n回目の異世界
あれから何度も異世界を渡り歩いて来たけど、今回の僕が転生してきた世界は魔法とSFの世界だ。という訳でこの世界について簡単に説明していくよ。口調は今の僕の設定を演じているから、以前とは違うかもしれないけど許してね。
まず僕は地球に生まれた1人の女児に転生した。地球とは言っても最初に言った通りここは魔法とSFの世界、僕が元々居た地球とは違う。そういう訳だから文化とか風習なんかも全然違うけど、ある程度の共通点はあったから世界観を把握するのは楽だった。
文明レベルは魔法と科学が相乗効果を発揮してるおかげで、元いた地球よりとても高いレベルにある。宇宙航行すら間もなく日常的なものになり、それどころか次元間の行き来すら理論的には可能かもしれないという所まで来ていた。
そんな世界で生まれた僕は、赤子の頃はごく普通に過ごしていた。流石にこの世界における自分の役割を探す為にはまだ幼すぎるからね。もう何度も異世界を渡り歩いた僕はそのぐらいの事は理解して、ごく普通の子供として過ごす様に振る舞っていた。
転機が訪れたのは僕が小学生の高学年になる頃だった。この世界の子どもたちは皆、保有している魔力の量やその才能に関する調査が行われる。察しが良い人は気付いたかもしれないけど、僕はそこで才能を見出された。
「それでは13番の方、こちらへどうぞ」
「はい」
この調査は生まれた時から毎年、成人するまで行われている。子供の内にその後の魔力の総量や適正が決まると言われているので、特殊な職業にでも就いていなければそれ以降に計測される事は無い。
「この子……すごいな」
「流石に少しおかしくないか?計測ミスも考えられる。後日改めて計測しなおした方が良いだろう」
計測された僕の魔力量は、子供でありながら既に成人を上回っているという結果が出たらしい。生まれた直後の検査では至って普通だったらしいので、どこかのタイミングで急激に増えたみたいだ。
その結果が両親に伝えられた時、すごく驚くと同時に喜んでもいた。この世界では魔法がありふれているからこそ、魔力の量はとても重要でその後の人生にも影響する。
「凄いわ!いつの間ににそんなに魔力が増えていたのかしら!?もしかしたら特待生に選ばれるかもしれないわね!」
「落ち着けって。まだ確実とは言えないんだ。あまり喜びすぎると違った時の落差が酷いぞ?」
僕の母親が言っている特待生とは、魔力の量や質に特別な才能を認められた人に英才教育を施す制度の事だ。選ばれた時点で半強制的に全寮制の学校に入れられて、親元を離れて過ごす事になる。
実質的には赤紙なんだけど、この世界では栄誉有る事だとして普通に受け入れられている。学費も無料な上に僕を含めた家族全員に補助金も出るので、嫌がる親はほとんどいない。
「ユウリはどうなんだ?父さん達と離れて暮らすことになったら寂しくないか?」
「寂しいけど平気。僕は頑張れるよ」
「そう……やっぱりユウリは立派ね。ほんと誰に似たのかしら?」
ユウリとは僕の名前だ。初めにも言ったけど今の僕は女の子で、ボクっ娘なのはこの両親の影響だった。直接聞いたわけじゃないから理由は分からないけど、何故か僕と言う様に躾けられたのだ。
もっと幼い頃からなるべく普通に過ごそうとは思っていたけど、言葉を理解できるのに分からない様に振る舞うのは難しい。早い段階で両親からは言葉を覚えるのが早く賢い子供だと認識されたので、それ以降は賢い子供で有るように振る舞っていた。
「それじゃあもし特待生になったら、その時は豪勢に祝わなきゃな。何か欲しい物とかあるか?」
「あなただって気が早いじゃない。今からそんな事を聞いちゃったら、もし違った時にこの子がガッカリするわよ?」
「それもそうか。けどまぁそれとは別に、何かあれば買ってあげるからな」
「もう、甘やかしすぎないでよ」
そんな会話をしていた次の日、再検査の末やっぱり僕は異常な量の魔力を持っている事が分かった。昨日検査した時よりも更に多い魔力が検出されたらしい。その話しは既に国の上の方にも伝わっていたみたいで、すぐに特待生として寮に入るように通知が届いた。
