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過密スケジュール

 休みの間に専用端末を確認すると、エイミさんから今後の僕の授業スケジュールについて連絡が来ていた。ついに僕も特待生らしい授業が組まれるのかと思いながら確認する。


「……あれ?何かすごく大変そうだこれ」


「どしたの?あぁ、スケジュール来たんだってなにこれ?いやでもユウリの才能を考えたら、そういう事もあるのか……」


 普通は特定の才能を伸ばすために、普通科目等の必修項目を除いた残りの授業は数を絞り、集中的に行われる事になる。アカリさんは現在大部分の時間を戦闘訓練に割り当てられているし、アイも学生の時は魔法開発やそれに関わる実技の授業がメインだったと言っていた。


 でも僕は何個かに絞るなんてことは無く、全ての特別授業が満遍なくスケジュールに組み込まれていた。普通科目が免除されているという事、全ての才能があるという事で1つに絞らずに全てを伸ばしていこうという事なのだろう。


「……頑張って!ユウリならきっと大丈夫だよ!」


「まぁ出来る限り頑張りますけど……付いていけるかな……」


「あ、むしろ脱落したほうが良いんじゃない?先生もそのつもりで、ユウリが一番向いてそうなのを選別するんだと思うよ」


 そういう事ならこのスケジュールも納得できる。才能と本人のやる気や理解度は違うとアカリさんも言っていたし、無理に全部を頑張る必要は無いのかもしれない。自分が出来ること、やりたいことを極めていければそれが才能という事になるのだ。


 ただその意図を最初から僕に伝えてしまっては、授業にやる気が備わらなくなってしまう。あくまでも頑張ってもらった上で、出来る事と出来ない事を判断していくという事だ。


 休み明け、初日からびっしりスケジュールが詰まっているので、朝一で登校して目的の教室で待機する。その間も用意されたテキストをしっかりと読み込んでいた。僕に同期がいない中で他の生徒がいる授業に混ざるということは、最低でも1年以上先輩の人たちと一緒に授業を受けるという事だ。僕は実質1年の遅れがあるので付いていけるようにしなければならない。


 続々と他の生徒達も教室に入ってくるけど、皆僕に近づこうとはしなかった。まぁ今は勉強の邪魔になってしまうので有り難いと思うことにする。


 そして午前中の授業を全て終えた感想は、超余裕だった。アイが勉強を見てくれた範囲は魔法式だけだった筈なのに、随所に他の科目にも通じる話しがされていたというのも大きい。


「どうしよっかな。この感じだと、あまり午前中に授業を受ける意味が……」


 いつもの席で昼食を食べながら今後の事について考える。出席日数が成績に関係ない以上、既に理解できている範囲の授業に出る必要は無い。とは言ってもそれはまだ初歩の段階だからであって、もしかするとどこかで急につまずく可能性もある。そうなった時に授業に出ていないと、どこで理解が追いつかなかったのかが分からなくなってしまう。


 食事しながら僕がうんうん唸っていると、いつも通りアカリさんが無言で向かいの席に座って、昼食を食べ始めていた。こういう時は先輩に聞いてみるのが一番だと思い、携帯端末でアカリさんにメッセージを送る。


 アカリさんは食事をしながらも端末のメッセージを確認してくれて、すぐに返信してくれた。そこに書かれていた内容は至極簡潔なものだった。


「エイミさんに言って、再テストしてもらうと良いよ!詳しくは学習要項に書いてあるよ!」


 僕はすぐに学習要項を検索して、そこに書かれている内容を読んだ。どうやら自己学習を強く推奨している特待生は、各科目毎に追加でテストを受ける事が出来るらしい。勿論合格すればその科目については、今後免除されるという事になる。


「免除って普通科目以外も適用されたんだ。まぁそれもそうか。でも実技に関しては基本的に免除は無いと、なるほどね」


 普通の学校から転入してくる際には、魔法の知識なんてあまり持っていない事がほとんどだ。だから転入時のテストは普通科目しかやらないけど、その後は勝手に勉強して知識を身に着けてしまっても良いということだ。実技に関しては危険が伴うため、免除される事は無いというのも納得だ。


