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プロローグ2

 俺は普段からよくアニメを見るしゲームもやっている。いわゆるオタクであると自覚しているが、その程度ではオタク認定もされなくなってしまっている現代では胸を張って自称する事は無い。


 しかしそんなオタク文化に慣れ親しんだ俺でも、いざ面白そうな展開を考えろと言われると中々難しい。俺自身の理想の異世界というのもあるにはあるが曖昧にしか考えておらず、生半可な内容では審査をする神様のお眼鏡に叶わない恐れがある。今回試験を受けている人間が何人いるのか分からないし、内容が被ってしまった時点で採用されない可能性が高い。


「ニッチな層を狙うか、はたまた大衆向けに考えるか、難しいところだな……」


「そういう難しい内容でしょうか?貴方が面白そうだと思う転生後の世界、これを素直に答えれば良いのでは?」


 確かに神様の言う事は最もだ。試験に出された内容でそう言われている以上、いくらウケが良さそうだからと言っても自分が面白いと思えない内容を提出すれば、試験の意図にそぐわないとして落とされるかもしれない。


「どちらにしても、少し内容をまとめるために時間を……って時間無制限だっけか」


「えぇ。いつまで居てもらっても構いません。私達神にしてみれば、貴方がここから出ていきたいと思うほど暮らしていても大した時間にはならないですから」


「貴方のような美女が一緒なら永遠に暮らせますよ?」


「褒めてくれるのは嬉しいですが、貴方はもっと特殊な容姿が好みなのでしょう?もっと小柄で豊かで付いて……」


「それ以上は辞めて下さい。あり得ないからこそ夢があるんです」


「そんなあり得ない展開も、異世界ならあるかもしれませんよ?」


 あり得ない世界があり得るかも。それだけで俺のやる気は満ち溢れてくるのだから、男はつくづく単純な生き物だと思う。異世界転生なんてジャンルがこれだけ流行るのも、そんな夢が溢れているからこそなのだろう。神様達も意外と夢想家なのかもしれない。


「やっぱり難しいな。俺が転生してみたい世界なんて一つに絞れないぞ」


「いっそ全部詰め込んでしまえば良いのでは?」


「いやいや、ハーレムは夢だし王道ファンタジーも捨てがたいし辺境スローライフも憧れる女体化にもちょっと興味が有るなんてごった煮、流石に支離滅裂過ぎて面白くないでしょう?」


「少し特殊なことを言っていた気がしますがスルーしておきましょう。世の中何が流行るかなんて分かりませんし、提案してみるのも有りだと思いますが?」


 しかし折角のチャンスを、こんな勢いだけの提案でフイにしてしまうのはあまりに勿体ない。もしかしたらそれがウケるという事もあるかもしれないが、あまりカオス過ぎては肝心の俺自身が楽しめない可能性もある。


「うーん、いっそ何度も転生出来たら良いんだけどな……」


「過去に例はありませんが、一応上にも確認してみましょうか?」


「え!?是非お願いします!」


 神様が俺の独り言を拾ってくれた事で、ほんの少しだけ希望が見えて来たかもしれない。神様は他の神様と交信でもしているのだろう、虚空を見つめながら全く動く気配が無い。


 この確認次第で俺の案は良い方向へ進むのだが、返事を貰うまでは内容を詰める事が出来ない。待っている間は完全に暇になってしまったので、人形のように動かない神様を四方八方から観察する事にした。


「本当に俺のイメージ通りのザ・女神様って感じだな。服装も体型も、匂いまで再現してるとは……」


 日本人離れした西洋風の顔立ちとスタイルの良い身体、意味の分からない箇所が空いていて露出が多い服装も、超常的な存在であるという事を演出している。アニメで見るだけでは分からない匂いまで感じるのも素晴らしい。こんな存在がちょっとえっちな夢を見せてくれるというだけで満足してしまいそうだった。


「確認してきましたが……一体何をなさってるんですか?」


「いえ、本当に俺のイメージ通りの神様なんだなと感心しておりまして」


「お褒めの言葉と受け取ってよいのでしょうか?質問にあった転生の回数に関してですが、内容によるとの事です」


「つまり面白そうなら良いということですね?」


「そう受け取って頂いて差し支え有りません。それとその案に関して一つ注意事項がありますので、こちらも先に説明させて頂きます」


 その注意事項とはこれまでに前例が無い為、転生後の魂がいつまで元の形を維持できるか分からないというものだった。転生を繰り返す内に突然魂が壊れ、俺という存在が消えてしまうかもしれない。そしてその仕様上、途中で辞めたいと思っても辞める事が出来ないというものだった。


 しかしそんなリスクが存在して尚、俺の夢を全て実現する事が可能かもしれないというリターンが見込めるのなら迷いは無い。俺はあらゆる異世界を体験しつつ、神様に面白そうだと思ってもらえるような内容を考え始める。時間無制限というのが本当に有り難い。


 一体どれだけの時間考えていたのか分からないが、それなりに長い時間悩み続けていた気がする。それでも空腹感や尿意といった生理現象は一切無かった。そしてそれだけの時間ずっと黙っていたのに、神様は他のところには行かずにずっと俺の近くいた。


「よし……我ながら結構良いものが出来たんじゃないか?」


「課題が出来たということであれば、その内容を心の中に思い描いて下さい。こちらで勝手に読み取らせて頂きますので」


 つくづく楽で有り難い。わざわざ紙に書いて提出しろなどと言われても面倒だし、書き漏らし等があっても大変だ。心の準備を済ませて神様と向き合い、俺が考えた内容を読み取ってもらう。じっと目を見つめられて恥ずかしいのだが、目を逸らして上手く読み取れないという事があってはならない為ぐっと堪える。


