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戦を止めろ

 城の中に入るまでは案内してもらう事が出来たが、この後は仕事の時間外という事で俺達だけで王の元に向かう。意外とホワイト企業なんだなという事よりも、ずっと一緒に居ることで関係性を疑われる事を避けての事だ。


 洋の国の王も人が悪そうな見た目をしており、和の国の王と同じく側に女性の側近を侍らせている。こちらは酒では無く常に肉を食べ続けており、見るからに腹も膨れていた。


「む?お前たちは冒険者か?見ての通り俺は忙しい。さっさと用件を言え」


 見事に和の国の王と同じセリフを言い放ち、そしてその後の展開すらも全く同じだった。


「参加するかどうかはお前たち次第だ。数日後の作戦会議にこの場にいなければ、お前たちの参加は認めん。そして向こう側に付こうと言うのであればその時は分かっているな?分かればさっさと出て行け。さっきも言ったが俺は忙しい」


 違うテキストを用意するのが面倒だったのか、或いはどちらの国を先に訪れても会話の流れがおかしくならない様に、あえて同じセリフを用意していたのかは分からない。だがこれでイベントを進行する準備が出来た為、再び酒場へと向かってこの件を報告する。


「そうか……そうなると、今から神殿に言っても間に合わないか。おかげで決心が付いたよ。俺達は王に反旗を翻す。これ以上今の王にこの国を任せておくわけにはいかない。戦のドサクサにまぎれて王を討ち取ってしまおう」


 兵士は随分と短絡的に考えをまとめ、しかも完全に部外者である筈の俺達の前で堂々と作戦まで話してしまう。不用心にも程があり何かしらの罠だったりを考えてしまうのだが、別にそんな事は無い。


「ここまで協力してくれてありがとう。だがこれ以上無関係な君たちを巻き込むわけにはいかない。戦が起こる前にこの国を出ていったほうがいいだろう」


 それだけ言い残すと男は酒場を出てどこかへ行ってしまう。彼はこれから戦までの短い間に仲間を集め、王を殺害する準備を整えていくのだろう。そしてその作戦行動は和の国でも同時に行われる事になるのだ。


「なんとも釈然としないが……これで良かったのか?」


「私達の旅の目的は魔王を倒すことです。人間同士の争いに関わるべきではありませんが……」


「確かにこのまま王が変わってくれれば、改めて魔法陣の使用を許してくれるかもしれないけどさ……」


 皆それぞれ思う所がある様だが、これ以上はどうしようもない。俺達は宿に戻ってからも口数は少なかった。


 翌朝、俺達は国の外に出ることにした。ここからは実際のゲームでは戦が始まるまでただ時間の経過を待つだけという設定なのだが、実際にはあるフラグを回収しなければいつまで経っても戦は始まらない。そしてそのフラグは神殿にあるのだ。


「そうか。確かに現状を神殿に伝えれば黙ってないだろうな」


「戦が起きる前に早く向かいましょう」


 相変わらず気配遮断の技能は優秀であり、またも神殿までの道中で魔物が現れる事は無かった。確実に戦闘を回避出来るわけでも無いのだが、ここ最近は運が良い。


 むしろ魔物を倒せないことで経験値不足が気になってしまうほどなのだが、この現状でそんな事を言いだしたらひんしゅくを買ってしまう。それに運が良ければこのすぐ後に、その経験値不足は解消出来る展開が待っているのだ。


「旅の方々、どうされましたか?生き方を変えたいのであればあちらの者に……」


 俺達は神殿に着くなり、以前転職をしてもらった神官とは別の人に2つの国に関する事情を話しをしていた。神官も非常事態と判断して、すぐに神殿の責任者と合わせてくれる。


「ふむ……本来私達が介入して良い事では無いのですが……」


 神殿は別に両国を裏で操っているとか、牛耳っているという訳では無い。ただ神殿の施設を使う交換条件として争わないように求めているだけであり、向こうが一方的にその約束を破るのなら今後力を貸さないというだけの話なのだ。


