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解析完了

 とりあえず2人で晩御飯を食べ、一服した所で僕は書き換えた魔法式をアカリさんに見せてみる。その反応は予想通りあっさりしたものだった。


「あれ?変えた部分ってこれだけ?」


「そうです。多分これで僕にも効くと思います」


 僕が書き換えた内容は展開される防壁の魔法に対する強度の上限を引き上げ、そして念のために強化魔法の使用禁止だ。強化魔法についてはあくまで念のためなので、本質としては前者の部分だけが重要になる。


「一応僕が書き換えちゃった部分も含めて、変なところとか誤作動を起こしそうな所が無いか見てもらいたいんですけど」


「あたしもアイ程詳しくないけど、これくらいなら問題ない筈だよ。早速使ってみるね」


 アカリさんが僕の魔法式に目を通し、その魔法を発現させる。すると僕の目に映るアカリさんはみるみるうちに姿を変え、アカリさんとは思えない程全くの別人に変化していた。ロリ体型に羽まで生やしたその姿は、天使というよりは小悪魔とか吸血鬼を思わせた。


「ユウリの反応を見るに、成功したみたいだね。視線がめっちゃ下に向いてるけど、どう見えてるの?」


「あぁ、声まで可愛い!今のアカリさん、滅茶苦茶可愛いロリロリの吸血鬼っ子になってます!」


「そ、そう……もしかして生成パターンが少し崩れた?まぁそれは置いておくとして、結局何が原因だったの?」


「本質的な部分はやっぱり防壁の強度に関する記述でした。アカリさんの魔力と強化魔法の倍率を掛けた数値が、単純に僕の魔力量を下回っていたんです。なので事故を防止する為のリミッターが僕に対しても働いてしまって、偽装の効果が中途半端だったんです」


 説明しながら今度は防壁の強度をギリギリ僕の魔力量を下回る数値に書き換えたものをアカリさんに渡す。改めてその偽装魔法を使ってもらうと、やっぱり僕にはただアカリさんが早着替えしただけに見えた。


「まさかそんな理由だったとは……ってことは式の問題じゃなくて、単純にユウリが規格外だっただけって事ね」


「そういう事になりますね。もしかしたら僕が著しく魔力を消耗すれば、偽装魔法の効果が出るかもしれませんけど」


「それ何となく真の実力者には小細工が通用しない、みたいな感じで格好良くない?」


「分かります。一定の実力に達していない者は力を封じられる、みたいなのも良いですよね」


「分かる!」


 ついつい僕の男の子の部分が出てしまったけど、アカリさんにもそういう話しが通じるみたいで良かった。折角謎を解明したというのにその事で盛り上がってしまい、僕はアイに報告するのを忘れてしまっていた。


「それにしても、ユウリにも意外と子供っぽい所があって良かったよ」


「年齢は関係ないですよ。何かを格好いいと思うのに大人も子供も関係ありません。大人は現実を知って、憧れるのが難しくなるだけなんです」


「いや、急に大人っぽいこと言われても……それとアイからもメッセージ来たよ。本当に解明されるとは思ってなかったみたいですごい悔しがってる。しかもユウリの検査もしてその特異性を知ってただけに、そこに思い至れなかったのが効いてるみたい」


「普段から慣れ親しんでるから、逆に常識に囚われてしまったりっていう事があって、違う視点で見ることが難しく……」


「はいはい、大人大人。ここはどんなもんだいって言っておけば良いんだよ。アイだってたまには悔しがった方が成長するんだから」


 僕は報告を忘れていたけどアカリさんはしっかり連絡していたみたいだ。後で僕もメッセージを送っておこう。


 という事で魔法式の解析が終わり、午後の実技もほとんど無くなってしまった事で、本格的にやることが無くなってしまう。そこで僕は1人でちょっと出かけてみる事にした。


 出かけ先は以前アカリさんと一緒に行ったショッピングモール。実は僕も入学してから一月半が経った事で、初めて国からの補助金が振り込まれていた。今回は懐事情も悪くないので、何かしら買い物をしたいと考えている。


