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決戦の場へ

 巨人はるりあに怒られた後、すぐに僕たちの分の椅子と料理を用意してくれた。相変わらず悪態はついているものの、るりあは魔王と同格扱いらしく逆らえないそうだ。


 何故同格なのかというと魔王の魔力を持っているという理由なので、アカリさんとアイにも逆らえないらしい。なので巨人から見たカーストでは、勇者である僕が圧倒的に低い位置に存在しているのだ。


「るりあ様の命令で無ければ毒を盛っている所だ」


「僕に毒は効かないから盛っても意味ないけどね。それよりこの料理、凄く美味しいよ」


「ふ、ふん。勇者に褒められても嬉しくない」


 いや、お前のツンデレは別にいらないって。でも身体の大きさの割に、人型というだけ有って結構器用に動いているし、王の身体を乗っ取ってふんぞり返っていた時よりも性に合っていそうだ。取り敢えず危害を加えてくる事もなさそうなので、一緒に食事しながらるりあに精霊様の作戦を伝える。


「敵の本拠地か。であれば我、もとい魔王の力も存分に発揮できるというものよ」


「ところで魔王は実体化して向こうに行くの?それともるりあの身体を使うの?」


「魔王よ、どうするつもりなのだ?我は身体を貸しても良いが……ではこの身体を借りるとしよう。その方が余計な消耗をせずに済むのでな」


 るりあが一人芝居をしている様にしか見えなかったけど、途中で魔王がるりあの身体を乗っ取っていたみたいだ。口調が同じだからいつ変わったか分かりづらい。巨人もいつの間にか魔王が現れていた事に気付き、慌てて頭を垂れている。


「だが精霊のやつがそれほどの力を行使するとなると、決戦の時は近いかもしれんな。そして時期が早くなるだけ、敵も消耗していないという事になる」


 僕たちが敵地に乗り込む事で全力を出せるようになる分だけ、敵も消耗していない状態で戦う事になる。その程度は覚悟しているし、今の僕の力を考えれば誤差みたいなものだ。


 後はその決戦の時を待つだけだ。それまで僕たちは消耗しない事が重要になるので、魔王は一旦引っ込んで魔力を回復している。具体的に何日後という事も分からない為、気持ちを切らさないようにしておかないといけない。


「しかしただ待っているのも退屈であるな。どれ、ここは父上と母上の馴れ初めでも聞かせてもらおうか」


「いいね。あたしも前世で2人がどうやって付き合う事になったのか知りたいな。いいじゃん、ずっと集中してたら逆に疲れちゃうよ」


 結局アカリさんとるりあに押し切られる形で、僕とアイが赤裸々に昔話しをすることになってしまった。しかしよくよく考えると、僕の感覚では出会って数日で将来まで約束した事になっている上に、いとぁぃの2人を相手にということもあって見方を変えれば相当チャラい。


 アイから見てもそれは同様で、過ごした期間というのは実際にはとても短い。1度全滅しやり直している間に想いを募らせたという言い訳も、1度目の冒険の時点から気があったという事から否定されてしまう。


「2人とも思ってたより手が早かったんだね」


「我は感謝しているぞ。2人が積極的だったからこそ、我が生まれてきた訳だからな」


「恥ずかしいから私達の話しは終わり!今度はるりあの事を聞かせてよ」


「む、しかし我の話など聞いても……」


 るりあが何かを言いかけた所で途端にその口が止まった。恥ずかしいから話したくないという事では無いのは僕たちもすぐに勘付いた。魔王の城跡という地下深くに居ても、外で何かしらの異変が起きていると察知出来る程に強烈な違和感を覚えたからだ。


「精霊よ!何が起きたのだ!?」


 すぐにるりあの身体に魔王が乗り移り、精霊様と連絡を取っている。精霊様からの話しを聞いている魔王の表情がだんだんと険しくなっていき、それを見た僕たちはすぐ動き出せる様に強化魔法をかけて待機していた。


「3人共我の近くに来い!ん?そうだ、4人だ!4人をそちらに飛ばせ!」


 魔王は慌てている様で、精霊様との会話も大声で喋りだした。でもそうしてくれた方が僕たちも事態を飲み込みやすいので、このまま全部口に出してもらっていた方が良さそうだ。


