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冒険の始まり

 この世界で初めての戦闘が発生する前に、俺が何故あの3人を選んだのかを説明しておこうと思う。


 まずは男の戦士についてだ。これは俺の中で絶対に仲間にしておきたいと思う職業であり、そして性別も男である事が望ましかった。


 戦士という職業は、基本的に力と体力に優れているというのは言うまでも無いと思う。勇者である俺は全体的にバランスの良いステータスになっているが、打たれ強さという面で見れば突出している訳では無い。最終的には専用装備が手に入って硬くなるのだろうが、それまでは信用して良い能力では無いだろう。その為前衛を任せられる人物というのは絶対に必要だった。


 それともう一つ、精神的な安心が欲しかったのだ。いくらゲームの世界とは言え、この世界に転生した以上実際に戦うのは俺自身だ。しっかりレベルを上げればドラゴンに踏み潰されても即死しない可能性もあるとは言え、その際の苦痛がどの程度のものになるのか計り知れない。


 つまり俺がビビって前で戦えなくなってしまったら戦線が崩壊してしまうのだ。そうならない為にも、絶対に物理的にも精神的にも前で支えてくれる人物が欲しかった。


 ちなみに男である必要だがこれはステータス云々の話ではなく、単純に4人パーティになる可能性を考えて、男女比が半々になるようにしたかったからだ。その為他の職業で男を雇い女戦士を迎えるという選択肢もあったが、先程の理由にもあった通り精神的な支えとして同性が一緒に前で戦ってくれていた方が安心出来る。


 次に女魔法使いだが、これも戦士と同様に必須要素だった。前衛が戦いづらい様な物理的に硬かったり、中々近づけない敵に対して攻撃を通せる職業である事は言うまでも無い。そして何より、折角この世界に来たんだから色々な魔法を見てみたいというのもある。勇者である俺も恐らく色々な魔法を使えるようになるだろうが、魔法使いが覚えるものとは別種になる可能性が高い。


 そして最後の女盗賊についてだが、正直な話しここは女僧侶との選択で非常に悩んだ。回復役がいるというのは非常に安心出来るのだが、それ以上に不安な事もあった。それは最初の戦士を選んだ理由にも重なるのだが、俺がちゃんと戦えるのか不安だったという事にあった。


 精神的にどうのこうのと言った話では無く、単純にこの世界で俺がちゃんと戦いの動きについていけるのか自信が無かった。前世で普通に生きてきた俺は、学校の部活動以上の運動なんてほとんどしていない。この世界の俺の身体がどうなのか知らないが、飛んでいる敵に対してジャンプして攻撃を当てるとか、そういう事が出来ない可能性がある。


 かと言って他に武闘家の様に戦闘のみに重点を置いた人材をパーティに入れてしまうと、俺が戦闘に慣れて戦えるようになった時にバランスが悪くなってしまう。俺が戦闘に慣れるまでは一緒に戦ってもらい、その後もダンジョンでなどで活躍の場がある盗賊が最も条件に合っていると考えたのだ。


 回復役がいないという事態に関しては、俺はゲームの知識で何とかしようと思っている。大抵のRPGは、序盤の内は薬草のやりくりだけでどうにか出来る様になっているのだ。そしてこの世界の事を知っている俺は、魔法使いに上級職があるという事も知っている。その上級職に辿り着く事が出来てしまえば、回復呪文に関しても心配が無くなると踏んだのだ。


 と、パーティに関する説明はこんな所だろうか。まだこの世界での初戦闘は起きていない為、俺の考えがどの程度正しかったのかを証明するのはもう少しだけ後になりそうだった。


 国を出てからしばらく歩いていて、改めて感じた事があった。当然の事かもしれないが、あとどれぐらい歩けば村まで辿り着けるのか見当がつかないという事だ。


 ゲームとしてプレイしていたこの世界は、簡単に言えばマス目で管理された世界だった。しかし現実のものとなったこの世界は当然北へ何歩、西へ何歩進めば次の村に辿り着くなんて事は分からない。もっと言えば険しい森や山を超えた先に村があった場合、実際にその道を踏破しなければならないのだ。俺は異世界を甘く見ていた事をここに来てようやく実感していた。


「魔物だ!遂に現れたぞ!」


 そんな小さな絶望がひっそりと心の中で芽生え始めた時、ああああの声によって魔物が現れた事に気付く。しかし俺には魔物がどこかから近づいてきた事には気付かなかった。まるで何もない場所から突然現れた様にさえ思えた。


 肝心の魔物は、初めての戦闘にしてはかなりの数が居た。お馴染みの青いプルプルしたゼリー状の物体と、大きな黒いカラスがそれぞれ3匹ずついるのだ。初戦闘にも関わらず、こちらよりも多い数と戦わなければならないというのはかなり怖い。


「指示をくれ!」


 ああああの叫び声によって俺は呆けていた事に気付いた。そこから先の事はあまり覚えておらず、ただただ必死に戦った。幸いな事にこんな時でもゲームの知識が役に立ち、心とは裏腹に頭は冷静だった様で素早く仲間に指示を出していた。もちろん声は出していないのだが、仲間は勝手に俺の意思を読み取ってくれている。


