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テスト

 今更だけどこの学校での、本来の時間割について説明しておこうと思う。というのも僕が今特殊な環境に身をおいているだけであって、普通はこんなに好き勝手あちこちの教室に顔を出して授業を受けるという事は無いからだ。


 本来なら先生から、僕の場合ならエイミさんからスケジュール管理表を渡される。その表に従って指定された時間に教室に行き、指定された授業を受ければ良いだけだ。


 その教室にいる人達というのは、皆同程度のレベルの人が集まっているという事になる。普通科目は同じぐらいの年齢の人が集まりやすいけど、魔法関係の授業になるとその限りでは無い。その辺りが普通の学校と大きく違う所であって、色々ないざこざを生みやすい点でもある。


 なにせ自分が歳上だろうと歳下だろうと関係なく、その授業においては同レベルだと学校が認めたという事になる。生意気な子供なら歳上の人と同レベルという時点で図に乗るだろうし、そういうガキが嫌いな人だっている。喧嘩や言い争いが起きない筈が無い。


「お前達、何をしてる?俺に話せるような事か?」


 そんな時に活躍するのが、ハルト達風紀委員の存在だった。僕は今日初めて喧嘩を止めているハルトを見た。戦闘訓練をしている人、特に警備会社に就職が決まっている様な人とやりおうなんて気構えの人はいない。


 僕も多分勘違いされやすい方だと思うので、気をつけておかないといけない。そうならないために人付き合いを減らそうかなんて考えつつ、それだとアカリさんと同じだと気付いた。何とか誤解されないような方法を考えたいけどあまり自信はない。


 どっちにしろ現状で僕からどこかのコミュニティに飛び込むというつもりも無いので、声を掛けられない限りはそういう事もないと思う。まぁそんな事を言っていると、人付き合いが無くなるんだけどね。


 そんな感じで気を付けて過ごしていたら特に何かが起きるという事も無く、僕は至って普通に勉強に集中することが出来た。そう毎日何かが起きていてはこちらも参ってしまう。多くの生徒から注目されたり噂されるという事は、別に大したことでは無い。


 魔法式の授業についても昨日と同じ様にメモだけ取って、空いた時間にその内容について調べていた。また午後になったら魔法訓練室に行って、昨日とは違った訓練を行う。


「君がユウリか、昨日の話しは聞いているよ。今日はもっと複雑な魔力制御を試してもらおうか」


 先生は昨日とは違う人で爽やか系の男性だった。使う装置自体は同じものだったけど、設定をいじるだけで色々な用途に使う事が出来るらしい。


 今回課された魔法制御の訓練は、昨日アカリさんから聞いた魔法を起動するための魔力制御だった。自分で式に必要な分の魔力を流しつつ、魔法を発現させる為の魔力を別に流す。


「すごいな。これも1度で成功させるのか」


「そんなに難しい事なんですか?」


「そうだね。これは魔力の形質を変化させるという事、同じ式の違う所に魔力を流すという事、その両方が同時に出来ないといけないんだ」


 その事は今日の授業で聞いたばかりの内容だったので、早速その成果が出た事が嬉しかった。魔力の形質を変化させて式に流さないと、いくら別々に魔力を流しても式に同一の魔力扱いされて上手く発現しない。


 式に魔力Aという火薬を詰め込み、魔力Bというマッチを使って着火するという具合だ。この切替が出来ないと、薬莢に火薬を詰めつつ違う所にまた火薬を詰め込むだけになってしまう、という事らしい。昨日の訓練では魔力Bは必要が無く、勝手に着火してくれるという内容の式だった。


「もしかしたら、形質変化の才能があるのかもね。まぁその辺りは検査の結果が出れば分かることか」


「形質変化の才能があると何が良いんですか?」


「この才能があると同時に色々な魔法が使えるようになるんだ。警備の仕事をするなら、いざという時の為にあらゆる魔法を使いこなせないといけないし、魔法開発でも出来ることが増えるから便利なんだ。でも無いと絶対になれないという事でも無いから、そこは安心していいよ」


 という事はアカリさんも妹のアイさんも、この形質変化の才能があるのかもしれない。家系によって似た才能を持っていたりすることもあるのだろうか。その辺は文献を探せば分かるかもしれないけど、別に今気にする必要はないか。


 その後も何度か機械を使って、魔法を使用する感覚を確実に掴んでその日の訓練を終える。魔力を使いすぎると極度の疲労状態になるという事だったけど、たった数回程度の訓練では何とも無かった。


 それから寮に戻った僕は一旦魔法関係の勉強を辞めて、来週に控えたテスト勉強に集中する。ここさえ乗り切ってしまえば、後の学校生活がかなり楽になる。そうして時間を作ることができれば、後からいくらでも魔法の勉強が出来る。


 勉強をしながらアカリさんが帰ってくる時間を見越して、昨日作った煮物の余りを温め直しておく。勉強しながらもこんな所にまで気を回しておける僕は、立派な奥さんと言えるかもしれない。


「ただいま~。今日は普通科目の勉強?うぇ、あたしよりレベル高いところやってる……」


「あ、おかえりなさい。今朝エイミさんから連絡が来てて、来週再テストなんです。そこで合格すれば普通科目の授業が免除されるので、今から集中してやってます」


「普通科目免除って……その年でもう卒業レベルの学力って事?」


 僕にとってこの世界の歴史等は別として、言語や数学などは今までの人生で何度も勉強してきているので、その復習をするだけだ。前にも言った通り歴史や地理はほとんど暗記するだけだし、そこまで苦戦もしていない。何ごとも無ければ僕は間違いなく普通科目の免除を受けられる筈だ。


