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世界が終わっても君を守る  作者: BNC
第二章 スーパーマーケット編
8/10

第八話 会見

「いまテレビで会見をやっているんですけど、こんなことが世界中で起こってるって……」

「世界中で……」


 状況は充希たちが思っていたよりも深刻なものだった。充希たちはテレビのある従業員用の休憩室へと行くことにした。



*****



 充希たちが休憩室に入ると、そこには従業員のほかにも数人の一般人がいた。きっと彼らもここへ避難してきた人たちなのだろう。そして全員が休憩室にある小さなテレビの前に集まっており、その中には麻衣と彩乃の姿もあった。


「二人とも、こっちこっちッ」


 麻衣は二人に気が付くと手招きをし、二人もテレビの見える位置まで移動した。テレビでは政府の役人が記者会見を開いており、その様子が生中継されていた。


「これは同時多発テロだという意見もありますが、実際のところはどうなんですかッ」

「人為的なものにしては規模が大きすぎるようにも思えますが、その可能性もあります。原因については現在、調査中です」

「外にいる彼らを治す方法はあるんですかッ」

「既に開発には取り掛かっております」


 記者の質問に対し、淡々と受け答えをし続ける役人。そんなやり取りを繰り返しているうちに、次第に記者の緊張も高まってきていた。


「つまりまだ何も分かっていない、そういうことですかッ」

「いえ、分かったこともあります。皆さんもご存知かとは思いますが、噛まれたり、あるいは引っ掻かれたりした場合、彼らの“病気”は伝染します。傷の程度などによって発症までの時間には個人差がありますが、早くて数秒、長くても三時間で発症します」

「分かっているのはそれだけですかッ」

「いえ、まだあります。彼らは通常の人間であれば立ち上がれないほどの傷を負っても動くことができます。仮に心臓を攻撃したとしても、彼らの動きを完全に止めることはできません。動きを止める唯一の方法は頭です。彼らの動きを止めたければ、頭部を攻撃してください」


 その話を聞いて、一人の記者が食いついた。


「治療法が見つかるまで、家族や友人をも殺せっていうのかッ」

「そうです。死にたいのであれば話は別ですが」

「…………」

「彼らは人間を見つけると襲ってきますが、音にも反応します。ですので避難した際には、外からの視界は遮り、なるべく音は立てないようにして過ごしてください。まだ質問はあるかと思いますが、以上で記者会見は終了とさせて頂きます。ここにいる皆さんにもこれから避難していただきます。慌てずに、指示に従って行動してください」


 役人がそう言うと、会見場にいた黒服の男たちが動き出し、テレビの映像はアナウンサーのいるスタジオへと戻された。

 休憩室は動揺のざわめきで満ちていたが、遼は会見が終わるとすぐに走って休憩室を出て行こうとしていた。


「おい、遼ッ!」


 充希が呼び止めるも、遼は振り返らずにそのまま行ってしまった。


「ちょっと遼の様子を見てくる、二人はここにいてくれ」


 充希は二人にそう言い残すと、黙って行ってしまった遼を追いかけ、休憩室を後にした。



*****



 遼を追いかけて充希がたどり着いたのはスーパーの事務所だった。充希が中へ入ると、遼は店員と何やら話をしている。


「――これで大丈夫ですか? ありがとうございます」


 遼は店員に礼を言うと、受話器を手に取り話し始めた。


「あーあー、聞こえますか」


 すると、スピーカーから遼の声が聞こえてきた。さっき店員と話していたのは、店内放送のやり方を聞いていたのだろう。


「あー、外にいるヤツらは見える人間を襲ってきます。ですので外からの視界は遮るようにしてください。入り口のバリケードなんかにも布を被せたりして……お願いします。あと、音です。どうやら音にも反応するようなので、布を被せたりして外から見えないようにしたら、なるべく音を立てないようにしてください」


 事務所には監視カメラのモニターがあり、遼はそれを見ながらさきほどの会見で役人が言っていたことを、下階にいる人たちに伝えはじめた。

 下階にいる人たちもこれを聞いてすぐにバリケードに布を掛けたりとしはじめた。


「外では大変なことが起きていますが、必ず助けは来ます。それまで助け合いましょう……みんなで一緒に乗り越えましょうッ」


 遼がそう言い受話器を置いたとき、事務所に店長が入って来た。


「……君たちか」

「すみません、勝手に……」

「いやいや、とんでもない。本来なら私がいち早く……とにかく、ありがとう」


 店長はにっこりと笑って答えた。


「これから、どうするおつもりですか」

「うーん……」


 充希は店長にこれからのことについて尋ねてみたが、考えあぐねている様子だった。


「いつこの騒ぎが収まるか分からない……もしかしたら長期戦になるかもしれないですし、まずは食糧をしっかりと管理しませんか。みんなが好き勝手に飲み食いすれば、生き延びられる時間はそれだけ短くなりますし……」

「そうだね……いろいろとやることがありそうだ……」


 すると、店長はインカムを使って話し始めた。


久保(くぼ)鈴木(すずき)、上にいたよな?」

「います」

「お客さんもたくさんいて大変だろうから下行って手伝ってきてくれるか。あと下にいる人数も教えてくれ」

「了解です」


 店長は指示を出し終えると、二人に礼を言ってきた。


「二人ともありがとう。とりあえず人数と食糧を把握して……それからどうするか決めるよ」

「何かあれば言ってください、手伝いますから」

「あぁ、ありがとう」


 遼は店長とのやり取りを終えると事務所を出ようとしたが、充希は立ったまま動く気配がない。そんな充希に遼が声を掛けようとしたとき、充希は口を開き、そして店長に尋ねた。


「もう少し、ここにいてもいいですか」

「あぁ、構わないよ」

「ありがとうございます。遼、先に戻っててくれ……」


 充希はなんとも神妙な面持ちをしており、遼はその様子を少し不思議に感じつつも、麻衣と彩乃のいる休憩室へと先に戻ることにした。



*****



「ハァハァ……クソッ!」


 一階の薄暗いバックヤードの隅に座り込んでいたその男は、声を荒げると壁を強く叩きつけた。男はうなだれながら頭を掻きむしったかと思うと、顔をあげて深呼吸をしはじめた。そして男がゆっくりと袖をまくると、腕には歯形の傷がついていた。


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