表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様の手違いで異世界転移させられた俺はハーレム生活充実になりました  作者: 桐ヶ谷スバル
第一部 愛を取り戻した転移者 第一章 転移者とワトソン王国
40/65

第37話 魔王ベル

 闇属性魔法『ディファレントボム』により大きく抉れた地面の方へとリサは地面を強く蹴り上げながら駆け付け、ジョセフがいたであろう場所でリサは必死にジョセフを探すのだがジョセフの姿は何処にも見当たらなかった。


 「ワトソン家の王女よ、ジョセフは死んだ」


 ベルは涼しげな声でリサに告げる。すると漫画やアニメのようにジョセフが被っていた中折れのハットが羽のように舞いリサの足元に優しく落ちていった。リサは膝間突きジョセフの中折れハットを拾いそれをギュッと抱き締め甲高く割れた声で悲鳴を上げた。


 「そっ、そんな……嫌あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 リサの悲鳴は迷宮に響き渡りジンジャーと佐藤夏樹は歯を食いしばりながら涙を流し「泣くな!泣いていいのは便所の中か自分の部屋だけだ!」と自己暗示をし涙を強引に止めようとするも拭っても拭っても涙が止まることはなかった。


 「ベルぅっ!てめえの髪の毛、否っ!細胞一つこの世には残さねえ!」


 佐藤夏樹はベルを睥睨し、怒りを露わにし殺意剥き出しで高速歯軋りを鳴らし喚いた。


 「細胞一つ残さないだと?面白いことを言うなこの日本人は。まあ、いいだろう。ワトソンの王女はどの道最後に殺すのだからな……」


 ベルはゲラゲラと笑いながら自分の腹を抑える。


 「うるせぇ!『身体強化』!『ハイスピード』!」


 佐藤夏樹は瞬発的に身体能力を増幅させ渾身の一撃でジョセフが所持していたリサがジョセフから預かっていた陸奥守吉行を取り上げるように右手に握り目一杯振り上げるもベルには佐藤夏樹の攻撃パターンが手に取るようにわかっていたようで全く歯が立たなかった。


 「無属性魔法を駆使しているつもりではあろうが身体しんたいスペックに関してはジョセフの方が《《もっと強かったぞ》》」


 ベルは左拳でみぞおちを狙いそのまま息を詰まらせながら地面へと叩きつけられ砂埃が激しく舞っていた。


 「ゴホッ、ゴホッ!」


 佐藤夏樹は必死に咳ばらいをし呼吸を整え体を起こし口をジャージの袖で軽く拭く。


 「無属性魔法が使えていなかったら確実に死んでいたな……ちくしょう、ジョセフが勝てなかったていうのに俺に勝算があるわけねえじゃねえかよ……」


 「全く、ジョセフと言い佐藤夏樹は何であんな敵に一人で立ち向かおうとするの?怖くはないの?私なんか足が竦んで身動き一つとれないっていうのに……リサだってジョセフのことで…………」


 「ジンジャーちゃん、怖いのはみんな一緒よ。誠君の仲間のトキちゃんとレイラちゃんだって怖いのよ」


 「でも、マリーは全然平気そうじゃない!どうしたらあなたのような強さを身に付けることができるの?ジョセフに出会ってから私の周りには信じられない超常現象が沢山起こりすぎて人間としての感覚が麻痺して疑問に思う暇さえなかったけど一番の謎はマリー、あなたよ!佐藤夏樹をこの世界に召喚したとか分からないこと言い出したし……」


 ジンジャーはジョセフと出会ってからの出来事を部屋の掃除をするかのように纏めつつマリーに語る。


 「ジンジャーちゃん、あたし達が今やらなきゃいけないことは《《重要なことはなにか分かっているわね》》?」


 「……そのつもりよ!ベルを倒して魔人族の襲撃を止めること!」


 ジンジャーはマリーの質問に躊躇いなく自信のある声で答える。


 「分かったわ!ジンジャーちゃんもすでに覚悟は決まっているみたいだからね!少しだけあたしの過去を話すわ!」


 マリーはそう言いながらベルに気付かれない場所までリサ、トキ、レイラを連れて全ての過去を話した。


 《《強さ》》に纏わる過去を。


 マリーがまだ10歳になった頃だった。マリーの住んでいた集落では10歳になれば魔法使いになるための学校へと通うことができそこでは数々の魔法の知識とそれに対する対策法を学んだりするのだ。


