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継続調査

 1度目の異次元、もといアースガイアの調査を終えた後、再び準備期間に突入する。ただ今回の準備期間は時間こそかかったものの、それほどの激務という程にはならなかった。


 何故前回があれほど忙しかったかと言うと、まだチーム結成直後の不安定な時期は、実績が無いとすぐに解散させられてしまう恐れがあったからだ。そんな事あるのかと思うところだけど、シイナが無理やり結成にこじつけた際、期限が設けられていたというのだから仕方がない。


 本当はもっと慎重を期すべきなんだろうけど、それでも強行しなければならなかったのはそういった理由からだ。ただ当然見込みのない博打という訳でも無かったし、内容を見てみればただ忙しかっただけで済んでいる。


「よし、出来た。見た目は完全に伝説の剣だよ」


「凄いんだが……伝説の剣がこんなに何本もあると有り難みが無いな」


 僕は次の調査で使う為の武器を生成魔法で作り出していた。アースガイアの武器を模したものなら、魔物にも有効打を与えられるんじゃないかという案の元、ならば最も有効な武器は伝説の剣だろうという事で僕が再現していた。


 見た目だけでなく追加効果まで再現したので、これで物理的に効果が薄くても、追加の呪文がダメージを与えてくれる。これだけでも充分有用であり、魔法でいくらでも作り出せるのでとりあえず人数分用意してみた。


「見た目よりも軽いし、これなら取り回しも簡単そう」


「護身用としても、魔法式は全員覚えておいた方が良さそうだね」


 僕とアラタは勿論、アイも戦士に転職していた事から剣の扱いは慣れている。シイナもアースガイアに来る前には触っているだろうし、アカリさんはそもそもの身体能力の高さですぐに使いこなしていた。


 他ではアイが主に攻撃用の呪文を開発している。これまで呪文は氷結、火炎、電撃の3つしか無かったので、まずは種類を増やすことから始め、無事に真空と閃光呪文の2つを再現する事に成功していた。


 メタ的な事を言ってしまうと、アースガイアの世界以外のナンバリングタイトルにはもっと多くの呪文が存在している。爆裂呪文や重力呪文というものもあるけど、アイは見たことが無く再現出来ないので、これは僕がこっそり開発しておくことにする。


 ちなみに重力操作魔法は、この重力呪文を元に作ったものだった。ただの偶然だったけど、多分そのおかげであの巨人型の魔物にも有効に作用していたんだと思う。しかしいまさら重力呪文に名称変更する事も出来ず、だから名前を付けるのが嫌だったんだと心の中で愚痴を言っていた。


「後は1週間後までに、ちょっとでも改良を進めるだけね」


「再現性を損なわない様にっていうのがなかなか難しいけど、それでもまだ良くできる箇所は有る筈」


 範囲の調整や消費魔力の軽減などを行うのが僕らの本業なのだから、どんな魔法であってもこの作業をしなくて良いという事にはならない。特に電撃呪文に至っては、アカリさんですら1度使うと失神してしまう程の魔力食いなので、今のところ僕専用の呪文だ。


 そんな特別感よりも、全員が切り札の呪文を手にしていた方が何かと便利だ。まずは誰でも1度は使える程度まで魔力を抑える事を目標に改良していこう。それと並行して、初級や中級呪文も一緒に作ってしまっても良いかもしれない。


 それから1週間が経ち、再び5人が集まった。今回の実験で最大の目的は違う座標に繋げること、それが叶わなければ前回と同じ場所に繋げて、前回取れなかったデータを集めていく事になる。


「全員結界は張ったな?行くぞ!」


 アラタが魔法式に魔力を込めると、前回と同様に問題なくアースガイアへの扉が開かれる。そして扉の先に見える光景は岩場では無く草原だった。


「よし!違う場所に繋がったぞ!アイ、測定は?」


「どの数値も問題ないよ。今回は40分ぐらい保ちそうだけど、そこも何か改良したの?」


「いや、何もしてない。もしかしたら繋がる場所で消費魔力も違うのかもな」


 その推測が正しければ、なるべく消耗の少ないところで調査を行っていきたい。今回はひとまず良しとしても、時間が倍になったからといえ40分では全然足りないぐらいなのだ。


