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力不足

 アースガイアを救うという事で方針こそ固まったものの、それでもやっぱりシイナとアラタが向こうに行く訳にはいかなかった。僕たちの事を止めはしないけど、こちらの世界を放っておいて良いという事でも無いのだ。なので行くのは僕とアカリさんとアイの3人という事になる。


 ここまでは全員納得してすんなり決まったけど、依然として問題は残っていた。それは残された時間と、僕たちの実力にある。精霊様が言うには、今の僕の力では神族を名乗る何者かには勝てないらしい。しかも精霊様が神族を抑えていられる時間も、そう長くはないとの事だ。


 そうは言われても具体的な時間も実力も、まったく基準となるものが無い。限られた時間しか無い中で闇雲に修行をするという事も出来ず、しかし何かしらの行動は起こさなくてはならないという厳しい状況にあった。


「前世で襲われた時は、呪文による攻撃も効いてはいた。でも私より強力な呪文を使えるユウリが実力不足ってなると、それ以上の呪文が求められるって事になるね」


「奴らはそもそも宙に浮いていたから、俺はほとんど手出しが出来なかった。接近して戦うには、少なくとも浮遊魔法なんかは駆使しないといけないぞ」


 シイナとアラタが前世で戦った時の事を思い出しながら、何とかヒントを得ようと試みる。ぁぃはずっと子供たちを守るために盾になっていたので、直接攻撃をすることは無かったそうだ。


 宙を浮いているというなら、やっぱり攻撃は呪文に頼った方が良いんだろう。ただ僕は上級電撃呪文を使えるけど、2人が使うにはやっぱり消費魔力量がネックになる。となれば新しい魔法を開発するしか無いんだけど、これ以上使えそうな呪文に心当たりが無かった。


「あたしは既存の魔法と呪文を組み合わせて何とかやるよ。相手が飛んでても追いつく方法はあるしね」


「姉さんは流石だけど無茶苦茶よね。私は姉さん程うまく魔法を組み合わせて戦えないし……」


「魔法を組み合わせて……そうか、合成呪文か!待ってて、すぐに新しい魔法式を書くから」


 2人の会話を聞いた事で、その存在を思い出すことが出来たのは幸いだ。実験室に置いてあるパソコンを立ち上げ、瞬く間に合成呪文の魔法式を書き上げるとシイナがドン引きしていた。


 ここに入所してから数多の魔法を開発してきた事で、学生時代よりも更にスキルアップしている。それを間近で見てきたアイとアラタは慣れてしまっているけど、実際にシイナが見るのは初めての事だった。ちなみにアカリさんは、ユウリならそれくらい当たり前とか言って褒めてくれない。


「出来たよ。炎と氷の呪文の力を組み合わせた、名付けて合成消滅呪文。魔力消費は上級電撃呪文より少ない筈だけど、威力は同等以上。その分魔力の制御が難しいから気を付けてね」


「何か凄いこと言ってるけど、試してみればどんな呪文か分かるよね」


 早速この呪文をアカリさんに試してもらい、修正点等を洗い出してもらう事にする。この部屋は本来危険な魔法実験を行うための場所でもあるので、この呪文を試すための結界等も簡単に用意できた。しかしここで1つの問題が発生する。


「待って……なにこれ、こんな難しい魔法初めて……!」


 僕にとっても、その場に居た全員にとって予想外の事態だった。これまでどんな魔法でも1度で成功させ、軽々と使いこなしていたアカリさんが魔法の発現に失敗していたのだ。


 それを受け改めて僕は魔法式を確認する。アイとアラタにも見てもらったけど、やっぱり魔力の制御が難しそうだということ以外に問題点は見当たらなかった。その間もアカリさんは何度か挑戦しているけど、途中まで発現の気配があるだけで結局成功させる事は無かった。


「私も試してみる。姉さんが出来なかったのに無謀かもしれないけど……」


「僕もやってみよう。自分で使ってみれば何か分かるかもしれないし」


 僕とアイが合成消滅呪文を試すと、その制御の難しさが身に沁みて分かった。本来才能だけで言えば僕たち2人はアカリさんを凌ぐものを持っているけど、それでも制御し切る事が難しい。ただそれでも何とか魔法の発現に成功させることが出来ていた。


