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シロの記憶はなかなかもどらなかった。
「クロ! これはどういうことだ!」
ある日、やっとこ次の島に到着した。
街で買い物をしているときに、たまたま見かけてしまった。
シロは、トラファルガー・カナタの手配書をクロに見せる。
「あーーー、えっと、うーん」
クロは吃る。
「指名手配犯じゃないか それに2億って!」
シロはトラファルガー・カナタが医者だと紹介されていた。
しかし、手配書を見て名前と顔が一緒だったから本人だと思った。
手配書に映っている刀も同じだ。
「カナタは指名手配犯だけど悪い人じゃないよ」
クロが茶々入れず冷静に真剣にシロの目を見て答える。
「だとしても危険だろ!! 身辺調査はしたのか? してないなら俺がしてくる」
シロが今にも出て行きそうに腰を上げる。
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「分かった、落ち着け、話すから。
カナタは盗賊団長だ。お前はカナタをかばって銃弾を浴びたんだ。
俺は本当は団長じゃない」
クロが言った。
話す時が来た。
ここで言わなくとも、疑問をもったシロは自身で調べるだろう。
「……そう…………なのか……迷惑かけたな」
シロは動揺し、後ずさったが真実を受け止めた。
「いや、俺はいいんだけど……」
すぐには納得しない内容だったと思ったが、予想外にシロは物わかりが良かった。
もしかしたら薄々気づいていたのだろうか。
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それから記憶を取り戻すために根掘り葉掘り仲間に聞いた。
「俺、この船でどういう位置だったんだ?」
シロがクロに尋ねる。
「ん、そりゃーあの根暗な団長のお守役だよ!」
クロがいう。
「え、……そうなの」
あの怖そうな、薄気味悪そうな、ひどくの目つきが悪く、反論は一言も許さなそうな人のか?
そう呆気にとられて考えてみると確かに、俺が黙って見ていなさそうだなとわかった。
外に連れ出したときは案外すんなりついてきた、根は良い人なのだろう、じゃなければこれほど慕われない。
とりあえずカナタとたくさん話せというクロからのアドバイス。
一般的な思い出すトリガーとしては、同じショックを与えるといいと聞く、ということは銃弾をもう一度受けると言うことなのだが、それは危険すぎる。
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クロから、本当の事実を聞いた。
それは到底事実だと受け入れがたかったのだが、この島で聞けばホントか嘘かわかることだ。
こんなバカげた嘘をクロが言うとは考えにくい。
正直、今も動揺していて、消化できないが、クロから聞いたからには、カナタに伝えなくてはならないだろう、なんせ団長なのだから。
シロはそう決心し、カナタに会いに団長室へ向かった。
「カナタ団長、俺が記憶喪失だってクロから聞きました。初めからおかしいと思っていたんです。
俺を庇ったと初め、俺が目を覚ました時に言っていたでしょう。
俺はクロを庇ったと記憶していた。だから辻褄を合わせにその場に居合わせたことにしたのでしょう。
いまとなっては失礼を承知で言いますが、もし本当に庇っていたとして、一般人に命を擲ってでも庇うというのが釈然としなかった、理由か解らなかったのですが、本当に俺がカナタを庇ったということだったのですね」
それからクロから聞いたことを伝えた。
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「シロ」
シロの話を聞いて、ああ、事実を知っってしまったのか、とカナタは動揺して言葉が出なかった。
事実はいつかはバレる、そう気づいていたはずなのに。
「いままで生意気な口をきいてすみませんでした。
団長に手を挙げた俺を殺すも降ろすも、団長の指示に従います」
シロが頭を下げた。
「あの件は誰のせいでもない、不問だ。降りるな」
カナタが言う。
殺せなど簡単にいうな。とそう思ったが口に出して言う勇気はない。
「分かりました、忘れてしまい申し訳ありません、思い出す手段があるならばなんでもやりますので、お申し付けください。」
シロがそういってあっさり引き下がった。
「あと、団長の身の回りの世話を俺がしていたと聞いたのですが、これからどうすればいいですか?」
シロが尋ねる。
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カナタはシロの問いになんと返答しようか思考した。
一身を投げ打って俺を守るのはどうかしている。
それは団員全員に言えることなのだが、シロはその投げ売り方が人一倍狂っている。
もしかしたら、この記憶喪失のままの方が幸せなのじゃないかと、シロ自身を大切にしてもらうチャンスなのではないかと考えた。
グルグルと複雑な感情が胸の中でとぐろを巻きかき回す。
どんなに考えたところで結局、そういう他人の気持ちは本人じゃなければ分からない。
今回の事例に至っては誰にも正解は分からない。
俺にとっては……。
身の回りの世話を買って出るとしても、見ず知らずの人の世話をするのはどうなのかと思うが、シロは自ら受け入れようと努力してくれている。
俺にとってもシロに世話を焼かれるのが好きだったので、頼もうと思っていた。
「あと、良ければ能力のこと教えていただけませんか、知っておかないと巻き込まれてしまいそうなので」
シロがや続きにいう。
「ああ、これだ『ROOM』」
「わ、なんだこれ、触って平気なんですか」
シロが初めて見たように驚きながら言う、実際彼の中では初めてなのだろう。
「ああ」
カナタが能力についてシロに掻い摘んで説明した。
手元の本とコインを入れ替えてみせる。
シロは恐る恐ると言った感じに『ROOM』の境目を手で往ったり来たりさせた。
その時に、一つ朗報なのか吉報なのか、僥倖か奇禍か、シロは不可解なことを口にした。
『ROOM』の境目をみて、シロの口から『青紫』という単語が出たのだ。
「これが青紫に見えるのか?」
シロに問う。
「え、はい、俺の目には……」
シロは何か変なことを言っただろうかという訝しげに言う。
「あれは何色だ」
カナタは続けざまに色をシロに問うた。
シロは怪訝そうにしたが、これも何かの記憶を取り戻す足がかりなのだろうと思ったのか、素直に答えてくれた。
シロは色が見えている、そのことが分かった。
記憶喪失前、幼少期までは色が見えていたという。
だから色の名前は分かるのか。
腦に銃弾を受けたせいで神経回路が刺激されたのか?
これは一時的なものなのか?
時間が経てば戻ってしまう可能性は?
これは記憶が戻ったら見えなくなってしまうのだろうか、という不安がカナタの脳裏によぎる。
腦は解明されていないことが多い、記憶を取り戻したら、もしかしたら色が見える見えないでは済まなくなるかもしれない。
不安感が急速にふくれ上がる。
「団長、何を考えているか教えてもらえませんか、もし、俺に遠慮してるならしなくていいです」
俺の動揺が見えたのだろう、シロがそんなことを口走る。
『記憶のあるお前は色が見えない』と言うべきか?
言うメリット、隠すメリットは?
どちらがいいか瞬時に決められなかった。
「あ、不躾すぎましたね、申し訳ありません、ちょっとどういう塩梅な尺度なのか測りかねていて、必要な事だけ指示を頂ければ」
カナタが返答しないのを見かねてまたもやシロは引き下がった。
シロ自身も自分の立場を決めあぐねているのだろう。
少し出て反応が悪ければ身を引く、そうやって立ち位置を見定めているのが分かった。