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順調

 僕の異世界生活を見ている神様達はもしかしたら、何となく今後の展開について予測が付いているかもしれない。直近のイベントとして週明けに2回目のテストを受けることになっているけど、どうせそれも合格してまともに授業には出ないんだろうと、殆どの神様はそう予測している事だろう。


 僕が逆の立場だったとしてもそう予測する。これだけ優秀さをアピールしておきながら、テストに失敗する理由が見当たらないからだ。この流れで失敗する展開があるとしたら、学校側に何か仕組まれたか、事件に巻き込まれてそもそもテストを受けられないとか、そういった理由に限られてくる。


「凄いねユウリ。また受かったんだ」


「はい。これでアカリさんにも追いつきました」


 結果から言うと、僕はあの後3回テストを受けてその全てに合格していた。そして今言った通り、アカリさんが現在受けている授業と同じレベルにまで辿り着いたのだ。


 あと4回程テストを受け、残りも全て合格すればこの学校で受けるべき座学の授業は全て免除される。でも僕はそこまでしようとは思っていなかった。流石にこれ以上を独学で勉強するのは難しいし、今後はアカリさんと一緒に授業を受けることが出来るのだから、わざわざそんな事をする必要性を感じられない。


「後は実技だけですね」


「待ってるよ。早く来てね」


 実技の中でも、特に戦闘訓練に関してはそう簡単に上のクラスに進むことは出来ない。というのも戦闘訓練の成績は、勝敗以上に内容で決められる部分が大きいからだ。


 例え訓練相手に勝ったとしても、戦闘の内容が評価されなければ上には進めないという事もある。逆を言えば下のクラスである間は、戦闘に勝てずとも上のクラスに行く事もある。


 その一方で、戦闘訓練以外の実技は既に天井が見える所まで来ていた。これらに関しては誰かと競い合う訳では無いので、僕が結果を出せば出すほど勝手に評価されていく。


 当然ながら学校で僕は相当噂になっている。ただでさえ注目されていた身でありながら、入学からわずか1ヶ月でこれ程の結果を出しているのだ。


 普通科目は全て免除、魔法系の座学も履修課程の7割程はテストを合格した事でスキップしていて、戦闘訓練以外の実技も学校で上から数えた方が早いという成績だ。全てにおいてトップという訳では無いので、チート系異世界転生には劣るかもしれないけど十分すぎる程だ。


 翌週、僕たちが教室に入った事で授業中は異様な雰囲気に包まれていた。僕とアカリさんは教室ではそれぞれ両端の席に座り離れた場所で授業を受けていた。


「いつまでこの関係続けます?」


「出来ればこのままにしておいて欲しい。あたしが特別仲の良い人を作らないのも、護衛任務の為だから」


 学校にお偉いさんが来た時は、アカリさんが護衛を担当する事が多いらしい。その際には偽装魔法を使っているけど、万が一正体がバレてしまった時にアカリさんの知人が狙われてしまう可能性が出てくる。


 そうした脅迫や交渉にアカリさんが屈しないという事は、あの事件で既に分かっている。自分のせいで誰かを巻き込まない為に、アカリさんは誰にも近づかない様にしていた。


 僕もこれまで昼食時に同じ席に座っている所は目撃されてきたけど、それ以外の時に一緒に居る所を見られた事は無かった。登下校も別々だし、寮では同室という事を知っているのも、エイミさんを含めた一部の先生だけだ。


「そういえば偽装魔法を使えるのに、何で事件の時はアカリさんが護衛に付いていたってハルトさん達が知ってるんですか?」


 昼食時に携帯端末でアカリさんにメッセージを送る。この関係を続けるのは良いけど、好きに話が出来ないというのは少し不便だ。それでもアカリさんはすぐに返信してくれるので、特に問題という程ではない。


「この魔法は事件後にアイが新たに作ったものだから、当時はまだ無かったの。そうだ、この魔法の事でアイから頼まれてた事があったんだ。今日帰ってから説明するね」


 偽装魔法についてアイさんからメッセージが来ているというのは、多分僕にその魔法が効かない原因についてだろう。その内容は非常に気になるけど、とりあえずは午後の実技に集中しなくてはいけない。


