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新たな場所 新たな困難

「よっしゃ!今日はついに新大陸だな!気合い入れていこうぜ!」


「あんたは毎回大声を出さないと気が済まないのかい?」


 ああああといの恒例のやり取りを聞きながら俺達は村を出る。今日の目的は今しがた言っていた通り、転移の魔法陣を使い次の大陸を目指すのだ。


 当然そこに向かうまでの間も、新大陸に付いてからの魔物もこの村の周辺よりも強くなっていく。しかしレベルが上がっている俺達なら、決して無謀では無いと知っている。警戒こそすれど、決して恐れる事は無いのだ。


「ふぅ。流石に敵も強いですね」


「あぁ、でも戦えない程じゃないね」


「今日はこの辺にして野宿にしようぜ」


 俺が知っているゲームでは野宿というシステムは無く、昼夜問わず歩き続ける事も出来たが、現実となった今そういう訳にはいかない。しかし野宿で寝ても魔力が回復するという事は無く、火を絶やさなければ魔物が襲ってくる事も無いという点で、ある程度ゲームとの整合性を取っている様にも思えた。


 休息する為の野宿なので特に雑談をするという事も無く全員すぐに寝付いた。その分だけ朝は早くから旅を再開し、順調に目的地へと辿り着く。


「ここに転移の魔法陣があるんですね」


「いかにもって感じの場所だな」


 二人が興味津々と言った感じで周囲を見渡す中、いは見知らぬ場所という事もあり警戒している。職業柄それで正解なのだが、ここに魔物は現れない事を知っている俺は鍵を使い、魔法陣のある部屋の扉を開いた。その部屋の中心には青白く発光した幾何学模様の魔法陣がある。


「塔で見たものとは模様が違いますね」


「多分脱出用のものと、行き来する為のもので違うんだろうな」


 ああああが以前の世界で得た知識からそう推測しているが、戦士が魔法使いに魔法陣の説明をしている風景というのには違和感を覚える。しかしその推測は俺も納得できるものであり、ケチのつけようが無い。


「あたしが先の様子を見てくるよ。もし戻ってこなかったら……」


「何言ってんだ。戻ってこなかった助けに行くに決まってんだろ、なぁ勇者様?」


「それでしたら最初から全員で行った方が良いですね」


 いの意見を否定する為に俺も首を縦に振る。転移先で突然襲われるとか罠があるという事も無いのだが、今後もいがこういった考えを持つことの無いように分かってもらう必要があった。


「……分かったよ」


 渋々といった様子ではあるが納得してもらえた。そして全員で一斉に魔法陣に足を踏み入れると、強い光に全身が包まれる。そして身構えていた浮遊感やら色々な感覚というものは一切無く、全員の転移に成功した。


「思ってたよりもあっさりしてたな。本当に転移したのか?」


「さっきの場所とほとんど同じにしか見えませんが……外に出てみないと分かりませんね」


 ここから先の魔物は以前よりもまた強力になるため、ここで隊列を変更しああああを先頭に進む事にする。いはその隊列に不服そうだったが、最も体力の高い戦士が先頭に立つというのは定石なのだ。


 盗賊という職業柄索敵などもしたいだろうが、この世界のシステムを知っている俺からすればその行為はあまり役に立たないのだ。俺がいない場所や他のパーティがどうしているかは分からないが、少なくとも俺の周囲ではゲームの知識で全て事が進んでいる。ならばこれが正解であるに違いない。

 

「本当に転移してきたんですね……」


 ぁぃが思わず感嘆の声を漏らすのも無理は無かった。俺達が元いた場所とは似つかない程に外の光景は変わっており、そびえる山々は険しさを増していた。更に遠くに見える国らしき場所も、その外壁の高さなどから俺が生まれた国とは規模が違うという事も分かる。それだけ大きく頑強にしなければならないのも、この周辺に現れる魔物の強さが理由であるのは分かりきっている事だ。