 魔法学校は使われなくなった城を再利用しており中世ヨーロッパのように敷地内は石畳が敷かれていた。


 「ここが魔法学校か……試験の内容はどんなことをするんだろう?」


 幼いマリーは夢と希望、不安を感じながらも城門を潜り試験会場へと足を踏み入れる。試験会場には100名ほどの人数の受験生がいて合格できる人数は40名と日本の学校の一クラスの平均定員数であった。


 魔法学校は5年制で一学年につき5クラスあり魔力、魔法属性の適正、等の技量によってクラスを分けられる。


 「それではあなた達の魔力の適正と実技試験を行わせてもらいます」


 試験官の女性は受験生に試験内容を説明し受験生達は「いよいよか!」とざわつき今までに培った実力を発揮せんとしている。


 最初は水晶玉の形をした魔力計測器で魔力と属性魔法の適正を調べ、受験生達は次々と魔力計測器に手をかざす。


 「俺の魔力量は500かぁ……凄いのかどうか分からないや……」


 「魔力量500、魔法使いとしては平均ね」


 男子はそう言いながらどのぐらい凄いのか疑問に思っていると試験官が平均値であることを伝えると男子は肩を竦めしょんぼりとしていた。マリーは一番最後に魔力計測をし手をかざすと計測器が虹色に輝き、虹色の閃光が試験会場を包んでいた。


 すると計測器には【魔力量】測定不能、【適正魔法】全属性と書かれており会場にいた試験官全員の目が輝き始める。


 マリーが手をどかしたと同時に計測器が粉々に砕け散り辺りは大騒ぎとなっていた。


 「信じられない……魔力計測器が壊れるほどの魔力量を持ったものが現れるなんて前代未聞だぞ!」


 「これは凄い魔法使いになれる!」


 周囲からは期待され、マリー自身も希望に満ち溢れていたのだがマリーにも欠点はあった。


 マリーは魔力量は魔力計測器が粉々に破壊できるほどの魔力量と全属性魔法適正こそあるものの魔法を発動する技量があまりにも未熟であるため一番低ランクのクラスに配属されることになっていた。


 低クラスの授業内容は初歩的な魔力コントロールからであり詠唱し魔法陣を出現させそこから魔法を発動するのだがそこからが難しくてマリーは強大な魔力量故に発動が失敗し、膨大に膨れ上がった魔力が暴発しボカン!と爆発しマリーの頭髪はアフロ頭になっていた。


 それを見たクラスメイト達から「あはははははは!マリー魔力量が多く全属性適正があるのに魔法が使えないとかマジであり得ねえんだけど!」と笑いの種にされてしまいマリーはそれでもニコニコとしながらも何度も挑戦するのだが失敗続きだ。


 「はぁ~~~~っ、やっぱりあたしって魔法の才能ないのかな?」


 マリーは自室のベッドで両手を伸ばし溜め息を吐きながらそんなことを呟く。


 魔法学校は全寮制で一部屋に二人とルームメイトがいるのだがマリーのルームメイトは「全属性適正があるだけ凄いじゃない……私なんて闇属性魔法しか適正が無いってのに……」とマリーを励ますのだがマリーは溜め息を吐くのを辞めなかった。


 マリーは休み時間になると校内にある図書館へと駆け寄り魔法の書を沢山読み漁りどうにかして魔法を上手く発動させられるようにと努力をしていた。


 「本は好きかね?」


 偉大なる魔法使いのような風貌をしていた白髭にとんがり帽子、ローブを着ている初老の男性がマリーに優しく声をかけていた。


 「マーリン先生……先生も本を読みに来たのですか?」


 マーリンはマリーのクラスの担当教官でもあり他の教官達からはかなりの人望を持たれマリーもマーリンのことを尊敬していた。そして何故マーリンが低クラスの生徒達を受け持っているのか生徒と教官達は疑問に感じており理解できずにいた。


