そのままで
「そうだ!」
「うん?」
「約束してたの、やっと買えたんだよ!ね、かずくん」
「そうだったな!」
そう言って、美陸は葉月さんにネックレスを差し出した。
二人で、内緒で買いに行ったのだ。
「これ、綺麗!大きい」
「2カラットだったっけ?とにかく、大きいの買ってきた」
「こんなの貰えない」
「いいから、いいから!これね、サファイアだって!りーちゃんの、そのクリリとした目元にそっくりだって思ったんだよ」
「こんな高いのもらえないよ」
「もらってよ!りーちゃんには、それだけの価値があるんだから」
美陸の言葉に、葉月さんは泣いていた。
「ありがとう」
「これは、かずくんと僕で選んで買ったんだよ!これから先、りーちゃんが誰かを見つけて幸せになる日が来るまで、僕とかずくんが、りーちゃんを幸せにする証だから」
美陸は、葉月さんにネックレスをつけた。
「嬉しい。似合うかな?」
「すっごく、似合ってる」
「本当に、似合ってる」
「ありがとう、美陸君、かずさん」
葉月さんは、ニコニコ笑った。
あの日、誰にも気づいてもらえずに悲しくて辛い思いをしていた葉月さんは、もうどこにもいない。
「これがね!」
「そう、僕もこれが好き」
美陸と葉月さんが、楽しそうに話してるのを見つめていた。
俺は、こっちにきてすぐに母親にカミングアウトした。
「ふざけないで!かず、孫の顔も見せれなくて男が好きだって、あんた何考えてんの。もう、金輪際あんたとは縁を切るから」
そう言われて、俺は泣いた。
でも、美陸と葉月さんが抱きしめてくれた。
そして、葉月さんは俺に言ったんだ。
「努力じゃどうにもならない事じゃないですか!それなら、今、この瞬間を大切に生きましょう。三人で、沢山笑って、美味しいものを食べましょうよ」
俺は、その言葉に救われたんだ。
努力じゃどうにもならない事が、世の中には沢山ある。
それを知ってるのと知らないのは違う。
俺の両親は、知らない人だ!
俺に、女の人を好きになる努力をしろと話した。
カミングアウトを二度とするつもりはなかった。
だけど、葉月さんといると逃げていたら駄目な気がしたんだ。
努力じゃどうにもならない事に、労力を費やして、心や体を磨り減らしたくないと思ったんだ。
「りーちゃん、美陸」
「何?」
「これからも、一緒にいような」
俺は、二人の頭を撫でた。
「何それ?いるに決まってるよ!」
「そうです」
「そうだよな」
二人は、俺の手を握りしめてくれる。
俺は、立ち上がって二人を抱きしめた。
「俺が、守るから!だから、美陸もりーちゃんも、そのままでいてくれよ」
「かずくん」
「はい」
二人は、そう言ってくれた。
俺は、二人から離れた。
「ビール取ってくる」
「うん」
美陸と葉月さんは、二人でまた話していた。
俺は、キッチンから二人を見つめていた。
幸せって、これを言うんだ。
そう思って、笑った。
もう、誰にもわかってもらえないと嘆かないでいい!
俺と美陸は、葉月さんの味方だから…。
そして、葉月さんは俺と美陸の味方だから…。
痩せたら綺麗だって言葉は嫌いだ。
痩せなくても、葉月さんは綺麗だ。
葉月さんは、そのままで綺麗だ。
葉月さんは、仕事以外はいつもお洒落をしてメークをして、身なりを必ず整える。
それだけで、葉月さんはもの凄く綺麗だ。
でも、周りの人は葉月さんに痩せろと簡単に言う。
努力をしていないと簡単に言う。
努力していても報われない事が、世の中には沢山あるのだ。
それでも、永遠に努力しろと言うのか?
俺は、それは違うと思うんだ。
心も体も、ボロボロに磨り減らしていた葉月さんを、俺はもう二度と見たくない。
「はい、美陸」
「ありがとう」
「りーちゃんは、お水でよかった?」
「はい!もう飲み終わりますから」
「あのさ」
「はい」
「りーちゃんは、頑張ってる!それに、俺はそのままのりーちゃんが好きだよ」
「かずくん、告白?」
「あっ、違うよ!何かちゃんと言っておきたくて!俺は、痩せれない自分を受け止めてるりーちゃんが大好きだよって」
「僕もだよ」
「ありがとうございます」
葉月さんは、照れ臭そうに俯いた。
「もう、一人じゃないから!俺と美陸がわかってるから」
「はい」
泣いてる葉月さんの頭を撫でる。
もう、一人で悩まなくていい。
自分を責めなくていい。
俺達は、味方だから…。
ちゃんと努力してるのを知ってるから…。
少しずつだけど、痩せてきてるのも知ってるから…。
無理せず、自分のペースで痩せればいいんだよ!
誰かの真似をしなくていい。
太ってるのが怠けてるなんて、そんなの決めつけだ!
少なくとも、俺は葉月さんの努力を見てきた。
だから、嘘つきなんて言わせておけばいいんだ。
「大好きだよ!りーちゃん、かずくん」
「私も大好き!美陸君、かずさん」
「俺も大好きだよ!美陸、りーちゃん」
三人で乾杯をした。
俺達は、俺達の歩幅で一歩ずつ歩いて行く。
王子様になれなくたって、幸せにはしてあげられてるよな!
私のように、痩せないと嘆いてる方がいるかもしれない。
そう思って、作った物語です。
私は、親戚やいとこや主人の家族、友人に、怠けてる努力が足りないと言われました。これをすれば、痩せる、あれをすれば痩せる、誰も理解してくれませんでした。
外を歩けば、ジロジロ、コショコショ言われていました。
毎日、食べるのも飲むのも苦痛な日々でした。押し込んで飲み込んでるって日々でした。
主人だけが、食べてるのを減らしてるのも知っていて、これだけやってるのに何で痩せないのかな?と言ってくれました。
そして、産婦人科の先生が痩せにくいねって私の体を初めて認めてくれました。
僅か、5キロ痩せた時に、美陸のように褒めてくれたのを覚えてます。頑張ったね!痩せにくいのに、よくここまで痩せれたね!
全く痩せなかった時に、先生は私に言いました。一年で一キロ、10年後に10キロ痩せれてたらいいじゃない!それで、いいんだよって!
その言葉に、私は救われました。どうせ、何をしても痩せないなら美味しく楽しく食べてやる!
あの頃の私のように、悩んで苦しんでいる誰かが救われる事を願って、この物語を書きました。
寝かせて、寝かせて、やっと完結させれました。
最後まで、読んでいただきありがとうございました。




