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エンディング後の事件

 外で食事も済ませているので、家に帰ってきた僕たちはすぐにお風呂にお湯を入れ始める。その間にアイから話しを聞こうかとも思ったけど、どうやらあまり乗り気では無さそうだった。


「もし辛いなら無理に話さなくても良いよ」


「ごめんなさい。ちゃんと話すから、もう少しだけ時間が欲しい」


 ここまでの態度を取るということは、余程言い難い事があったに違いない。僕には何があったのか全く想像もつかないし、唯一分かる事と言えば、僕の子孫がその後の世界でも活躍しているであろう事だけだ。


「お風呂湧いたよ。どうする?今日は2人で入る?」


「姉さん、そんなに遠慮しなくても良いよ。これからもユウリとは一緒なんだから」


「そう?でも2人は見た感じ、前世でもかなり良い関係だったんでしょ?今日だけなら独り占めしても許してあげるんだけどな」


「う……そこまで言うなら、やっぱりそうさせてもらう。ありがとう」


 僕はアカリさんと同室になって以来、初めてアカリさんと別々にお風呂に入ったかもしれない。でも結局アイがアカリさんと同じ様に、僕に甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるので、これまでとあまり変わった感じはしなかった。


 2人とも尽くすタイプなんだなと思いつつ、血は繋がっていないけどやっぱり姉妹、いや繋がってるのか。魂は繋がってないけど、やっぱり姉妹は似るものなんだろうか。それとも似た存在だから姉妹として生まれるのか、こればかりは神様に聞いてみないと分からない。


「今日は積極的だね」


「だって、前世ではあまりこういう事をしてる余裕も無かったし……やっぱりちゃんと話しておく。本当は知らない方がユウリは幸せかもしれないけど、それでも良い?」


「そこまで言われたら尚更聞かないわけにはいかないよ。多分、よっぽど辛いことがあったんだよね?それを1人だけに……いや、3人だけに背負わせるわけにはいかない」


「……やっぱりユウリは勇者様だね」


 1度アイが僕の身体に抱きついてから離れる。それはアイが、僕から少しだけ勇気を受け取る為の儀式のようにも見えた。


「魔王を倒した後凱旋して、その後また旅に出る事にした。そこまでは覚えてる?」


「覚えてる。でも国を出てからの記憶はさっぱりなんだ」


 神様から、この先はゲームに描かれていないからここで終わりだと言われた一方で、残された者はそのままあの世界で残りの人生を生きていく事になるとも聞いていた。きっと順風満帆な人生とはいかなかったんだろう。


 アイは極力平静を装いながら、淡々と記憶に残っている出来事を口にし続ける。


「私達が国を出てから、最初のうちは3人で楽しく旅をしていたの。でもとある時から、一気に私達に対する風当たりが強くなった」


「風当たり……魔物がいなくなったから、今度は力を持ってる僕たちが、人々から恐れられたって感じ?」


「あまりにも急だったから、私もよく分からない。突然行く先々から、出来れば近寄らないで欲しいって言われる様になって……そのちょっと前ぐらいから勇者様が体調を崩し始めた。私達の妊娠も分かったからもう旅は辞めようって話しをして、人里離れた所で暮らす様になったの」


 続編の為にも、しっかりやることはやっていたらしい。僕自身の意識が無かったというのはちょっと残念だけど、それは既に説明されている事なので仕方ない。その後どちらかの子供の血が受け継がれていき、後の主人公に繋がる筈だけど、とりあえずそこは心配しなくても良さそうだ。


「ただ私達はずっと追われていたみたいで、子供が生まれて間もない頃に何者かに襲われたわ」


「何者か?人間とか、魔物じゃなくて?」


「そのどっちでも無い、本当によく分からない存在だったの。話も通じないし、戦っても全然私達だけじゃ歯が立たなくて、勇者様もほとんど動けない状態だった。そしたらいが、子供を連れて逃げろって言うの。お前は戦士なんだから私よりも力が強い、子供2人ぐらい抱えて走れるだろうってね」


