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ふぇんりる!  作者: 豊縁のアザラシ
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EP-97 不思議な世界への誘い

『ーーー』


 屋台が並ぶエリアを抜けて明かりの数も少なくなる。街灯が並ぶと夜道を曲がり、それは更に暗闇を進む。下駄で走るのはとても大変だけど立ち止まる訳にはいかなかった。

 あの特徴的な尻尾を私が見間違えるはずがない。ずっと探していたイノリが現れたのだ。この機を絶対に逃したくない。


「待って、イノリ!」


 もはや星と月の光だけが照らす暗がりだけど、夜目が効く私にはそれで充分だった。それにこの道はよく知っている。今まで何度も歩いたことがあるから。

 やがて辿り着いたのは長い長い石階段。この先にあるのはただ1つ。イノリと出会い、何度も会いに来た古い神社だけ。


「はぁ、はぁ、ふぅ」


 石階段を少し登ったところでイノリは佇んでいる。呼吸を整えて下駄を脱いで、私は再び追いかける。

 それにしてもあいつの素早さは相変わらずだ。結局、神社に着いた頃にはまた疲労困憊になってしまった。

 顔をあげたときにはもうあの子の姿は無くなっていた。社の裏や近くの茂みを探してもいない。まるで本当に幻を見ていたように。今までと違う意味で竜崎先生のお世話になってしまうじゃないか。


「また会えるよね。イノリ」

『ーーー』


 別れを告げる声がした。触れることは叶わなかったけど、またあいつに会う事ができた。今の私にはそれだけで充分嬉しい。

 イノリとの思い出を振り返り、来た道を戻るべく石階段を降りる。そのとき目に入ったのはここにあるはずの無い人工光。スマホライトを付けた人影が立っていた。


「うぴゃあ!?」

「うおっ、びっくりした」

「な、なんだ良介か。驚かさないでよ」

「こっちの台詞だ。いきなり走り出すんじゃねぇ」


 そう言って良介は取り出したりんご飴で私の頭を小突いた。地味に痛いけど迷惑をかけた手前、甘んじて受ける他ない。

 皆んなに連絡したところでようやく一息ついた良介はようやく落ち着きを取り戻して、ここがどこなのか把握したらしい。加えて私も事情を説明して、何が起きたのかおおよその事を理解してくれた。


「ここに棲みついていた例のわんこがねぇ」

「私の言ったこと信じていないの?」

「微妙なところだなぁ。イノリだっけ。俺はその犬を見ていないし、鳴き声とかも聞いてない」

「やっぱり私にしか聴こえなかったのかぁ」

「今のお前はやたら耳が良いからその差かもしれない。だから微妙ってことだ。そのお前もここに着いたら見失った。出鱈目を言うとは思っていないけど、だとするとこれって本当にあった怖い話なんだが」


 確かに良介の視点だと私が突然奇怪な行動をしたようにしか見えないのか。私しか認識できないイノリの存在。冷静に考えると凄く怖いんだけど!

 そう言えば今はちょうどお盆の時期だ。イノリが私に会いに来たのか、それとも化けて出てきたのか。ハートフルとホラーの紙一重。そう考えると全身の毛が逆立つ。


「まぁ、摩訶不思議な出来事が起こるなんて今更だけどな」

「どういう意味かな」

「聞くまでも無いだろ」


 私を見下ろして快活に笑う良介。そりゃあ私自身がファンタジーの塊だから何が起きても不思議ではないと言われればその通りだけどさ。


「奇しくも今はお盆の時期だからな。会いに来てくれたのかもしれないぞ」

「私はまだイノリが生きていると信じているんだけど」

「悪い悪い。ならそのイノリちゃんの無事を神様にお願いするとしますかね」


 良介は袖を探り、りんご飴を取り出すと社に供えて手を合わせた。屋台のお菓子を供物にするなんて聞いたこと無いけど、こういうのは気持ちが大切ということにしよう。

 神様だって夏祭りのときくらいユーモアがあるお供え物でも許してくれる、はずだよね。


「よし、もう戻るぞ。そろそろ本当に間に合わなくなる」

「いやもう無理じゃないかな」

「無理だとしても悪足掻きをしない理由にはならないんだよ」


 差し出された手を取り、私達は再び暗い夜道を駆ける。さっきよりも力が強いのはきっと気のせいじゃない。

 遅れたらお姫様抱っこをすると脅されて必死に走るが間に合わず夏祭りの会場に着いたときには最初の花火が打ち上がる。


「うぅっ、頑張ったのに」

「間に受けたところ悪いがやらないぞ。周りに迷惑だし、愛音ちゃんに見つかったら無事では済まなそうだし」

「なんだよもう!」


 鬱憤を拳にのせて振り回したいところだけど、さっき貰ったりんご飴に免じて今回は許してやろう。決して叩いたところで私の手が痛くなるだけで終わるからではない。ないといったら無いのだ。

 夜空に咲いた炎の花の下を走り、神社に戻った私達はそこで待っていた皆んなと合流。心配をかけた罰として囲まれた後、全員にもふもふされました。


「花火を見ながら食べるりんご飴は乙だねぇ」

「そうだね」


 狐鳴さんとりんご飴で乾杯をして大輪が咲く夜空を見上げる。こんな賑やかな夏祭りを過ごせる日が来るなんて、去年の私には想像すらできなかった。

 大切な友達と家族と一緒に過ごしたこの日の記憶を、私はきっと忘れることはないだろう。

 

?『ふーむ、さすがにまだ力が足りんようじゃのぅ』


?「そうだね。経過を見るにあと1年は必要かな」


?『まぁ、のんびり見守ることにするわい。時間はいくらでもあるのでな』


?「手間をかけさせて悪いね。はいこれお礼」


?『林檎の菓子か。じゃが妾は油揚げの方が好きじゃ』


?「要らないなら俺が貰うけど」


?『要らないとは言っとらんじゃろう』

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