「こればっかりは流石に生まれ持った才能か。悔しいな……」


「そもそもアカリさんは形質変化の才能が乏しいのに、ここまで出来ていた時点で充分凄いですからね」


 多分僕が使った感じ、この呪文に要求される才能は多岐にわたる上、そのどれもが秀でていないと使えそうにない。少なくとも複合、精密、形質変化の3つが秀でている事は必須条件だと思う。アカリさんはその3つの中では複合の才能しか持っていないので、かなり厳しい条件だったと言える。


 その後、日付が変わるまでアイは合成消滅呪文を使いこなすために練習を繰り返し、隣でアカリさんも何とか使えるようになろうと頑張っている。最後には何とか発現させる事には成功させていたけど、その頃には疲労が溜まっていた。相変わらず魔力の回復は早いけど、長時間集中力を維持し続けて居たことによる疲労だ。


 2人が呪文の練習をしている間に、僕は魔力タンクを補充していた。シイナは明日以降は通常の仕事に戻らなければいけないけど、それ以降も僕たちはアースガイアに居る事になる。ずっと扉を開きっぱなしにする必要は無いかもしれないけど、可能な限りこちらと通信する為に余裕を持っておいた方が良い。


 こうして今出来ることは可能な限りやったけど、それでも1つどうしても不安な事があった。それは僕自身が強くなる方法については、全く進展が無かった事だ。


 確かに合成消滅呪文は強力だけど、上級電撃呪文を使える僕にも必須かと言えばそうでもない。2人の実力向上には繋がった筈だけど、僕の力不足については全く改善出来ていなかった。





 翌朝、僕たちは再びアースガイアへと向かった。以前はロボットを抱えて通信の手段としていたけど、今回は小型の通信機に変更して3人が持ち歩いている。万が一僕たちが離れてしまっても、これですぐに連絡を取り付けられる様になった。


 昨夜寝る前にアラタが復活のパスワードを更新してくれていたので、扉は最後の街の教会の中に繋がっている。まだ早朝ということでお祈りしている様な人もおらず、急に現れて騒ぎになるようなことは無かった。


 取り敢えず神官様の元に挨拶に行こうと思ったんだけど、どうやら普段から教会にいるという訳では無いようだ。神父様に居場所を聞いてご自宅に向かおうと教会を出ると、街中を走っているいりすの姿を見かけた。


「おはようございます。朝からトレーニングですか?」


「そうです。街を守るために鍛錬は欠かせませんから。ユウリさんはどちらへ?」


「これから神官様の所へ。昨日の話しの続きをしようかと」


「それでしたら、私も案内ついでにご一緒させて下さい」


 こうしていりすと共に神官様の元に向かうことになった。こういうRPGのイベントみたいな展開も何だか久しぶりな気がして、途端にこの世界を懐かしんでしまいそうになる。


 神官様の元に向かう間に、アイといりすは自己紹介を済ませていた。当然アイがぁぃだという事は伝えず、それよりもアカリさんという実力者の妹という事で少し警戒されてしまう。アイはちょっとだけ寂しそうにしていたけど、それも仕方が無い。


「よくお越し下さりました。あれからもう一度だけ精霊様からお言葉を頂いておりますので、その事についてお話致しましょう」


 神官様の家はごく普通の家で、4人も押しかけてしまっては少し手狭に感じる程だった。今の世界情勢を見るに、例えリーダーと言えどやたら豪華な家に住む余裕は無いという事なんだろう。


「精霊様の見立て通り、まだ力を取り戻してはいないようですね」


「それなんですが、僕はこちらの世界から多くの魔力を頂いてますし、精霊様の加護もあります。はっきり言ってあの頃よりも今の僕の方が強いんですが、力を取り戻していないとはどういう事でしょうか?」


