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やり直し

「準備は出来ましたか?これから王様の所に行きますよ」


「城下町には酒場がある。そこでお主に相応しい仲間を見つけると良いだろう。新たな勇者の武運を祈っているぞ」


 この世界で2回目の生を受けた俺は、既に1度見たイベントをスキップする様に酒場へと急いだ。とある事が気になってしまい、もはやそれ以外の事が今は考えられない状態になっている。


「いらっしゃい。ここはお酒と仲間を提供するお店よ。今日はどういった要件?」


 受付の服装には全く目もくれず、相変わらず無言のまま仲間の提供を要求する。もしかしたら今の俺は少し怖い表情をしていたかもしれない。それでも酒場の受付をしているだけあって、全く動じる事無く仲間一覧の書類を用意してくれた。そして俺は目的の名前を見つけ出し、3人の仲間を要請する。


 その3人とはああああ、い、ぁぃの3人だ。多少ステータスは違っていたが、名前と顔は全く同じだった。嬉しくなり思わず顔がにやけてしまいそうになるが、いきなりにやにやしていては不審がられてしまうかもしれない。前回の記憶を持っているのは多分俺だけだろう。一方的に親近感を抱いて距離感を誤ってしまう訳にはいかない。


 だが再びこの3人に会えたというだけで俺は一安心だった。装備を3人に手渡し、心晴れやかに国の外に出ていく。


「よっしゃ!皆、頑張ろうぜ!」


 国を出ると前回も聞いた、ああああの元気の良い声が響く。俺の時間感覚ではたった1日前の出来事なのだが、それがとても懐かしくも感じた。そしてそう思っていたのは俺だけでは無かった。


「っと、これは前回もやったか。十数年ぶりだが、まぁお約束ってやつだ」


「そうだね。でもまた勇者様が私達を選んでくれたんだ。恒例って事にして良いんじゃないか?」


「勇者様、またご一緒できて嬉しいです。もう前回の様な失態は犯しませんので、よろしくお願いします」


 3人の言葉に俺は戸惑うが、それでもすぐに分かる事がある。この3人も俺と同じ様に、前回の旅の記憶が残っているのだ。だが俺とは少しだけ事情が違うというのも理解できた。


 俺は既に成長したこの勇者の身体に転生しているが、3人は普通にこの世界で生を受けているのだろう。子供の頃から失敗した旅の記憶を持ちながら生きていくというのは、一体どういう気持ちなのだろうか。それでもまた同じ職業に就き、俺と一緒に旅をする事を選んでくれていたのだから感謝の気持ちで一杯だ。


「ははは。まぁ使命みたいなもんで、これ以外に選ぶ道が無いってのもあるんだけどな」


「私は何度でもこの道を選びますよ?私の力を勇者様の役に立てる、それは前回の記憶とは関係の無い私の意思ですから」


「あたしだって、こんな良い男を見つけて簡単に他の道なんて選べないさ。それで前回の続きだけど、勇者様はあたし達二人を愛してくれる覚悟は決まったのかい?」


「もう、また魔物に襲われますよ!その話しはもっと落ち着いた所でしましょう」


 4人で笑いながら、それでも油断無く次の村へと向かって進み出す。1度通ったことのある道だが、当然前回と同じパターンで魔物が現れるという事は無い。それでも前回よりスムーズに魔物を倒す事が出来ているし、俺達の戦い方に迷いは無かった。


 前回以上に順調に進み、日が暮れる前に村に着くことが出来た。その為今回は宿に向かうよりも先に明日の準備の為の買い出しを済ませておく。そして宿に向かうと、旅の前にしていた話しが蒸し返された。


「さて、それじゃあ勇者様の答えを聞こうじゃないか?」


「私も……前回の様に後悔しながら死にたくはありません。出来れば気持ちを聞かせていただけないでしょうか?」


 俺が二人の女性に言い寄られているのを、ああああはニヤニヤしながら眺めている。故郷に相手がいると言っていたし、羨ましがっている雰囲気は無さそうだった。


 そして俺もここまで言われては覚悟を決めるしかないのだが、どちらかを選ぶという事も出来ない。以前の世界であれば二人を選ぶというのは良い事と見なされなかったかもしれないが、この世界では違うのだ。ならばあえてどちらかを決める必要も無いと、二人の事を抱き寄せる。


