表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/72

才能の種類

 朝食を食べ終えた後、料理を教える為に食材を買い物に行こうと言っていたものの、そういう訳にもいかないらしい。アイは国の重要人物でもあり、あまり勝手に出歩くのは良くないという事だ。今回はアカリさんの傍にいるという事と、学校の寮内であれば警備も堅いという事で、特別に許しが出ているに過ぎなかった。


 という事で食材はデリバリーで頼む事にする。昼前に届くように時間指定をしておいて、その間に僕が簡単なお菓子を焼いて3人でお茶を楽しむ。


「ユウリってほんとになんでも作れるのね」


「何でもって訳じゃないよ。お菓子はこういう手軽に出来るものぐらいで、本格的なものはレシピを見ながらじゃないと」


「それでも普通の小学生は、お茶にするからお菓子を作ろうってならないと思うけどね」


 僕が作ったのはスコーンで、見た目にさえ気をつければ材料も手順もそれ程難しい事は無くすぐに作れる。味だってそれなりのモノが出来れば、後は紅茶とかフルーツジャムを合わせれば何だって美味しくなる。という事で2人にも作り方を教えてあげた。


「なんだか教えてもらってばっかりね。私もユウリに何か教えてあげようかしら」


「でもユウリが知りたい事って何かある?」


「それならアイには魔法関係の事を何か教えてもらおうかな。アカリさんには……そのうち何か考えておきます」


「もー、あたしだって魔法なら教えてあげられる事もあるよ。多分」


 半分は冗談だけど、アカリさんには今後いつでも聞くことが出来る。でもアイはこの機会を逃したら、次にいつ会えるか分からない。魔法開発研究所に勤めているアイの知識を吸収できる、またとないチャンスだった。


「私なら魔法式とか教えられると思うし、実技系なら遠隔、複合、精密、浸透、それと形質変化が得意よ」


「あ、そうだ。検査結果の項目について、それぞれどういうものか知らないんだけど教えてくれる?」


 実際その程度なら調べればすぐに出てくるんだけど、昨日から色々あってまだ調べられていなかった。というか本来なら検査の結果が出た時点で、先生から詳しい説明がもらえるはずだった。


「そういえば説明してなかったね。じゃあそこからやっていこうか」


 形質変化は既に知っていたので、アイが得意だという4つから順に聞いていく。遠隔は何となく分かるけど、自分から離れた場所に魔法を発現させる才能の事だ。遠くに炎の玉を打ち出すのも遠隔の才能が必要だし、他人に魔法を掛けるのにもこの才能が必要になる。


 精密も何となく雰囲気で分かりそうな気がする。これは指定した地点、或いは範囲に正確に魔法を発現させる才能だ。これが優れていると眼の前に火柱を発生させておきながら、自分は熱くないという風にする事が出来る。


 複合は1つの対象に、異なる魔法を掛ける際に必要になる才能になる。ゲームっぽく言うとバフが新しいものに上書きされる事無く、いくつもの効果を重複させる為に必要だ。


 最後の浸透は、建物や地面などの広範囲に魔法を及ぼす際に必要になってくる。身近な所で言うと車が魔法で宙に浮かんでいるのは、この浸透によって全てのパーツに浮遊の魔法が掛けられているからだ。


「アイは他の項目はどうだったの?」


「ユウリ程では無いですけど、どれもそれなりにいいところまでいってます」


「じゃあ残りはあたしが説明してあげる。後はあたしの得意分野だからね」


 アカリさんは遠隔、自己、複合、強度、持続の5つが得意らしい。意外な事に形質変化は並なのだそうだ。戦闘訓練はあらゆる魔法を使いこなし、それと同時に相手の魔法に対処する為にも、形質変化の才能が重要だと聞いていた。


 だというのに、並程度の才能しか無いアカリさんがアイの護衛に抜擢され、学校でも実力上位だと思われるハルトの事を弱いと評すというのは、恐らくアカリさんは魔法以外の戦闘センスがずば抜けて高いんだと思う。