「もう来週には寮に入らないとか……寂しくなるな」
「ユウリに寂しくないかって聞いておきながら、私達の方が寂しがってどうするのよ」
「それもそうだな。めでたいことなんだ、笑顔で見送ってやらないとな」
「うん、僕も2人には笑っていて欲しい」
「この子はホント、なんていい子なのかしら」
寮に入ってからは、普通の小学校などとは違うカリキュラムの授業が行われる事になる。この世界に魔法というものが存在している以上、いわゆる普通科目の授業以外に魔法に関する授業が存在する。
普通の学校での授業は魔法とは何かという事を理解する為のもので、魔法の使い方は習わない。それでも魔法を使えるようになってしまった子供や、僕のように特別な何かを見出された子供が特待生になる。
そして特待生になると魔法に関する授業の比重が重くなり、更にその人の才能によって追加の科目が用意される。それがどういう内容になるかは人それぞれで、僕にも何かしらの特別授業が行われる筈だ。
「それじゃあ行ってくるね」
あっという間に一週間が経ち、僕の家の前には迎えの車が来ている。特待生になった時点でエリート街道まっしぐらであり、国を挙げての補佐が有るためこの程度は当たり前だった。両親に笑顔で手を振りながら別れを告げその車に乗り込む。
この世界の車は魔法によって地面から少し浮いているのでほとんど音も振動も無い。こういった産業にも魔法という技術が大きく関わっているからこそ、特待生という制度を使って優秀な人材を育てるという方針だ。
「初めまして。私はエイミと言います。主に貴方のスケジュール調整と、普通科目の授業を担当します。これからよろしくね」
「ユウリです。こちらこそよろしくお願いします」
「随分礼儀正しいのね。ご両親の教育の賜かしら」
運転手だと思っていた女性は学校の先生だったらしい。車の中で簡単な挨拶を済ませながら今後の説明をされた。
「という訳で、学校が始まったら最初は簡単な検査と筆記テストを受けてもらいます。その検査とテストの結果によって、今後の授業内容を決めていきます」
「分かりました」
授業そのものは来週から始まるみたいで、その点は他の学校の始業時期と同じだった。この一週間はまず寮での生活に慣れるための期間という事になりそうだ。
「着きましたよ。ここがユウリさんが住むことになる寮です」
寮の造りはほとんどマンションだった。部屋は特待生の数が年度によってまちまちなので、空いていたりいなかったりするらしい。今はそこそこ埋まっているそうだ。
「部屋まで案内します。同室の方とは仲良くしてくださいね」
寮に入るとは言えまだまだ子供である僕を1人にする訳もなく、基本的には年上の同性と同じ部屋で暮らす事になる。条件を満たせば1人部屋に移る事も出来るけど、多くの場合には実年齢を基準に判断されているとの事だ。
僕が住むことになる部屋は5階建ての寮の5階にあった。当然エレベーターもあるので昇り降りに苦労する事も無く、そのエレベーターも魔法によって動いていて、これもやっぱり音も振動も無い。
「今日から同室になる子をお連れしました」
エイミさんがインターホンで中にいる人物を呼び出すとすぐにドアが開かれた。部屋の先輩に対して印象を良くするべく、真っ先に笑顔で挨拶をしておく。
「初めまして。僕はユウリと言います。今日からよろしくお願いします」
「初めまして……あれ?男の子?」
「あ、すみません。ちゃんと女です。両親の影響で僕って言うようになってしまって」
「あぁ、こっちこそごめん。あたしはアカリ。こんななりだけどちゃんと女だから安心して」
アカリさんは自分の胸を指差しながらそんな事を言っていた。僕を男と間違えてしまった事への謝罪なのか、普段からそういうノリなのかまだ分からず反応に困ってしまった。
「えっと……アカリさんは美人だと思います」
「よく出来た子だね。今日からよろしく」
「ではアカリさん、よろしくお願いしますね。何かあれば部屋の端末から連絡して下さい。それとユウリさんへの連絡も部屋の端末を通して行いますので、使い方を教えてあげて下さいね」
「分かりました」
