表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/72

黒幕の正体

 眼の前の男が大したこと無さそうだというのは少しだけ訂正しよう。その大したこと無さそうという印象は、簡単に挑発に乗ったことと、見た目がただのヤンキーにしか見えなかったからだ。このゲームの世界を色々やって支配しようとしていた癖に、まるでファンタジー要素の無いチャラい服装だったので、一見すると三下の様に見えた。


 ただ見た目と違ってその実力は本物だった。やはり、2つの世界を無理やり繋げてしまえるだけの力を持っていたというのは侮れない。これでも神としての力は大部分失われている筈なので、本来の力を発揮できる状態だったら手に負えなかったかもしれない。


「クソ!雑魚の癖に調子に……」


「その雑魚にてこずる貴様は何だ?貴様如きを倒した所で、大した経験値にもならんわ!」


「群れなきゃ何も出来ないくせに!」


「群れを作る事も出来ないハミ出しものめ!」


 元神である筈の男はとてつもないほど沸点が低く、その一言毎に魔王が反論するので、完全に頭に血が昇って降りてこない状態だった。当然そのヘイトは全て魔王に向かっているためとても危険なんだけど、そこはアカリさんとアイが上手いことカバーして戦っている。


 真っ向から魔王と元神が戦ったら、割りと余裕を持って元神が勝つだろう。魔王と同等程度の力を持つアカリさんとアイも、1対1では多分勝ち目が無い。ただそれでも3人いるという事もあって、何とか互角の勝負に持ち込む事は出来ていた。


 その間僕は何をしていたかというと、この男の弱点を探っていた。いくら頭に血が昇ってただのヤカラに成り下がっているとは言え、秘めている力は本物だ。下手に弱らせて手負いの獣にしてしまわない様に、一撃でその力を奪い取る術を模索している。


「大体貴様、何故そこまで勇者を憎むのだ!?」


「それを魔王であるお前が言うのか!?」


「む……それもそうじゃな」


 敵の言葉をいちいち真に受けるんじゃない。でも質問の内容としてはかなり良いものだ。この男の正体さえ分かれば、何が最も効果的な攻撃になるか分かるかもしれない。


 僕は勇者の能力を使って、思念だけで3人に正体を探る様に指示を出した。戦闘時間もそれなりにかかっていて3人も苦しいだろうけど、それでも僕の指示を信じてくれている。


「我は潔く負けを認めた、ただそれだけの事だ!貴様はどうなのだ、神が1人の人間に負けてプライドでも傷付いたか!?」


「俺はあいつに負けた訳じゃねぇ!他の神共に俺の作品を認めさせるために、あいつの世界を壊すだけだ!」


 これってつまり、僕はただ巻き込まれただけという事だろうか。元神と他の神様の間に何か確執があって、僕はそのダシに使われているみたいだ。


 ただそうなると、こいつの正体に心当たりが全く無くなってしまう。僕に無関係な所で起きたいざこざに、僕の異世界転生が狙われてしまっただけなのだ。神様達も僕の転生に手を出さないと言うのなら、他の神様の干渉も防いでもらいたい。


 でも本当にこいつが神だったというのなら、それほどの力を持つ存在を本当に神様が放っておくだろうか。こいつがやっていることは異世界の在り方を大きく変えるし、2つの異なる異世界を繋げるなんて、それは新たな異世界を作り出している様なものでは無いのか。


 他の神が設定を盗用して、無闇矢鱈に新世界を作り出さない為に取り決めが有ると、俺という存在を転生させてくれた女神様はそう言っていた。今回の件がそれに当てはまらないはずが無い。それにも関わらずこの暴挙が見過ごされているという事は、あの女神様達の力が及ばない様な存在なのか。


「その様な勝手な考えで、我らの世界を巻き込んだのか!」


「知った事か!俺が見つけた異世界だ、俺が先駆者だ!俺が異世界転生のジャンルを流行(バズ)らせたインフルエンサーなんだよ!お前らカスの世界を面白おかしく弄って、視聴者様に提供してやろうってんだ!」


「また意味の分からん事を!」


 なるほど、そういう事か。こいつの正体は俺が初めての転生を果たした時に、演出家として勝手に俺の異世界転生に干渉してきた神様だ。その後処分を受ける事になったとあの女神様は言っていたけど、そこから逃げてこの世界までやってきたという事だろう。


