第27話 スタンフォード邸
ジョセフ達はギルドから5キロ程離れている場所を馬車で配達に向かうことにした。
その場所はジョセフが通っていた高校と同じくらいの距離でその気になれば歩いていけなくもないのだが交通状況を考えれば馬車で行った方が速いため、荷物の配達を徒歩で届けるのはとても大変だ。
日本で配達業は大抵バイトか運送会社がやるものなのだがこの世界では冒険者が殆どそういうのやっているみたいだ。冒険者っていうのは魔物討伐したりと成功すれば英雄扱いされるそんなカッコいい仕事かと思っている人がラノベ好きのオタク達は思っているみたいだけどそれだけではない。
ジョセフも冒険者になればそんなカッコよくて自由気ままに生きていくことができるだなんて子供みたいな甘い考えを持っていた。しかし、いざやってみれば命が危険なクエストがあったり日本でもありそうな一般の仕事をしたりなんてこともあったりとイメージと違っていたものだ。
日本のブラック企業と違い仲間達と楽しく冒険できているためその分まだマシな部分もある。理想と現実のギャップに流石のジョセフも驚かされてはいたけれど、それでもリサのような可愛い女の子とこうやって一緒にいられることを考えれば異世界転移転生組の中でも勝ち組の部類に入ってもいいのかもしれない。
佐藤夏樹に関しては「ハーレムやっている奴は嫌いだ」と言っている割にジョセフとは仲良くしてくれているけど命の恩人だからという理由もその一つであろう。ジョセフはもしも誠みたいな出会い方していれば間違いなく嫌われていたのは目に見えているたのだ。佐藤夏樹はかなりの中二病で空気の読めない高校生ではあるけれどその裏腹に仲間思いな一面とかを考えれば一緒に同行しても何ら問題はない。
ジョセフにとって寧ろ男子が一人でもいる方が相談とかしやすい部分もあったからだ。ジョセフはまだ佐藤夏樹に一度たりとも相談したことはないけれど。
「ジョセフよお、お前まえから気になっていたんだけどリサやテレサ達とはどんな感じに出会ったんだ?」
「どんな感じって、あんまいい出会いではなかったが……リサに関してはゴブリンに襲われているのを助けたら婚約する羽目になった感じかな、俺なんてゴブリンに殺されかけたけどね。テレサもチンピラに絡まれてるのをマリーが助けた感じで……」
「まあお前の性格とか考えればそういう出会いになるのは必然的なんだろうな。俺もお前みたいにそういう出会いが訪れればいいんだけどなあ……俺にはお前みたいに女の子を引き寄せるものがないのは正直妬ましく思っているがね」
「そろそろ配達する屋敷に着くぞ」
佐藤夏樹と会話をしていると御者台で馬を走らせているテレサがジョセフ達が乗っている荷台の方を振り向き到着することを教えてくれる。
その屋敷は貴族が住んでいるみたいで王様ともプライベートも含めかなり仲はいいみたいだ。
「それにしても配達先の人がリサの父親と仲がいいってのは本当に良かったよね~、貴族っていうから今の王様から王位を略奪を考えているあのガーグとかいうキモイおっさんの仲間だったらどうしようとも思っていたし……」
ジンジャーは苦笑いしながら言う。確かにジンジャーの言う通り貴族内でも王様の意見に賛成する派閥と反対派がいたりしているみたいでジョセフはこのような配達は単純な手紙を配達するだけでよかったとも思っている。
屋敷の敷地まで馬車を入れ扉前で止め扉を三回ほどノックしてみると扉を貴族自らが開ける。
「待っていたよ、君達が私に手紙を配達しに来た冒険者だね。私はこの屋敷の頭首のコナン・スタンフォードと申すものだ。せっかく来たんだ、お茶でもどうかね?」
コナン・スタンフォードという30代前半の背のスラッとした見た目がどう考えてもジョセフ達より少し年上の大学生くらいの外見をした男性でかなり爽やかな表情でジョセフ達を屋敷内に招き入れてくれた。
