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世界が終わっても君を守る  作者: BNC
第一章 大学編
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第一話 始まり

「充希……充希ッ」


 机に突っ伏していた充希(みつき)が顔をあげると、麻衣(まい)が顔を覗き込んでいた。麻衣は授業中だというのに眠っている充希を心配しているようだった。


「もうすぐテストなんだよ? ちゃんと起きて聞いてなきゃダメじゃん」

「大丈夫……この授業はノートさえあれば単位取れるから」

「でも、ノートも取ってないじゃん」

「……あてがあるんだよ」


 あてがあると余裕そうな表情の充希。すると麻衣はすこし眉間にしわを寄せ、正面を向いて言った。


「言っとくけど、私のは見せてあげないからね」

「………」

「ほら、ちゃんと授業受けよ?」


 さっそくあての外れた充希はしょうがなく姿勢を正し、ペンを握り正面を向いた。しかし大学に入ってからというもの、ろくに字も書いていない充希はペン回しをしたりシャーペンの芯を出したりしまったりと、とにかく落ち着きがない。そしてふと、横にいる麻衣の横顔を見つめた―――


 充希と麻衣は中学からの同級生だったが、中学時代はそれほど接点はなかった。というのも、明るくクラスの中心的存在だった充希とは対照的に、麻衣はいつも一人でいる地味な女の子だったからだ。

 それは同じ高校に進学してからも変わらなかったがある日突然、麻衣は手紙で充希を校舎裏に呼び出した。充希が恐る恐るその場所へ行ってみると、そこに充希の知っている麻衣はいなかった。顔が隠れるくらい長かった麻衣の髪は綺麗ばっさりショートカットになっていたのだ。


「似合うかな」


 はじめて見る麻衣の顔に充希はドキドキしていた。色白く綺麗な肌で、こんなにもかわいい顔をしていたと充希は知らなかったからである。


「うん、すごく……」

「ありがと……」


 少し恥ずかしそうにしながら、麻衣は自分の髪を触った。そして一呼吸いれると、麻衣は真剣な眼差しで充希を見つめた。


「実はね……呼び出したのはね」

「好きですッ」

「えっ」

「付き合ってくださいッ」


 呼び出されたのは充希、そして告白したのも充希であった。安っぽく言えば一目惚れしてしまったのである。自分から告白したのはいつも一人でいる麻衣への配慮だったのかもしれない。


「はい……ッ」


 麻衣は目に涙を浮かべながら返事をした。こうして二人は付き合い始め、同じ大学にも進学した。この関係は二人が大学二年生にあがっても続いていた―――


 付き合い始めてから三年以上経つのに、麻衣の真剣な顔を見ては付き合い始めた日のことを充希は思い出していた。


「どうしたの?」

「シーッ! 授業中ですよ?」


 自分の顔を見つめる充希を不思議がって麻衣が尋ねるが、急に優等生ぶって誤魔化す充希。麻衣は少し呆れた様子でそれ以上は聞かなかった。



*****



「えぇーですから、ジェンダーに関する問題は今日まで――」


 そこそこ広い教室の中央後方に座っていた充希は教室を見渡した。眠っている人、携帯をいじっている人、いったいこの教室のどれだけの人が真面目に授業を聞いているのだろうか。そんなことを考えていると、教室の前の方でやたらと咳をする人に気が付いた。


「ゴホッ……ゴホッ……ンンッ」


 さっきまでは聞こえなかったが、どうやら咳が止まらなくなっているようだった。そして次第に咳がひどくなってきた、次の瞬間、


「ゴホッゴホッ……エン゛ッ! ウウッ………」


 ひどく咳き込むと同時に胸を押さえ、机と机の間の通路に倒れこんでしまった。その生徒が前の方に座っていたこともあり、教授はすぐに気が付き駆け寄った。


「キミ、大丈夫かねッ」


 教授は倒れた生徒の体を揺すりながら呼び掛けるが、意識を失っているのか全く反応がない。


「キミ、救急車呼んでッ! キミは医務室の先生呼んできてッ」


 教授は近くの生徒に指示を出すと、倒れた生徒に何度も呼びかけを続けた。


「大丈夫かな」

「分からない……」


 二人にはただ見ていることしか出来なかった。教授は一人で何やらぶつぶつ言うと、倒れた生徒のカバンをひっくり返し、中身を机の上に出した。持病を疑ったのだろうか、しかし中にそれらしきモノは入っていなかった。


「誰かこの子の友達はいないのかッ! 何か聞いてないかッ」


 教授がそう言った時、倒れていた生徒が立ち上がった。


「良かったッ! 座ってなさい、もうすぐ医務室の先生が来るから」


 しかし、生徒は俯いたまま何も言わない。教授は座らせようと生徒の肩に手を置いた。その時、いきなり生徒は教授を押し倒して馬乗りになった。そして首筋にかじりついて皮を剥ぎ、血が散った。


「うぁぁあああッ!」


 教授の叫び声が教室中に響いた。あまりの突然の出来事に一瞬、教室の時間が止まった。そして次の瞬間、魔法が解けたかのように生徒が一斉に声を荒げながら出口へと向かった。充希たちも他の生徒同様に固まっていたが、先に冷静さを取り戻したのは充希だった。


「逃げよう……」

「…………」


 充希が呼び掛けるも麻衣の反応がない。どうやら恐怖で固まってしまっているようだった。


「麻衣ッ! 逃げるぞッ!」

「……ッ!」


 充希が麻衣の体を揺すりながら再度呼び掛けると、麻衣は我に返った。そして二人は立ち上がり、通路へと出た。出口は教室の前と後ろに一つずつあるが、前の出口の近くにはヤツがいる。


「後ろだッ! 後ろから出るぞッ!」


 後ろの出口に向かいながら充希が振り向くと、ヤツは教授から離れ、逃げ惑う生徒に飛び掛かり襲っていた。その時、教室の前の方で血まみれの男が俯いたまま立っているのを充希は視界の隅に捉えた。


「教授……?」


 それが教授だと気付くのに時間は掛からなかった。血まみれの教授はゆっくりと顔をあげ、辺りを見回した。その様子は明らかに普通ではなく、充希が言葉を失い固まっていると、教授と目が合ってしまった。


ヴォォオオオッ


 教授は雄たけびともいえぬ声をあげると、一目散に充希の方へと走り出した。


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