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転職後に

 3つ目の大陸に来た俺達は真っ先に神殿へと向かった。別に女性陣2人の転職が待ちきれないという訳では無い。神殿と2つの国のどこに向かうにも対して距離が変わらなかったという事、そして国へ行っても先に転職していなければそれに合う装備が購入できないという事があった。


 当然3つの位置関係は俺の頭にきちんと入っている為、神殿までの道中に不安は無い。唯一この辺りに現れる魔物だけはかなり強力だったが、それでもどうにもならないという程でも無かった。


「ここが例の神殿か。でかいな」


 ここに来てから声を出しているのはああああだけであり、2人は転職するという緊張からか一言も喋っていなかった。神殿の中に入る前に俺はいに古文書を手渡しておく。


「こ、これを神官様に見せれば良いんだね?」


「あの、私はどうすれば良いのでしょうか?」


 2人に転職の手続方法を伝えるが、特に難しい手順など無いはずだ。ただ求める職業を伝えれば後は向こうで勝手に色々やってくれるはずである。


 そうして奥に行くと数人の神官が事務的な目をしながら立っていた。その真中にいる人物に話しかければ転職について聞かれる筈である。


「ここは人の生き方を変える神殿である。誰が生き方を変えるのだ?」


 字面にすると大仰な事を言っている様に感じるが、実際にはただどの職業に転職したいですかと訪ねているだけだ。いは緊張からか何も言葉を発さずに古文書を見せた。


「それは……なるほど。そなたは賢者として生きていく決意がお有りか?」


「も、もちろんだよ」


「よろしい。ならばこちらへ」


 いは神官達の後ろにあった扉の中に連れられていく。それから少しすると、丈の短いローブを纏ったいが戻ってきた。実際結構セクシーな格好なのだが、今までの方が露出が多かった為あまりそうは思えない。単に着替えてきただけのように見えるのだが、中で何が行われているのだろう。


「今この時よりそなたは賢者としての生を歩むことになる。その道に神のご加護があらんことを。他に生き方を変えたいものはいるか?」


 本当はいも俺も素直に喜びを表現したかったのだが、神官のいかにも事務的な仕事っぷりにこの場でそうする事は出来なかった。


「私を戦士にしてください」


「そなたは戦士として生きていく決意がお有りか?」


「はい」


「よろしい。ならばこちらへ」


 次いでぁぃも同じ様に奥の部屋に連れて行かれ、恐らく転職の儀式的なものを終えて戻ってくる。しかし俺はいの時には無かった衝撃を受ける事になった。


 その原因はぁぃの格好にある。女性の戦士と言えば誰もが想像するであろうあの装備、ビキニアーマーを身に着けて出てきたのだ。だがそれだけならアニメやゲームに慣れ親しんできた俺にとっては大した事では無い。


 よく描かれる女戦士は、そこそこ上背もあるし何より筋肉質な身体な事が多い。しかしぁぃは小柄かつ非常にグラマラスなだけで無く、魔法使いから転職したばかりの為筋肉も少ない。露出した肌はもちもちと柔らかそうであり、言い方が悪いかもしれないがただのコスプレイヤーにしか見えなかった。


「今この時よりそなたは戦士としての生を歩むことになる。その道に神のご加護があらんことを。他に生き方を変えたいものはいるか?」


 そんなぁぃの姿を目の当たりにしても尚神官は事務的な言葉を述べるだけだった。ジロジロ見られても腹立たしいのだが、同じ男として良く反応せずにいられると関心してしまう程だ。


 当の本人は俺の視線に気付いていない。この世界では戦士はこの格好と相場が決まっている為、俺が気にし過ぎなだけなのだがどうしようも無いだろう。


「さぁ、行きましょう!」


 心なしか転職したことで声まで大きくなった様に思うが、きっとそれも気の所為では無い。生き方を変えるというのはそういうことなのだ。


 無事転職を終えた俺達は予定通り2つ有る国のうちの一方へと向かう。2つの国は簡単に言ってしまえばそれぞれ和と洋の文化を持っており、洋の国は装備の質が良く、対して和の国は装備では無く道具関連が揃っている。今回は転職したばかりの2人の装備を買い揃える為、先に洋の国へと向かった。


 転職のリスクとして、現時点のレベルから少し下がってしまうというものがある。その為道中は気配遮断の技能を使ってもらい戦闘を回避していた。転職したての2人はまだステータスも育っておらず、新しい呪文も覚えていない。取り敢えずは装備を買い揃えたら俺とああああの2人が中心となって戦い、2人の経験値を稼ぐ事にした。


「すごい……一気に力が湧いてくる」


「あたしも、ものすごい勢いで呪文を覚えたよ。まだ魔力は少ないけど、呪文の数ならぁぃよりも多いんじゃないか?」


 数度の戦闘で順調にレベルが上がった2人のステータスを確認すると、やはり職業に見合った能力の上がり方をしていた。戦士になったぁぃは当然体力や攻撃力が飛躍的に伸びているし、いは本人も言っていた通り多くの呪文を覚えている。その中には魔法使いでは覚えられない僧侶の呪文も含まれており、これで呪文による回復という手段も現実的なものになった。


 そのままこの辺りの魔物との戦闘を行いつつ和の国にも向かい、そちらに着く頃には2人のレベルも追いつき始めていた。特にぁぃの能力の伸び方は何故か高く、既にああああにも匹敵しそうな程の体力を誇っていた。


「さて買い物も済んだけど、この後はどこに向かうんだ?」


 和の国の宿はベッドでは無く座敷に布団が敷いてあり、正直俺にとっても慣れない場所だった。元日本人とは言え、俺は子供の頃からベッドで寝ていたのだ。しかし文句は言えず、それぞれが布団の上でくつろぎながら今後について話し合う。