「……ありがとうございます」


「あたしも良かったよ。どっちかが仲間外れになったら、雰囲気が悪くなっちゃうからね」


「二人共良かったな。もしアレなら、俺は外で時間を潰してくるぜ?」


「それには及ばないよ。流石に色々とするのはこの旅が終わってからの方が良い。途中で付いて行けなくなっても困るしね?」


「わ、私も今そこまでするつもりは……」


 そこに関しては俺も2人と同意見だった。気持ちを受け入れはしたが、俺自身がもっと相応しい存在になってからという気持ちは持っている。将来を約束しつつ、本当に結ばれるのは世界を平和にしてからの話だ。


「そうか?まぁそれで良いって言うなら俺も楽でいいけどな。そんじゃ、明日またヘマをしないように今日はもう休んでおこうぜ」


「そうですね。気を引き締めていかないと」


 相変わらずああああがさっさとベッドに潜り込み、続いていとぁぃが服を脱いでからベッドに入る。こうして考えるとああああは二人に気を使って、目を逸らしていたのだと気付いた。本当に気遣いの出来るいい男だ。きっと故郷に居るという相手もこの人柄に惚れたのだろう。


 俺も疲れてはいないが、ステータス上では減少している体力を回復するために眠る。何だかぐっすりと気持ちよく寝る事が出来た気がするが、この時の俺はまだこの世界の違和感に気付くことが出来ていなかった。


「よし、それじゃあ行くか!」


「声が大きいよ。まだ朝早いんだから、近隣に迷惑だろ」


 このやり取りもお約束なのだろうか、宿を出た所で二人はごく自然にそう話していた。しかし前回までと全てが同じという訳では無い。今回は村に来るまでの間に魔物との遭遇が多かった為、前回に比べて少しだけ経験値を稼げている。この調子ならば次のレベルアップも早くなり、塔の攻略や魔物の不意打ちにも多少対処しやすくなる筈だ。


 実際にその考えは正しく、今回は全く苦戦することなく塔を攻略する事が出来た。塔に入った瞬間に仲間内での緊張感が高まったが、結局不意打ちなども発生せずに進む事が出来たのだ。


「今回は何とかなったな」


「毎回こうやって上手くいくと良いんだけどね。でもこれであたし達なら、調子に乗らなければ上手くやれるってのも分かったね」


「そうですね。あとは目的の鍵を手に入れて脱出しましょう」


 この塔の最上階には転移の魔法陣を開放する為の鍵がある。船を持っていない俺達がこの島とは違う大陸に行くためには、この魔方陣を使わなければならないのだ。


 なぜその為の鍵がこんな所に有るのかはゲームの謎だが、好意的に解釈すれば悪用されない為であり、この塔を攻略できない程度の弱者が無闇に外に出てしまう事を抑える為なのだろう。


「鍵と……こっちの模様が描かれた床は何だ?」


 3人が一斉に俺の方を見る。知らない物は何でも俺に聞けば分かると思っているのだろうが、実際にこのゲームをやり込んだ俺はその正体を知っている。それは塔から脱出する為の魔法陣であり、これを使うことでいちいち塔を下って洞窟を抜けるという事をしなくて済むのだ。


「へぇ……本当、流石勇者様だね」


「みんなで一斉にこの上に乗れば良いんですか?」


「おー、ここは洞窟の入り口か?本当にあっという間だったな」


 鍵を入手してしまえばあの塔に用は無い。魔法陣に乗って脱出し、まだ陽は少し高いが1度村に戻り宿を取る事にする。というのもここまでの戦闘で薬草と、俺とぁぃの魔力が尽きかけていたからだ。俺の魔力が尽きていたというのは、途中でレベルが上ったことで初級回復呪文を覚えた為、それを使用していたからだ。


