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カナタの心境はいかなるものか、シロ以外の団員みんなが気にしていた。
なぜなら、シロはカナタ以外にはいままで通り接したからだ。
普段、カナタは団長室に篭り、シロがずっと部屋にいるのはよくないからと引っ張り出していた。
それだのに、クロが団長だと認識したことにより、カナタの居場所がなくなった。
そのためクロが、シロの命の恩人だからとカナタに団長室を明け渡しているという設定にした。
ホームに応接室はない。
シロは、団長室を見ず知らずの者に明け渡すなど言語道断だと、何を考えているのか、血迷ったかと、本当にカナタという人間は安全なのか?
大太刀なんか持っているじゃないかと反論したが、見せてはいけない資料を部屋から抜き、大丈夫大丈夫、信じてくれよ! とクロがなぜか絶対の信頼を寄せているかのように言うので渋々承諾した。
というわけで、本団長のカナタは無事、団長室に居られることになったのだが――。
「だんちょーだんちょー、篭ってないで出てきてくださいよ~~」
シロが居ないことを確認し、団長室に押し掛けクロが切願する。
カナタが普段以上に団長室に引きこり、出てこなくなった。
「忙しい」
カナタが答える。
「いやいやいやいや、忙しいって、そりゃないですよ~。シロと話したほうがシロの脳の刺激になっていいんじゃないですか? 思い出すきっかけになるはずですよ?」
クロが言ってもカナタは聞いてくれない。
埒が明かない。
カナタからのアプカナタチはやめた。
シロからカナタに話しかけてもらおうと、クロは作戦をシフトチェンジした。
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「よっシロ! カナタに夕飯だって伝えてくれよ」
クロがシロにお願いする。
「…………わかった」
あからさまに嫌な顔をしたが、渋々といった感じに承諾してくれた。
記憶のあるシロだったら、お前がやれと返すところだが、クロを団長だと思ってるだけはある、クロの命令によく従うのだ。
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「カナタ? 夕飯なので食堂にきてください」
シロが団長室をノックし、声をかける。
「……わかった」
しばらくしてカナタが部屋から出てきた。
「わざわざ呼びに来なくても自分から来てください。でないと、抜きになりますよ。
あまり部屋に篭りっぱなしだと体に悪いですよ。たまには人と会話をしてください。
あと、たまには日光浴しないと体調を崩しますよ。病気にでもなられたら困る」
シロがカナタに言う。
「……ああ」
カナタ思考半分に返事をする。
「本がそんな好きなんですか? クロが無駄に買い込んで……出費で困っています。カナタの暇つぶしになるんだったらよかった」
カナタが片手に抱えている本を見て尋ねる。
「……」
シロは、記憶がなくとも俺には小言を吐くんだな、と、その口をはさめぬ弾丸トークがまた聞けて微笑ましく、同時にやはり寂しさがこみ上げた
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もともとシロは、カナタが不在のときのまとめ役だ。
カナタには放浪癖があるのでふらっと誰にも何も言わずいなくなることがある。
団長ががいなくなるなんて或ってはならないこと……だと思うのだが、暗黒盗賊団にとってはもうあたりまえなので、そこまで大騒ぎにはならない。
シロは口を酸っぱく、どこか行くなとは言いませんから、せめて行く先を告げてください。
とカナタにそう言っていた。
シロは副団長という肩書はないが、(カナタが副団長という役職を作らないでいるためだ)カナタの秘書のようなポジションだ。
わがホームにおいての雑務、庶務のすべてをシロは管理し、処理していた。
出納、備品のチェックetc……上げることすら億劫な本人しか把握していないこともあるだろう。
それらは自分の仕事だと考えているのか、几帳面な性格は生まれつきなのか、わがままなカナタの隣に居るためにそういう性格になったのか。
加入歴も結成時げからなので団員にもカナタの次に頼りにされている。
世話焼きな性格は、案外カナタの右腕という存在に馴染んでいた。
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シロが記憶喪失の間、クロは、シロが求める仮団長というポジションをそりゃ上手いことこなして見せた。
もともと、カナタは暗黒盗賊団において戦闘と医療以外はほぼほぼノータッチだ。
全般を任されているのがシロだったのだからカナタの役目は少ない。
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シロが記憶喪失中、とある盗賊団と出くわした。
カナタはどうしたかというと、何もしなかった。
シロにクロが、治り開けなのだから参加するなと言ったのだがきかなかった。
シロの動きに不自然なところはなかった。
カナタは戦闘をちらりと見学していた。
その間、シロの記憶喪失目線で現状況を考えてみる。
自分が除外され、不必要な世界をありありと目の当たりすると、皆同じつなぎ、能力者0でとても統一感があり、もともとこういう盗賊団だっただという疑う余地はない。
カナタに御揃いのつなぎはない、服装からしても、もともと不自然な存在のように思えてきて、自分はいらないものだったのかという気分になった。
初めからこういうものだと納得すればなんて受け入れやすいのだろう。
別に、このままでいいんじゃないか、そう考えたら血の気の退く感覚を味わった。
慕ってくれなくても、生きててさえくれればいい。
俺が団長じゃなくても成立することが証明された。
これなら安心して俺一人離れられる。
情が湧くと離れがたい、今経験できてよかった。