「しかし近頃の不穏な話しは我々の元にも届いています。その件で調査をしていたのですが、確証を得る前に事態が動いてしまいましたか……」


 そう言いながら神官は少し考え込みつつ、やがて意を決した様にこちらに話しを振ってくる。


「我々も仕事柄、人を見る目には自信があります。皆さんは、特にそちらの貴方は何か特別な力をお持ちの様ですね。その力を私どもにお貸し頂けないでしょうか?」


 神官の真摯な目は俺に向いており、俺も目だけで返事をする。神官は俺の事を勇者だと見抜いているがそうとは口にしない。ゲームでは勇者が転職しようとすると、勇者を辞めるなんてとんでもないと言った具合で断られる為、恐らくここにいる者達は皆気付いているのだろう。


 そもそも両国に対してはここの施設を使うための条件を設けているのに、俺達に対しては無償で提供しているのだ。それも勇者一行という肩書あっての事なのだろう。


「ありがとうございます。両国の調査に関して確証はありませんが、その裏に強大な魔物の気配を感じます。その魔物を倒さなければ問題は解決しないでしょう」


「マジかよ……その魔物ってのはどこにいるんだ?」


「それはまだ分かっていません。ですが魔物の気配からして、国内に潜り込んで居ることは間違い無いはずです。恐らく人間に擬態しているのでしょう」


「でも国中の人間を全員調べるのは無理があるよ?」


「それについてですが、この神殿の近くにある洞窟の中に魔を払う宝玉を保管してあります。その宝玉を使えば魔物の擬態を解く事が出来るでしょう。しかし今洞窟には多くの魔物が住み着いており……」


「私達がその宝玉を回収してきましょう」


「ありがとうございます。洞窟はここから南に向かった所にあります。皆様でしたら大丈夫だとは思いますが、お気を付けて」


 何故そんな大切なものを魔物が巣食う洞窟に保管しているのか。それは容易に人の手に渡ってしまわない様にするためだ。魔物はそもそもそんな宝玉を持ち出そうとはしないし、生半可な人間が洞窟に入っていけば魔物が追い返してくれる事を期待しての事だろう。緊急事態にすぐ使えないのではあまり意味が無いようにも思うが、これもゲームならではなのだ。


 そして洞窟に辿り着くが、当然ここの内部も俺の頭の中には全ての情報が入っている。だがここではあえて最短ルートを通らず、少し遠回りしながら中にある宝物を回収していた。そうする理由はこの洞窟に現れる魔物にある。


「おい!あの銀色のヤツ!あいつだけは絶対倒そう!」


 どうやらああああも以前の世界の知識から、その存在については知っている様子だった。それはゲームではお馴染みの、強さに割に大量の経験値を持っている逃げ足の早い魔物だ。俺もこいつがこの洞窟内にだけ出てくるというのを知っているからこそ、わざわざ遠回りしながら遭遇するのを待っていたのだ。


「よく分かんないけど、どっちにしたってやるだけだよ!」


「てい!って堅い!これ倒せるんですか!?」


 同時に3匹現れていたものの、中々ダメージを与えられず結局倒せたのは1匹だけだ。しかしそれだけでも幸運な事であり、莫大な経験値が手に入る。


「よっしゃ!やっぱり俺の予想通りだぜ!」


「何だこれ……急に力が湧いてくるよ」


「これがあの魔物の効果なんですか?」


 たった1匹倒しただけでも俺達のレベルが2つも上がっている。洞窟の外で魔物と戦えなかった分の経験値がこの一瞬で賄えてしまった。俺としては1匹倒せればもう十分であり、その後は最短ルートで宝玉の回収に向かう予定だった。


「また出てきた!やるぞ!」


 まさかの強運、出現率の低い魔物の筈なのに2回も連続でその魔物は現れた。しかもやる気に満ち溢れているああああが会心の一撃を放った事で、またも討伐に成功してしまう。


 こうなると仲間内でのやる気も上がってしまい、もういいから先へ進もうとは言い出せなくなってしまった。結局全部で15匹遭遇し、5匹の討伐に成功した。俺がゲームをプレイしていた時は10匹中に1匹倒せれば良いという程度であった為、とてつもない運の良さだった。


