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帰還してからの事

 ユウリ達が抱き合いながら別れを済ませていた頃、その後ろでアカリとアイと魔王の3人も別れの挨拶をしていた。今の魔王は実体化せずに、声だけで話しをしている。


 2人は魔王の助力のお陰で、今回の戦いに参加することが出来たと言っても過言では無い。そして今回の件が終わってもその力を回収されないという事で、魔王の魔力をそのまま持ち帰るという事についても話しをしていた。


「ほう、つまり異世界に我の眷属が進出するということだな」


「あたし達は別に魔王の眷属って訳じゃないんだけど」


「そう言うな。我の魔力を受け入れる事が出来たという事は、素質があるという事だ。だが我の魔力は人間のものと違って扱いも難しい。見たところ2人とも完全に制御しているという訳では無さそうだしな、僅かな時間だが少し扱い方を教えてやろう」


「それ戦いの前に聞いておきたかったな……」


 魔法を使うためのエネルギーとしてしか用いられない人間の魔力と違って、魔王の魔力は魔法だけでなく身体能力等にも直接作用している。魔力が多いだけ身体は強くなるが、その制御が出来ていないと日常生活でも大変な事になってしまう。


「単純に出力を制御出来れば良いのだが、慣れるまではそれも大変であろう。そういう時は適度に発散してしまうのも有りだ」


 純粋に魔力の量を減らしてしまえば身体への影響も少なくなり、発散する為に魔力を使うことで制御の練習にもなるという。そして発散するにしても、ただ魔法を放つよりも効果的なやり方があった。


「我らは魔力を使って実体化しておる。魔物たちは各々が動かしやすい様な形に実体化しているのだ。故にお主達も、何かを形作り動かすというのが最も練習になるだろう」


「実体化……腕をもう一本生やしてみるとか?」


「直接身体から生やす必要は無いし、何か別のものでも構わん。慣れれば翼を生やして飛んでみるというのも有りだろう。だが我のオススメはもっと別にある。聞くか?」


 何故か魔王が声を潜めコソコソと話し始めるので、つい2人も前のめりになってその言葉を聞き入ってしまう。その為魔王が言わんとする言葉を察した時には、もう耳を塞ぐことも出来なかった。


「な、なに言ってるの!そんな事出来るわけ無いでしょ!」


「貴様らは互いに好いているのであろう?何の問題があるのだ?」


 ユウリ達のお別れを邪魔するわけにもいかないのでアイは小声で怒鳴るが、魔王は全く悪びれた様子も無い。


 魔王のオススメとは端的に言えば、魔力を使ってあるものを作り出し、ユウリと一緒にゆうべはおたのしみでしたねをするというものだった。同性でありながらそういう関係にあるというので、これならば魔力を制御する練習にもなり一石二鳥だというのが魔王の主張だ。ただわざわざ声を潜めていたというのも、この反応を予期してのものなので明らかにわざとやっていた。


「アイ、魔王の言ってる事は有りだと思うよ。少なくともあたしは、出来るならユウリとしたい。アイが嫌だって言うなら、あたしが独り占めしちゃうよ?」


「それは……でもまだ子供だし、それにちゃんと制御出来てないと危ないんじゃないかなって……」


「なら大人になって、制御できるようになったらしよう。折角出来るようになったのに、やらないなんて勿体ないよ。むしろこれが精霊様からのご褒美だと思ってさ」


 そしてアカリが魔王の提案にやたらと乗り気だった為、アイも引くに引けない状況に陥っている。結局2人に押される形でその案を受け入れてしまっていた。




「2人とも、待たせちゃったね。なんかアイの顔が赤いけど何かあったの?」


「べ、別になんでも無い」


 アイは少し慌てながら、僕と入れ替わる様にしてるりあといりすに声を掛けに行った。アイも2人の親なので色々と積もる話しもあるだろう。アカリさんはと言うと、こういう時に叔母がしゃしゃり出ても気を使わせるだけだと言って、軽い挨拶だけで済ませるつもりのようだった。


