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盗賊団

 翌朝、早朝という程では無い程度の時間に俺達は城へ向かった。普通に考えれば昨日の今日で城の対応が変わるとも思えないが、それでもイベントとして問題なく進むのがこの世界である。


 門の前には昨日とはまた別の兵士が立っていた。日替わりなのか時間で交代しているのか分からないが、それでも向こうはこちらをしっかりと認識してくれていた。


「お前たちの話しは聞いている。王が直接話しをしたいそうだ。付いてこい」


 特に挨拶も無く問答無用で連れて行かれる。あまりにも無愛想だがゲームでは門番のNPCとしての役割しか無い為、用意されているセリフも少ないのだ。


 ここの城は俺が居た国の城よりも更に大きいが、造り自体は大差なかった。結局真っ直ぐ行って階段を上がれば玉座の間に着いてしまう。


「お主達が勇者一行か?ふむ、確かに強そうではあるが……用件は転移の魔法陣だったな?」


 問われた俺は頷く。はっきりと声に出して返事をしなかった事を怒られるかと思ったが、そんな事は無く王はまた勝手に話しだした。


「勇者ならば知っていると思うが、魔法陣の先はより強力な魔物が現れる。生半可な実力の者を通すわけにはいかんのだ。そこでお主達の実力を示してもらおう」


 王が目配せをすると、側近がその後の説明を引き継いだ。


「近頃行商人を狙った盗賊団の被害が頻発しています。以前は護衛を付けていれば問題無かったんですが、奴らはどうやら急激に力を付けている様です。そいつらを討伐し、証拠を持ち帰れば実力を認め、魔法陣までの許可証を渡しましょう。盗賊団はここから北の方角からやってくるという事です」


「お主達がやらんでも盗賊団はどうにかする。だが実力を示せねば、魔法陣の使用は許可できん。これは強制では無いが、やってくれるとこちらとしても助かるのでな」





「何か上手いこと使われてる感じがするのが気に食わないが、やるんだろ?」


「人助けにもなりますし、別に構わないのでは?」


「あたしとしても見逃したくは無いね。同じ盗賊って言っても、未管理の遺跡を狙うヤツと人の財産を狙うヤツは違うんだよ」


 皆それぞれの意見は有るようだが、この盗賊団の討伐は既定路線なのだ。例え反対意見があったとしても、説得して討伐に向かう予定だったがその必要も無さそうだ。薬草の買い足しは昨日のうちに済ませている為、城を出てからすぐに北へと向かう。


 少しネタバレになってしまうが、盗賊団は2箇所の拠点を持っている。それぞれ塔と洞窟なのだが必ず両方に向かう必要があり、後から向かった方に団長が現れるのだ。敵の強さも全く変わらない為どちらから行っても構わないのだが、今回は歩いて見つけやすい塔から向かう事にした。


「この辺りの魔物はもう余裕だな」


「油断するのも良くありませんが、気を張り続けてもただ疲れるだけですからね。適度に集中していきましょう」


 レベルは適正でありながら、装備だけは圧倒的に良くなっている為苦戦する要素は無かった。あっという間に塔に辿り着くと勢いそのままに登り詰め、そこで盗賊団の下っ端達との戦闘になる。そして俺はこの世界の厳しさと、自分の考えの甘さを知る事になった。


「何だてめぇら!討伐隊か!?」


「やるぞお前ら!こいつらをぶっ殺して団長から褒美を貰おうぜ!」


 盗賊団の鬼気迫るというか狂気的というか、何とも言い表せないような迫力に俺は正気を失ってしまった。魔物に襲われるのとは違う、本能では無い思考によって導かれた殺意を向けられたのはこれが初めてだった。この世界ではおろか、普通の日本人だった俺がそんな経験をしたことがある筈もない。


 魔物との戦闘は痛みも無く、言い方は悪いかもしれないが俺が夢想していたゲームと同じ感覚で戦っていた。どうすればより早く、安全かつ効率的に魔物を倒すことが出来るか。そればかりを考えて戦っていた。


 しかし目の前にいるのは、現実となったこの世界に生きている人間なのだ。ゲームとしてプレイしていた時には何の躊躇いも無く行動を入力し、ただのイベントボスとして無感情に倒すことが出来た。


 そして倒した盗賊団はゲームの都合上、画面から消えてしまう為気絶しているのか死んでいるのか分からない。だがその事がより俺の思考を狂わせたのだ。気絶させるべきか、殺してしまうのか、ここに来るまで微塵も考えていなかった。


「ヤるよ!気遣いは無用だ!」


「勇者様!指示を下さい!」


 そんな俺に発破をかけてくれたのは女性陣の2人だった。どうやらああああも俺と同じ状況に陥ってしまっていた様で、動きが固まってしまっていたのだ。それも当然で、ああああもまた平和な世界からやってきた転生者なのだ。


 だがいは以前も剣と魔法の世界に生きていた。詳しくは聞いていないが、恐らく命のやり取りも頻繁にあったのだろう。そしてぁぃはそもそもこの世界に生まれ、この世界しか知らない為俺達の過去の常識は通用しない。ヤられる前にヤる、それがこの世界を生きる上での鉄則だった。


「うおおおおお!」


 ああああもそれで吹っ切れたのか、気合を入れ直して盗賊団の攻撃を防いでいる。俺は心の中でぁぃに使用する呪文の指示を出し、いにはああああの補助をしてもらいながら薬草を使って回復してもらう。そして俺は1人で、下っ端1人を相手取っていた。


 直後、俺は意図していなかった改心の一撃で下っ端を仕留めていた。確実に死んでいる事は文句の付けようが無い、服の下に仕込んでいた鉄製の防具ごとその身体を両断していたのだ。そして盗賊団の様な奴らには、いや、普通の人々に精霊様の加護なんてものが無いのだと知る事になった。