「頑張って」


 アカリさんは食器を片付け、席を立つ時に小声で応援してくれた。失礼かもしれないけど、何かすごく可愛いな。まぁそれはさておいて、午後の授業も頑張っていくとしよう。


 午後からは生物学、薬学、そして戦闘訓練という順番で授業があった。勿論ただの生物学薬学では無く、頭に魔法という言葉が付くものなので以前の世界の常識は通用しない。


 かと思いきや全てが違うという事も無く、やっぱり基礎の部分は普通の科学知識なんかと大差無かった。という事でこの辺りもさほど苦戦する事もなさそうだった。


 となると残りは戦闘訓練だ。まだ魔法訓練室でしかまともに魔法を使った事がないので、今日の授業の中で唯一不安に満ちた時間になる。


 戦闘訓練棟に行っても当然そこにアカリさんはいない。転入してきたばかりの者が集まる授業に、アカリさん程の実力者が一緒になって授業を受ける訳がないからだ。つまりここにいる生徒たちは皆、僕と大差ないレベルの実力という事になる。


 だと言うのに、僕が建物に入った瞬間に生徒たちがざわめき出した。表情を見るに、何であいつが同じ授業を受けるんだと言いたそうだ。魔法訓練の時の事や、アカリさんと一緒に居るというだけで勝手に恐怖の対象にされてしまっている。


「お前達静かにしろ。いかなる時も冷静に、初日にそう教えただろ?」


 入ってきた先生は僕が最初に魔法訓練の教室に行った時の、あの体育会系っぽい先生だった。複数の授業を兼任するのも大変だろうと思う反面、一応僕のことを知ってくれている人で良かったとも思う。


 授業はまず体力づくりという事で、簡単な筋トレと広い建物内を走り回る事から始まった。走るのも単純にトラックを周回するのでは無く、建物内の段差等の起伏を使って、より実践的な動きが出来るようにという訓練になっている。


「よし、二人一組を作れ!ユウリは少し見学しておいてくれ」


 一瞬ドキッとしたけど見学で良かった。僕と組んでくれる相手なんていないだろうし、いても多分ろくな奴じゃない。


 見学を言い渡された僕が部屋の隅で授業を眺めていると、二人一組で互いに攻撃魔法と防御魔法の役割を替えてぶつけあっていた。なるほど、こうやって攻撃に対する恐怖と、人を攻撃する恐怖の両方を体験させようと言う訳か。そして当然と言うべきか、皆きちんと魔法を発現させることが出来ていた。


「そこまで!今度はお前達が見学していろ!ユウリ、少し手伝ってくれるか?」


「分かりました」


 即答したはいいけど、僕は一体何を手伝えば良いのだろうか。そう思っていると僕は先生から杖を手渡された。


「その杖には攻撃用の魔法式が入っている。俺が受け手に回るから、ユウリはそれに魔力を込めて魔法を放ってくれ」


 なるほど。僕にも攻撃する感覚を体験させてくれるという事の様だ。過去には魔物や人間とも多く戦っていたので、僕は戦いに関する忌避感はない。でも実際にこの世界で、この身体でどうなるかというのを味わっておけるのは有り難かった。


「魔法訓練の時と同じ感じで良いんですか?」


「あぁ。杖にリミッターが掛かってるから、いくら魔力を注いでも平気だ。むしろ式にとって適切な魔力の量を見極めてくれ」


 そうして僕は先生が向かい立った所で杖に魔力を流し始める。既に何度か体験しているその感覚は、アイから魔法式の成り立ちを教えて貰った事で更にはっきりと理解する事が出来た。