 今日の午後の予定は戦闘訓練だった。戦闘訓練は上のクラスに行くほど戦闘の内容が過酷になっていく。最初の頃は魔法を撃ち合う事が出来れば合格といったレベルだったのが、今は戦闘内容だけで無く勝利が必須という段階まで来ている。


「よろしくお願いします」


「こちらこそ、お手柔らかに頼むよ」


 僕が戦闘訓練棟に行くといきなり対戦を組まれた。この世界でまともな戦闘をするのはこれが初めてだけど、僕としては特に問題無い。


 戦闘中は先生が保護魔法を掛けてくれているので怪我をする事は無いけど、痛みや熱などはちゃんと感じる様になっている。


「噂通り遠距離一辺倒なんだね」


「この身体ですから、接近戦をすれば不利なのは目に見えてるので」


「それがいつまでも通用する程甘くないよ!」


 僕はこれまで、有り余る魔力とそれを全て完璧に制御しきる集中力を武器に、いわゆる固定砲台になって一方的に遠距離からの魔法でゴリ押してきた。その噂も、というか僕の一挙手一投足はすぐ噂になるので、この戦法は誰しもが知っている。


 その戦法を知らていながら、対処できる人は居なかった。それでも流石にここまで来ると皆それなりの実力を備えていて、僕の魔法をしっかり躱すなり防ぐなりして接近してきた。


「貰った!」


「僕が接近戦の対策をしてないとでも?」


 僕の魔法を全て躱し手が届くという所まで近づいてきた所で、今まで見せていなかった魔法を発現させる。それは別に攻撃を目的とした訳では無い、ただ暴風を起こすだけの魔法だ。


 その暴風は僕を中心に吹き荒れる。対戦相手は暴風に吹き飛ばされないように耐えているけど、僕は全く耐えるつもりは無かった。


「これでまた距離が開きましたね」


 僕は暴風に身を任せて吹き飛ばされながら、空中で器用に体勢を整え軽やかに着地する。そこからは再び僕が一方的に魔法を撃ち続け、次第に消耗していく相手はついに魔法に直撃した。


「そこまで!ユウリの勝ちだ!」


 こうして僕は難なくこのクラスも勝ち上がっていく。対戦相手が変わり暴風の対策をされても、違う魔法を使って距離を取りつつやはり遠距離戦で圧倒する。そんな僕に真っ向から遠距離戦を挑んできた人もいたけど、そもそも勝負にすらならなかった。


「次からは上のクラスに行け。ただ、ここからはその戦い方だけでは厳しいぞ」


 ここから上のクラスでは、試験の対象者だけが一部の魔法を制限されたり、或いは1対多での戦闘を強いられたりと、不利な条件で戦わされる事になる。アカリさんが居るレベルでは1対多且つ、対象者は強化魔法もしくは遠距離の魔法攻撃を禁止された状況で戦うという過酷さだ。


 当然そこまで行くと負ける事がほとんどなので、勝敗は審査基準に無い。ただそこでも勝ってしまうのがアカリさんなのだそうだ。


「分かりました。僕もその事は理解しているので、対策は考えておきます」


「それは楽しみだな。ユウリがどこまで快進撃を続けるか、俺達の間でも話題になっているんだ」


「そうですか」


 僕としてはそうですかとしか言い様が無い。ただそれよりも気になるのが、本来1度の授業で上のクラスに行くというのは異例の出来事だ。恐らくその話題の中で、僕をいつまでも下のクラスに置いておく事は良くないというような話題が出たんだと思う。


 皆が備え付けのシャワールームを使っている中、僕はそそくさと建物を出ていく。別に他人と一緒にシャワーを使うのが恥ずかしいとかではなく、汗を搔いていないからだ。汗を搔いて無くてもシャワーを浴びれば気持ちいいけど、今日は早く帰ってアカリさんに話しを聞きたかった。


