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記憶喪失  作者: はにょ
4/8


シロの記憶はなかなかもどらなかった。



「クロ! これはどういうことだ!」

 ある日、やっとこ次の島に到着した。

 街で買い物をしているときに、たまたま見かけてしまった。

 シロは、トラファルガー・カナタの手配書をクロに見せる。

「あーーー、えっと、うーん」

 クロは吃る。


「指名手配犯じゃないか それに2億って!」

 シロはトラファルガー・カナタが医者だと紹介されていた。

 しかし、手配書を見て名前と顔が一緒だったから本人だと思った。

 手配書に映っている刀も同じだ。




「カナタは指名手配犯だけど悪い人じゃないよ」

 クロが茶々入れず冷静に真剣にシロの目を見て答える。


「だとしても危険だろ!! 身辺調査はしたのか? してないなら俺がしてくる」

 シロが今にも出て行きそうに腰を上げる。



「分かった、落ち着け、話すから。

 カナタは盗賊団長だ。お前はカナタをかばって銃弾を浴びたんだ。

 俺は本当は団長じゃない」

 クロが言った。

 話す時が来た。

 ここで言わなくとも、疑問をもったシロは自身で調べるだろう。



「……そう…………なのか……迷惑かけたな」

 シロは動揺し、後ずさったが真実を受け止めた。



「いや、俺はいいんだけど……」

 すぐには納得しない内容だったと思ったが、予想外にシロは物わかりが良かった。

 もしかしたら薄々気づいていたのだろうか。



それから記憶を取り戻すために根掘り葉掘り仲間に聞いた。

「俺、この船でどういう位置だったんだ?」

 シロがクロに尋ねる。


「ん、そりゃーあの根暗な団長のお守役だよ!」

 クロがいう。


「え、……そうなの」

 あの怖そうな、薄気味悪そうな、ひどくの目つきが悪く、反論は一言も許さなそうな人のか?

 そう呆気にとられて考えてみると確かに、俺が黙って見ていなさそうだなとわかった。

 外に連れ出したときは案外すんなりついてきた、根は良い人なのだろう、じゃなければこれほど慕われない。


 とりあえずカナタとたくさん話せというクロからのアドバイス。


 一般的な思い出すトリガーとしては、同じショックを与えるといいと聞く、ということは銃弾をもう一度受けると言うことなのだが、それは危険すぎる。



クロから、本当の事実を聞いた。

 それは到底事実だと受け入れがたかったのだが、この島で聞けばホントか嘘かわかることだ。

 こんなバカげた嘘をクロが言うとは考えにくい。


 正直、今も動揺していて、消化できないが、クロから聞いたからには、カナタに伝えなくてはならないだろう、なんせ団長なのだから。

 シロはそう決心し、カナタに会いに団長室へ向かった。


「カナタ団長、俺が記憶喪失だってクロから聞きました。初めからおかしいと思っていたんです。

 俺を庇ったと初め、俺が目を覚ました時に言っていたでしょう。

 俺はクロを庇ったと記憶していた。だから辻褄を合わせにその場に居合わせたことにしたのでしょう。


 いまとなっては失礼を承知で言いますが、もし本当に庇っていたとして、一般人に命を擲ってでも庇うというのが釈然としなかった、理由か解らなかったのですが、本当に俺がカナタを庇ったということだったのですね」

 それからクロから聞いたことを伝えた。



「シロ」

 シロの話を聞いて、ああ、事実を知っってしまったのか、とカナタは動揺して言葉が出なかった。

 事実はいつかはバレる、そう気づいていたはずなのに。


「いままで生意気な口をきいてすみませんでした。

 団長に手を挙げた俺を殺すも降ろすも、団長の指示に従います」

 シロが頭を下げた。


「あの件は誰のせいでもない、不問だ。降りるな」

 カナタが言う。

 殺せなど簡単にいうな。とそう思ったが口に出して言う勇気はない。



「分かりました、忘れてしまい申し訳ありません、思い出す手段があるならばなんでもやりますので、お申し付けください。」

 シロがそういってあっさり引き下がった。



「あと、団長の身の回りの世話を俺がしていたと聞いたのですが、これからどうすればいいですか?」

 シロが尋ねる。



 カナタはシロの問いになんと返答しようか思考した。



 一身を投げ打って俺を守るのはどうかしている。

 それは団員全員に言えることなのだが、シロはその投げ売り方が人一倍狂っている。


 もしかしたら、この記憶喪失のままの方が幸せなのじゃないかと、シロ自身を大切にしてもらうチャンスなのではないかと考えた。


 グルグルと複雑な感情が胸の中でとぐろを巻きかき回す。

 どんなに考えたところで結局、そういう他人の気持ちは本人じゃなければ分からない。

 今回の事例に至っては誰にも正解は分からない。


 俺にとっては……。


 身の回りの世話を買って出るとしても、見ず知らずの人の世話をするのはどうなのかと思うが、シロは自ら受け入れようと努力してくれている。


 俺にとってもシロに世話を焼かれるのが好きだったので、頼もうと思っていた。



「あと、良ければ能力のこと教えていただけませんか、知っておかないと巻き込まれてしまいそうなので」

 シロがや続きにいう。


「ああ、これだ『ROOM』」


「わ、なんだこれ、触って平気なんですか」

 シロが初めて見たように驚きながら言う、実際彼の中では初めてなのだろう。


「ああ」

 カナタが能力についてシロに掻い摘んで説明した。

 手元の本とコインを入れ替えてみせる。


 シロは恐る恐ると言った感じに『ROOM』の境目を手で往ったり来たりさせた。

 その時に、一つ朗報なのか吉報なのか、僥倖か奇禍か、シロは不可解なことを口にした。

『ROOM』の境目をみて、シロの口から『青紫』という単語が出たのだ。


「これが青紫に見えるのか?」

 シロに問う。


「え、はい、俺の目には……」

 シロは何か変なことを言っただろうかという訝しげに言う。


「あれは何色だ」

 カナタは続けざまに色をシロに問うた。


 シロは怪訝そうにしたが、これも何かの記憶を取り戻す足がかりなのだろうと思ったのか、素直に答えてくれた。


 シロは色が見えている、そのことが分かった。

 記憶喪失前、幼少期までは色が見えていたという。

 だから色の名前は分かるのか。

 腦に銃弾を受けたせいで神経回路が刺激されたのか?

 これは一時的なものなのか?

 時間が経てば戻ってしまう可能性は?

 これは記憶が戻ったら見えなくなってしまうのだろうか、という不安がカナタの脳裏によぎる。

 腦は解明されていないことが多い、記憶を取り戻したら、もしかしたら色が見える見えないでは済まなくなるかもしれない。

 不安感が急速にふくれ上がる。



「団長、何を考えているか教えてもらえませんか、もし、俺に遠慮してるならしなくていいです」

 俺の動揺が見えたのだろう、シロがそんなことを口走る。


『記憶のあるお前は色が見えない』と言うべきか?

 言うメリット、隠すメリットは?

 どちらがいいか瞬時に決められなかった。


「あ、不躾すぎましたね、申し訳ありません、ちょっとどういう塩梅な尺度なのか測りかねていて、必要な事だけ指示を頂ければ」

 カナタが返答しないのを見かねてまたもやシロは引き下がった。




 シロ自身も自分の立場を決めあぐねているのだろう。

 少し出て反応が悪ければ身を引く、そうやって立ち位置を見定めているのが分かった。

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