「驚いた?並程度でも頑張ればそれなりに出来るようになるんだよ」


 ここぞとばかりに自慢してくるアカリさんを軽く流しつつ、残りの自己、強度、持続の3項目について説明してもらう。


 自己は言葉が示す通り、自分に対して魔法を掛ける際に必要になる。ほとんどの人がこの才能を持っているし、普通の人はこの才能しか持っていないという事も多い。それだけ基本でありながら、その分重要なのだと言う。


 強度は発現させた魔法が他の事象に影響され、消えてしまわない様に保つ際に必要になる。この才能があると、魔法で付けた火に水を掛けても消えないように保つ事が出来る。また異なる魔法同士が影響し合う際には、強度が高い方の魔法がその場に残る事になる。複合に近い性質があるけど、ちょっとだけ役割が異なるみたいだ。


 持続もその名の通り、どれだけの間魔法を保つことが出来るかという事に影響する。魔力が多ければ不要な才能に思えるけど、それだと短時間の間に何度も魔法を掛け直す必要が出てくる。この才能は使う魔力は変わらず、1度の魔法で効果を長続きさせる事が出来るのだ。


「あくまで魔力としてそういう才能があるってだけで、式を理解できなかったり、やる気が無かったりしたらうまく魔法を使うことは出来ないよ。逆の事も言えるから、あたしは形質変化がそんなにでも戦闘訓練をやっていけてるってこと」


「姉さんの場合は、努力が才能を凌駕してる稀有なパターンですけどね。ユウリはどんな授業が組まれるんだろうね」


「僕はこれがやりたいって決まってないから、先生に決めてもらえると楽なんだけどな」


「もしどうしてもやりたいことが無かったら、魔法開発研究所に来て。ユウリなら歓迎するし推薦状も出すよ」


「ダメよ。ユウリはあたしと一緒に戦闘訓練するんだから。ユウリが一緒ならあたしはもっと強くなれる筈」


 どっちも魅力的だけど、どっちも大変になりそうだ。ともあれ実際に授業が組まれるまでどうなるか分からないし、どうなっても良いように心構えをしながら満遍なく知識を取り入れておきたい。


「どこに行くとしても、魔法科学全般は勉強しておかないとなんだよね?」


「それはそうね。でもこの前ユウリの勉強を見たけど、魔法関連も問題なさそうに見えたな。科学は普通科目の延長線だからそっちもクリアしてるし、ほとんど基礎は出来てる様なものかも」


「じゃあやっぱり、今の時間は式の勉強をしましょう。これも魔法科学の中では基礎で、どの分野に行っても切れない関係にあるんだから」


「僕もこの前式の授業を見学したばかりだし、復習にも丁度いいかな」


 そうして午前中はアイに魔法式の勉強を見てもらい、アカリさんはその間にさっき僕が作ったお菓子を再現すべくレシピを眺めていた。


 昼前に注文していた食材が届いたことで勉強を中断し、今度は僕がアイに料理を教えていく。勿論アカリさんも一緒に教わっているので、僕は自分の手を動かさないで2人に教えながら料理を作ってもらった。今回はアイが一人暮らしで料理する時間があまり無いということで、一度にたくさん作れて日持ちするものを数品教えてあげた。


「料理ってだけで敬遠してたけど、これなら私でも出来るし美味しい」


「味付けは市販のコンソメとか出汁を使えば簡単にアレンジ出来るから、飽きたら試してみるといいよ」


 食事を済ませたら再び僕はアイに勉強を見てもらい、アカリさんは午前中に見ていたレシピでお菓子を作り始める。あっという間に時間が過ぎ、お菓子が焼ける匂いが漂ってきた所で勉強を終えた。


「ユウリは本当に教え甲斐があるわ。ついつい熱が入っちゃった」


「ちょっとだけ聞いてたけど、もう学校で習うレベル超えちゃってたもんね。はい、疲れた頭には甘いお菓子だよ」


 何となくそんな気はしてたけど、やっぱりかなり難しい段階まで勉強は進んでいたみたいだった。でも付いていくことは出来たし、おかげで凄く為になった。これだけ理解が進めば、今後の授業で困る事もほとんど無いと思う。