「さ、流石にそろそろ先を急いだほうが……」


 ぁぃがこう言ってくれなければ、2人はまだまだやるつもりだっただろう。結局全員のステータスは驚くほど上昇し、俺といが覚えた呪文もかなりの量になっていた。各種中級呪文はほとんど網羅しており、一部は上級呪文まで覚えている。もはやこの辺りの魔物も軽くあしらえてしまうほどだった。


 これ以上の戦闘は意味が無いため再び気配遮断を使用して洞窟内を進んで行く。魔物には数回程遭遇するが、それでも圧倒的なレベルを誇る俺達は苦戦することもなく戦闘を終えて、目的の宝玉を入手して脱出した。


「この宝玉で間違い有りません。皆様にお願いして正解でした。しかし……少々遅かった様です。すでに両国は兵士を揃え、開戦の準備を終えています」


 決して俺達が洞窟でレベリングしていた事が原因ではないという事だけは断っておきたい。あの洞窟でいくら時間を費やそうが、宝玉を入手するまでは開戦しないというのがこの世界の設定のハズなのだ。


 この時既に俺の頭はこの世界で生きるという事が少しずつ抜け落ち、ゲームをプレイしている時の感覚になってしまっている事には気付いていなかった。


「悪い。俺が夢中になっちまったから……」


「それを言ったらあたしも同じだよ。呪文を覚えるのが楽しくなってきて……」


「今はそんな事を言ってる場合ではありません。私達に出来ることを考えなくては」


「戦を止めるには王に直談判する他無いでしょう。どうやら両国共に、王が前線で戦闘の指揮を取るようです」


「なら俺達も前線に行こう!無理にでも説得して、魔物を探す時間を稼ぐんだ!」


「お待ち下さい。皆様はお疲れでしょう。我々で回復呪文を掛けて差し上げます。どうか万全の状態でお向かいください」


 神官に全員の体力と魔力を回復して貰い、戦場となる両国のちょうど中間地点となる平野へと走った。この間全く魔物に襲われなかったのは運が良かった訳では無く、今はイベントによる移動中だからだ。


 平野では既に両軍が集結し睨み合っている。また両国共に王が最前線に立っているのは本当であり、どちらもそのすぐ後ろに俺達が話をした門番が控えている。クーデターは洋の国だけで無く和の国でも同時に行われ、両国の王が居なくなることで戦争を終わらせようという目論見なのだ。


「待ってくれ!皆騙されているんだ!この戦争は魔物が仕組んだものだ!」


 ああああが叫ぶと一瞬で兵士達の間に動揺が広がる。しかし両国の王はうろたえるどころか、待っていたとばかりに大声で叫ぶ。


「お前たち、逃げ出したのかと思えば何を言い出すのだ!」


「そもそも戦いが起こると言ってきたのはお前たちだろう!」


「何!?そちらの国もこの者達に唆されたというのか!」


「ではお主達も!?そういう事か!この混乱に乗じて国を乗っ取るつもりだな!?」


 あまりに息の合った両国王のやり取りに兵士達はすっかり騙されてしまい、一気にその場の全ての敵意が俺達に向けられた。それは魔物と戦う時とは全く違う、あの盗賊団と戦う時にも味わった気味の悪い感覚だった。


「お前たち!こいつらを捕まえろ!」


「お、おい!どうするんだ!俺達ハメられたのか!?」


 周囲の異様な雰囲気に仲間たちも狼狽えている。実力だけで言えば、両国の兵士達を全員相手にしても勝つことは可能だろう。だが罪の無い、騙されているだけの人々を殺めるのは盗賊団を殺すのとは全く違う。抵抗することの出来ない俺達は簡単に兵士達に捕らわれてしまった。

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