依頼で持ってきた手紙をジョセフはスタンフォード氏に渡すとすぐに着用しているスーツの胸ポケットにしまっていた。
スタンフォード氏の屋敷はとても大きく中もとても綺麗で隅々まで細かく掃除されていたからなのか埃なども少なく快適な空気を味わうことができる。
流石は貴族という感じで美人なメイド数人と如何にも《《長年仕えてます》》といった風貌で勤続年数の長そうな執事が一人いた。
スタンフォード氏は「どうぞ中へ」とジョセフ達を客室へと誘導しふかふかのソファへと腰を掛け、美人なメイドがテーブルに紅茶を注ぐ。紅茶の匂いは王都でリサと二人だけで飲んだ紅茶とは匂いが違い、ジョセフの父親がイギリス土産で持って帰って来た時の紅茶と同じ匂いがしたのだ。
「すまないな」
「いえっ、ご主人様の大事なお客様が来ましたので当然の対応でございます」
スタンフォード氏は紅茶を注ぐメイドに感謝の言葉を述べメイドは客室からそのまま退室する。
「リサ王女、最近婚約をされたと噂になられましたがそちらの男性がそのお相手ですかな?」
「いいえっ、あちらの方は私の冒険者仲間ですわ」
スタンフォード氏は佐藤夏樹の方を見ながらリサに婚約者であるかを尋ねリサは佐藤夏樹は婚約者ではなく冒険者をしている仲間であることをにこやかに説明する。
「おいおい、スタンフォードさんよお……俺じゃなくてあいつだよ」
佐藤夏樹は貴族であるスタンフォード氏の前でもいつもと同じ傍若無人な態度、同じ言葉遣いで説明をする。
「確かに俺がリサの婚約者ですが……って、佐藤夏樹!スタンフォードさんは貴族だぞ!礼儀というものを弁えないと処刑されるぞ?」
「まあまあ、いいんだよ。若いうちはそれぐらい活気がある方が私としても安心するものだから」
スタンフォード氏は苦笑いしながらジョセフを宥め、テレサは(よくぞ言った、ジョセフ!)と内心思いながらジョセフの方を振り向きグッと拳を握りガッツポーズをする。
「自己紹介がまだでしたね、俺はジョセフ・ジョーンズと言います。そしてあの厨二病男子は佐藤夏樹と言いましてあのショートヘアの魔法使いはマリー、ワトソン王国騎士長の娘のテレサ、そして金髪の女性はジンジャーと言います。みんな俺の大切な仲間です」
ジョセフはスタンフォード氏に自己紹介を割愛しながら済ませる。
「おいジョセフ、中二病は余計だろ!」
「……本当のことだろ、まずお前は礼儀を学んだ方がいいだろ?」
「その、中二病という言葉の意味がよく分からないが確かにジョセフ君の言うことには一理あるな」
スタンフォード氏はジョセフの言ったことに頷きながらも《《中二病》》という言葉の意味までは理解していなかったみたいだ。中二病という言葉自体が日本で作られた言葉であるため知っていたら寧ろ凄い部類である。
ジョセフはこの世界は何故かシャーロックにホームズ、ワトソン、スタンフォードなどアーサー・コナン・ドイルが執筆したシャーロック・ホームズシリーズに出てくる登場人物の名前が出てきている光景を何とも摩訶不思議な世界だと思い始めた。
(もしかしたらホームズの宿敵ジェームズ・モリアーティの名前が出てくるなんてことがあったりしてな……また伏線張るようなこと考えているけど最近色んな伏線張っていたら現実になったりしているからあんまり考えるのは辞めていた方がいいな……)ジョセフは紅茶を飲みながら昔読んでいたシャーロック・ホームズシリーズの内容を思い出しながらふと、不吉なことが起きては溜まったものではないと考えるのを辞めた。
「ジョセフ君を見ているとリサ王女の婚約者は適任だなと見ていて分かるよ」
「スタンフォードさん、お世辞はいいですよ」
「いいや、私は本当に思っているよ。リサ王女が頑なに婚約を拒否し続けていたのに君を選ぶってことは相当リサ王女が認めているということでもあるからだよ」