「無事に免除されたら、僕がアカリさんに勉強を教えてあげてもいいですよ」


「それはそれで魅力的かも。わざわざ学校に行く必要も無くなるし、ずっとユウリと一緒に居られるもんね」


 学校では出席を取っていないので、テストで点数さえ取れれば成績に影響する事はない。勿論そこで点数を取れなければ容赦の無い補習が待っているし、場合によっては補助金が減額されたりもする。そういったリスクを回避するために、一応授業には出ておいて酌量の余地を残しておいた方が良い。


「僕は魔法関係の授業には出ておきたいので、ずっと引きこもったりはしませんよ」


「真面目だなぁ。昨日の勉強方法とかちらっと見た感じ、授業に出る必要なんて無さそうなのに。全部自分で調べられてるじゃん」


 あたり前の事を淡々とこなす事を真面目と評される現象は、異世界であっても共通なのかな。この現象に何か名前を付けておきたいけど、いい感じのものが思い浮かばない。


「自分で調べるだけだと見落としがあるかもしれないじゃないですか。それに他の人の考え方とか意見も聞けなくなるので、そういうのは視野が狭まる原因になると思います」


「ユウリって本当に小学生?」


 アカリさんにそう評された事で、流石に素を出しすぎていたかもしれないと気付いた。両親の前でも賢い子供を演じていたとはいえ、今の僕は賢いを通り越して人によっては老成しているとさえ見えてしまう。


 とは言えもはや手遅れだった。今更ちょっと子供っぽく振る舞っても逆に怪しまれてしまう。それならいっそのこと素の僕を全面に押し出していった方が、むしろ僕らしいという評価に繋がる筈だ。


「アカリさんだって、中学生とは思えない部分もありますよ」


「そう?あたしって大人っぽい?」


「実力的な意味では大人以上じゃないですか?ハルトさんよりも強いんですよね?」


「まぁね。実力と言えば、今日もユウリの話しを聞いたよ?今は勉強の邪魔になっちゃうし、後でどんな話だったか聞かせてあげるね」


 アカリさんは一旦自分の部屋に戻って着替えてくると、リビングでテレビを見始める。僕は別に周囲で音が鳴っていても集中できるけど、一段落するには丁度良いタイミングなので晩御飯の準備に取り掛かる。


 既に煮物は温め直してあったので、他の簡単な付け合せを作るだけならすぐに出来る。それに気付いたアカリさんも僕の隣に来て料理を手伝ってくれた。


「ごめんごめん。ユウリは勉強してるんだから、あたしがやんなきゃだよね」


「それは全然気にしないで下さい。アカリさんに負担をかけてまでやらないといけないほど切羽詰まって無いので、家事に関してもいつも通りでお願いします」


「ユウリは少しぐらい甘えても良いんだよ?っていうか甘えてくれると嬉しいんだけどな。無理強いはしないけど」


 普段から風呂や布団で甘えてくるのはアカリさんの方だという事は指摘しないでおく。


「ところでアカリさんは勉強しなくても平気なんですか?」


「前にもちょっと言ったけど、あたしもそこそこ頭良いんだよ?授業だけ聞いてれば充分な程度にはね」


 そんなこんなで今日もいつも通り、お風呂も布団も以下略。その後の学校生活も特に何かが起きる事も無く、僕はテストと検査の日までごく一般的な特待生としての日々を過ごしていた。


 学校でも当初は僕に対しての警戒心が強かった生徒達も、少しずつ慣れ始めてくれている。突然一番後ろの席で授業を受けていても、食堂でアカリさんと同じ席に座っていても、それが当然のものとして受け入れられていた。


「それじゃあテストを始めるわよ」


 久しぶりにエイミさんと対面したのは、この学校に来て最初に案内された空き教室だった。登校初日と同じ様に午前中にテストを受け、午後に僕の検査が行われる。


 まだ一週間ちょっとしか経っていないけど、色々あったせいか既にこの教室も懐かしい気分だ。なんて感慨にふける間もなく、俄然難しくなったテストを片付けていく。


「すごいですね。ざっと見た感じ、ほとんど正解ですよ。これなら問題なく普通科目は免除されると思います」


「良かったです。勉強した甲斐がありました」


 唯一不安だった丸暗記の科目についても何とかなった事に、ほっと胸をなでおろす。それから午後になってあの検査室に向かう。事件に巻き込まれてしまったのでほんの少しだけ緊張したけど、検査室に入った途端その緊張は吹き飛んでしまった


「失礼します。検査に来ました、ユウリです。よろしくお願いします」


「貴方がユウリさんですね。私はアイと申します。姉から話しを聞いています。とても優秀なんですってね」


「あ、初めまして……って、アイさん!?え、どうしてここにいるんですか?」


 そこには何故かアカリさんが居て、見知らぬ人と話しをしていると思ったらそれが妹のアイさんだった。検査室には2人以外の職員の姿は無く、一体どういう状況なのか理解出来なかった。


「私は装置の中身、魔法式の部分の開発者です。修理してから最初の動作という事で、直接確認しに来ました」


「そうだったんですか。ありがとうございます。あの保護装置のおかげで助かりました」


「とんでもありません。本当は保護装置が作動する様な事態にならない事が望ましいんです。むしろこちらのゴタゴタに巻き込んでしまい申し訳ありません」


 アイさんが頭を下げると、どこかからぷるんという音が聞こえた気がした。気がしたというのは完全に僕の気の所為であって、実際にそんな音はどこからも鳴っていない。


 ただ僕の目がその音を聞いたのは間違いない。どういう事かと言うと、お辞儀をしたアイさんの胸元が大きく揺れているという事だ。決して大柄とは言えないアカリさんと並んでなお小さく見えるアイさんは、身長だけならば僕と大して変わらない。しかしその胸元だけはとても良く発育していた。

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