貧すれば鈍する “残飯”と〜ライス
やべ~なぁ。
俺は大変な金欠に襲われていた。
あ~あ、先月は季節バイトが多くて、ふところも温かかったからなぁ。アホな金の使い方したもんだよ。酔っ払って「オレのおごりだ!」とかもやっちゃったし、急に『ゴ○ゴ13』が読みたくなって店にある分を全巻一気買いしたのもまずかったよなぁ。
でも、昨日までは何とかなると思ってたんだけど……。
まさか、昨日のデートが、とどめになるとはなぁ。
レンタカー借りて、ドライブして、ちょっと高めのレストラン行って……。全て終わって残金は約2,000円。完璧だと思ってたよ。俺は。
寮で朝夕は飯もでるから、2,000円あればバイト代が入るまでの5日ぐらいなら余裕で過ごせる計算だったんだけど……。
レンタカーのガソリン代ってのは計算してなかったよ!
彼女にカッコ悪いとこ見せられないから、平気なふりして払うは払ったけど、残金480円ってどうするよ。
……ちょっと待てよ! 5日ってことは、1日100円使ったら足が出るじゃん。こんなんカップ麺だって買えねーよ!
袋麺なら行けるけど、鍋とか無ぇから、砕いてカップに入れて、ふやかして食うか、そのまま囓るか……。くそっ!
悪態をつきながら歩く俺の前に現れたのが居酒屋“R”だった。
“R”は、どこよりも安く、どこよりも遅くまで営業している学生御用達の店である。
その“R”の名物は何と言っても“残飯”であろう。
これを聞いて、気色の悪いものを想像された方、安心していただきたい。当たり前だが、営業している店で出す以上、きちんとした食べ物である。
ちなみに、どのようなものかというと、前日の“残”り物を丼“飯”の上にかけたもので、縮めて“残飯”というわけだ。
これがまた安い! なんと驚きの150円也‼︎ 何が乗っているかは前日の売れ残り状況次第だが、大量に作って盛り売りするモツ煮に当たることが多かった。
もしかして“R”なら“残飯”以上のものがあるかもしれない。絶望の縁に追い込まれていた俺にとって、そんな期待を抱かせてくれる“R”は一筋の光明だった。
引き寄せられるように、のれんをくぐった俺は、隅のテーブルに座ると、お品書きを開いた。そして、150円の“残飯”を上回るお値うちメニューがないか、隅から隅まで目を通した。
流石に無理か……。
俺が諦めかけたとき、視界の隅に“~ライス 70円”という文字が!
とうとう見つけた! 流石は貧乏学生の味方“R”! “残飯”を上回るポテンシャルを持ったメニューを隠していたとは!!
いや、油断は禁物だ。もしかしたら本物の“残飯”的なゲテモノメニューとかかもしれん。確認だ!
俺は、アルバイトのおねーさんを呼ぶと、メニューを見せながら質問した。
「ねー、おねーさん。これなんだけど、味はついてるの?」
「いえ、味はついておりませんので、その辺りの調味料をお使いください」
「じゃあさ、何か上にかかってたりする?」
「はい、鰹節がかかってます」
どうやら“~ライス 70円”は白飯?に鰹節をかけたものらしい。“残飯”と違って味はついてねーから、自分で醤油とかを掛けろってことだな。これなら安いのも納得だ。
「じゃあこれ1つ!」
「ハイかしこまりました。……お客様。注文は以上でよろしいですか?」
「うん、大盛りで!早めにお願いね!」
「……かしこまりました」
注文を取り終えたおねーさんは、すこし怪訝な様子だったが、そのまま去っていった。
しばらくして注文の品が私の前に現れた。
そして、俺は、しばし無言でそれを見ていたが、おもむろに、おねーさんを呼びつけると“残飯”を注文した。もう、どうなってもいい気分だった。
それは、たしかに鰹節がかかっていた。
さらに、大盛りにしてくれていた。
それは、たしかに何かかけなければ、食いづらそうだった。
そして、白さが目に眩しかった。
ただ、たった1つだけ、そう、たった1つだけではあるのだが、思っていたのとは違う点があった。
たった1つの違いなのだが、その違いは、武井咲と阿武咲の違いぐらい大きかった。
出てきたものは、鰹節のかかった大盛りの“飯”ではなく、鰹節のかかった大盛りの“刻みタマネギ”だったのだ。
貧すれば鈍する オニオンスライスの話