 鉄則は厄介な敵を先に倒す事、それが出来なければ数を減らす事だ。カラスの方が体力が高く力も強い事は分かっているが、呪文による攻撃ならばほぼ一撃で倒せる。魔法使いには初級火炎呪文でカラスを攻撃してもらい、俺と盗賊で青い物体を一匹ずつ確実に仕留め、戦士にはカラスに攻撃しながら敵の攻撃を引き付けてもらっていた。


「これで終わりよ!」


 最後に残ったカラスをぁぃの呪文で倒し、初めての戦闘を終えた。終わってみればこちらの被害はああああが多少のダメージを受けただけだった。俺は自室を物色して手に入れていた薬草をああああに手渡す。


「ありがとうよ。良い指示だったぜ!」


「本当ですね。ほとんど被害も無く初戦闘を終えられたのは、間違いなく勇者様のおかげです」


「動きも悪くなかったんじゃないかい?これなら他の魔物が出てきても問題無さそうだね」


 皆が口々に俺の事を褒める為少し照れてしまうが、実際に自分でも思っていた以上に上手く戦えたと思う。攻撃は外すこと無く当てる事も出来たし、戦いながらの指示も出来ていた。何よりあれだけ激しく戦っていた筈なのに、身体の疲れはほとんど無かったのだ。


 おそらくこれがこの世界の身体なのだろう。ゲームによってはキャラクターの疲労度が戦闘に影響したりもするが、この世界ではそういう事が無い様に作られている。全てはこの世界を作った精霊様の加護というやつだろうと、攻略本に書かれていた設定資料の一部を思い出す。


 となれば実際の疲労なんかは度外視してでも、この世界でのステータスが重要になってくる。俺は改めてメニューを表示し全員のステータスを確認すると、魔法使いの魔力が尽きかけている事に気付く。呪文が使えない魔法使い程弱い存在も無いため、魔力を回復出来るまでなるべく危険は避けなければならない。今後は敵の数によっては逃げるという選択肢も必要になりそうだ。


 しかしその心配を他所に、その後の戦闘はそこまで苦労するような事は無かった。現れた魔物もあの青い物体ばかりで、呪文を使う事も無く3人で簡単に倒すことが出来た。


 こまめにステータスを確認し、全員が1つずつレベルを上げる事が出来た所で、ようやく次の村に辿り着いた。ひとまず無事にここまで来れたということもあり、今日は宿をとって休む事にする。


「今日一日旅をしたが、何だか俺達上手くやっていけそうだな!」


「そうですね。私もそう思ってました」


「あたしも同意見だ。早くダンジョンにも潜りたいねぇ」


 皆の結束力が高まってくれたのが今日の一番の成果と言って良いだろう。それ程までにたった数度の戦闘で意気投合する事が出来た。共に死線を乗り越えたという程でも無いのだが、やはり互いにレベルが低く戦闘経験も少ないためどこかに不安があったのだ。


「明日の行き先はもう決まってるんですか?」


 ぁぃの言葉で全員の顔が俺の方に向く。当然決まっているのだが、一体どうやって伝えれば良いのか考えていると、何故か勝手に全員が納得したように声を上げた。


「へぇ。そんな場所があるんだな」


「勇者様は物知りなんですね」


「あたしは知ってたけどね。でもあそこに行くには鍵が必要だって聞いたけど、それはどうするんだい?」


 どうやら俺が伝えようと思ったことは勝手に仲間に伝わるらしい。まぁ戦闘中もそれで指示を出していた為今更ではある。


「あの塔に?でもどうやって……」


「そんな所に入り口が?それはあたしも知らなかったね」


「ならまずはそこに行くって事で決まりだな。明日に備えてさっさと寝ようぜ」


 そういうとああああは鎧を脱ぎ捨ててさっさとベッドに潜り込んでしまう。今更ながら全員同じ部屋に泊まっており、男女別に部屋を取るなんて事はしていない。多少気にしつつ俺も服を脱ぎベッドに入ると、いとぁぃも男が居るにも関わらず普通に服を脱いでいた。


 今後も一緒に冒険する仲間であり、いちいち気にしていられない場面というのも出てくるだろう。或いはこの世界には羞恥心というのが無いのかもしれない。なんて事を考えていると、いが音も立てずにこっそりと俺の傍まで近づいてきていた。


「勇者様は平気だと思うけど一応言っておくよ。仲間でも見せるのは下着まで、そこから先は別料金だ」


 お金を払えば見せてもらえるとかそういう事では無く、これは盗賊流の冗談なのだろう。つまり仲間でも無い人には当たり前だが下着だって見せないし、見られて平気な文化という事でもないのだ。


「ま、あたしは勇者様相手なら別に良いとは思ってるけどね。旅の途中でそういう気が起きたら気軽に呼んでくれて構わないよ」


 そこまで信用してもらえてると、逆に手を出しにくくなってしまう。それを見越した上での発言だったとするならいという女性は大した人物だ。変なことは考えないようにして、さっさと眠りに付くことにしよう。

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