 「わしはの、魔法とは違い未来を予知することがでいるのじゃよ。マリーよ、今からわしがお前に予言をする。お前さんは世界中の誰よりも凄い魔法使いになれる。このわしよりもな」


 「でも先生、今のあたしなんて魔法を発動すら碌にできないんですよ……」


 マリーはマーリンの予言を聞き否定し顔を俯かせる。


 「お前さんは未来よりも今現在起こっている目先のことばかり考えているからそういう風に思ってしまうのじゃろうがわしの予言はほぼ的中するぞ?それにわしだってお前さんぐらいの歳の頃は魔力は人より多かったのに魔法が上手く発動できずに笑われていたものじゃよ。お前さんを見ていると昔のことを昨日のように思い出したよ」


 マーリンは若い頃を回想しながらマリーに聞かせ、マリーは尊敬する教官の話をわくわくとしながらマーリンの過去の話を聞いていた。


 それからというもマリーは休み時間に図書館へ行くのを楽しみにしておりマーリンはマリーに魔法以外にもあらゆる知識を教え、マリーは寮へと戻り予習していた。

 

 マーリンから教わったものには《《日本語も含まれており》》最初は全く読めなかった文字であったがマーリンの指導もあってか10日でマスターしたのだ。

 

 月日は流れマリーは15歳になった。


 相変わらずマリーは図書館で魔法の書を読みそこにはマーリンもいた。マリーは10歳の頃よりも大人びた容姿となり今では学年トップにまで上り詰め誰もマリーのことを笑うものはおらずファンレターを大量に受け取るほどであった。


 図書館は基本誰も寄らないためマリーにとっては心のオアシスであった。その心のオアシスにはマリーとマーリンが互いに一緒の本を読んではマーリンによく相談していたのだ。


 「先生、先生のおかげであたしは今先生の言うように魔法をちゃんと発動することができるようになりました」


 「わしは何もしとらんよ、お前さんの努力が実っただけじゃよ……」


 マリーはマーリンの感謝の言葉を述べているがマーリンはどこかしらマリーの成長を喜べずにいた。


 「マリーよ、今から言うことを真剣に聞いてくれないかの?わしは最近ある未来を見た。そしてお前さんはこの5年間で確かに成長した、今のお前さんなら魔王ですら量ができる強さすら持っているであろう……これから卒業に向けてカリキュラムはハードになるが……もう一度言うぞ、マリー……このままここで魔法を学び卒業する道を選ぶならお前さんの死の運命からは逃れられん……ここで辞めるなら今じゃ!辞めればお前さんにも新しい道が待っている……」


 マーリンはマリーに死の予言をし魔法以外の道を歩むように勧めるのだがマリーはそれを断固として拒否した。


 「マーリン先生、あたしはどのようにして死ぬのですか?私の死はいつどこで訪れるのですか?」


 マリーは真剣な眼差しでマーリンに懇願するように尋ねる。


 「知ってどうするのじゃ?」


 「あたしは知りたいのです!先生の言う未来を知ることによって何か役立てることができるんじゃないかと考えたらその未来を頬っておくわけにはいかないんです!」


 「そこまでの覚悟があるのなら教えよう……お前さんの未来を」


 マーリンはマリーに今後マリーに起こる出来事を悲しい瞳をしながら、涙を呑むような表情で伝えるのであった。


 マリーはふと佐藤夏樹と誠が魔王ベルと戦っている姿を見て師でもあるマーリンの予言を思い出した。


 「お前さんはいずれわしがいた世界から一人の少年を召喚しその少年が迷宮で危機に迫った時……お前さんはその少年を庇って死を迎えるであろう」


 マーリンが予言していた迷宮で現在、佐藤夏樹はベルと戦い危機に迫っている光景を目の当たりにしその予言が的中していたことにマリーは決心してその運命に身を委ねることにした。