「3人ともありがとう。後は僕がやるよ」


「やっとか。人使いの荒い勇者だの」


「あたしはまだやれるけど、まぁ邪魔にならないようにしておくよ」


「後はお願いね」


「何だてめぇ、偉そうにしやがって。雑魚に消耗させて良いとこはかっさろうってか?」


 あいにく僕はこいつの様に沸点が低いわけでは無いので、そんな言葉でいきり立ったりはしない。それよりも、僕はこいつに1つだけ言っておかないといけない事があった。


「不本意だけど、僕はお前に礼を言わないといけない」


「礼だぁ?」


「貴方が勝手な演出をしてくれたお陰で、初めての転生でぁぃに出会う事が出来た。そして今回も、貴方が身勝手な癇癪を起こしたおかげで、アカリさんに出会う事が出来た。それは偶然だったのかもしれないけど、本当にありがとうございます」


 やっている事は許しがたいけど、こいつが俺の思考誘導をしようと目論んだからぁぃが俺の元に現れた。こいつがアースガイアを壊そうとしたから精霊様が僕に力を与え、そのおかげで寮に入りアカリさんと出会う事が出来た。


 本当に物凄く気に障るけど、こいつがいなかったら2人には出会えなかった。これまでも様々な異世界を生きてきたけど、この2人ほど僕が愛した人は居ない、なんて1人に絞れない時点で僕はあまり誠実な人間では無いか。だからこそ、その事実にだけは誠実に向き合って、ちゃんと礼を言わなくてはならない。


 ただ、これで僕の精算は終わりだ。この大切な出会い以上に、こいつがやって来た事を許すわけにはいかない。僕がいなくなった後の世界で大切な仲間達を殺しているし、今だって僕の大切な人達を奪おうとしている。


 それだけは絶対に許すことが出来ない。最初の転生で、ぁぃ達を最後まで守れなかった後悔が僕にはある。その後悔を繰り返さないためにも、僕はまだ引き継ぎ設定でオンにしていなかったスキル郡を開放した。ここからは正真正銘全力で、僕が今まで培ってきた力を全部出してこの男を止めてみせる。


「これ以上、お前に好き勝手させる訳にはいかない。もし今の僕の力を見ても引く気が無いと言うなら、この場でお前の存在を消し去る」


「ははは!いいぜやってみせろ、人間如きがいくら力を付けた所で、俺に敵う訳ねぇんだからな!」


 僕は手元に伝説の剣を作り出し、男の背後に転移した。転移による移動は全くラグが存在しないけど、背後からの攻撃は簡単に対処されてしまう。


「へっ、やるじゃねぇか。けど神にはその類の瞬間移動は効かねぇんだわ」


「お前はもう神じゃないだろ?」


「そうだな。ここに逃げるために大分力を使っちまったからな。だが、お前の力を足しにすれば元に戻れるかもしれねぇな!」


 全てのステータスにおいて僕はこいつを上回っている筈なのに、攻撃は全く当たらなかった。神では無くなったとは言え何かしらの能力を持っているらしく、それをどうにかしないことにはどれだけ時間を掛けても倒せない。


「それなら1つずつ試させてもらうよ」


 僕は先程開放したスキルの1つ、空間断絶を繰り出した。僕が剣を数度振るうと、雲の上の空間がこのゲームの世界から完全に切り離される。これでこの場所に何かしらの仕掛けを施していたとしても、その影響を受ける事はなくなった。


 しかしそれでも僕の攻撃は難なく躱されてしまった。という事はこの世界から力を貰っているとか、結界に守られているという様な仕掛けでは無いという事だ。


「エゲツねぇ事やってんな。そんな力を持ってたら、どの道お前は破滅するぜ」


 その戯言を無視して次なるスキル、時空調定を試す。これは僕が時間を思うがままに操るというものでは無く、その空間内で時間を超越したり停止させるといった事を出来なくするというものだ。時間系の能力を持った相手には、これだけで一気に優位に立てるという代物だけど、このスキルを使っても攻撃を当てる事は出来なかった。


「いい加減諦めたらどうだ。さっきも言ったが、お前は破滅するしかないんだ。だったら今ここで俺に殺されておいた方が楽だぜ?」


「僕に傷一つ付けられないくせに、何を分かった風な事を言ってるんだ。もし本当にそんな時が来るっていうなら、お前の力で僕に破滅を見せてみろ!」


 ここまでやって攻撃が通じないという事は、空間や時間といった大掛かりな仕掛けではなく、本人の能力とスキルだけによるものだという事なのだろう。それなら戦いながらその秘密を探っていくしか無い。


