第29話 佐藤夏樹の修行
ジョセフは療養のために暫く冒険者業を休業し、リサはジョセフがこっそりと魔物討伐に行かないようにするための監視役としてマリーから言われジョセフと共にお休みするみたいだ。
テレサ達はジョセフに戦闘を任せすぎたことへの責任感からか戦闘訓練を開始することにしたのだ。
ジンジャーは無属性魔法が使えることからマリーにより効率的に使えるように修行を見てもらうことにしていた。アイリスも同様で得意な風属性魔法を強化する修行を付けてもらえるのだ。
佐藤夏樹はテレサに剣術の稽古をつけてもらえるみたいでテレサは事前に購入していた木剣を構え、佐藤夏樹も木剣を両手で握る。
こう見えて佐藤夏樹は空手、剣道、弓道を習っていたためそれなりに武道への心得はあるつもりなのだが異世界に来てから大した戦果を上げられていないのだ。
「佐藤夏樹、いつでも来い!」
「うおらあ~~~!」
佐藤夏樹は力いっぱい握りしめた木剣を上に振り上げ、テレサに斬りかかるのだがテレサの木剣は佐藤夏樹が斬りかかる以前に攻撃を入れていた。
パアンっと大きな音が鳴り佐藤夏樹は手をつきながら地面へとしりもちをつく。
「痛ってえ~~~……」
「動きはいいがそれでは真っ先に殺されるぞ」
テレサは佐藤夏樹を見下ろすように見ながら注意をする。佐藤夏樹は地面に落ちていた木剣を拾いもう一度テレサに攻撃を仕掛けるもテレサの打ち込み一つ一つが常人の動きより早すぎるため佐藤夏樹では太刀打ちできずにいた。
片手で木剣を握っているのに動きが世界チャンピオンのボクサーよりも速く、突きに関してはフェンシングすら超えていた。
「どうした?ジョセフはもう少し手ごわかったぞ?」
「まだまだだあ~~~!」
佐藤夏樹は顔中痣だらけになっており、片目は瞼が漫画のように腫れあがり右目だけでテレサを睨みつけもう一度攻撃を仕掛ける。
今度はそのまま猪のように猪突猛進し勢いのある突きを食らわせようとするのだがテレサの動体視力の前では佐藤夏樹など赤子同然だ。そもそもがちょっと剣道をかじっていた人間が剣に命をもかけている人間に敵うことはありえない。
ジョセフのようにプロの格闘家を複数人相手にしても無傷で勝てる人間でもない限りテレサに攻撃を当てることなど至難の業なのだ。
「佐藤夏樹、何故お前の攻撃が私に当たらないのか教えてあげましょう」
「それは一体……?」
「執念だ。お前の攻撃一つ一つに執念というものが感じない。お前は一体何のために剣を振るっているのか考えたことはあるのか?動きも模範的でいいのだがそれが仇となってお前の行動パターンが単純で私くらいになれば簡単に予測できる」
テレサは執念の足りなさを指摘し佐藤夏樹は駄目だしを受ける。
「……俺に執念がねえだと?」
佐藤夏樹は歯を食いしばりテレサを睨むように見上げる。
「俺だってな、ジョセフのようにはいかなくても少しは強くあろうと思っているんだよ!大体お前は俺のことを大して知らないくせに俺のことを知ったような口で語るんじゃねえよ!」
ボロボロになりながらも立ち上がり、佐藤夏樹はフラフラになりながらも木剣を構える。佐藤夏樹にとって異世界でここまで真剣に何かを取り組むというのは今回が初めてだ。
今まではジョセフと共にすれば食いっぱぐれしないからという理由で着いてきていたがジョセフがいない今、佐藤夏樹を守ってくれる人がいない以上己自信を強くしなければいけないと心の火は着火していたのだ。
「チェストオオオオオオオオオオオオオオオ!」
佐藤夏樹が空手、弓道、剣道をしていたというのは小学生の頃の話で、中学二年に入ってからきっぱり辞めてしまったのだ。
(クソっ!異世界で県の修行をするんなら剣道辞めるんじゃなかったぜ!いくら木刀の素振りや筋トレしているからって感覚が研ぎ澄まされるわけじゃないのは分かっていた筈なのに……ちくしょう、ジンジャーの口車に上手く載せられちまったけどこれじゃ道化じゃねえか……)佐藤夏樹は内心そう思いながら過去を思い出し後悔をしている。
「もう一回!」
「佐藤夏樹、今日の稽古はこのくらいにしておこう。今のお前の技量に執念のなさを考えればこれ以上練習したからと言って急に強くなるわけではない」
テレサはさっきまで剣に殺気があったのに唐突に木剣を下ろし後ろを振り向く。佐藤夏樹は「ちょっと待てよ!」と怒号をあげテレサに木剣を勢いよく振り上げるもテレサはすんなりと躱す。
「お前は私の話を聞いていなかったのか?今日の稽古は終わりだということを」