 幸いな事に、その国に着くまでの間に魔物が襲ってくるという事は無かった。難なく新大陸の国に辿り着く事が出来、ここでは今までの戦闘で得た金貨を使って装備を新調していく。


「まずは防具を優先か。堅実だね」


「良いんじゃないか?まだ力押しと魔法だけでどうにかなる範囲だろ?」


 流石に全員の装備を全て買い揃える事は出来ない為、武器よりも防具を優先して買い揃える。これは単純に俺が慎重になっているという訳では無く、この辺りの魔物の事を知っているからだった。


 この周辺の魔物は体力は高いが、防御力はそこまで高くないため今までの武器でもまだ通用する範疇だ。それよりも敵の攻撃力が高くなったことで、回復の為にこちらが攻撃する時間を作れない事の方が問題になる。薬草も多めに買い込んでおき、戦闘を終える都度回復していけば問題ないはずだった。


 その後は一旦外に出て、周辺の魔物の強さを確認しておこうという話しになった。あまり無理はしない範囲で戦いながら、日が暮れる前にはまた国に戻って休みを取るという流れだ。反対意見は出なかったし、俺としてもこの案は有り難かった。


 なにせ知識としてゲーム内のマップは全て覚えているが、現実世界として照らし合わせた時にどの辺りにいるのか把握するのが難しいのだ。ある程度周辺を歩き回り距離感を掴まなければ、真っ直ぐに次の目的地に向かうというのも難しい。


「流石、勇者様の見立て通りでしたね。新しい防具のおかげで問題なく戦えそうです」


 武器を新調しても魔物を倒すために必要な攻撃回数が変わらないのなら、その分のお金を防具に回してリスクを減らした方が良い。その考えは見事にハマっており、レベルが上っている事も相まってそれ程の苦戦はしなかった。


 とは言え敵が強くなっているということは変わらず、戦闘そのものは長くなり激しさも増している。特に森や山での戦闘では戦っている最中に方向感覚を失ってしまう事もある程だった。そして今回はまさにその事が災いしてしまった。


「なぁ、もしかして国は反対方向だったんじゃないか?」


「そうかもしれませんが、ここから引き換えしても結局森を彷徨うだけです。1度森を抜けて、現在位置を確定させないと引き返す事も出来ません」


 数回の戦闘を終え、そろそろ国に戻ろうとした所で道を間違えてしまった様だ。歩いた時間からすればとっくに帰れていなければおかしいのだが、俺達はまだ森の中を歩き回っていた。


「済まない、あたしのミスだ。こういう事が無いように気をつけていたつもりだったんだけど……」


「そんな事は無い。それを言ったら、俺がちゃんと敵を止めておければ陣形が乱れる事は無かったんだ」


 二人が反省の言葉を述べ始めるが、それを言えば俺が道の指示を間違えなければ良かったという事になる。これは誰かのせいという訳では無く、旅にも戦闘にもまだ不慣れだった事こそが原因なのだ。今はこの事態をどう乗り切るかという事に集中するべきだ。


「見て下さい。森を抜けますよ」


 森を抜けた先には広大な平原が広がっていた。日も落ちてきたという事もあり、国や街なども見えない。


「どうする?情報が無さすぎて、どっちに行けばいいのか分からないぞ?」


「こちら側に抜けた事が正解だったかどうかを判断するためにも、多少進んでみるしか無いのでは?」


 悩んだ末に結局ぁぃの意見を採用することにした。このまま森を引き返して行った所で再び迷ってしまう可能性、そして今出てきたこの場所が帰る為のルートとして適切である可能性を考えての結果だ。


 そして運が良かったのか悪かったのか、しばらく歩いていると街が見えて来た。3人はその事に喜んでいるが、俺は同時にとてつもない危機感を覚えた。


 俺が知っているゲームの情報と照らし合わせると、森を抜けた先に見える街というのは、今後向かおうとしていた場所よりも後に行く予定だった場所なのだ。その直後、巨大な猿の様な魔物が同時に3体も出現する。


