銃弾を頭に受けたら、大切な人を忘れました
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記憶喪失
カナタは思ったことを口にしない。
カナタがシロに対して『お前はいつも頼りになる』と言ったことはない。
感謝の言葉も愚痴にかわる。
カナタは本を読んだり研究に没頭すると睡眠も食事もおろそかになる。
寝てください、食べてください、カナタのことを心配して言う言葉に対して、うるさいだのお前はおれの母親かだのいつも言い合いをしている。
カナタは誰に対しても敬語を使わない。重要な場であってもだ。
それで取引先を怒らせることが多々ある。なので交渉を取りまとめるのも、いざこざを収めるのもシロの仕事だった。
必要物資の調達、団員のシフト表、シロが出来ることならすべてシロに一任していた。
結成直後は、言うことを聞いてくれないカナタに対してシロが怒り、二人のギスギスした雰囲気が伝染し団員が困ったことが多々ある。
なんせ、盗賊団員を仕切っているのはシロも同然なのだ。
シロが怒っていると盗賊メンバーの雰囲気が気まずい。
シロが仕事を投げ出して出て行った場合、どうしていいかわからない。
カナタも団長なのだから把握はしているだろうし、できなくないと思うがシロがやらないのにカナタが代わりにやるという発想にはまずならない。
よく、シロは投げ出さず勤めていると思う。
俺だったら発狂する。
だが、シロにだって出来ないことはある。
それをカナタは黙ってカバーしていた。
■
ある日、敵との戦いになった。
カナタは電池切れ寸前だった。
敵の攻撃を防ぐのが精いっぱいで反撃は不可能、そこに避けられぬ銃弾が飛んでくるのが分かった。
覚悟したが、まさかカナタをかばってシロが頭に銃弾を受け、そのままが地べたに突っ伏した。
「シロっ!!!」
カナタが叫ぶ。
頭はまずい、致命傷になりえる。
「カナタ……ぶ、じか?」
閉じた目を緩く開け、シロがカナタの安否を問う。
言葉は亀のようにノロい。
「しゃべるな!」
カナタがシロに懇願する。
「……ろ、を、まも、れる、なら……な、んだって……ぃ」
『カナタを守れるなら、何だっていい』
そう言って、シロは意識を失った。
今の俺の力では目の前の敵に太刀打ちできない。
なにか打開策を考えろ。
どんなにみじめでもいい、逃げる時間が稼げれば………。
絶体絶命だった。
その時、敵はなにやら通信が入ったらしい、俺たちを殺さず行ってしまった。
命拾いした。
「はぁ……はぁ……シロっ死ぬな!!」
能力で移動することはやめ、シロを左腕の脇に抱え、足はひきづるように運ぶが1メートル進むのすらやっとだ。
団員皆が満身創痍で、無傷なものがいないため代わりにシロを運んでくれる者はいない。
シロの傷を診たところ出来ることは止血して縫うくらいだ。
能力が必ずしも必要というわけではないが、脳は些細な手の狂いで損傷させてしまったら取り返しがつかない部分だ、何とか体力を回復させて治療に挑みたかった。
カナタ自身も深手を負っており、意識が朦朧としている。
進むが自分だけならまだしも、気絶しているシロを運ぶのは一苦労だ。
互いに身体はいたるところが傷だらけで、そこから滲んでいる血が床を点々と赤く汚している。
トびそうだが、気力をしぼり、命を削ってでも助けなくてはならない。
団員の大半が負傷している。
助けられるのは自分しかいない。
カナタが執刀医、軽傷なものを助手としてシロを手術した。
「クロ…………あとは頼む」
いつ意識を失ってもおかしくない状態でオペをし、案の定途中で気絶した。
「……はい」
そこからはクロが引き継ぎ、無事オペを終了させた。
クロは医療の腕がいい。カナタといい勝負だ。
だが、クロも負傷しており頭蓋骨を閉じる比較的安易な仕事だけ請け負った。
■
「……」
カナタが目を覚ました場所は医療室だった。
俺はなぜここにいる? そうだ、手術の途中で気を失ったのか。
………シロはどうなった、あれからどれくらい時間が経過したんだ?
起き上がりろうとしたが、能力の使いすぎとその状態でオペもしたのだ。
体どころか指1ミリも動かない。
自身の左腕をみれば、点滴が腕に刺さっていた。
出来ることは目を開けることと思考くらいだった為、仕方なしに目を瞑る。
しばらくの間、カナタはそうして動かず大人しくしていた。
庇ったシロの姿が瞼の裏に蘇る、ただただ不快だった。
しばらくして、クロが入ってきた。
「あ、だんちょ~~! おっはよーございまーす!! シロなら無事ですよー。あそこで眠ってます。まだ目は覚ましてません。あれから大体24時間経ちました」
カナタは言葉を発していないが、聞きたい事をテレパシーが如くクロが答えた。
丸一日もダウンしていたなんて、情けない。
「水飲めますか?」
クロがカナタに尋ねながら、水を飲ませようと口もとに吸い飲みを近づけ、水を飲ませてくれる。
冷たい液体が食道に流れる感覚がはっきりと感じた。
「……ぁ………」
あれからどうなった、全団員の状況は、被害状況は、聞きたいことは山ほどあるが、カナタは声が出なかった。
「大丈夫っすよ! 死人はいません。安心して体を休めてあとでシロ診てやってくださいね」
そうクロがテンション高めにカナタに言った。
カナタは、非常に不服だが、今自分の体は動かない。
体は休息を求めているのだから従うしかない。
そう思い、眠った。
■
カナタが回復しても、シロは数日目を覚まさなかった。
シロの手術は問題なく成功した。
だが、損傷を受けたのは腦だ、このまま植物状態になる可能性だって十分にあり得る。
「…………シロ…………」
目覚めるかどうかは誰にも分からない。
今日も目を覚まさないだろうか、そう思っていた矢先シロの手がピクンと反射的に動いた。
「シロ!」
いきなり大声で声をかけていけないという医者でなくと分かることも冷静に対処できず、声をかけてしまった。
「…………」
ゆっくり目を開けたシロは、俺を見るや咄嗟に体を腹筋の力で起こし、手刀を向けてよこした。
「う」
が、シロは頭に穴が開いてるのだ、急に動いたからだろう、頭を押さえて苦痛に顔を歪めている。
「シロ? 俺を庇って頭に銃弾を受けたんだ、まだ傷はふさがってねェから動くな」
シロはなぜか俺に非常に敵意を向けている。
「お前は何者だ? クロはどこにいる」
シロが用心しながら訪ねる。
数日寝ていたのだ、声がかすれている。
「…………? 俺はトラファルガー・カナタ。クロは今は食堂にいると思う」
『お前』という2人称に驚く。
(記憶が混乱しているのだろうか?)
とりあえず、シロの質問に正しくカナタが答えた。
「…………」
シロは答えを聞いて満足したのか、まだ動いてはいけないと言ったのに起き上がり部屋から出て行こうとする。
「お、おい、シロ!どこへ行く!」
カナタがシロに声をかけながら触ろうとしたら、シロの体は避けるように動き、カナタの質問にも答えず部屋から出て行ってしまった。
どういうことなんだ……。
カナタは様子のおかしいシロを放っておくことが出来ず、遠目からついていくことにした。
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