 などと思っていたら、魔王に近寄った途端に視界が暗転する。一瞬の浮遊感の後、目の前の景色が地下の真っ暗闇とは正反対の真っ白な風景に変わった。


「気を抜くでないぞ!ここは既に敵の本拠地だ!」


 まるで魔王の言葉が引き金になったかの様に、目の前に鎧を着込んだ天使が現れた。その数はぱっと見でも数十体を超えている。


 天使というのは比喩表現では無く、ゲームの続編に出てくる神族の下っ端的な存在がそういう名称なのだ。目の前に突如現れたこいつらは間違いなく、僕が知っているその天使に他ならない。ということは、こいつらにはアースガイアで使っていた呪文が有効な筈だ。


「上級電撃呪文!」


 天使たちに向かって、問答無用で僕が使える最強の呪文をお見舞いする。引き継ぎ設定をオンにした僕にとっては、この程度の呪文は使ったうちに入らない程度の魔力消費でしか無いのだ。神族との決戦用に呪文のリミッターを外した魔法も用意していたけど、下っ端程度に使って手の内を見せる必要も無い。


 そんな僕の意図を察してくれたのか、アカリさんとアイも合成消滅呪文を使っていた。3人でそれぞれが使える最強の呪文を同時に放った事で、最初に現れた数十体の天使は瞬く間に消し炭になった。


「ほ……ほぅ。貴様ら、やるでは無いか」


 一瞬で敵を殲滅した僕たちを見た魔王は、少しだけ引いている様に見えた。多分僕たちの事を戦闘狂だと思っているんだろうけど、1名を除いて全くそんな事は無い。ただ敵が動く前に仕留めたほうが確実だったというだけだ。


 再び天使が僕たちを取り囲むようにして出現すると、今度は魔王が真っ先に動いた。その身体から目に見えるほどの黒い魔力が吹き出し、真っ白だった空間を瞬く間に黒く染め上げていく。ただそれだけの事で、鎧を着た天使はバタバタと倒れていった。


「この程度の魔力にも耐えられんとはな。雑魚ばかり相手にしていても仕方ない、さっさと親玉を探しに行くぞ」


「かっこいい~……ねぇユウリ、帰ったらアレも魔法で再現しようよ」


 そういえばアカリさんは以前、魔王が使った様な実力が劣る者を問答無用で無力化するような展開が格好良くて好きだと言っていた。目の前で大好きなシチュエーションが見られて興奮しているんだろう。


 まるで緊張感の無いアカリさんを無視して、僕たちは何もない空間を見渡す。この何もない空間をただ闇雲に歩き回っても仕方が無いので、何かしらの手がかりを探さないといけない。


「手がかりならあそこにあったよ?見つけたんだから、帰ったら再現して?」


「分かりましたから。それで、どれが手がかりですか?」


「魔王の魔力は均一に広がってるのに、一箇所だけ不自然に魔力が避けてる所があるのが分かる?」


 ほとんど真っ黒の視界の中では目で見てもよく分からないので、僕と魔王は魔力を探知してその場所を探る。するとアカリさんが指差した場所は、本当に魔力が伝わっていない箇所があった。


「こんな小さな綻びをよく一瞬で見つけおったな」


「でもこれで親玉の居場所が分かったよ。みんな僕に捕まって」


「何、これだけで分かったのか?というか何をするつもりだ?」


 魔王は不審に思いながらも僕の右手を握り、アカリさんは何の疑いもなく僕の左手を握る。そしてアイは、何故か僕に抱きついてきた。そういえばぁぃが脱出呪文を覚えた時、捕まる場所が無いから抱きついてくれって言われたんだっけ。その手が有ったかという呟きが聞こえた気がするけど、多分気の所為だ。


「な~にをにやけておる。やるならさっさとやらんか」


「おっと失礼。それじゃあ、親玉の居場所を逆探知して転移するよ」


「なぬ、逆探知?それに転移などと、貴様そんな事が……」


 魔王の言葉を最後まで聞くことも無く、僕は3人を連れて空間転移した。転移した先は真っ青な空が広がっていて、足元には白いふわふわが敷き詰められている。簡単に言えば雲の上というやつだ。何故雲の上で立っていられるのかよく分からないけど、神族達が趣味で色々やってるんじゃないかな。