 補助金の額はそこまで多く無いとは言っても、子供が手にするには充分過ぎる程ある。多分大学生が空いた時間を利用して少しバイトするのと同じぐらいだ。それが毎月僕と両親の口座に振り込まれるのだからとても有り難い。しかも学費も掛かっていないのでとてつもない高待遇だ。


「1度に全部揃えるのは流石に難しいからなぁ……必要なものからちょっとずつ買っていこう」


 とりあえず今欲しいものとして、座り心地の良い椅子やパソコンの周辺機器があった。今後は学校に居る時間が更に減る事が予想されるし、その分寮での時間が増える。その時間を快適にする為のアイテムが欲しいという訳だ。


 他にも調理器具だったり部屋の間接照明だったり、女の子なのでおしゃれアイテムだって欲しい。でも調理器具に関してはアカリさんと2人で使うものなので相談したいし、おしゃれもまだそこまで気にする必要はないと思っている。


「通販だと使い心地が分かんないから、実際に見てみないとね」


 とりあえず衝動買いはせず、気になったものを頭に入れておいて店内を見て回る。流石にこの世界の機械はかなり技術が進歩しているので、元の世界からは考えられない性能のものが格安で売っていた。


 ちなみにこの世界にもゲームやアニメは存在しているので、それを趣味にする事も少しだけ考えている。少しだけというのは折角の異世界なので、そっちを楽しみたいからだ。この世界でゲームにハマったら、多分快適過ぎて抜け出せなくなってしまう。


 というか今の時点で、単位取得済みの大学生並に時間が余りそうなのだ。そんな時にゲームをやりだしてしまったら、僕は異世界の住人では無くネットの住人になってしまう。


 そんな事を考えながら店内を見て回っていたら、結構時間が経ってしまっていた。結局候補だけ絞って今日は何も買わずに帰る。


「おかえり。どっか出かけてたの?」


「補助金が入ったので寮で使う椅子を見に行ってきました。決められなかったのでまだ買ってないですけど」


「結構いい値段するんじゃない?大丈夫?」


「大丈夫です。毎月半分以上は残す様にするので」


「偉いね。ここってほら、親の目も無いし自分のお金だからいきなり散財しちゃう人も多いんだよね。まぁ将来を約束されてるみたいなものだけど、若いうちからそういうのは良くないよね」


 貰っている内の半分を使うとなれば子供にしては結構な額だけど、その辺りはアカリさんも特待生だけあって金銭感覚が少し違った。ただ額がどうのという以上に、ちゃんと残しておくという心構えがあれば良いという感じなんだと思う。


「次の休み、また一緒に行かない?」


「いいですよ。それなら今度は僕も偽装魔法を使ってみようかな」


「良いね。2人で正体を隠してお忍びデートだ」


 あれから僕は、自分用に偽装魔法の数値を変えて使えるようにしていた。ただわざわざ使う場面が無かったので、この機会に練習しておこうと思う。


 それに偽装魔法は指定した姿に変更することも出来る。見た目を大人っぽくしておけば、ちょっと高い買い物をしても怪しまれない筈だ。


「というかユウリ、さらっと式を書き換えてたけどそんなの学校で習わないよね?」


「アカリさんだって出来ますよね?」


「いやそうだけど……まぁいっか。学校にバレたら高確率で魔法開発研究所に連絡がいくよ」


 その言葉に少しだけドキッとする。別に悪いことをしている訳では無いけど、学校だけでなくもっと上の所でも話題になってしまうのは、流石に目立ち過ぎな気がした。引き抜かれでもしたら、アイの様にニュースになってしまうかもしれない。