「魔力反応有り!また来るよ!」


「今回は早いね。ユウリ、また頼める?」


「勿論。アカリさんとアラタは準備しておいて」


 前回同様に、魔物が現れた瞬間に僕が重力操作魔法でその動きを抑えつける。ただ今回現れた魔物は2体いた事で、1体は重力の檻から逃れていた。


「懐かしい顔だな、これを試すには丁度良いぜ!」


 現れた2体の魔物は、どちらも大きな猿の魔物だった。それはかつて僕たちが1度敗走して、命からがら逃げ延びた時の魔物と同じだ。アラタが伝説の剣を作り出して魔物に斬りかかると、その1撃で仕留めてしまっていた。


「おいおい、歯ごたえが無さすぎるぞ」


「これだと実験にならないな。アカリ、1度武器を持たずに戦って貰えるか?」


「分かった」


 僕が重力の檻から魔物を解き放つと同時にアカリさんが飛びかかる。巨大な猿と真っ向から殴り合っても圧倒するアカリさんは流石だけど、やっぱり有効打は無さそうだ。


「そろそろ武器を使うよ」


 アカリさんは伝説の剣とは違う、以前アラタが作り出していた剣を作って攻撃した。やっぱりそこまでのダメージは見込めない事を確認し、次いで伝説の剣を生成し軽く振るった。それだけで簡単に猿の腕は両断され、少し様子を見ても再生する様子は無さそうだ。


「ごめんね、すぐ楽にしてあげるから」


 そうは言いつつもやっぱり実験なので、アカリさんは様々な呪文の試し撃ちを行う。間も無くして2体の魔物は駆逐された。


「まず1つ目の目標は達成だな。無事に違う地点に繋げられたし、武器も効果的であることが確認出来た」


「引き続き魔物には警戒しつつ調査していくよ」


 その後は特にこれといった問題も発生せず、順調に調査が続けられた。アースガイアに送れるものに制限が無いことも確認できたし、こちらの世界と時間の流れが同じという事も判明した。


 さらに扉を隔てても魔法を用いた通信が出来るという事も確認した所で、今回の調査時間の限界を迎えようとしていた。


「今回も収獲は多かったな。次の調査では何を確認していく?」


「やはりいくつもの地点に繋げられた方が便利だろう。まずは今判明した2地点の物理的な距離を測定しつつ、他の場所と繋げられる復活のパスワードを探していくべきだな」


「ところでこの調査の最終目標って何なの?4人は向こうに帰りたいとか思ってる?」


 アカリさんの素朴な疑問は、そういえば僕もしっかり確認していない事だった。いくら調査が順調に見えていても、着地点がしっかり見えていないとどこまでやっていいものか分からない。このまま勢いでアースガイアの人々と交流まで行ってしまうのは流石に不味いだろう。


「国の意向としては、資源の確保を前提とした交流まで出来る事が望ましいとしている。それが無理ならば、相互干渉の手段を完全に断つべきだという話だ。出来るかどうかは別としてな」


 資源の確保を前提とした交流とは、もし異次元に知的生命体がいたのなら交渉して利益を得ようという話だ。もし誰もいないのなら、それはそれで単に未開の土地を切り開いただけという事になり、環境資源を好き放題得る事になるだろう。


 その一方で知的生命体との交渉に失敗した場合、或いはあまりに危険性が高いと判断した場合は、今後一切の通行を禁ずるというものだ。扉を開ける事が出来たのなら、きちんと鍵をしておけという話なんだろうが、それには扉を塞ぐための魔法を開発しなければいけない。そんな事が出来るかは不明だけど、出来る出来ないは別として国からはそういう要求が来るはずだ。