 マリーは一歩一歩佐藤夏樹達のいる方向へと近づき駆け寄る。


 「まっ、マリー!」


 ジンジャーがマリーに声をかけるとマリーはピタッと止まり後ろを振り向く。


 「大丈夫よ、必ず帰ってくるわ……」


 マリーは不安な表情を誤魔化しながらニコッと笑いベルに立ち向かうべく歩き始める。


 「マリー、気を付けて……」


 ジンジャーは嫌な予感がしておりもしかしたらマリーは本当に死んでしまうのではないかとすら思っていた。マリーはジンジャーに過去の話を全ては話してはおらず死の予言に関しては黙っていたのだ。


 言えば確実に止められることはマリー自身分かっていたからだ。ジョセフのように止められても信念を貫ける自身がなかったため、ジョセフのようにマリーは自分の命を投げ捨ててまで叩く覚悟がなかった。


 だが今のマリーは尊敬する師であるマーリンの予言に従うだけであり予言された未来を自分自身で選んだのだ。


 「これが俺とお前の差だ、俺の仲間になるか死を選ぶかどっちかしかないぞ」


 ベルは地面に倒れ込んだ佐藤夏樹に見下ろすような目で二択の選択を強いる。


 「うるせえ!ダチを殺されたっていうのに何でテメエの仲間になんかならなきゃいけないんだよ!」


 (ジョセフ君がいたからこそあたしはマーリン先生の予言に従う覚悟ができたのに……そのジョセフ君が死に今もなお佐藤夏樹君が死ねばあたしには何も残るものがない……だから、これ以上大切な仲間を死なせたくない!)マリーはジョセフの死を悔い同じ過ちを繰り返さないようにするべく牽制する。


 「『レールアローガン』!」


 マリーは今まで威力を抑えていたのだがこのまま出力を抑えていてはどの道全滅すると思ったのか出力を10~50パーセントまで威力をあげた。


 当然ながらベルは右手を犠牲に躱したのだがベルにとっては大したダメージではなかったみたいだ。ベルは暫くの間欠損した右腕を押さえ低く唸るように咆哮をあげ欠損したはずの右手がトカゲの尻尾が生えるように再生したのだ。


 「闇属性上級魔法『自己再生』?この魔法は禁術のはずなのに何故お前が……?」


 マリーはベルに尋ねる。


 「俺は全てを知り尽くした男だ。そのくらいの魔法を知っていて当然だ!だが光属性究極魔法『インドラ』、あれの体得方法は未だに知らないのだがな」


 ベルは全てを知り尽くしたと言っている割には光属性究極魔法を体得できていないことを考えれば『インドラ』がどれほど凄いのかがよく分かる。


 「言っておくが俺には魔法攻撃などは通用しない!究極魔法以外の全てを体得した俺にはな」


 「こいつ完全にチートだろ……そんな奴に戦いを挑むってのがそもそもが無謀だったんだ……」


 佐藤夏樹は地面に四つん這いとなり俯く。


 「おい、そこのもう一人の童顔日本人。お前には神と同じ雰囲気を感じるがお前は一体何者だ?さっきから全然俺に攻撃を仕掛けるそぶりを見せていないが」


 ベルは誠に尋ね、「僕はあなたを神様のもとへ連れて行くと決めているからね、殺そうとは思っていない」と殺意を剥き出しにしているベルの質問に答える。


 「お前、ジョセフが死んだっていうのに殺さずに神の所へ連行するだと!?ふざけているのか?」


 佐藤夏樹は誠に対して喚き散らし誠の発言に対し顔を上げ歯軋りをしながら誠に睥睨とする。マリーは理性を失っていた佐藤夏樹を宥めるように止めるも一向に収まる気配はなかった。