スタンフォード氏の一つ一つの言葉からは嘘偽りなく本音を言っているみたいだった。ジョセフが昔読んでいたシャーロック・ホームズシリーズではワトソン博士とスタンフォードは元同僚の間柄らしいので王様にも忠実なる貴族であることは間違いないだろう。
ジョセフは異世界で今までまともな大人に出会うことがなかった為少しホッとしているところがある。スタンフォード氏の紅茶のチョイスが中々いいセンスをしているということだ。
「スタンフォードさん、この紅茶味だけでなく香りもいいですね」
「ほう、ジョセフ君はこの紅茶の良さが分かっているみたいだね。この紅茶はワトソン王国でもかなりの高品質なお茶の葉を使っているのだよ。砂糖がなくてもしっかりと味が楽しめるのもこの紅茶の魅力だよ。もし良ければこの紅茶パックを分けてあげてもいいがどうかな?手紙を配達したお礼として」
「ありがたくいただきます」
スタンフォード氏はとても親切で紳士的なアニメやラノベに出てきそうな貴族のような感じである。
日本でも紅茶を飲む人というのは少なく、コーヒーを飲むのが大人だと言わんばかりにテレビはコーヒーの広告ばかりをしていてジョセフは日本とは紅茶好きにとってはかなり住みにくいなと思っていたのだが異世界では寧ろ紅茶のような飲料水を飲む人の方が多いことに気付きまた異世界での生活に安心感が湧いていた。
異世界にコーヒーがあるのか疑問にも思うのだがジョセフは異世界で初めて美味い!と思えた紅茶に巡り合えたことには感謝感激していた。それをスタンフォード氏が少し分けてくれるというのだからジョセフはお茶の匂いを楽しみながらちびちびとゆっくりと飲むようになっていた。
「やっぱりスタンフォードさんが選ぶ紅茶は間違いありませんわ。この紅茶をジョセフ様と一緒に味わえると考えるだけでも贅沢なのに」
リサもこの紅茶を気に入っていたみたいで、少し大袈裟に言いすぎている部分はあった。
「確かにこのお茶は今まで飲んだお茶の中で一番美味しい……」
「うんうん、この紅茶売っている人見たことないけどどこで売っているんですか?」
テレサが紅茶を美味しそうに飲みながら今まで飲んだ紅茶よりも凄いと感動し、ジンジャーはスタンフォード氏に尋ねる。
「実はこの紅茶は王都でも販売されていないのだよ」
「「なっ!?」」
テレサとジンジャーは同時に声を出し驚く。
「このお茶は私自らが趣味で栽培している高品質なお茶の葉を用いているため大量生産はしていなくてね……」
スタンフォード氏自らが栽培している数少ない貴重な紅茶を頂けるのかと考えるとジョセフは肩を竦め声を詰まらせていた。そんなに大切なものを自分達は提供されているのかとジョセフは考えるだけで色々と迷惑になっていないのか心配になり、これを他の人が栽培してその味を再現できるかも怪しいものだった。
「スタンフォードさん、貴重な紅茶を俺達に提供して下さりありがとうございます。それでは俺達はこの辺りで失礼します」
ジョセフは普段人前で脱ぐことのなかった帽子を脱ぎ、スタンフォード氏にお辞儀をしお礼の言葉を述べ、スタンフォード邸を出る。
「ジョセフ君、君もリサ王女の婚約者であるなら陛下が他の貴族が王位を狙っているのは分かるだろうがこれだけは言っておこう、何があってもリサ王女の傍にいてほしい。王女は生まれ持った能力のせいで心を中々開いてくれなったのを君にかなり開いているみたいだからそれだけはお願いできるかな?」
「ええ、できるだけリサの傍にいられるよう努力します」
「これからも王女と陛下、この国の皆の為に貢献してくれることを祈るよ」
「はい!」
帰り際にスタンフォード氏はリサの傍にいるよう促したりとかなり王女と王様を慕っているのが伝わった。