 この大陸でのイベントは本来平和である筈の2つの国の関係が悪化し、戦争間近に迫っているのを止めるというものだ。そしてその原因は両国の王にあり、その王はどちらも魔物に身体を乗っ取られている。この魔物たちを倒す事によって両国から転移の魔法陣を使用する許可を取り付けるのだ。


「確かに聞いてた通りの平和っていう雰囲気じゃなかったね。どっちも気が立ってるっていうか」


「取り敢えずここでも王様との面会を求めに行くんですね?」


「前回みたいに時期が悪いって追い返されなきゃいいけどな」


 何とか上手いこと事情を知らないフリをしつつ、王の元に辿り着く様に仲間たちとの会話を誘導していく。毎度この瞬間だけは申し訳ない気持ちで一杯なのだが、こればかりは許して欲しい。


 和の国の城はこの世界においても独特な形をしており、城というよりはお屋敷といった風貌で有るため遠目には少し分かりづらい。それでも近くまで行けばその屋敷の大きさと厳重な警備体制から、ここに王がいるのだとすぐに分かる。


「王と面会か?それは構わないが……あまり大きな声では言えないんだが、最近の王は少し様子がおかしい。機嫌を損ねないように注意してくれ」


 意外にも思える程門番はすんなりと通してくれるが、少し気になる事を言っていた。その理由を俺は知っているのだが、知らないフリをしながら仲間たちの会話を聞いている。


「門番の方が妙な事を言ってましたが、王様の信用が無いんでしょうか?」


「そうかもしれないけど、それだけじゃないかもね。こっちだけじゃなくて向こうの国の様子もおかしかったし、何か関係してるのかも」


「俺はそれよりも気になるのが、この城?の中に女性しかいないってのが……いや、変な意味じゃないぞ」


 ああああが軽い男では無いというのは皆も分かっているし、言っている事の意味も理解できる。門番こそ男性だったのだが、城の中はどこを見渡しても女性しかいないのだ。これも単に王の身体を乗っ取っている魔物の趣味なのだが、やはり俺は知らないフリだ。


「む?お前たちは冒険者か?見ての通り俺は忙しい。さっさと用件を言え」


 王は面倒くさそうに言いながら側近の女性に酒を注がせていた。見るからに暇そうなのだがそれを口にして機嫌を損ねてはいけない為、単刀直入に魔法陣の使用許可をお願いする。


「ほう……お前達がそうか。残念だがただで使わせてやる訳にはいかん。お前達が俺に協力するというのなら考えてやらんでも無いが、どうだ?」


 選択肢としては断る事も出来るのだが、ここで断るとずっと物語が進行しないため素直に話しを聞く。


「そうか。お前達、部屋を出て行け。俺はこいつらと話しがある」


 周囲の側近たちを全員退出させるというのも不用心ではあるが、誰もそれを咎める事は出来ない。皆それぞれ王の側を離れる安堵と、この後の王の行動が分からない不安とで複雑な表情をしていた。


「単刀直入に言う。間もなく向こうの国と戦争になる。こちらに力を貸せば魔法陣の使用を認めてやろう」


 つまり人間同士の争いに参加しろということだ。当然そんな事は勇者として出来る筈がない。


「参加するかどうかはお前たち次第だ。数日後の作戦会議の場にいなければ、お前たちの参加は認めん。そして向こう側に付こうと言うのであれば、その時は分かっているな?分かればさっさと出て行け。さっきも言ったが俺は忙しい」


 質問の時間すらくれずに強制的に部屋を追い出された俺達は、その後静かに屋敷を出ていく。すると門番が俺達の様子を見て話しかけてきてくれた。そして俺達は周囲に聞かれる無いように、王との会話をこっそりと話してみる。


「王がその様な事を……やはり今の王はおかしい。あんた達は参加するのか?」


 門番の真剣な問いかけに俺達は即答する。当然戦争に加担するような事はせず、それを聞いた門番は意を決したように俺達に言葉を告げた。


「あんた達、見たところかなりの実力者だよな?その実力を見込んで頼みがある。実は向こうの国に俺達の仲間がいるんだ。その仲間達にも今の話しを伝えて来て欲しい。本当に戦いの兆しがあるのか確かめて欲しいんだ」


 俺達はその仲間の特徴と居場所を聞き早急にその場を立ち去った。あまり長話しをしていたは不審に思われてしまうからだ。


 すぐに和の国を出てからいに気配遮断の技能を使ってもらい、魔物との戦闘を避けながら洋の国に向かう。その道中で3人は今回の件について話していた。


「なんだか妙な事に巻き込まれちまったな」


「門番さんが言っていた、王の様子がおかしいというのも分かりますね。攻撃的な視線というか、何かもっと違う邪悪なものを感じました」


「明らかにこっちの国の王様はおかしかったからね。向こうの国はまともであって欲しいもんだ」


 いの願いは残念ながら叶う事は無い。洋の国の王様も現状は魔物に乗っ取られている為まともではないのだ。


 日が暮れる前に洋の国に入ることが出来、目的である門番の仲間とやらを探す。その仲間は日中は門番をしているそうだが、仕事終わりは酒場に寄るのが日課なのだそうだ。毎日行動を一定にしておくことで、連絡を取りやすくしているという事らしい。


「ん?俺に何か用か?」


 酒場に行くとすぐに聞いていた特徴通りの男を見つける事が出来、和の国であった出来事を話す。


「戦だと?確かに最近の王はどこかおかしいが、俺達兵士には一言もそんな話しは無い。だが……そうだな。今ならまだ城の門は開いている。すまないが、こちらの王とも面会してくれないか?」


 乗りかかった船であり、進めなければならないイベントであることに変わりは無い。俺達はその依頼に従い城へと向かった。

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