 「その神様の所に連れて行くって言ったけど君それ本気でできると思っているの?ジョセフ君を殺した相手を何事もなかったかのように生かすなんて気に入らない……」


 「気持ちは分かるけど神様に頼まれたことなんだ……僕だってジョセフが死んだことに関しては悔しさだって感じるよ」


 誠の薄っぺらの表情を見てマリーは信用することができなかった。


 「どうやら君とは考えが合わないみたいね……それならそれでこっちの好きにさせていただくわ!」


 マリーは右足を一歩出し再度魔法を発動する。


 「師匠から直伝した魔法をここで発動することになるとはね……光属性魔法『スターダスイラプションキャノン』!」



 マリーの杖から流星群のように複数ものビーム状の大きな球体がベルの方へと軌道に乗り『スターダストイラプションキャノン』は隕石でも堕ちたかのようにベルのいた方角へ急接近し眩い閃光がベルを激しく包み砂埃が舞い上がり轟音が迷宮の中に鳴り響く。


 「この攻撃をまともに受ければいくらあいつでも……嘘でしょ?」


 砂埃が薄くなりベルの影らしきものが薄っすらと浮かび始める。


 「確かにあれは死ぬかと思ったよ……しかし残念だったな。俺は神に全てを強化してもらった元人間だからな、そう簡単にお前の攻撃を食らって死ぬほどやわな体はしていない」


 この圧倒的絶望感はまさに地獄絵図だ。


 「『リミッターリリース』!『アイススピア』!『ウィンドカッター』!『マッドボール』!『シャドウボム』!『ソルブラスト』!『煉獄』!」


 マリーはあがくようにベルに全属性の魔法を駆使するがベルの脅威の自己再生能力には手も足も出ない赤子同然で最初から勝負になっていなかったのだ。


 「ジョセフに比べれば魔法威力は確実に強いな、そして今まで俺が戦ってきた誰よりも強い。それだけでお前には何も感じない。所詮人間とはそういうものだ」


 ベルはマリーの方へと『身体強化』と『ハイスピード』を組み合わせジャンプするように高加速で急接近する。


 マリーは護身用に隠し持っていた剣を取り出し即座にベルの攻撃を受け止め、お互いの攻撃が交錯し火花が激しく飛び散る。


 「あんたが初めてよ、あたしに剣を使わせるとは……」


 「魔法使いでありながら剣術にも心得があるとはな、俺が戦った魔法使いはどれもお前のようなタイプはいなかった」


 マリーとベルの戦いは佐藤夏樹の動体視力では何が起こっているのか分からず閃光が走ったかと思えばすぐさま違う方向で閃光が走っていた。


 「この戦い、正直僕でも勝てる気がしなくなったよ……」


 誠は珍しくも弱音を吐き佐藤夏樹は誠の胸ぐらをつかみ喚き散らした。


 「お前も神様にチート能力を授かっているんじゃねえのかよ?あいつを神様の所へ連れて行くと言っていたあの余裕はどこへ行ったんだよ!」


 「そんなこと言ってもマリーですら太刀打ちできない相手を僕が倒せると思うかい?少なくても彼女の魔力量は僕よりも多く僕はジョセフのように魔力コントロールが上手くない以上確実に犬死するだけだ……」