 すると杖の先端から光の矢が発生し、先生に向かって飛んでいく。先生は手に何ももっていないが、目に見えない程の薄く展開された防壁に矢が阻まれた。


「良い魔法だ。発生までのラグがほとんど無いのは、魔力の制御がうまい証拠だ。今度は出来る限り、魔法を連射してみろ」


 ここまでやったことでようやく手伝いの意味が分かった。先生は端から僕が魔法を使いこなせるものとして、皆のお手本にしようというつもりだった。


「連射ですか。魔力を流し続ければいいという訳では無いんですよね?」


「そうだ。魔法式の終わりと始まりを意識して、断続的に魔力を流していくんだ」


「分かりました。いきますよ」


 先生の説明もアイに教えてもらっていた範囲なので、既に理解は出来ている。後は実際に使ってみて身体で覚えるだけだ。


 魔力を流して、魔法を発現させたその一瞬だけ魔力の流れを止める。すぐに魔法式の魔力が空になる感覚がしたため、直後にまた魔力を流す。僕は1回目で2連射に成功した。


「いいぞ。だが俺は出来る限り連射しろと言ったはずだ。それで終わりか?」


 先生は何故か煽るような物言いをしてくるが、まぁ初心者を鼓舞するためのものだろう。ただ僕にとってそれは全くの逆効果だった。


「何となく感覚は掴めたので、次はもっと思い切りやってみて良いですか?」


「あぁ。始めのうちは自分がどこまで出来るのかを知るのも重要だ。思いっきり来い。ちなみに過去の最高記録は15発だ」


 初めての挑戦でそれだけ連射出来れば充分優秀と言っていい数字だ。魔力の制御が難しいだけでなく、単純に消費する魔力も激しくなるため疲労感は凄いだろう。


 とりあえず僕は、その15発を超える事を目標に矢を放ち始める。5発、6発と回数を重ねる毎に魔力制御のコツを掴み始め、更に杖の癖というか、どのタイミングで式の魔力が空になるかという事まで分かる様になってきた。


 そのタイミングを掴むことで飛躍的に連射の速度が上がるのが分かった。音だけ聞いていると最初は単発式の銃を使っていたのが、途中からマシンガンに持ち替えたかの様に変わっている。


「待て待て!もう数え切れん!止めていいぞ!」


「あ!すみません、どこまで早く撃てるか試していたら、楽しくなってきてしまってました」


 有り余る魔力と集中力によって際限なく撃ち続けられた光の矢は、見ていた生徒達に恐怖を植え付けてしまった。やりすぎたと思ってももう遅く、この事はすぐに学校中の話題になってしまう。


「やっぱりユウリは戦闘訓練を専門にやるべきだよ!君には才能がある!」


「その辺りは先生方が決める事なので……」


 寮に帰ると案の定アカリさんがそんな事を言ってきた。まだ始まったばかりで、受けていない授業もあるというのに気が早すぎる。それだけ話題になるような事をしてしまった僕のせいでもあるんだけど、この世界で得た才能はこの世界で使うべきという考えがあるので、それをひた隠しにするつもりは無い。


 料理に関しては前世までの知識を存分に使ってしまっているけど、それで世界を牛耳ろうとかそういうものでは無いので許して欲しい。それにあの程度なら、多少料理をかじっている人なら普通に出来るレベルだ。


「まぁそれはともかくとして、エイミさんにはもうテストの件連絡したの?」


「はい。受けられるテストも何種類かあるみたいで、下の段階から1つずつクリアしていく必要があるみたいです。とりあえずいけそうな所までは全部テストを受けてみて、それからまたスケジュールを調整してもらうようにお願いしました」


 テストはいきなり最難関を突破して授業を全て免除という事は出来ないようになっていた。まぐれでの合格を防ぐという事や、知識や理解度に抜けが存在しないかを確認する為に必要なんだと思う。


 この世界に魔法はありふれているけど、一般の人にまで広く使われているかと言えばそこまででもない。一歩使い方を間違えれば、魔法を使っていない人々から非難の対象になってしまう。


 だからこそ試験を厳しくして魔法の取り扱いには慎重に、それでも魔法に慣れ親しむ為に校則等での制限は緩めていた。コミュニティの内側では自由にやって良いけど、一歩外に出たら節度を持って下さいというスタンスは、どこかの業界に似ているなと思ったけど、それがどこかは言わないでおこうと思う。

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