「連絡がいくと、やっぱり引き抜かれますか?」


「たぶんね……いやでもどうだろう。ただでさえアイの引き抜きは結構強引だったらしいから、少なくともいきなりは無いんじゃないかな?どっちにしろこれ以上目立つのもあれだし、隠しておいた方が良いと思う。何か新しい魔法を使う事があれば、あたしに教えてもらったって言って良いよ」


「それだと、やっぱりアカリさんの舎弟だったとか言われて目立つじゃないですか。自分で調べたって言いますし、反射魔法以外に新しい魔法は必要無いですよ。今のところは」


 色々と魔法を使う機会というのも、今のところは戦闘訓練以外に無い。その戦闘訓練も皆学校で習う魔法だけで戦っているわけで、これ以上色々使えるようになってしまうと僕だけが有利になってしまう。


 皆も新しい魔法を覚えれば良いんだろうけど、僕は時間が有り余っているからそんな余裕があるのだ。ユウリは有利を捨てるのです、なんちって。


「言うねぇ。次も1抜け?」


「勿論狙います。多分先生方もそのつもりで予定を組んでるんじゃないですか?」


「まぁそうじゃないと毎回大変だもんね」


 もし本当にその予定を組んでいるのだとしたら、僕としても頑張らないとその予定を狂わせてしまう。先生にもどこまで行くのか話題になっていると直接言われたし、皆が僕に注目しているのは間違いない。


 次のクラスでの戦闘は多人数戦という事になるけど、僕に対して魔法の制限は無い。制限が無ければ数人程度まとめて相手にしても勝てるだけの自信があった。


 そして週明け、やっぱり僕はいの一番に指名されて対戦を組まれた。ここまでは予想通りだったけど、その対戦相手は予想外だった。


「あれ、対戦相手ってカオリさんですか?」


「私もあの後すぐに上がったのよ。それに今回は形式上、あなたの相手はもう一人いるわ」


「どうもートウコです。姉が下でお世話になりました。今回は2対1ですけど手加減はしませんからね」


「よろしくお願いします。姉がって事はお二人は姉妹なんですね」


 妹だと言うトウコさんはカオリさんに比べて少しのんびりした雰囲気だけど、それは雰囲気だけの話しだ。実際にはカオリさんよりも先に上のクラスに来ている事だし、実力的にはカオリさん以上と見たほうが良い。


 それにしてもこの2人と言い、アカリさんとアイの2人と言い、同じ家系から何人も特待生が出るのは凄い。統計では血筋と魔法の才能に相互関係は無いというデータを見たけど、ハルトもカオリさん達とは親戚らしいし、ここだけ見るとその統計のほうが誤りなんじゃないかとさえ思えてしまう。


「一応今回の説明だ。まず初めに2人を相手にしてもらい、次に3人、4人と対戦相手を増やしていく。ここでの重要項目は不利な状況での対応力、そして連戦した時の持久力や集中力といった部分を見る。勝敗に関係なく、内容で判断させてもらう」


「分かりました」


「まぁ流石に今回は勝てると思わない方が良いよー。ここは順調に上がってきた人の鼻っ柱を折るっていう、先生方の意地の悪い考えが」


「トウコ!先生の前でそんな事言わないの!」


「ははは。まぁ昔の考えが残っているのは事実だから否定は出来んな。昔の話って言うと、開校当初はここが1番上のクラスだったんだ。そこから更に才能が有るやつが出てきた事で、もう一つ上が出来たっていうだけなんだ。ここまで来れば本来は合格と言って良いレベルなんだよ」


 ということは、ハルトも本当にトップレベルの才能を持っているという事になる。それにハルト以外にも数名程いたけど、その人達を弱いと言ってのけるアカリさんの真の実力が気になってしまう。というか僕はそんな人達に対して、見学の時に強くなさそうと言ってしまったのか。 


 まぁその実力の程は来週拝ませてもらうことにして、そのためにもここでしっかり戦って見せなければならない。勝敗は関係ないと言ってはいるけど、勝てば問答無用で合格になるはずだ。

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