 誠は珍しく深刻な顔をしながら佐藤夏樹に説く。その現実を未だ受け入れられずに肩を落とし魂が抜けるかのように脱力していた。


 「うっ、嘘っだろ……そんな奴を相手にどう戦えばいいってんだよ……」


 「僕にも分からない……そしてマリーさんは多分ここで死ぬ……」


 「何っ!?マリーが死ぬわけねえ!あいつは……俺達のメンバー最強の魔法使いなんだぜ!」


 佐藤夏樹は信じたくはなかったのだ。短い期間ながら一緒に同じ釜の飯を食った仲間がここで死ぬかもしれないなんて思いたくもなかった。


 そして誠の言葉もまた真実であることを受け入れたくはなかった。佐藤夏樹にとって嫌いな相手の言葉などは。


 佐藤夏樹は地面に落ちていたジョセフの刀を拾い握りしめる。


 「……っ、それでも俺は……」


 ぶつぶつと呟きながら陸奥守吉行を上に構える。剣道をやっていただけあってサマにはなっているもののテレサには通用しなかった剣技でベルに勝負を挑もうとする。


 「佐藤夏樹、僕の話を聞いていなかったのか?君では逆に足手まといに……」


 誠は佐藤夏樹では無理だと言って必死に止めようとするもそれでも佐藤夏樹は足を止めず、誠は口を噤む。


 「ここで指咥えて見てろって言いたいのかよテメエは!人が一人死んでんだぞ!ここで黙って見られるほど腐っちゃいないんだよ!」


 声を低く、掠れた声で佐藤夏樹は誠に吐き捨て誠に陸奥守吉行を向ける。


 「『身体強化』!『ハイスピード』!」


 佐藤夏樹は地面を蹴り沈み込んだ体制で勢いよく飛び出しその動きはまるでチーターのように地面を滑空していた。


 マリーはかなり苦戦を強いられており右手に握っている剣もベルの拳撃によって刃はボロボロになっており亀裂も入っていた。マリーは魔法で剣に入った亀裂を修復しようとするもベルはその猶予すら与えずひたすらに拳を打ち込む。


 無数に拳の痕ができ殴られるマリーはその衝撃に耐えられず吐血をし、立位を何とか保っていたのだが意識の方は朦朧としていた。


 (魔法を使おうにも詠唱どころか呪文名を言う暇さえない……こんな奴をまともに勝てる人間なんているの?)とマリーは内心ベルは本物の魔王そのものでありその魔王でもあるベルに勝てるのは魔人族か神のような人外でなければ無理だと察した。


 「ジョセフといいお前はやはりほしい人材であったがここまで利害が一致しないとはな……悪いが今後強敵にならないためにも死ね!」


 ベルは魔力を帯びた拳を突き出しマリーを一突きで息の根を止めようとすると佐藤夏樹が喚きながら猪突猛進していた。


 「ベルぅぅぅっ~~~~!ジョセフの仇、取らせてもらうぜ!」


 佐藤夏樹は陸奥守吉行を上へ大きく振り上げ斬りかかろうとするもベルはすぐさま魔力を込めた拳を止め後ろ蹴りを入れる。


 『身体強化』をしているためあばら2~3本折れた程度で済んでいるが普通の人げあれば即死してもおかしくはないだろう。


 息を詰まらせ呼吸を整えようとするもベルは手を止めるつもりもなく佐藤夏樹を即座に殺すことを実行しようとするとマリーは佐藤夏樹を庇うように突き飛ばす。


 ベルの拳からは血がポタポタと垂れ零れておりよく見ればマリーの胴体には穴が開いていた。ベルは自分の拳をマリーの胴体から抜くとマリーの開いた胴体から噴水のように血飛沫を上げていた。


 「ぐっ……!」


 「まっ、マリー!」


 「ひゃあはっはっはっは!」


 マリーは声を唸らせながら膝をつき蹲り佐藤夏樹はマリーの名を絶叫しベルは哄笑していた。


 (佐藤夏樹もマリーも何故勝てないと分かっていて立ち向かう?僕にだって勝てる相手じゃないのにそれでも何故?)


 誠の脳裏には本能的にベルのことを怯え体が竦み身動きすら取れなかった。


 マリーは身体を貫かれてもなお、ベルに抵抗しようとするも魔力は消耗し傷を治癒するほどの余力はマリーにはなかったため地面に這いつくばるのがやっとであった。


 「これが人間の限界というものだよ、どんなに魔力が神に匹敵していても所詮人間としての限界を超えられねば話にならん」


 ベルはマリーを見下すように罵り佐藤夏樹は折れたあばらを抑えながら歯軋りを鳴らしながら口をへの字に曲げていた。


 「人間の限界だと?俺の仲間を侮辱するんじゃねえぞ、この腐れ外道が!マリーはお前なんかよりも強えんだよ!魔力を抑えなければお前なんか……!」


 「それなら何故そのマリーという女はあんな無様を晒している?それは奴が弱者であるからだ。そしてジョセフ、奴は俺と同じく強者になれたであろうに弱者の為に戦うとは愚の骨頂」