いつも厳しいテレサが稽古を途中で放棄すること自体が珍しく、マリーは物陰に隠れながら見ている。
佐藤夏樹は自分の技量の低さに「クソォっ!」と獣のように咆哮をあげ木剣を地面に叩きつける。地面にドサッと倒れ込み手を空にかざしながら考え込む。
太陽は手をかざしたことにより隠れるも光が微妙に漏れている。その光の微妙な漏れを見て佐藤夏樹は「俺の器ではこんな風に簡単にこぼれるように漏れちまうんだろうな……」と呟きながら泥だらけになった顔を汚れていない右袖で拭う。
「テレサちゃん、あなた佐藤夏樹君の修行を途中放棄なんかしちゃってらしくないんじゃないの?」
マリーはヘラヘラとした表情でテレサに尋ねる。
「佐藤夏樹の攻撃には強くなろうという執念がなかった。ただそれだけだ」
「本当にそれだけ?」
「何が言いたい?」
テレサはしつこく質問をするマリーに尋ねる。
「ようするにジョセフ君と比較しすぎているのよ、テレサちゃんは」
「確かにマリーの言う通りジョセフと比較していたのかもしれない。ジョセフ以上に強くなる見込みが今のところなかったから今日は稽古を途中で終わりにした。それにあいつの剣を見ていると昔の私を思い出す……」
テレサは苦い表情で過去の自分が頭の中に過っていた。
「まっ、私も魔法の修行していた時期は今のテレサちゃんみたいに師匠から見放されて考えさせられたものよ」
「マリーにもそんな時期があったのか?」
「ええっ、あったわよ。魔法が全然上達しなくてね、今の佐藤夏樹君みたいに葛藤したりと色々と辛くて魔法の修行を辞めたいとも思ったけど努力した結果今みたいに魔法が得意になったのよ」
テレサはマリーにもそんな出来事があったことに驚愕し何も言えずにいた。
一方佐藤夏樹はテレサに心を見透かされているかのような錯覚をし、苛立ちと情けなさでいっぱいになり心が壊れるほどではないがかなり精神的に辛いようだ。
「確かにテレサの言う通りだ。俺が修行をしているのも頑張っているアピールがしたいだけで執念があるわけでもジョセフみたいに本当に強くなりたいと思っていたわけじゃない……そもそも俺はジョセフと一緒にいることで自分自身をダメにしているんじゃないかとも思えちまう……」
佐藤夏樹はブツブツと小声で呟きながら地面に仰向けとなり両手を広げていた。
「だったら強くなればいいんじゃないの?」
後ろからマリーが佐藤夏樹にそう言う。
「強くって……俺は本当に強くなろうって思っていないんだぜ?修行だってジンジャーから言われたからでやる気があったわけじゃないんだ!俺ってのは最低だよ!俺はそんな自分が嫌いなんだよ!変われるなんて思ってもいないのに……」
佐藤夏樹はマリーに本音をぶちまけ自己嫌悪に浸り涙を見せないようにと右腕で顔を隠す。
「君は本当にそれでいいの?」
「マリー、お前は結局何が言いたいんだ?」
「ジョセフ君だって結構その辺は悩んでいることだと思うよ?リサちゃんが結構抱きついたりしているのを拒んでいるけど本当は嬉しいんだと思うけど素直になれないというかね。でもジョセフ君は本当はリサちゃんを思いきり抱き締めたいんだと思うよ」
「それは《《ロリコン認定》》されたくないだけだろ。あいつが」
「それだけだったらリサちゃんもあんなに依存しないと思うけど?ジョセフ君自身もそれほど嫌そうには見えないけど」
マリーはジョセフとリサの普段の出来事を佐藤夏樹に語り始める。佐藤夏樹はジョセフのことを思い出しながら嫉妬と葛藤、羨ましく感じたりと複雑な気分になっていた。
「まあ、あたしが結局何が言いたいのかというとジョセフ君と比較する必要もないし君は君のやり方で強くなればいいってことよ。君には無属性魔法の適正があるんだしそのうち頭の中に呪文名とかが浮かんで使えるようになるかもよ?」
「気休めはよせよ……」
マリーは佐藤夏樹にニコッと笑顔を見せ励ましているが佐藤夏樹は気休め程度で言っているのなら……と思っているみたいだ。
「取り敢えず今日は早く帰って休息しなさい」
マリーは無軸性魔法『クリーニング』を発動し、佐藤夏樹のジャージと体中に付着していた泥は一気になくなり綺麗になっていた。
「怪我は治してくれないんだな……」
佐藤夏樹は不満に思ったからなのか肩を竦めマリーに愚痴をこぼす。
「注文の多い坊やね、君は」
マリーは嫌な顔一つせずに光属性回復魔法『ヒール』を発動し佐藤夏樹の腫れた瞼と痣は無くなり痛みも引いていた。
「ありがとな、んじゃ俺今日はゆっくり休んで考えるとするよ……」
佐藤夏樹は何か頭の中で閃いたかのような顔をし走り去るのだ。