「申し訳ありませんが、私は精霊様の考えを全て知っている訳では有りませんので……私よりも魔王様に聞かれるのがよろしいかと。精霊様もその様に仰っていましたので」


 どうやら再び僕たちがやってきたら、魔王の元を訪れるように精霊様が言っていたらしい。その魔王は魔王城の地下に行けば会えるそうだ。


 あの城は魔王を倒した後に崩壊したと思っていたけど、地下はそのまま残っているらしい。そういえば続編でも本編に関係無く入ることが出来て、レアアイテムが手に入る場所になっていたという事を思い出した。


「いりすさん、貴方が案内してあげて下さい」


「私ですか?しかし街の守りが……」


「神族が攻めて来たら、貴方1人が居た所でどうにもなりませんよ。それよりも、今出来ることをして下さい」


 ちょっと冷たい言い方にも聞こえるけど、神官様の言っている事は正しい。いりすの実力はこの世界では間違いなく上位なんだろうけど、僕たちと比べてしまうと大したことは無い。その僕たちですら現状では神族に勝てないと言われているのだから、居ても居なくても変わらない。


「魔王様とは協力関係に有りますが、全ての魔物が承諾しているという訳でも無いのです。いりすさんが居れば、多少は話しも通じるでしょう」


 そういう事情があるのなら、尚更いりすは僕たちに付いてきてもらった方が良い。別に非協力的な魔物を倒しても文句は言われないと思うけど、いちいちそんな事に時間を取られるのも煩わしい。今更魔物を倒してもレベルアップする訳でも無いので、それこそ完全に無駄な時間になってしまう。


 いりすは落ち込みながらも、すぐに気を取り直して魔王の城跡に案内してくれた。街の外に出ても魔物が現れなかったのはいりすがいるからなのか、それとも魔王が口利きしてくれているのか。


「中に入る前に少しだけ時間をください。私が先に言って話しを付けて来ます」


 突然見知らぬ人間が入っていったら、思わず襲ってしまうかもしれないそうだ。外に居る魔物は言う事を聞くのに、魔王の近くに居る魔物が言う事を聞かないというのはどういう事なんだろう。もしかしたら、それだけ強力な力と自我を持っているという事の証なのかもしれない。


 本当に少しだけ待っていると、いりすは息を切らしながら出てきた。間違いなく何かあった様に見えるけど何もなかった、ただ話しを付けてきただけと言うだけなので深く追求はしない。


「相変わらずここは暑いね……」


「あの時も皆暑がってたね。でも奥まで行けばすぐに涼しくなるよ」


 そういえば、ぁぃだけはこの溶岩の近くに居ても涼しそうな顔をしていたのを思い出した。今のアイも平気そうな顔をしているし、アカリさんも当然汗1つ搔いていない。この姉妹は暑さに耐性でもあるんだろうか。


 城跡の地下には街の様に魔物の姿は無いけど、必要とあればどこかから現れるんだろう。いりすはこの暑い中を走り回り、魔物が現れるの(エンカウント)を待って話しを付けたという事だ。そのおかげで最奥に行くまでの間、魔王の言うことを聞かない配下に絡まれる事は無かった。


 見覚えのある巨大な扉の前に着くと、いりすが少しだけ呼吸を整える。魔王と対面するというのは普通なら緊張する場面だけど、僕たちは既に1度会っているので慣れてしまっていた。


「勇者よ、よくぞここまで来たな」


 重厚感のある扉を開くと、あの時にも聞いたセリフが聞こえてきた。でも何だか勇者として対峙した時と違って、魔王の声には全く威圧感が無い。今は敵対していないので威圧感を出す必要は無いんだけど、そういう話では無くそもそも甲高い声音だった。


「我は魔王。この世界に救いと光をもたらす存在だ」


 そこにはラスボスのセリフを改編しながら、ポーズを決めている女性が居た。なんというか、完全に中二病を拗らせた女だなという感想しか出てこない。


「魔王様、妹の身体を使って変な格好をさせないで下さい」


「別に変な格好はしておらんだろう。魔王が勇者と対峙するに相応しいポーズでは無いか」


 やっぱりこの魔王、完全に残虐設定は消え去って残念キャラになってしまっていた。そのせいでいりすの言葉に気付くのが遅れてしまったけど、あの女はどうやら僕とアイの娘の様だ。どこかで生きてて欲しいとは思っていたけど、こんな出会い方は望んでいなかったな。

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