「……まだ帰ってないか。少し急ぎすぎたかな」


 はやる気持ちを抑えて僕は自分の端末を確認し、アイからメッセージが来ていない事を確認する。もしかしたら僕が見落としているのでは無いかと思ったけど、どうやらアカリさんにしか件の話は伝えていないみたいだ。


「ちょっと暇になっちゃったな。この時間に帰って来ないならもう少しかかるだろうし、トレーニングルームにでも行ってようかな」


 僕は新しく買ったトレーニングウェアに着替えて部屋を出ていく。ここは午前よりも午後の方が利用者が多いみたいで、前回来た時よりも人が多かった。


 いつも通り魔力の負荷を高く設定してマシーンを使いながら、今日は試しに自己強化の魔法を掛けながらトレーニングをしてみた。今後の戦闘訓練で必要になってくるからこそ、今のうちに慣れておこうと思ったのだ。


「全然問題無いな。物理的な負荷も少し上げてみよう」


 自己強化を使った事でマシンが軽くなりすぎたので、少しずつ負荷を上げながら試していく。マシンの負荷を上げ、自己強化を強め、また負荷を上げるという事を数回繰り返した。その途中で急に視線が集まった事で、いつの間にか結構時間が経っている事に気付き、僕は慌ててトレーニングを辞めた。


「すみません、マシンを独占してしまいました」


「あ、いや、それは平気なんだけど……」


 ずっと1つのマシンを使い続けるのはマナー違反だ。それにそろそろアカリさんも帰っているだろうし、丁度良いのでこの辺りでトレーニングを止めて部屋に戻るとしよう。


「行ったか……おい、どこまで負荷を上げてた?」


「10段階の7だ。見た感じまだ余裕そうだったし、最大までいけたんじゃないか?」


「マジかよ。両方最大負荷って、ハイロードレベルだぞ」


 知らぬ間にまた噂のネタを提供してしまっていたけど、それに気付くのはもう少し後の事になる。部屋に戻ると予想通りアカリさんが帰ってきていたので早速話しを聞いた。


「その前に見て欲しいものがあるんだ。これなんだけど、分かる?」


 アカリさんは机の上に紙を広げた。ほとんど機械端末で情報のやり取りが行われる世界で、紙に何かを書くというのは非常に珍しい。


「魔法式ですね。もしかして偽装魔法の?」


「そう。アイは式に何か欠陥があったんじゃないかって考えたみたいなんだけど、結局原因は分からなかった。そこで直接本人にも式を見てもらおうって話になったの」


「それなら僕に直接メッセージで送ってくれれば……」


「魔法式の詳細なんて機密の塊、そんな簡単にやり取り出来ないよ。あたしは式の詳細を知ってるからわざわざ書き起こしたの」


 僕は紙に書かれた魔法式を必死に読み取ろうとするけど、魔法式は図形と公式が複雑に絡んだ魔法陣になっているため簡単には読み取れない。魔法を使うにはこの式を暗記して記載された通りに魔力を操作するか、機械に記憶させてそこに魔力を流すという手法が一般的だ。


 暗記すると言っても、学校で習うような魔法式にそこまで難しいものは無い。簡単な魔法式であれば、掛け算の暗記と大差無い程度のものもある。


 ただ当然偽装魔法なんてものは自分や他者、そして環境に対してまで影響を及ぼすので式の内容は難解だ。アカリさんとアイはこれを暗記しているからこそ、機械の補助も無く使うことが出来ているのだ。


「分かりました。僕も勉強中の身なので解読するのも難しいですけど、頑張って調べてみます」


「ありがとう。でも学業に影響が出ない程度にね」


 それから僕は日課の様に魔法式とにらめっこをする日々が続いた。その影響か魔法式の理解度が上がっていくのを自覚し始め、いずれはオリジナルの魔法を開発したいという想いも芽生えてきている。


 でもそれを理由にアイと同じ職場を目指すかと言うと別問題だ。あくまで僕はこの異世界転生において、自分の役割を全うする事を優先しなくてはいけない。その結果として魔法の開発が出来れば良し、そうでなければ趣味の範囲に収まる程度にしておこう。

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