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世界が終わっても君を守る  作者: BNC
第一章 大学編
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第二話 混乱

ヴォォオオオッ


 教授は雄たけびともいえぬ声をあげると、一目散に充希の方へと走り出した。


「急げッ! こっちに来るッ!」


 充希は叫ぶと麻衣の背中を軽く押した。しかし、ほとんどの生徒が一斉に後ろの出口に集まっていたため、詰まっていて前に進めない。その間にも教授は近くの生徒には目もくれず、充希に向かってきている。


「充希ッ、出れないよッ」


 教授はもうすぐそこまで迫ってきており、両手を伸ばし今にも充希に襲い掛かろうとしていた。


「クソッ!」


 充希は通路の両側にある机に手を置き、そのまま体重を乗せて体を浮かせると、両足で教授の胸を蹴り飛ばした。教授は体勢を崩し、二メートルほど後方に倒れたがすぐに上体を起こした。教授の目はひどく充血しており、その瞳は白内障患者のように灰色がかっていた。体にはいたるところに喰いちぎられたであろう傷があり、肉が見えている。


「なんなんだよ……」


 机や椅子は床に固定されており、近くに武器になりそうなものも無い。出口の方は相変わらず詰まっており、先に進めそうもない。


「掛かって来いよ……あんたの授業退屈でよ、ちょうど体を動かしたいと思ってたんだよ……」


 充希は教室の外に出られるまで、何度でも同じ戦法で時間を稼ぐ決心をしたが、それとは裏腹に教授はまだ恐怖で動けずにいた近くの別の生徒に飛び掛かった。


「痛いッ! いやだッ、助けて! お願い、助けてッ!」


 机にさえぎられ様子こそ見えなかったが、その生徒の悲痛な叫び声が充希の耳に入ってきた。自分が蹴り飛ばしたせいか、そんな自責の念を感じてか、充希には周りの音が聞こえなくなるほどその生徒の叫び声が鮮明に聞こえた。


「充希ッ!」


 麻衣の呼ぶ声で充希はハッとし、眉間にしわを寄せ口を結ぶと突然、麻衣を抱きしめた。


「ッ!?」

「いいか、絶対に離れるなよッ」


 そう言うと、充希は麻衣を抱きしめたまま出口の人波に身をねじ込んだ。大勢の生徒がひしめき合い、声を荒げている、そんな中を充希は力いっぱい麻衣を抱きしめながら必死に前進する。


「うぉぉおおッ」


 そして、充希が力強い一歩を踏み出すと、ようやく教室の外に出れた。しかし、廊下でも大勢の生徒が逃げ惑っていた。


「外だ、外に出るぞッ」


 充希は抱きしめていた麻衣を離すと今度は手を取り、二人は走り出した――



*****



 走って走ってようやく建物の外へと出れた二人。しかし、外の光景を見て麻衣は唖然としていた。


「なんで……」


 建物の外の生徒たちは談笑しながら笑い合い、普通に歩いていたのだ。ちらほらと必死に走っている生徒を見ては、不思議そうにその生徒を見ていた。


「まだあの騒ぎを知らないんだろ…とにかく学校の外に避難しようッ」


 麻衣は大きく頷き、二人は正門に向かって走りだした。



*****



 二人が正門のすぐそばまで来た時だった。


「充希~」


 後ろから充希を呼ぶ男の声がした。充希が振り向くと、そこには(りょう)がいた。


「遼ッ!?」

「よっ、何急いでんの?」


 充希たちの高校時代からの同級生でもあり、充希の親友でもある遼。遼はちょうど大学に来たところのようでまだ何も知らない様子だった。


「お前も逃げるぞッ」

「なんでだよ。てかお前、それどうしたの?」


 遼が指さしたのは、充希の穿いていたジーパンの裾に付着した血だった。充希は若干イライラした様子を見せながらも、早口で先ほど起きた出来事について話した――


「それ、移るのか? マジかよ……」

「わかんないけど、いいから逃げるぞッ」


 突拍子もない話ではあったが、真剣な表情の充希と麻衣を見てすんなりと受け入れる遼。話は終わり、充希は大学の外へ出ようとしたが、遼はその場を動こうとしない。そうしている間にも多くの生徒が三人の横を走って通り過ぎていった。きっと中では事態が悪化しているのだろう。


「なにボサッとしてんだ、行くぞッ」

彩乃(あやの)……たぶんまだ中にいる、あいつ二限からだったから。俺は三限からだったけど、一緒に昼飯食おうって今日早めに来たんだよね………」

「…………」


 彩乃とは大学から付き合い始めた遼の彼女である。彼女は真面目で決して授業をサボるような子ではないことを知っていた充希は何も言うことが出来なかった。


「……わり、先逃げてくれ。後で合流しような」


 そう言うと遼は走り出してしまった。その時、充希の頭の中ではいろんな思いが巡っていた。こんなに人がいるし、見つけられないかもしれない。たとえ彩乃を見つけたとしても、ヤツらに襲われてしまったら二人は振り切れるのか。そして、先ほど教室で見た光景がフラッシュバックした――


「遼ッ!」


 充希が名前を叫ぶと遼は立ち止まった。


「……待ってくれよ、俺も行くに決まってんだろッ」


 死ぬのは当然怖い、しかしそれ以上に親友を死なせたくなかった充希は勇気を振り絞り言い放った。その声は少し震えていたかもしれない。

 それを聞いて遼は手招きをし、充希は遼の元へと駆け寄った。


「……ありがとな。心強いよ」

「親友だろ…それで彩乃ちゃんがどこにいるのか見当ついてんのか?」

「あぁ、連絡は取れないけど、92C教室で中国語の授業を受けていたはずだからとりあえずそこへ行ってみようと思う」

「九号館……」


 九号館、そこは充希たちが必死に逃げて来た場所でもあった。


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