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プロローグ1

 俺は辺り一面真っ白な空間に居た。目の前には美女と言って差し支えない綺麗な女性が立っている。割と察しは良い方だと自負する俺は、この現状に対して一つの解答を持っている。しかしそれを突然口にしてしまえば、目の前にいる美女に頭を心配されてしまう恐れが有る。今はこの事態がどう動くかを見極めなければならない。


 そうして俺が現状把握をより正確なものにするべく周囲を見渡していると、美女は少しずつ俺の方に歩み寄ってくる。何も言わずにただ俺の事だけを見つめながら接近してくるため、相手が美女とは言え少々警戒してしまう。


「突如お呼び立てしてしまい申し訳ありません。私は貴方の世界で言う所の神様と呼ばれる存在です。察しの良い貴方ならお気付きでしょうが、異世界転生者の候補に選ばれました」


「あぁ、やっぱりそうだったんですか。よくある展開に出てくる空間だなとは思ってましたが、本当にそうだったとは」


「それは貴方が思い描く異世界転生と言えば、という場面を用意したからです。人によっては周囲は真っ暗だったり、神様が玉座に座っていたりとシチュエーションは様々なんですよ?」


「確かに、色んなパターンがありますよね」


 もはや異世界転生という言葉は一般層にすら広く知られる様になっており、世の中には様々な異世界モノと呼ばれる作品が出回っている。今いる空間は異世界モノのプロローグとして、よく目にする場所そのものだった。


「俺は何が切っ掛けでここに呼ばれたんでしょうか?それに候補という事は、他にもここに呼ばれた人がいるという事ですか?」


 少なくとも俺は現実世界では死んでいなかった筈だ。直近の出来事で覚えている事は、明日が休みなんで酒を飲みながらアニメを見ていたという事だけだ。酒の飲み過ぎで死んだという点も、普段から量を決めて飲んでいた為考えづらい。


「切っ掛けはほんの些細なことですよ。あなたはアニメを見ながら、あー俺も異世界転生してーなーと呟いていましたよね?失礼ながら心を覗かせて頂きましたが、それが本心だという事が分かりましたのでお呼びいたしました」


「え?そんな理由で呼び出せるものなんですか?」


「貴方の心は強くそう願っていましたからね。中々こういった事で呼ぶことは無いのですが」


 それはそうだろうなと思う。俺と同じ理由でそう簡単に呼び出されていては、恐らく俺の少ない友人達は全員この神様に呼び出される事になるだろう。


 それとも呼び出されたのが俺だけという事は、皆俺に合わせて異世界モノが好きなフリをしていただけという事なのだろうか。もしそうだとしたら凄く悲しい。


「もう一つの質問についてですが、確かに貴方以外にも異世界転生者の候補となる方は多く存在します。その方々は別の神によって呼び出されているので、直接お会いする事は無いでしょう」


「別の神に……という事は、それぞれの神様が転生者に相応しいと思った者を呼び出し、競い合わせて転生させる者を選別するという感じですか?」


「話が早くて助かります。流石私が選んだ方ですね」


 美女に褒められて悪い気はしない為ここは素直に喜んでおく。素直さというのは美点であり、最初の友好関係を築くためには重要な要素の一つだ。神様はどうやら心を読むことが出来るらしいし、何か企んで印象を悪くする様な事をする訳にはいかない。


「もう一つ聞いても良いですか?」


「何でしょうか?私に答えられる事であればいくつ聞いて頂いても良いですよ?」


「ありがとうございます。少し気になったのが、何故複数の神様が異世界転生者の選別を行っているんでしょうか?俺の知る限り、あまりそういったパターンの転生は聞いたことが無いもので」


 よくある理由として考えられるのが、不遇な一生を送った者に第二の人生を与えるとか、異世界の危機を救うためだとか、何らかの事故に巻き込まれたとか、そういった内容のものが多いと思う。一度にたくさんの人が転生するというパターンも確かにあるが、それが全員別の神様の仕業というのは少なくとも俺は知らない。


「最初にその質問をする方は初めてですね。大抵の方の一言目は勝手なことに巻き込むな!もしくは自分は何をすれば良い?のどちらかですから。ある程度お話をしてから、その質問をされることはありますけどね」


 そんなのは俺に言われても知ったことでは無いが、どちらのセリフも理解出来る内容だ。普通はいきなり知らない所に連れて来られて大きな不安を抱えるのだろう。勝手な事をされたと苛立つのも分かる。或いは自分に出来る事があると分かれば、じっとしているよりも不安感は和らぐ。