「こっちは3人で何を話してたんですか?」


「魔王の魔力の事について聞いてた。練習方法とか色々とね」


「時に勇者よ、貴様は我の眷属達を愛しているか?」


「……眷属って、アカリさんとアイの事?勿論愛してるよ」


 別に魔王に対して隠すことでも無いし、2人にも僕の気持ちは伝えている。今さらそんな事の受け答えで恥ずかしがったりするのも、2人に対して失礼なので堂々と返した。


「そうか。我はどんな世界であっても、勇者の血は残すべきだと思っている。貴様らがなんとしても子を成す事を祈っているぞ」


 魔王が何を言っているのか、僕にはちょっと分からなかった。同性で子を成すのが難しいというのはこの世界であっても同様の筈なんだけど、多分魔族と人間で少し感性がずれているんだと思う。それでも純粋に僕たちの事を思ってくれているんだろうし、魔王なりの応援メッセージとして受け取っておこう。


 それから少ししてアイが2人との別れを済ませてきたので、今度こそアースガイアから立ち去る時が来た。神官様の家に向かう道すがら、街の人達にも軽く挨拶をしながらすれ違っていく。結局ほとんど交流する機会もなかったけど、今後2度と僕たちの世界と交わることが無いのだしこれで良かったのだ。


「お待ちしておりました。用事は全てお済みですか?」


「はい、大丈夫です。お願いします」


「では皆さん、目を閉じて下さい」


 僕たちが言われた通りに目を閉じると、周囲に不思議な力が満ちるのを感じた。直後に身体が宙に浮かぶ様な感覚に陥り、それと同時に頭の中に精霊様の声が響く。


「勇者様、この声は貴方にしか聞こえていません。よく聞いて下さいね」


 何か伝え忘れていたのかと思いその声に耳を傾けると、衝撃の真実を伝えられた。その直後、全身に重力を感じて危うく体勢を崩しそうになる。


「ここは……僕たちの世界に戻ってきたみたいだね」


「3人とも、無事か!?アースガイアはどうなった!?」


 少しの間僕たちがその場に立ち尽くしていると、異変に気付いたアラタが実験室に駆け込んできた。こちらの時間はまだ早朝で、アラタは何かあった時にすぐに対処できる様に泊まり込んでくれていたらしい。僕たちは事の顛末を話し、アースガイアとの行き来が出来なくなった事も伝えた。


「そうか……だが、それが最良だったのかもな。ともかく、アースガイアを救ってくれてありがとう」


 アラタは名残惜しくもどこかスッキリした表情で僕たちに告げ、急いでシイナにもこの事を報告していた。僕たちは結果的に一晩中駆け回っていたので、一段落付いた事で一気に疲労が押し寄せて来た。元々今日の仕事も無い予定だったし、一旦家に帰って休んでから改めてアラタ達と話しをすることにした。


 結局アラタとシイナは最後を見届ける事も、挨拶をする事も出来なかった。そうさせてあげられなかったのは僕としても残念だったけど、それでも2人は僕たちに感謝の言葉を送ってくれた。




 それから数日後、驚きのニュースが飛び込んできた。というのも、予想はしていたもののそのニュースが届くのがあまりにも早すぎたからだ。


「3人に俺達から伝えたい事があるんだ。その、実はだな……」


「私達は結婚する事にした。それと同時に、私は今の仕事を辞めて専業主婦になる」


 アラタが照れて言いづらそうにしていたのを、見かねたシイナが横からスパッと言い放った。多分2人はそういう流れになるだろうなと思ってはいたんだけど、アースガイアのゴタゴタがもう少し落ち着いてからだと思っていたのだ。


 結局あれから何種類か復活のパスワードを試してみたけど、やっぱりアースガイアへの扉が開かれる事は無かった。そして当然その事はシイナの立場に大きく影響することになる。


 シイナは僕たちがアースガイアで戦っている間の報告として、調査は順調であり交渉は今のところ上手くいっていると上に伝えていた。ところがそれからほとんど間を置かずに事態は一変し、異世界との交流の道筋は完全に絶たれてしまった。


