこっちゃない。


ヒロイン、というプレイヤー代理のキャラクターを推してしまった私はずっと推しの立ち絵もボイスもない事が悲しかった。

けれど今目の前に、自分の推しがいる。

しかも動くし話している。(いやまあ、全部自分がやっているのだけれど、頼むから誰も突っ込まないでくれ)


こんな尊いことがあって良いものか。


この信じられない、幸せすぎる現実に、私は神様に感謝した。


(やった、私……推しの人生を、推しの姿で、推しと共に生きられるのね!!)

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