 佐藤夏樹の脳内は何かプッツンときており怒りが頂点に達しさっきまで感じていた激痛すら忘れていたのだ。


 「おいてめえ……マリーだけでなくジョセフまで侮辱したか?」


 「だから何だという?敗者であるものをいくら侮辱したところで何か問題でもあるのか?」


 ベルは佐藤夏樹に問う。


 「……んぐっ」


 佐藤夏樹は何も言えずただ歯軋りを鳴らしベルを睨みつけることしかできなかった。


 「悪いけどベル、いや……鈴木徹彦!」


 佐藤夏樹は後ろを振り向くとそこには誠が一歩ずつ近づいていた。


 「ようやくお出ましか……神に力を授かったものよ」


 「正直なところあなたに勝てる自信はないけど時間稼ぎくらいはできるとは思っているよ?」


 誠にしては珍しく自信なさげに言うがベルはそれを否定する様子はなく地面をトントンと軽く蹴りかかとを整えたその瞬間、今までに見せなかった闘気が漏れ出しそのオーラはベルの体を覆っていた。


 「死ぬ準備はできているか?」


 「できているように見えるの?」


 誠はベルの質問を質問で返す。ベルの動きはマリーの時以上に高速で接近しその攻撃はとてつもなく重く誠は魔法で防御をしていた。


 「『アースウォール』!」


 誠の発動した土属性魔法『アースウォール』はかなりの強度を持っており流石のベルでもそれを貫通することはできずこの隙に佐藤夏樹はマリーの方へと急いで駆けつける。


 「マリー!」


 佐藤夏樹は石に躓き転んでも立ち上がりマリーの所へと辿り着き何度もマリーの名前を叫ぶ。


 「ちゃんと聴こえているわよ……あたしの命ももう長くはないからよく聞いて……」


 マリーは苦しそうな声で佐藤夏樹に懇願をする。


 「ふざけるなよ!一緒に帰るんだよ!それなのに……」


 「……甘ったれないで!」


 マリーは佐藤夏樹を叱咤し右手を佐藤夏樹の方へと突き出す。


 「あたしの手を握って……あたしと同化することによって君はあたしの能力全てを引き継ぐことができるわ……」


 「そんな……出会ってから一か月経つか経たないくらいしかないってのにこんな残酷なことが……」


 佐藤夏樹は涙をボロボロと零しながらこの現実を受け入れられずにいた。


 「はっ、早く……時間がないわ……あたしは時期に死んでしまう……誠だって長くはもたないはずよ……」


 そういうマリーの右手を躊躇いながらも握りしめマリーは無属性魔法究極魔法『アシミレーション』を発動し、マリーと佐藤夏樹は白い閃光に包まれる。


 「大丈夫よ、君の人格まで変わるわけではないわ……人格は君のものよ……佐藤夏樹」


 (マーリン先生、あなたの予言は悪いことばかりではありませんでした。あたしが別世界の人間を召喚し死ぬという予言はあたしという人間がその人と同化するためのきっかけの一つであることを示していたのかもしれません……マーリン先生、あたしはこの佐藤夏樹の肉体と魂と共にあなたのような偉大な魔法使いを目指していきたいと思います……)