「そんな……」


 となると、そこで僕の抜け殻といは殺されてしまった可能性が高い。ただその後の顛末を見ていないアイは、不確実な事には言及しなかった。


「その後、私はああああに助けを求めて村まで行ったわ。事情を話したら快く受け入れてくれたし、ああああの奥さんも良い人で、子供の面倒も一緒になって見てくれていたんだけど……ああああは2人を探しに行くって出て行ったきり、帰って来なかった」


 もうこれ以上は聞きたくないけど、それでも聞かないわけにはいかない。いつまでこんな不幸が続くのか想像も付かないけど、この不幸を経験した先に今のアイがいるのだ。


「それから数年後に、また正体不明の何者かが現れたの。村の人達が匿ってくれたおかげで子どもは逃がすことは出来たけど、私はそこで殺されてしまった。最後に何か、強い光みたいなものがその何かを追い払っていたけど、その後どうなったか分からない。気がついたら私はこの世界に生まれていた」


「……話してくれてありがとう。ごめんね、大事な時に居てあげられなくて」


 僕は思わず、浴槽内でアイを抱きしめた。アイが辛そうな顔をしてたからというのも有るけど、多分僕も酷い顔になっているし見られたく無かった。しばらく無言で身を寄せ合って居ると、浴室の外からアカリさんの声が聞こえてくる。


「おーい、大丈夫?のぼせてない?」


「はーい!もうすぐ出るよ!」


「……改めてありがとう。アイは大丈夫?」


「うん。色々大変だったけど、今はユウリが傍に居るから」


 僕はもう一度アイを強く抱きしめ、思わずその頬にキスをした。途端にアイは顔を真赤にしながら、少しだけ不満げな表情になる。


「ばーん!待ちきれないから入って来ちゃった……ってアイ、顔真っ赤だよ。のぼせちゃった?」


「へ、平気!私達もう出るから!っていうか今日は独り占めさせてくれるんでしょ?邪魔しないで!」


「うわ、急に引っ張ったら危ないって!」


 アイと僕が慌ててバタバタと浴室を出ていくのを見たアカリさんは、優しげに微笑んでいた。この人は浴室の外でも空気の重さを察せるのか。僕の励ましのキスなんかよりもよっぽど勢いがあって、効果的に暗い雰囲気を吹き飛ばしてくれた。


 その後のアイは本当に僕の事を独占していて、風呂から出て雑談している時も、それどころか寝る時までアカリさんの事を締め出していた。流石にちょっと可愛そうだったけど今日ばかりは仕方が無いので、今度僕からアカリさんに何か埋め合わせをしてあげよう。


 それはそれとして、僕はアイの抱きまくらにされながら聞いた話の事を考えていた。一応子供は生まれ、何者かに襲われた後も恐らくは無事に逃げ切る事が出来たと思われる展開だった。


 実の所、僕はこの展開を知っている。勇者の血族がいる村が滅ぼされてしまうという展開は、あの有名ゲームの続編で使われていた内容と全く同じなのだ。


 ただそれでも絶対におかしい点がある。ちょっとメタな話になるけど、僕が転生した世界は有名ゲームの第1作目だった。でもアイから聞いた展開が起こるのは4作目の冒頭部分の話しなのだ。


 このゲームはナンバリングの1と2、3と4、5と6といった風に2作品毎に異なる世界観に変わっている。だから僕の子供たちは、2作目の冒頭に繋がる展開を辿っていないとおかしいという事になる。


「アイの話しは単なる偶然で、なんやかんや切り抜けつつ2作目の冒頭に繋がる……っていうのは考えづらいよね」


 人間でも魔物でも無い謎の存在に襲われる。そんな展開があったのに、後の世界で一切触れられていないのはおかしい。4作目において村を滅ぼした者の正体は神族という新しい種族なんだけど、1と2には神族という存在は欠片も出てこない。