「あたしは別に国の意向はどうでも良いんだけど。4人がどうしたいのか聞いておきたい」


「悪いね、つい癖ではぐらかす様な事を言ってしまった。私はただ、私達が死んだ後どうなったのかが知りたいだけだ。そしてあいつらが何者だったのか……まぁそこまでの事は分からなくても、人間たちが平和に暮らしていることぐらいは確認したいね」


「あいつら?」


「何だ?アイから聞いてないのか?」


「あ……ごめん、あの時ユウリと2人っきりだったから、姉さんには話して無かったんだった」


 しまった、僕もてっきりアイが話すだろうと思って、アカリさんには何も言っていなかった。決して今更アカリさんを仲間外れにするとか、そんな事をしようとしていた訳ではない。


「あぁ、あの時そういう話しをしてたんだ。結構重い内容だったから話しづらかったんだよね?」


「そうなの……あんまり気持ちのいい話じゃないんだけど、聞く?」


「勿論」


 アイは僕に語ってくれたことをアカリさんにも話した。途中で端折ったりせず、自分が知っている事を全て伝えてくれている。


「そう……その何者かが皆を……」


「別に復讐を望んでる訳じゃない。あの世界は人間も魔物も、殺し殺される世界だった。今更違う何かがそこに参加してきたところで、そういうものだったって割り切れる。でもやっぱり不可解なのは……」


 アイが気になっているのは、その何者かが襲ってくる直前に多くの人々から拒絶されていた点だ。突如そうされた事で人々との関係が薄くなり、人里離れた途端に襲われたのだ。


 あまりにもタイミングが良すぎるし、人間と何者かの間に何かしらの接触があったのかもしれない。ただああああの村にまではその話しが届いていなかったので、アイと子供たちを受け入れてくれた。その結果、何者か達に滅ぼされてしまっている。


「アラタは……ああああは僕たちの事を探しに行ってくれたんだよね?その時何があったの?」


「お前達の情報を集めるために、最後に立ち寄ったっていう街に向かったんだ。けど、向かった先には街なんて無かった。もう滅ぼされた後だったんだよ。そこで呆然としてたら、その何者かが突然現れて負けちまった」


 徹底的に僕たちと、僕たちが関わったところを狙って襲っていたということか。それをどうやってかは知らないけど察知した人達が、僕たちの事を避けるようになったと考えると繋がる気がする。


「何にしても、私達はアースガイアの情勢に無理に介入しようとは考えていない。国の意向で関わりが深くなったら、そのついでに調べる程度で収めるつもりだ」


 シイナの言う通り、こちらから不要に接触するというのはリスクが高すぎる。あくまで交易を結ぶことが出来た場合に限り、最低限アースガイアの事を知っておこうという事だ。


 でもその程度でこの件は終わるだろうか。これは僕の勝手な考えだけど、4人の転生者が一堂に会しているのに、そんな無難な接触で終わるとは到底思えない。今までの経験からして一悶着起きるはずだ。


 思えばこれまでもこういう重大なイベントがあった時に、結局何も起きなかったという試しが無い。神様はそんなに都合よく事件が起きる異世界ばかりに僕を転生させている気がする。僕の転生先には関与しないという話しだったけど、その言葉は本当だろうかと今更になって疑いたくなるぐらいだ。


「……分かった。皆がそういうつもりなら、あたしも余計な事はしないようにする」


 多分アカリさんは、僕たちに酷いことをしたその何者かが許せないという気持ちがあるんだと思う。ただこれは僕たちだけの問題ではなく、下手をするとこの世界と、アースガイアの全てを巻き込む自体にまで発展する恐れがあるのだ。問題を起こすような事は絶対にしてはいけない。


「でもその何者かに関しても、何かしら対策を考えておくべきだと思う。何が対策になるか分からないけど、また僕たちが狙われないとも限らない」


「そうだな。前回は全く勝ち目が見えなかったが、今回はこれだけ仲間も揃っている。何の準備もしないという訳にはいかないな」


 次の調査内容を詰めつつ、何者かへの対策として行動方針を決めて、防衛用の魔法を開発する事にする。次の調査はこれらが整ってから行うことになるため、再び長い準備期間が必要になった。

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