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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

紐 ―ひも―

作者: さらら

 モノゴゴロついたときにはそれがもう見えていた。



 ――紐


 ――きらきら光る紐


 ――赤やオレンジや黄色に光る、紐



 人のまわりを、色とりどりに光りながらくるくるとまとわりついている。


 正体は知らない。


 自分にしか見えていないもの、ほかの誰にも見えていないもの。

 だからあれがなんなのか知る人は、いない。


 でも、わたしには見える。

 正体について、さまざまな想像をした。


 誰かが言ってた"オーラ"ってあんなのかしら?

 ううん、ひょっとして守護霊? それとも妖精? 


 なんだろう?



 きらきらきらきら。


 その中でもわたしの幼なじみのようちゃんの紐は、ほんとうにきれい。

 ひときわかがやく暖かいオレンジ色だ。ながい、ながい紐がようちゃんに絡みついて、ようちゃんが、教室のみんなの中でひとり光っている。


 ようちゃんはきれいだ。きれいで優しくて、わたしはようちゃんがだいすきだった。



 ある日、ようちゃんの紐が少し短くなった。色もなんだか薄い気がした。

 わたしはようちゃんをよく見てみたけれど、いつもどおりのようちゃんだった。


 それからしばらくして、ようちゃんは学校に来なくなった。わたしはようちゃんに会いにお家へとなんども通ったけれども、ピンポンを鳴らしても誰も出てこなかった。


 ようちゃん、どこ? お家にいるの? それとも田舎のおばあちゃんのところ?

 わたしのお母さんも何も知らないって。誰も知らないんだって。


 終業式で先生が、ようちゃんはようちゃんのお母さんといっしょにおひっこしをしましたって。


 やっぱり田舎のおばあちゃんのところだ。

 さびしい。住所を教えてくれたらお手紙書けるのに。電話して声を聞きたいよ。かけてくれたらいいのにな。


 でもようちゃんからはなんの連絡もなかった。みんなも同じなんだって。もうひとりのなかよしの、みっちゃんにも連絡はなかったんだ。


 近所のおばさんが、ようちゃんのお父さんが急に出て行っちゃったらしいって。それで何も言わないでお母さんがようちゃんを連れて田舎に帰ったんだって。


 さびしいよ、ようちゃん。せめてお手紙ちょうだいよ。



 それからわたしは大人になった。高校を出てすぐに遠くにひっこし、結婚して子どもが生まれた。

 

 三十歳を越えるころ、紐は突然見えなくなった。きれいだったのにな。


 四十歳を越えるころ、同窓会のお知らせが届いた。出席に丸をした。みんな元気かな。



 久しぶりに故郷へ戻った。同窓会は楽しかった。みんなずいぶん変わっていてなまえを聞かないと誰だかわからない。

 おとなりに座った子は、なんとなかよくしていたみっちゃんだった。みっちゃんはまだ独身で、地元でバリバリ働いているんだって。


 そのみっちゃんが言ったんだ。ようちゃんは死んだんだって。ずっとまえに死んでたんだって。お父さんが出ていって、お母さんは悲しくて悲しくて、ようちゃんを連れて逝っちゃったんだって。


 だからわたしがようちゃんのお家に通ってたとき、あのときはもう、ようちゃんはいなかったんだって。


 ずっと行方不明で、ようちゃんのおじいちゃんもおばあちゃんも、みんなで必死に探したんだけど、終業式のまえに警察から見つかったって連絡があって、わかったんだって。


 そうだったの、ようちゃん。だからお手紙がなかったんだね。知らなくてごめんね。ようちゃんもさびしかったね。




 でもどうしよう、どうしようようちゃん。紐が、紐がね。見えなくなってた紐が。




 みっちゃんのまわりだけ見えるの。みじかくって、まっくろな、紐が。



あの紐ってなんですか?

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