「簡単に言うとですね……実は私達神の間でも、異世界転生者の様子を見るというのが流行なんです。今の神界の娯楽は、ほとんどが異世界転生者によって支えられてるんです」


「……神様は俺達人間と同じ様に、異世界転生モノが好きなんですか?」


「それはもう。これまでにも人間の営みが私達のいる神界にも影響を与える事はありましたが、ここまで流行を塗り替えてしまう程のムーブメントは初めてです。今の貴方の世界で言うと、滅茶苦茶バズってます」


「分かりました。それ程流行っているのにわざわざ転生者を選別するという事は、供給過多になっているからですね?」


「本当に察しが良いですね。無闇矢鱈に転生させすぎて異世界の秩序に問題が出たり、エンターテイメントとして楽しめない粗悪品も出てきてしまいましたから。そういった事を防ぐために、今は数を絞っているのです」


 未然に防ぐのでは無く、既に起きてしまった事らしい。神様であってもそういう事は前例が無ければ対処出来ないものだろうかと思わなくもないが、それをわざわざ口にして反感を買う必要もない。


「そういう訳ですので、もう説明する必要も無いかと思いますが規則ですのでお話させて頂きます。事務的な話ですので、少しばかりお時間を頂きますがご了承下さい」


 そうして神様はこの後俺が何をするのかを説明してくれる。現在転生候補者を他の神様達が選定しているとの事で、規定の人数に達した時点で候補者全員に課題が出される。その課題をクリアした者だけが異世界に転生する事になるそうだ。


「採用面接みたいですね。別に志願したわけでも無いのに」


「ですからこの方法なのです。本気で転生したいという者でなければ、真面目に試験に挑もうとは思わないでしょうから。その点貴方は心の底から転生を望んでいましたから、期待させていただきますよ?」


「ご褒美とかあればもっと頑張れるんですが、何か無いんですか?」


「そうですね……ご褒美と言えるか分かりませんが、転生後においてある程度の融通をする事は出来ます。余程の無理難題でなければという条件付きですが、よくあるチートモード程度なら出来ますよ」


 冗談のつもりで言ってみた言葉だったのだが、案外言ってみるものだ。いきなり何も無い所に放り出されるのも転生の醍醐味なのかもしれないが、俺はあまり面倒な展開は好きではない。多少のご都合主義はむしろあって欲しい派だし、じゃがトマ警察という訳でもない。チートモードが無理難題に入らないというのなら、俺の頭の中に思い描ける程度の事ならほとんど制限無しと言っていいだろう。


「それともう一つだけお話しなければいけない事がありました。これも大した事では無いのですが、試験に落ちても特にペナルティがあるという訳ではありません。終わり次第ここであった記憶は、ちょっと良い夢を見た程度の事に変換されて元の世界に帰って頂くことになります」


「ちょっといい夢、ですか?」


「はい。こちらの都合で呼び出してしまった訳ですから、そのお詫びも兼ねています。8割ぐらいの方はえっちな夢になるみたいですね。ここに現れた私達神を魅力的な存在に置き換えるというのが、分かりやすく簡単なんです」


 それもそれでとても魅力的だと思うが、俺の意思は微塵も揺るがない。なにせチートモードすら許されるのであれば、その程度の夢では済まない様な事も出来るからだ。


「あまり邪な事を考えていると、試験に合格出来なくなってしまいますよ?」


「おっと、すみませんつい……というより、今心を読みましたね?」


「貴方があまりにも分かりやすかったものですから。それにしても、人間の方にしては随分と珍しい趣向ですね?私達神ならば両方ついている者もいますが……」


「そろそろ辞めて頂いていいですか?」


「ふふっ。初めて貴方がうろたえる所が見れましたね。おや、どうやら人数が揃った様です」


 特に何かの合図といったものも無かったと思うのだが、その辺りは神様にしか分からないらしい。何はともあれ、ようやく試験開始という訳だ。


「試験の内容ですが……こんな内容は初めてですね。時間無制限、貴方が面白そうだと思う転生後の世界を一つ答えよ」


「え、それだけですか?異世界の秩序がどうのとか言ってたんで、もっと厳しい内容のものが来ると思ってたんですが……」


「それについてはここに呼ばれた時点でクリアしています。それよりもエンターテイメント性を重視したのでしょう。今回何人が採用になるかは分かりませんが、多くの人間が本気で考えればいくつかは面白いものもありそうだという判断なのでしょう」


 神様の話しを聞いてなるほどと納得する。ここに呼ばれた時点で既に一次審査は通過しており、これは二次審査という訳だ。転生モノが溢れかえっている為、目新しいものを生み出すべくこういった形式になったのだろう。


 そんな訳で俺は急遽、神様に認めてもらえるような異世界転生モノを考える事になった。

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