 マリーは心の中でマーリンに感謝の気持ちを述べそして、マリーという存在は結晶のように儚く消滅し佐藤夏樹と同化したのだ。


 「これが、マリーと同化したっていうのか……今までに感じたことのない力を感じるぞ、これこそ異世界チートって奴だな……」


 佐藤夏樹はマリーと同化したことで今までに感じたことのない力が漲り両掌を見て確信した。


 「フフッ……フハハハハハっ、やったぞ!遂に俺は圧倒的力を手に入れたぞ!」


 佐藤夏樹は顔を上げ高笑いをした。


 一方、誠はというと神に授かった力を前にしてもベルには全く通用せず蹂躙されるだけであった。


 「ぐっ……」


 「どうした?神に貰った力で女を侍らせていたようだが所詮己の力では何もできない雑魚同然ではないか。お前もジョセフのように天へ帰る時が来たのではないのか?」


 ベルは誠に最後の止めを刺すべく詠唱を始める。


 「邪神よ、我の怒りと憎しみを力変えて下され……」


 「『レールアローガン』!」


 青白い電流がバチバチと火花を散らしベルの方へと軌道が乗る。ベルは詠唱を途中で止めたため魔法を発動することができずに再度右手が吹き飛ぶ。


 「うぐっ、あの女の気配を感じるというのにさっきよりも威力が高い……そして痛みが……この焼けるような激痛はなんだ……?」


 ベルは出血している右上腕部を必死に再生させようとするも佐藤夏樹はその猶予すら与えずただひたすらに蹂躙する。


 「これは死んだジョセフの分だ……『スパーク』!」


 佐藤夏樹の右掌から『スパーク』を放出し右上腕を抑えていた左手を直撃しベルの左手は大火傷を負いもはや使い物にならない状態であった。


 「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ベルは今までにないほどに絶叫し犬のように転がりまわる。


 「何故だ!何故俺が人間に負ける?お前は神に力を授かったものではないのに……ただの人間なのに何故だ!お前は一体何なんだ!?」


 ベルは地面に這いつくばりながら佐藤夏樹の方を見上げ尋ねる。


 「言っただろ?お前の細胞一つこの世には残さんと!」


 佐藤夏樹は地面に這いつくばっているベルにビシッと指をさす。その姿は敵キャラを倒した主人公そのものであり佐藤夏樹が理想としていた異世界ファンタジーでもあった。


 「そして最後は……マリーの分だ!消えろぉぉぉぉ!『煉獄』!」


 佐藤夏樹が発動した『煉獄』は業火の如くベルの肉体を全て焼き尽くした。


 ベルは肉体が消滅する前に何か悲しげな表情で誠と佐藤夏樹に何か訴えかけているのが分かった。


 「これで……勝ったと思うな……お前達は開けてはならないパンドラの箱を開けたのだ!そうだ、この世界には神でも手に負えない邪神を敵に回したということだ!例えジョセフが生きていたとしても誰も倒すことはできない……」


 「邪神?神でも手に負えない?」


 「てめえふざけんな!例え邪神が相手であろうとジョセフの代わりに俺が殺す!ジョセフの死を無駄にしないためにもな!」


 佐藤夏樹はベルが負け犬の遠吠えをしていると思いあまり信用はしていなかった。邪神が相手でも神の力を授かった誠と同等の強さを手に入れ誠ですら苦戦していたベルを難なく倒したことにより更なる自身を手に入れたからだ。


 「先に地獄で待っているぞ……そしてジョ……セ……フは…………いっ……ぶぐぉわぁ!」


 ベルは最後に何か言い残そうとした瞬間佐藤夏樹の『煉獄』が完全燃焼し肉体と魂はこの世界から消滅し消し炭となり天に還ったのだ。そして死んだジョセフのことを思い出すと涙が流れ佐藤夏樹は『エニィウェアゲート』でワトソン王国の宮廷へと踵を返す。


 マリーと同化したことにより全属性魔法適正があり、魔力も引き継いでいるため当分の間は敵なしであるがジョセフなしでどこまで戦えるのかは謎だ。


 ジョセフが死亡してから2週間が経ちリサは自室に引きこもりベッドでジョセフの名をずっと叫び涙を流しっぱなしでいた。ジョセフが死んだことを信じたくなかったからだ。戦いとは非情であり死んだ人間は生き返らない。


 神様に転生でもさせて貰わない限り、佐藤夏樹の今の力でもジョセフを復活させることはできないのだ。


 そのうえ、マリーを失ったともなれば冒険者として活動する自身さえなくなるのは当然の結果であり誰もがジョセフとマリーを失ったことを悲しんだ。しかしマリーは生きている。


 佐藤夏樹と共に……生きているのだ。


 「マリー、俺は何をしたらいい?ジョセフを失ったリサに……どう声をかけて慰めればいいんだ……?」


 佐藤夏樹は同化したマリーに尋ねる。しかし、マリーは何も答えなかった。


 答えようにも答えられなかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