「……はい、合格です。実を言うと、先程上に聞きに行った時点で合格は決まっていたんです。しかしもっと面白くなる可能性も有るため、少しばかり案を考えてもらいました」


「えぇ……いやでも、おかげでしっかり考える時間も出来たし結果的には良かったのか」


「上が期待していた程良くはなりませんでしたが、そこそこ高評価は頂けています。何より新たな人材を転生させ続けるよりも、コスパが良いという点も都合が良かったのでしょう」


 必死に考えて提出した内容がそこそこ程度しか評価されなかったのは残念だが、それでも自分が転生後に楽しめればそれで良いだろう。それよりも神様達の都合に上手いこと合致した幸運を喜ぶべきだ。


「さて、それでは最後の確認です。これで貴方は異世界に転生する権利を有しましたが、本当に転生しますか?今ならば夢で終わらせる事も出来ますが、本当に後悔はありませんか?」


 そういうダメ押しをされると理由も無く不安になってしまうが、逆にどこまでも良心的な神様達なのだなと思う。問答無用で転生させてしまっても構わない筈なのに、改めてこうして考える時間をくれるのだから。


「俺自身に後悔はありませんが……一つ確認していいですか?」


「構いません。先程も言いましたが、私に答えられる事であれば、いくつ聞いて頂いても良いですよ?」


「転生した後、俺の元の身体とかその周囲の事はどうなりますか?」


「自分では無く周囲の心配ですか。貴方のそういう所が転生候補者として選ばれた理由なんですが……それ程人間関係が広くは無いみたいですので、どうにでもなります。急な病死という事にも、或いは最初から居なかったという事にしても、周囲に影響を出さずに済ませる事が出来ますよ」


 はっきり友達が少ないと言われたのは少しばかり心に来るが、影響が少なく済むのなら結果的には良かった。もしかしたらそれも候補者として選ばれる要素の一つなのかもしれないが、転生モノには成功者がどん底からやり直すパターンも有るから一概には言えないか。


「それなら……最初から居なかった事にしてください。少ないとは言え、俺の勝手で家族や友人が悲しむのは嫌ですから」


「分かりました。では貴方の人格を形成する魂はこちらで保管させて頂きます。そうしなければ、転生後の世界に貴方を投影する事が出来ませんからね。では……準備はよろしいですか?」


「はい、お願いします」


 転生を繰り返し続ける関係上、神様の言う魂の劣化とやらが訪れるまでは俺という人格は生き続ける。それまで一体いくつの異世界を経験する事が出来るだろう、楽しみと不安が大いに入り交じる中、俺の新たな人生が始まった。




 それでは早速最初の異世界転生をお楽しみに、と言いたい所だが先にこれだけ話しておこうと思う。俺が神様に提案した異世界転生の設定について、大きな要素は3つある。


 まず1つ目に、俺は転生先の世界について一切指定しなかった。というのもこれから幾多の世界を渡り歩く都合上、最初に自分の夢を全て叶えてしまうと後が楽しめなくなってしまうからだ。残りは消化試合という気分で転生を繰り返した所で、何も楽しい事などないだろう。


 だから俺は転生するまでその世界が一体どんな世界で、自分がそもそも人間という種族になるのかも分からない。とは言え例えばミジンコの様な、生まれてきてもすぐに死んでしまう様なものには転生しないだろう。


 もし転生した所でその世界もすぐに終わってしまうし、神様だって見ていて面白く無いからだ。ミジンコに生まれて世界最強になればもしかしたら面白いかもしれないが、俺が作った設定にはそんな要素は含まれていない。



 2つ目、神様のお力によって俺は転生先の世界でマルチリンガルになる。正確には全て勝手に日本語に翻訳される様になる。俺は外国人キャラが全員日本語で喋っていても気にしないのだ。もちろんただそれだけの理由ということでは無く、既に成人した身体に転生したパターンを想定した時に、全く言葉が話せない大人が生まれてしまうからだ。


 異世界の言語体系を楽しめなくなるという点は少し勿体無い気もするが、俺にとっては知らない言語というのは少々ストレスに感じてしまう為、そこは目を瞑ってもらいたい。


 そして3つ目、転生後の世界での記憶や技能は全てその後の世界に引き継げるという事だ。この設定は今回考えたものの中で最重要と言って良い。そもそもこの設定が無いと俺という人格が全ての世界を堪能出来ない為、絶対に必要な措置だ。神様としても勝手に魂に詰め込まれていく色々を消す手間が無い方が楽だと言っていたし、この辺りがコスパが良いと言っていた所以なのかもしれない。


 それとこれに付随して一つ、自分に対しての戒めを設けておいた。それは可能な限り、転生後の世界における自分の役割を演じるという事だ。


 例えばファンタジー世界で勇者に転生したならしっかり魔王を倒しに行くし、悪役令嬢として転生したなら悪役らしく振る舞おうと思う。そうでなければどの世界に行っても、現代科学の知識を利用して大儲けとか同じ展開にしかならないからだ。


 とは言えあくまで可能な限りであり自分の匙加減なので、多少は曖昧になってしまうかもしれない。モブに転生したからって、魔王軍に襲われた時に抵抗してはいけないなんて事は無いだろう。うっかり倒してしまったとしても、その辺は笑って許してもらいたい。


 ざっくりとではあるが、大きな要素としてはこんな所だ。細かい事は多少あるがその点については特に説明しなくても良いだろう。それではここから夢の異世界ライフを、魂が擦り切れるまでエンジョイさせて貰うとしよう。

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