遺跡攻略
翌朝、俺が取った選択は国に戻る事では無く遺跡へ向かう事だった。結局賭けに出るのならリターンが大きい方を選んだという結果なのだが、何もかもが賭けという訳では無く勝算も十分にあっての事だ。
それは遺跡の方が広大な山や森や草原といった場所よりも、現在位置が分かりやすいという事だ。本来ならばおかしいのかもしれないが、遺跡内には必ず何かしらの目印が存在する上に移動範囲も限定的で、マップさえ把握していれば迷うことは無い。俺は遺跡の構造から罠の位置まで知っている為、全くの未知の場所ではないのだ。
遺跡攻略の準備として、防具と薬草以外の持ち物は全て売り払った。当然武器も例外では無く、そもそも魔物とは戦う気は無いのだ。それで得た資金を使って全員の防具とありったけの薬草を買い込んだ。
「よし、遺跡攻略だ!行くぞ!」
相変わらずああああが大声で宣言するが、今日ばかりは少し空元気といった様子が出てしまっていた。やはり不安が隠しきれないのだろう、いも今日ばかりは突っ込めずに緊張した面持ちだった。それもその筈で、これから向かう場所もその道中も、1度の戦闘で全滅もあり得る。
案の定遺跡に向かう道中では、幾度も魔物に襲われ何度も死にかけた。しかし防具と薬草を揃えていたおかげで何とか死者を出すこと無く辿り着く事が出来た。
「いよいよだね。勇者様、頼んだよ」
本来ならば盗賊であるいか、戦士であるああああが先頭を歩くのが普通なのだろう。しかし今回ばかりは罠を避けながら最短ルートで進むために、俺が先頭にならざるを得ない。
だがここまで来れた時点で、半ば目標は達成したも同然だった。後は俺が遺跡内の道と仕掛けを間違えなければ良い、その事だけに集中して中を進んで行く。途中に落ちている宝箱も罠が多いのだが、俺は的確に罠では無いものだけを開けて中身を頂いていく。
「すごいな……この時点でもかなりの資金になりそうだが、まだ奥に行くのか?」
ああああの心配も分かるがこれだけでは足りないのだ。本来ここに来る筈のレベルまで上がっていれば十分だったかもしれないが、低レベルの俺達が外の魔物と戦えるようになるには、現状の最強装備を一式揃えるぐらいでなければ間に合わない。
それにどちらにせよもう一度ここに来て遺跡を攻略する必要があるのだから、出来れば1度で済ませたいという欲張った気持ちもあった。
「敵だよ。でも数は少ないね」
いが言う通り、外に比べて出現する魔物の数は少なかった。この遺跡に現れる魔物は確かに強いが、外の魔物よりも数が少ないという特徴があるのだ。余程運が悪くなければと言ってしまうとフラグになってしまうが、外の魔物から逃げ切れるだけの装備と薬草が揃っている時点で難しくない事なのだ。
遂に遺跡の最奥に辿り着く。別に遺跡の主のようなボスがいる訳では無いので、後はただお宝を頂いて脱出するだけだ。
「これは……鍵ですね。それとこちらはあの塔と同じ、脱出用の魔法陣ですね」
ぁぃが手にした鍵は勿論、次の魔法陣を使用できる様にするために必要なものだ。結局これを手に入れなければ次の大陸に進めない為、回収しておかなければ再びこの遺跡に来なくてはならなかった。
だがこれで全ての用事は済んだ。魔法陣を使い遺跡から脱出して元居た街に帰る、という訳では無く次の街に向かう。その理由は現れる魔物の種類が変わらないにも関わらず、街で売っている装備品の質が違うからだ。どうせここまで来たのだしリスクが変わらないのならば、よりリターンが大きい方を目指した方が良い。
「何とか……逃げ切れた。本当にうまくいくとはな!流石勇者様だぜ!」
「本当だよ!これで何とかなりそうじゃないか!」
「助かったんですよね?これでまた普通に旅が出来る様になるんですよね?」
日もすっかり落ち、薬草も尽きかけた所でどうにか目的地だった街に辿り着く事が出来た。ここまでの死者はなんとゼロ、作戦は大成功と言っても過言では無い。4人で抱き合い喜びを分かち合いたい所だが、周囲には人の目もあるため自重する。
取り敢えず時間も遅いためまずは宿を取った。そこで改めて口々に作戦の成功を祝い少しだけ贅沢な食事を取ると、緊張感から開放された為か皆早くに寝てしまった。
翌朝は普段に比べればかなり遅くに宿を出た。起きた時間も遅かったのだが、改めて換金物の確認をして必要な装備やその他道具の購入に掛かる金額を計算していたのだ。あくまでも俺のゲームの知識が基準であり、うろ覚えの所も有るため少し厳しく見積もっている。しかしそれでも十分な金額になるのは間違い無い。
「すげぇ……こんな立派な鎧初めて見たぜ」
「この盾も魔法が付与してあって、いろんなダメージを軽減してくれるみたいだね」
「この杖、私の魔力を使わなくても効果があるみたいです。すごい……」
そうして無事全員の装備を新調する事が出来た。おおよそ俺達のレベルに見合わない高価な装備ばかりであり、その分効果の程も期待できる。決してダジャレで言った訳では無い。この世界の装備にレベル制限が無くて本当に良かったと思える瞬間だ。
その他道具についても当然買い揃えてある。今まではほぼ薬草しか購入していなかったが、今回は毒消しや敵に状態異常を付与する薬品も買っておいた。高級薬草に関してはまだ俺達の体力に対して効果が大きすぎる為控えておいたが、これで旅の安全性は確保されたと言っても過言では無い。