 幸いというか、こいつの攻撃ははっきり言って僕にとっては弱すぎた。アースガイアの人々にとっては圧倒的な脅威で、魔王とアカリさんとアイの3人がかりでやっと抑えつける程の力を持っていたけど、それでも僕にとってはまるで脅威足り得ない。


 最初に見せてきた炎の攻撃は剣を一振りすれば掻き消せるし、直接殴ってきた所で避けるまでも無くダメージは無い。魔力やその他神の力に由来すると思われる攻撃も、防御魔法を使えば無効化出来る。


 それだけ圧倒的な差を見せつけても尚、目の前のチャラチャラした男は余裕の笑みを崩すことは無かった。確かに永遠に戦っている訳にも行かないし、時間がかかればそれだけ僕たちは不利になる。こうしている間にもアースガイアは天使達に襲われているかもしれないのだ。


「確かに俺はお前にダメージを与えられないみたいだが、お前も俺に攻撃が当てられない。それなら時間がかかるだけ……」


「いや、もう良いや。当てられないなら、外さない様にすれば良いだけだ」


 先程から何度か敵の動きを封じる魔法やスキルを使っているけど、全て即座に解除されてしまっている。だから攻撃を躱されてしまっているんだけど、だったら回避不能の攻撃をすれば良い。


 もう一度空間断絶を使って僕と元神がいる範囲だけを切り取り、他所に被害が出ない様にしておく。準備はそれだけで終わりだ。


「僕と我慢比べしてもらうよ」


「お前……とことんイカれてやがるぜ!」


 やることは単純で、切り取った空間内を僕の魔力で満たして爆発させるだけだ。剣による攻撃は躱されてしまうけど、空間全てを同時に攻撃してしまえば避ける事は出来ない。


 ちなみに初めてアカリさんと戦った時にも我慢比べを持ちかけたけど、あの時と同様に僕は自傷しない様な仕掛けを施してあるので我慢比べにはならない。今回は反射したりするわけでは無く、単純にスキルによる自傷やFF(フレンドリーファイア)といった設定を切っているだけだ。


 FFが無いので3人が巻き込まれる事は無かったんだけど、空間を切り取っておいた方が満たす魔力が少なくて済むし、何より元神を近くに置いておく事が出来るので効果を観察しやすいのだ。


「これが本当に勇者の戦い方なのか?」


「あたしと戦った時よりエグい事してるなぁ……惚れ直しちゃう」


「頑張って!さっさとやっつけちゃえ!」


 切り離した空間の外で、3人がこちらを覗き込みながら何かを言っているけど、流石に爆発音が大きすぎて僕にその言葉は届かない。でも応援してくれているという事だけは雰囲気で分かるので、さっさと終わらせてしまおう。僕は間髪入れずに爆発を起こし続けた。


 それでも元神は死ぬ気配が無い。完全にダメージが無いという訳では無さそうだけど、ずっと気味の悪いにやけ顔を浮かべている。


「いくらやっても無駄だ!俺はお前の攻撃では死なない!」


 こいつは本当に馬鹿だ。自分から弱点のヒントを与えてしまっている事に気付いていないんだろうか。僕の攻撃では死なないという事は、僕以外の攻撃なら死ぬ可能性があるという事だ。つまりこいつは対ユウリ専用のスキル、若しくは加護のようなモノを持っているのだ。


 思い返してみれば、3人と戦っている時の方が必死になって戦っていた。ところが僕が出てきた所で急に冷静になり、自ら攻撃を仕掛けてくる事はほとんど無かった。それは僕に対しては確実に勝てるけど、下手に消耗しては残った3人に負ける可能性があったからだ。僕が消耗したり諦めた頃に力を発揮するつもりだったんだろう。


 そうと分かれば対処は簡単だ。僕は外に居る3人からごっそりと魔力を拝借して、自分の魔力の中に隠すように混ぜ込んだ。突然魔力が失われて気を失いそうになっているのは申し訳ないけど、一撃で片を付けるためにはそれぐらいの量が必要だったのだ。そうして元神は、3人の魔力による攻撃に気付くこと無く、最後まで笑いながら消し飛んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