「敵だ……って、何だこいつらは!?」


「不味いよ!見ただけで分かる、今のあたし達が勝てる相手じゃない!」


 それはつまり、ゲーム的な言い方をすればエンカウント域が変わっているという事だった。この周辺に出てくる魔物は本来もう少し物語を進め、レベルや装備を整えてからでないと勝ち目は無いのだ。


 こうなってしまった以上俺達に出来ることは1つしか無い。ただひたすらに全力で逃げ続け、今見えている街に向かう事だった。例え途中で誰かが力尽きたとしても、1人でも生き延びれば街で生き返らせる事が出来る。


「がはっ!」


 全力で逃げ続ける中で運悪く狙われてしまったいが力尽きてしまう。振り返る事無く走り続ける俺達は1度目の戦闘を何とか逃げ切るも、街に辿り着く前にもう一度魔物に襲われてしまう。


「ぐあああああ!」


 今度はああああが力尽きてしまい、俺とぁぃも攻撃を受けるが何とか逃げ切る事が出来た。そして命からがら何とか街に辿り着き、急いで教会に向かって二人を生き返らせてもらう。


「良かったよ、何とか逃げ切る事が出来たんだね」


「俺が死んで守りが弱くなって、もうダメかと思ったけどよく逃げ切ってくれたな」


「とんでも無いです。二人が引き付けてくれたからこそで、本当にギリギリでした。それよりもすみません。私が先に進もうなんて言わなければ……」


「それはもう今さらだし、あたし達全員で決めた事なんだ。謝る必要は無いよ」


 全員で互いに謝りながら宿に向かう。そこで反省会と今後の方針についての話し合いが行われた。


「どうするんだ?まず俺達じゃこの周辺の魔物には歯が立たないし、ここに売ってる良い装備を整えようにも金が無い」


「かと言ってももう一度逃げ切れる保証も無いし、国に戻るのも難しいよ」


 国に戻ることさえ出来ればその周辺の魔物には勝つ事が出来る。本来ならばそこでレベルを上げながら装備を整え、もう一度この街に戻ってくるのが普通だ。しかしそれをするには再びこの周辺の魔物から逃げ切り、そしてあの道に迷ってしまった森を抜ける必要がある。


 森にさえ戻れれば、そこの魔物にはまだ勝ち目はある。だがそれも4人が揃っており、しっかり薬草の準備も出来ている事が前提だ。そこに戻るまでに何人が死に、どれだけの薬草が無くなるか分からない。1人いなくなるだけでも森の戦闘は厳しく、2人欠けてしまえば森を抜ける事も困難だろう。


「けど、それが賭けであってもやるしか無いんじゃないのかい?」


 俺はその賭けという言葉を聞き、とある情報を思い出した。それはこの先にある古い遺跡の中には、多くの換金アイテムが眠っているという事だ。この遺跡も本来の物語の進行としてはもう少し先に訪れる筈の場所であり、それはこの周辺にいる魔物よりも強い魔物が巣食う場所へ向かうという事でもある。


「なるほどな。そこで得たアイテムを売って装備を整えて、改めて帰るって事か。けどそう上手くいくか?」


「どっちにしろ博打なんだ。最終的な判断は勇者様に任せるけど、あたしは行っても良いと思う」


「私も同意見です」


 結局俺は判断を翌朝まで持ち越し、この日はそのまま眠る事にした。しかし俺は最後まで失念している事があった。それはこの世界の仕組みを知っている俺ならではの方法にある。


 その方法とは、教会でお祈り(セーブ)してトライアンドエラーを繰り返すという事だ。何度死んでも生き返るこの世界で、最も確実な方法がそれなのだ。


 だが俺は何故かその考えを欠片も思いつく事が出来ず、それどころか前回あれ程後悔したのに、今回の旅で1度もお祈りしていないという事にも気付けなかった。

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