「つ、つええ……」


「ビビるんじゃねぇ!数では勝ってるんだ!」


 そこからは俺もああああも吹っ切れていた。1人手に掛けたら後は何人でも変わらない、等とは思っていない。それでもこの場はこうする以外に道は無く、ヤらなければヤられるのだ。


 俺は冷静に指示を出し続け、下っ端達を的確に処理していく。最初こそ手間取ったが元々の装備差もあった事で、結果的には魔物との戦いと大差ない程度にしか体力は減っていなかった。


「み、見逃してくれ……情報なら渡す……俺達の拠点はもう一つあって」


「悪いね。そんな事、勇者様はとっくに知ってるんだよ」


 最後の1人をいが仕留め、俺は全員のステータスを確認する。この行動も戦闘終了後の癖になってしまっているが、体力や状態異常等を確認する為に重要な事なのだ。


 そして知ってはいたが、知りたく無かった事実も見てしまう。明らかに魔物を倒した時よりも経験値が多く貰えているのだ。


 魔物を倒すよりも、人間を殺した方が多くの経験値を貰える。これはゲーム上のイベント戦闘に当たるのだから、それも不思議では無いだろう。ゲームによっては余り貰えない事もあると知っているが、それはこの世界には当てはまらない知識だった。


「終わった……のか」


「あぁ。確実に仕留めた筈だよ」


「早く下りましょう。長居しないほうが良いです」


 確かにここに長居するのは良くない。それは盗賊団の増援が来るとかそういった事では無く、俺の精神的な事情だった。いくら長居しようと敵の増援が来ることは無い、それはここがそういう世界だからだ。つまりこの光景もこの世界では当然であり、そこに生きる俺の行動もおかしな事は無い筈だ。


「下りたら今日は早めに休もう。少し落ち着いた方が良さそうだ」


 いの意見には誰も反対しなかった。そうして塔を下りた俺達は、まだ日も暮れていないうちから野宿の準備を始める。


「勇者様、大丈夫ですか?」


「やっぱ……少し堪えるよな。俺もそうだ。以前の記憶なんてのがあるから余計にな」


「あたしは正直に言うと慣れちゃってるんだけどさ。でも、勇者様もあんたもそれで良いと思うよ。本当はこんな事しなくて済むなら、そうした方が良いんだから」


 3人の言葉が心に染み渡り、俺はようやく少し落ち着く事が出来た。改めて感謝の気持ちを伝えると共に、しっかりと考えた上で明日の行動を決めて3人に伝える。


「……分かった。勇者様がそう言うんなら、あたしは止めないよ」


「俺もだ。俺達は皆仲間なんだ、こういう時は支え合いが大事なんだよ」


「もし本当に辛かったら私を頼って下さいね。勇者様のあんな顔、見たくありませんから」


 俺の決断は、次の盗賊団の拠点では躊躇わないという事だった。盗賊団は俺達が放っておいても、国が討伐隊を派遣してどうにかするだろう。だがそれでは魔王を倒すという目的を果たせなくなってしまう。


 この世界でロールプレイする(役割を演じる)と決めている以上、これは絶対に避けて通れない道なのだ。勇者の前では魔王も盗賊団も変わらない、倒すべき悪だ。


 やらなければならない以上、仲間に気を使わせて俺が手を下さないなんて事は出来ない。どの道共犯である上に、そんな事の為に連携を乱すような事をする訳にはいかない。


「少し早いが、今日はもう寝ようぜ。俺も疲れちまった」


 普段最も体力のある、ステータス的な意味では無く精神的にタフだと思っていたああああは率先して寝始めた。俺はまだ色々と頭の中で整理している所であり寝付けそうに無く、そういった意味ではやはりああああはタフなのかもしれない。そうして中々寝付けないで居ると、俺の傍に2人の女性が寄り添ってきた。


「勇者様。今晩はお側にいさせて下さい」


「今の勇者様は、放って置いたらどっか行っちまいそうだからね。あたし達がしっかり繋ぎ止めておいてあげるよ」


 2人は俺の左右の腕にそれぞれ抱きつきもたれかかってくる。旅が終わるまで決してそういう事はしないと決めているが、この状況を乗り切るのは中々に精神力を要しそうだった。


 そうしてドギマギしている俺の様子を見た2人は笑っていた。そこで俺は2人が俺の気を軽くする為にこうしてくれたのだと、もっと言えばああああはそれを見越してさっさと1人離れて寝始めたのだ。本当によく出来た仲間達であり、俺には勿体ない程だ。


 おかげで俺の気持ちは少しだけ楽になっていたし、先程まであんなに悩んでいたのに今は2人の事しか頭に無かった。いは普段から見せつけるような格好をしており、素晴らしいプロポーションを持っている事は知っていた。


 しかしぁぃはなるべく下着姿も見ないようにしていた為気付いていなかったが、大きめのローブの下に隠した肉体は中々に豊満だった。その事に俺は喜んでしまっていたし、単純過ぎる自分の頭に少しだけ呆れてもいた。


「ふふっ。勇者様も結構かわいいとこあんだね」


「私は知ってましたよ?勇者様は格好良くて可愛いんです。守られたいし守ってあげたい、そんな素敵な人です」


 2人に直球の好意をぶつけられ、いよいよ我慢が出来そうに無くなってきた俺は無理やりにでも寝る為に目を閉じる。すると先程まで寝付けなかったのが嘘の様に眠りにつくことが出来た。それだけ不安が取り除かれたという事であり、改めて俺はこの仲間たちを守るために迷わないと誓った。

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