 順調と聞いていた上層部は追加の予算等も検討しすぐに動き始めていたし、それ以前にもかなりの予算を投入していた為、流石にシイナの処分は免れなかった。


 ただ事が事だけに不慮の事態だと認めてもらえたこと、そして調査の為に開発された魔法式が、その他の分野においても実用性のあるものだったという功績も有り、軽い減給だけに留めて貰えていた。にも関わらず今回の件を切っ掛けに、シイナはあっさりとその立場を捨ててアラタを支えて行く道を選んだのだ。


「元々仕事も、アラタの収入が安定するまでの予定だったんだ。アースガイアの事が分かってから立場を捨てる訳にはいかなくなっただけで、最初から辞めるつもりだったんだよ」


「俺も前世のお前らの関係があったから遠慮していたが、まあ現状を見ていたら気にする必要も無さそうだったしな。今が決め時かなって思ったんだ」


 結婚に踏み切る切っ掛けは、アラタから切り出したらしい。そういう男らしい所は前世から変わらず、非常に好感が持てる所だった。


「3人も頑張りなよ。私達は応援してるからね」


「俺は最初から心配してないけどな。それにユウリならそのうち性別が変わってても驚かないし、丁度そういった事が出来そうな魔法の開発依頼があっただろ?」


 何故かアカリさんとアイがピクリと反応をしていたけど、確かに以前僕もその事を考えていた。もしかして2人とも、その可能性には気付いていなかったんだろうか。


 以前アカリさんとは、冗談で互いにどっちが夫なのかと言い合っていたけど、元が男だとバレている僕がその役目を担ったほうが収まりが良いだろう。しばらく仕事も暇になってしまうだろうし、将来を考えて本気でその魔法の開発をしてみるのも悪くなさそうだ。


「ユウリ、どっちが夫になるか競争だね」


「競争って……先に式を開発した方がそうするってこと?まぁアイがそれで良いならそうしようか」


 意外な事に、アイは夫になるつもりで居た。まぁずっと女性でいたんだし、男性の気持ちを味わってみたいというのもあるのかもしれない。ただそうなると必然的にアカリさんもそっち側になる訳で、僕は2人を同時に相手にしないといけない事になる。


「それなら私達も負けてられないな。アラタ、子供は最低4人は作るぞ」


「どういう計算で4人なんだ?」


「魔法が完成したら性別が自由自在になるのに、こいつらが一回で済ませると思うか?ユウリが2人の子供を産んで、ユウリも2人に子供を産ませるに決まってるだろ」


 なんだかシイナがとんでもない事を言っているけど、あながちそれも無いとは言い切れなかった。なにせアカリさんもアイも、すでにその時の事を考えてしまっているのか、顔を赤くしながら少し息を荒らげている。


 それに僕自身も求められれば拒むつもりが全く無いのだから、もはや4人の子供というのは既定路線と言っていいかもしれない。


「俺達の結婚報告だった筈が、いつの間にかとんでもない下ネタばかりになっちまったな。子供を前にする話じゃなかった」


「僕がどれだけ生きてきたと思ってるのさ。本当に子供なのはアカリさんだけだよ」


「またあたしの事子供扱いして!ユウリがちゃんと大人かどうか、その身体に直接聞いてやる!」


 アカリさんに襲われそうになった所で、僕は転移でその場から逃げ出した。もはやこの力も過去の異世界の事も、性別も年齢も、何もかも気にすることは無い。ここに居る人達は皆そんな事を気にするような人達じゃないし、強い信頼関係で結ばれている。そのおかげで今までの転生と違って、僕が隠し事をする必要は無くなっているのだ。





 今回の件でこの異世界での役割(ロールプレイング)は終えた筈だし、後は死ぬまでユウリとしての人生を楽しみ尽くそうと思う。


 この世界は、魔法式という存在のおかげでかなり自由度が高い。幸いな事に僕は魔法式を開発する才能があるし、本当にいろいろな事が出来る。4人と話していた通り性別を変えてしまったり、宇宙進出だってこの世界の魔法なら可能にしてしまうだろう。実際の所、そのどちらも目前というところまで来ているのだ。


 他にもまだまだ実現可能な事はたくさんあると思う。残りの人生で、どれだけやりたい事をやり尽くせるかは分からないけど、絶対に後悔しないように頑張ろうと、今までの異世界転生の中で最も強く決意した。





 何故ならこの異世界転生も、今回で最後になるからだ。

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