 薬草の補充はすぐに済むが、魔力の回復にはどうしても睡眠が必要になる。次の大陸に移動すればまた魔物は強くなるため、ぁぃの魔法も依然必須だ。その提案に3人も納得し、早めに戻った宿で雑談をする。そこでの話題ではああああがいきなりとんでも無い事を言ってきた。


「実は俺、違う世界から来たって言ったら信じるか?」


「……えっと、どういう事でしょうか?」


「いや、ちょっと違うな。前世の記憶があるって言った方が正しいのかな。前回の失敗した記憶じゃなくて、本当にこの世界とは違う場所の記憶なんだ」


「あたしは信じるよ。なんたってあたしもそうだからね」


 ああああといは、とんでもないカミングアウトをしてきた。話しについて行けないぁぃは両者の顔を交互に見ながら黙って聞き役に徹している。


 どうやらああああは俺と同じ地球からやって来たようだった。しかし話しを聞いていると歴史そのものが少し違うらしく、この世界に似たゲームが存在していると言っていた。俺の様に完全に同じゲームでは無いが、主人公が喋らないという点だけは共通していた様で、俺が無口な事をすぐに納得してくれたのもこの記憶があったからなのだそうだ。


 対していは、俺やああああの居た地球とは全く違う世界に居たらしい。そこでもこの世界と同じ様に剣と魔法と魔物が存在していた様で、そちらの世界に居た時の記憶では魔法の才能があったそうだ。しかしこの世界では魔法は全く使えなかった為、魔法に代わる様々な技術を得るために盗賊という職業を選んだそうだ。


「2人ともそんな過去が……もしかして勇者様も?」


 ぁぃは特にそういった事情は無いようだったが、とんでもない話しを振られてしまい俺も困ってしまう。皆がここまで自分のことを話してくれたのに、自分だけ隠しているというのが心苦しい。


 しかし流石にこの世界を旅した(ゲームをプレイした)事がある等とは言えない。それを言ってしまえば、この世界での役割を演じるという事に支障が出てしまう。魔王の倒し方を知っていると言ってしまえば、そこに至るまでの旅に緊張感も何も無い。


 どこそこにメタルなんたらが大量に現れるので、魔王を倒せるまでレベルを上げ続ければ良いと教えれば確実に魔王を倒せる。だがそんな旅をするためにこの世界に転生してきたのではない。もしかしたらそういう展開も有りなのかもしれないが、俺はもちろん転生させてくれた神様達だって望んではいないと思う。


「前世の記憶は無いけど、この世界の知識は何故か持っている……それが勇者に与えられた力なのかもな」


 結局俺は自身の事情について少しだけぼやかして伝えた。ああああは流石にゲームを知っているだけあり理解が早くて助かる。1人がそう納得してくれる事で、他の仲間もそういうものなのかとすんなり飲み込んでくれるのだ。


「ま、何にしてもあたし達は勇者様を助ける為に集まったんだ。どんな事情であれ頼りにしてるよ」


 いがそう締め括った所で雑談を終え、各々でベッドに入って眠る。しかし今日の俺は少しだけ寝付きが悪かった。言ってしまえば、ああああといも俺と同じ異世界転生者なのだ。そのことに少し仲間意識も湧くが、それ以上に二度と失敗出来ないという緊張感が俺の中で増したのだ。


 前世の記憶を持ちながら、しかも前回の失敗した記憶まで引き継いでいるのだ。その上俺とは違い、二人はこの世界に生まれ落ちた時からの記憶も持っている。二人が今何歳なのか分からないが少なくとも成人しているだろうし、つまりこの世界で十数年は生きているという事になる。


 俺は全滅したらすぐに自宅のベッドで目覚める事になるが、二人は何度も同じ十数年を繰り返す事になるのだ。また失敗するかもしれない旅に向かう事を運命付けられながら、失敗と同じ回数だけその人生を繰り返す。それはきっと苦痛でしかないだろう。


 今回の旅は絶対に失敗しない、そう決意を新たにしながら俺は眠りについた。

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