「もしかしたら異次元の調査も、そこまで踏み込んでいかないといけないのかな。これは思っていたよりも大変な事かもしれない」


 僕の役割を考えれば、ただ調査して終わりというわけにはいかないだろう。もしかしたらあのゲームの世界に発生した時空の歪みの様なものを修正するという、非常に大掛かりな展開にすらなるかもしれない。そういった可能性を考えながら、今後の事を色々考えているうちに僕は眠ってしまっていた。


 翌朝、僕の背中に堅い感触があった。昨夜はアイと抱き合う様に眠っていて、目を開けるとアイの寝顔があるので体勢は変わっていない。


「アカリさん、何でいるんですか?」


「寂しいこと言わないでよ。ユウリを独り占めして良いのは昨日まで、日付が変わった時にこっちに来たんだよ」


 一応アカリさんは宣言通り我慢していたらしい。まぁ寂しい思いをさせてしまったのも確かなので、アイを起こさないようにゆっくりと引き剥がしてからアカリさんの方に向き直る。


「昨日はありがとうございます。ゆっくり話せましたし、おかげで必要以上に落ち込んだりせずに済みました」


「どういたしまして。あたしにも何かしてくれて良いんだよ?」


 アカリさんはそう言いながらキス顔で僕に迫ってくる。昨日の行動がバレていたのかと思いつつ、一体どうやって覗いていたのか気になる。それでもとりあえずお礼として、唇は避けて頬にキスしてあげた。


「もう、ちゃんとして欲しいんだけどな」


「まだ子供ですから。そういうのはもっと大きくなってからです」


「身体はともかく、精神的にはとっくに大人でしょ?」


「僕じゃなくて、アカリさんの事ですよ。勿論アイもです。2人とも僕が生きてきた時間から見れば、まだ赤ちゃんみたいなもんです」


 アカリさんは文句が有るのか頬を膨らませていた。いつしかアカリさんに言われたことをそっくりそのまま返そう、むくれてるアカリさんも可愛いよ。でも大人になったら、本当にちゃんとしてあげよう。


「んぅ……ユウリ?あ、姉さんもいたんだ。おはよう」


「いたんだ、じゃなくて!いくらなんでもあそこまで拒否すること無くない?本当に寂しかったんだから」


「たった数時間でしょ?姉さんってば子供なんだから」


 僕だけでなく、妹からも子ども扱いされてしまったアカリさんは何も言い返せない。まぁアカリさんが口で負けてしまうのはいつもの事なんだけど、そういう時は決まって無言で抱きついてきたり行動で誤魔化そうとするのだ。


「んもぉ!そろそろ起きて準備しないと遅刻しちゃうよ!」


「っと、そうだった。じゃあご飯の支度よろしくね、年上のお姉ちゃん?」


「はいはい分かりましたよ。手のかかる子供たちですね」


「たちって、もしかして私も入ってるの?」


 朝から騒がしくなってしまったけど、やっぱりこの2人には笑っていて欲しい。アイは昨日無理をして平静を装っている節があったけど、今の様子を見る限り引きずってはいなさそうだ。


「それじゃあ卵と牛乳に浸した焼きパンを作るので少しだけ待ってて下さい」


「年々ネーミングセンスが酷くなっていく……まぁユウリが作るものだからおいしいんだけどね」


 この世界にフレンチさんなる人物がいるか分からないので、フレンチトーストなんて名前を付ける訳にもいかない。まぁ今となっては別に料理名の由来を話してしまっても問題は無いんだけど、これはこれで話しのネタになるのでそのままにしておこう。


 名前は笑われつつもちゃんと美味しい料理なので、2人も喜んでくれている。甘いものを食べて頭に栄養を送った所で、今日も3人揃って元気に出勤だ。

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