エイミさんとは部屋の前で別れ、早速部屋の中を案内してもらう。部屋の中はかなり広く個室も設けられており、ちょっとした高級マンションの様だった。
「部屋の中はざっとこんな感じかな。後はさっき言ってた端末だね」
連絡用の端末はそれぞれの個室とリビングに一台ずつ備え付けられていた。見た目は完全にノートパソコンであり、パソコンとしての機能も当然持っている。しかしここは魔法の世界でありそれだけでは無かった。
「これは触った人の魔力を感知して個人を判別してるから、わざわざアカウントの切り替えする必要は無くて……ってごめん。一気に説明しちゃったけど付いてきてる?」
「大丈夫です。自分用のも持っていたので分かります」
「その年で?結構マセてるね。でもそれなら特に説明する必要もないか」
いくら技術が発展した世界だからと言って、僕くらいの年齢でパソコンを持っている人は多くないと思う。ほとんどの人は携帯端末で済ませているし、実際にそれだけで事足りる事が多い。
この世界での携帯端末とパソコンの大きな違いとして、パソコンは魔法の応用に特化しているという点があった。携帯端末にも魔法の技術は使われているけど、より機能を拡張したものがパソコンという扱いになっている。
「後はこの寮のルールについてかな、と思ったけどもうこんな時間か。ご飯を食べながらにしようか」
昼過ぎに家を出てから寮に向かって、色々と説明をしてもらっている内にすっかり日も暮れてしまっていた。すぐにアカリさんは晩ごはんの支度をしてくれたけど、その料理は少し独特な味付けだった。
「味の方は……ごめん。あんまり料理が得意じゃないんだよね。寮のルールに自炊をするっていうのがあって、週に何回かはちゃんと自分で作らないといけないんだ。もしこの味が苦手だったら、ユウリが早く料理を覚えてね」
「味は独特ですけど美味しいですよ」
幸い子供の味覚にとって天敵の苦味はそこまできつくないので、むしろ僕は料理を楽しんでいた。様々な世界で色々な料理を食べてきたからこそ、多少味付けが変でも気にならない。
これは寮に籠もって勉強に明け暮れるだけでなく、生活能力も身に着けさせるというのが目的なのだという。食材は栄養バランスを考えた物が支給され自由に使って良いらしいけど、料理が苦手な人はメニューを考えるのも大変そうだ。
「まぁ簡単だけど説明はこんな所かな。他に何かあったら色々聞いてね」
「はい。ありがとうございます」
「本当にいい子だね。よし、今日は一緒にお風呂に入ろう。背中流してあげるよ」
「えっと……じゃあお願いします……」
断ろうと思ったけど、アカリさんの目がなんだかギラギラしていて断れなかった。僕の中身は一応元男だけど下心なんてものは一切無い。既にいくつもの異世界を生きてきた僕は男にも女にもなっているし、親になって子供を生んだ事もある。そういう訳で精神的には男も女も慣れてしまっているのだ。
だからといって人の裸を見て何も反応しないという事は無い。人間の身体に備わった本能の様なものによって、ある程度の年齢になれば自然と身体が反応するようになる筈だ。
一緒に風呂に入ったアカリさんは、スレンダーだけど引き締まっていてとても綺麗だった。でもある一点、どうしても気になる事があって目を逸らすことが出来なかった。
「この傷は気にしないで良いよ。あたしは戦闘訓練が多いから、こういうのもよくあるんだ」
戦闘訓練が多いとは、つまりはそういう事だ。魔法という物が存在している以上、それを悪用した犯罪も存在するという事。産業のみならず争いにも転用される事があるどころか、昔は争いに用いる事が魔法の存在意義だった時代もある。警察組織では魔法を用いた戦闘訓練は必須であり、アカリさんはそちらの才能を買われて特待生になったという訳だ。
僕はまだどんな才能を買われ、どういった授業が行われるか決まっていない。もしかしたら僕もアカリさんと同じ様に戦闘訓練を施され、将来的には犯罪組織を潰しに行く事になるかもしれない。何にせよ僕がこの世界に転生してきた理由がそこに有るのなら、僕はその役割を演じるだけだ。