「さぁ、装備の試運転だ!気合い入れて行こうぜ!」
「流石に今回はあたしも気合が入るね」
ああああが大声で宣言した通り、後はこの装備で魔物と戦えるかどうかの確認をしに行く。いくら装備が強いとは言え、俺達のレベルは適正を大幅に下回っている為決して油断は出来ない。街からあまり離れていない所を歩き回り、万が一に備えてすぐに街に逃げ込める様にしておく。
「あのでかい猿だぜ!さあ、来やがれ!」
以前襲われた時にはたった2回の攻撃で死に至らしめられる程の攻撃力を持った魔物だ。しかし今の装備であればその2回は確実に耐えられる。それだけの防御力が確保出来ていれば回復も十分に間に合う上、こちらから攻撃を仕掛ける事も出来た。
「そろそろ反撃するよ!」
十分戦える相手であると確認できたため、全員で一斉に攻撃を仕掛ける。体力も多い筈の魔物だが武器がとても優秀であり、それ程時間をかける事無く倒すことが出来た。
「やりました!勝てましたよ!」
「ああ!これならまだまだやっていけるぞ!」
たった1度の勝利だが、それでも格上の魔物を倒した事で得られた経験値はかなりのものだ。ステータス画面を確認すると、全員のレベルが上がっているのが分かる。そしてレベルが上がったという事はそれだけ次の戦闘が楽になるという事であり、このまま幾度かの戦闘を続けてから宿に戻った。
「俺達も一気に強くなったな。これならそのまま進んで行けるんじゃないか?」
ああああの意見に2人も賛同するが、実際にはそう簡単には行かない。確かに魔物との戦いだけならばこのまま進んで行っても問題ないのかもしれないが、次の大陸に進むために必要なイベントをまだこなしていないのだ。
「なるほどね。この大陸の魔法陣は王様の許可を貰わないといけないのか」
「ってことはまた向こうに戻らなきゃいけないんだな。けどまぁ、今の俺達なら油断しなければすぐに向かえるな」
「では明日はすぐに戻りますか?それとももう少しここで修行していきますか?」
俺達は明日すぐに戻る事に決めた。ここでずっと魔物を倒してもすぐに修行の効率も悪くなってしまう。経験値はイベントを進行させるための往復の道で十分であり、装備も揃っている今ならばすぐに次の大陸に向かった方が効率的だ。
翌早朝に街を出ると先日攻略した遺跡を横目に、真っ直ぐに来た道を戻っていく。ぁぃの魔力も十分に温存出来ていた事から、途中魔物から逃げる為に入った街にも寄らず、一気に国まで戻ってきた。
「かなりの強行軍だったけど余裕だったな」
「装備だけじゃなくてあたし達も強くなったからね。何よりぁぃの呪文のおかげで戦闘も早く終わるし」
「お役に立てて何よりです」
ぁぃもこの大陸に来た時にはまだ初級火炎呪文しか覚えていなかったのが、今は初級の閃光呪文と氷結呪文、そして味方の防御力を上げる単体防御呪文を覚えていた。これらの存在によって相手に与えるダメージを増やし、ああああの防御力を上げて前線を保つ事が可能になった為戦いやすくなったのだ。
宿をとる前に城へと向かう俺達だが、前回来た時にはあまり国の中を見て回っていなかった為改めてこの国の規模の大きさを実感する。
しかしこれほど大きい国であるにも関わらず、大陸の端にある街の方が良い装備が揃っているというのも不思議だが、そこはゲームの仕様として仕方がない事だ。むしろ自国を守るためだけに、良質な装備を独占していないのは良いことなのかもしれない。
「むっ?お前たちは旅の者か?この城に何の用だ?」
「俺達は魔王を倒すために旅をしている。王様に転移の魔法陣を使用する許可を貰いたい」
「噂には聞いていたがお前達が勇者一行なのか?しかし今は少々時期が悪いし、何よりお前達が勇者だという証拠も無い。お前たちが来たということは伝えておくから日を改めてくれないか」
城に向かったはいいが、その門前で兵士に追い払われてしまう。3人は露骨に不機嫌な顔をしているが、これもイベントの仕様でありこうなる事は予定通りなのだ。ゲームではここで1度宿に泊まってから再び城に訪れるとイベントが進む為、取り敢えず今日のところは宿に向かう。
「確かに私達の身分を証明する手段がありませんでしたね」
「それに時期が悪いって言っていたが何かあったのか?このままずっと待たされてる訳にもいかないぞ?」
「その辺のところ、勇者様は何か知ってるんじゃないのかい?」
俺は詳細を伏せながらそれっぽい説明をする。この世界の事を知っているからと言って、昨日今日起きた事件の事まで知っているというのは明らかにおかしいだろう。そう、今この国ではちょっとした事件が起きており、それを解決する事で王様に認めてもらうというイベントなのだ。
「確かに、城下町が少し浮ついた雰囲気だったね。何事も無ければいいんだけど、町中でも気をつけておいた方がいいかもね」
何かしらの事件が起きているかもしれない、そんな感じの説明だけでいが要約してまとめてくれた。会話やコミュニケーションの部分で俺の仲間達が優秀過ぎる気がするが、俺が言葉を話せない以上はそれぐらい出来なければ、勇者の仲間でいるというのは難しいのかもしれない。まるで他人事の様にそう考えながら眠りについた。