「名残惜しいけど、私はそろそろ帰らないと。明日も休みだけど仕事の準備が有るから」


「そっか。じゃあ寮長に連絡してお迎えを呼んでもらうね」


 ここにアイさんが泊まっているということは学校側、寮長にも当然知らされている。警備の問題等もあるのでしっかりと上に連絡をして、国から専用の車を呼んでもらうのだ。見た目は完全にタクシーだけど、実態は装甲車と同レベルの安全性が確保されている。


「アイ、またね」


「いつでも来ていいからね」


「2人とも、楽しかったわ。そうだ、私の連絡先を渡しておくね。勉強の事でも何でも良いから連絡くれると嬉しいな」


「わかった。簡単な料理のレシピとかも思いついたら送るよ」


 アイを見送った僕たちは部屋に戻って、寂しさを紛らわすために意味もなくテレビを付けっぱなしにしていた。夕飯を作るにも、さっきアカリさんが作ったお菓子を食べたばかりなので少し早い。何をするにも中途半端な時間で手持ち無沙汰だった。


「ねぇ、ちょっと身体を動かしてこない?」


「良いですけど……ジョギングでもするんですか?」


「この寮ってトレーニングルームがあるんだよ?初日に言ってなかったっけ?」


 聞いたような聞いてないような、いや多分聞いていないと思う。まぁ別にどっちでも構わないのだから気にする必要もない。午前も午後も甘いお菓子を食べてしまっているのだから、少しは運動したほうが良いというのも事実なので、早速トレーニングルームに向かった。


「あの、結構人がいますけど平気なんですか?」


「別に。ユウリが来る前からよくここに来てたからいつも通り。私達が使っちゃいけないっていう決まりは無い」


 それはそうだろうけども、部屋に入った瞬間に全員の視線が突き刺さるというのは少し萎縮してしまう。でも皆すぐにこちらから視線を外し、自分のトレーニングに戻っていた。ストイックなのか、それとも関わりあいたくないという意思表示なのか。


 どっちにしろアカリさんとしても無関心でいてくれる方が楽な様だ。ただ1つ気になった事を聞いてみる。


「アカリさん、もしかして今偽装の魔法を使ってます?」


「うん。だから誰も私って分かってない筈。あまり名前を出さないようにして」


 そういう事は先に言っておいて欲しい。でもここの人たちに偽装魔法が効いているなら、見知らぬ人物が入ってきたことに違和感を持たないのだろうか。


 ただいつまでも気にしていても仕方が無いので、僕もトレーニングマシンの使い方を聞いて軽めの運動をする。特待生用の施設というだけあって、どのマシンも魔力を使うことを前提とした設計が成されていた。ここはただ健康のために汗を流すだけではなく、魔力を運用する練習にも用いられる様だ。


 僕が軽めに運動しているのを尻目に、アカリさんは物凄い強度に設定したマシンを軽々と動かしている。アカリさん自身が筋骨隆々という訳では無いので、それは全て魔力の適切な運用によって行われているという事だ。


 そんなアカリさんをまたも、室内の皆が見ている。しかしその目は警戒とか恐怖といったものでは無く、驚嘆や尊敬といった類のものだった。要はアカリさんは正体を隠しつつ、普段からすごい強度のマシンを軽々と動かしている謎の人物として注目されていたという事だ。


「ふースッキリした。ユウリは使ってみてどうだった?」


「意外と為になりそうですし、今後もたまに使おうかと。でもアカリさん、本当は僕に凄い所を見せたかっただけですよね?」


「あ、バレてた?昨日からアイばっかりいいところ見せてたからさ。あたしが見せられるのなんてこんな事だけだし」


「でもありがとうございます。実際アカリさんは凄かったですし、今後も魔力の使い方とか教えて下さい。あと、偽装魔法って何種類かパターンがある感じですか?」


「よく分かったね。外出用と要人の護衛用、それと寮内で使う用の3つあるよ」


 それで学校に居る時以外は、アカリさんの正体がバレていない訳だ。ただそうなると、今度は僕の交友関係が噂されそうである。


 学校ではアカリさんの舎弟と思われていて、寮内では高負荷のトレーニングを難なくこなす正体不明の人物と行動を共にしていた。その話しが広まった時、僕の周囲からの評価はどうなっているのだろうか。休み明けが少しだけ怖かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