 多分ここは、ゲーム4作目のラスボスがいる場所だ。本来ラストダンジョンの最奥からここに転移してくる必要があるんだけど、正規の手順を無視してここまで来てしまった。でも今の僕は、4作目の世界に転生してきた訳では無いので構わないだろう。


 ただ少し様子が違うのは、本来はここに転移してきた時点でラスボスが目の前に居るはずなのだ。そのラスボスとは、地上で人間同士の争いが終わらない事に嫌気が差し、魔族に身を堕とした神族の長だ。自らが魔族になった事を隠しながら部下の神族や天使、更には魔物まで操って地上を滅ぼそうと画策しながら、ここにふんぞり返っているはずだ。


「こんな所にまで来るなんて、本当に忌々しい転生者だな」


「は?今なんて……」


「そのお決まりの難聴設定とか、マジでいらねーんだって。そういうのがつまらないんだって分かれよボケナス」


 頭上から全く聞き覚えのない声が突然僕のことを罵倒してきた。姿も見せずに一方的に責めてくる卑怯者と煽り返しても良いんだけど、こっちが不利な状況なので下手な事はしないでおく。


 それよりもこの声の主が転生者を知っているという事の方が問題で、これで神族の長が今回の黒幕では無いという事は確定した。そしてお決まりの設定というセリフから、僕以外の転生者にも詳しいという事が察せられる。そういう存在について、いくつかの候補に絞られるけど最悪のパターンではない事を祈るしかない。


「申し訳ありませんでした。貴方はもしかして神様でしょうか?」


 急に下手に出た僕に対して3人が怪訝な表情になるのを手で制する。多分その行動も全て見られているだろうけど、それでも相手の正体が分からない以上無闇に刺激する訳にはいかない。


 有り得そうな存在としては、これまで転生してきた異世界で僕に恨みを持った誰かだ。そいつがどうやって僕の事を知ったのかとか色々と疑問は残るけど、自らもこうして別世界に転生する中で知り得た可能性はある。


 ただ僕の後を追いかけてきた転生者であったとすれば、こちらとしても話しは早い。要は僕の後輩という訳だし、多少力はあるようだけど僕より強い力を持っている可能性は限りなく低いだろう。


 むしろ厄介なのは、僕が適当にカマをかけた言葉が本当だった場合だ。一口に神様と言っても僕の世界の神様なのか、それとも他の異世界の神様なのかという所は分からない。ただこうしてアースガイアの世界や、その続編の世界を無理やり繋げる事が出来る以上、神様クラスの力を持った存在だという事は覚悟しておいた方が良い。


「物分かりが良いじゃねぇか。だが残念な事に、今の俺は誰かさんのせいで神様じゃないんだ」


「誰かさんと言うのは、もしかして僕の事でしょうか?」


「自覚があんなら話しは早い。詫びとして俺のおもちゃになってくれよ」


 自覚なんて全く無いけど、話の流れから僕に恨みを持っているという事だけは分かっていた。そして今は神様ではないという事は、元々は神様だったという事になる。神様としての権限を奪われて尚、かなりの力は残している様だ。


「話し合いの余地は無いみたい」


「最初からそのつもりも無いだろうに。姿も現せない様な臆病者、我らの敵では無いわ」


「たかがゲームキャラの分際で調子こいてんじゃねーぞ!」


 それまで魔王が立っていた所に、突如として火柱が出現する。魔王はその攻撃を間一髪の所で避けているし、僕は2人を連れて転移する事で距離を取っていた。魔王には悪いけど、狙われている本人まで一緒に転移すれば僕たちまで攻撃に巻き込まれかねない。


「勇者が魔王を囮にするでない!」


「ごめん!でも避けるって信じてたから!」


「てめぇら、いつまでも余裕こいてんじゃねぇ!」


 火柱の中から男の叫び声が聞こえた。どうやら攻撃と同時にこの場所に姿を現していたらしい。しっかり魔王の挑発が効いている辺り、あまり大した事は無さそうだ。

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