さ迷える白骨に安らぎをどうぞ
序章1 オークに手こずったのはリリィ・バグナール
「ロイ!そっちに行った!」
リリィの振り下ろしたブロードソードを、巧みにかわしたゴブリンが、次なる獲物を狙い、駆け抜けた。
攻撃をかわされたリリィは、ゴブリンを追おうとするが、その行く手を阻まんと、次なる魔物がたちはだかる。
鼻息荒い豚面の魔物、オークだ。
生意気にも、皮鎧を身にまとい、長剣を手にしている。
ただ、ろくな手入れもしていないのだろう、剣の表面には、錆が浮き、本来の切れ味は、到底望めるものではない。
しかし、力任せの一撃が当たりでもしたら、骨折くらいは覚悟せねばなるまい。
「早く終わらせたいんだよね」
ブロードソードの柄を両の手で握りしめ、構えた剣の先をオークの方に向け、間合いを測る。
剣の表面には、魔法語が刻まれていた。
それほど、体躯に恵まれていない少女が、これだけの長剣を苦もなく振り回せるのは、剣自体に、軽量化の魔術が付与されているからだ。
「終わらせる!」
口にするが早いか、一度、剣を右の肩に担ぎ上げ、大きく踏み出し、間合いを詰める。
オークの剣が、少女の肩口から袈裟懸けに振り下ろされる。
その動きを見定めた少女は、さらに踏み込むと、オークの懐に飛び込み、その右腕を狙い、担いでいた剣を凪ぎ払う。
定めた狙い通り、オークの右手首から先は、肘関節に別れを告げた。
攻撃の手を緩める余裕などない。
瞬時に柄を握る手を切り返す。
踏み込んだ足を軸に、体を大きく回転させ、剣の軌跡を変える。
振り回した剣の刃が、オークの顔半分を抉り取った。
血しぶきが、リリィの左半身をどす黒く染め上げた。
リリィは、力無く大地に倒れ伏すオークを尻目に、苦戦している弟のもとに走った。
序章2 ロイ・バグナール、無様に生き延びる
「ロイ!そっちに行った!」
寄越すな!
ロイは、叫び出したくなる衝動を抑えつけ、戦況を確認した。
眼前には、ゴブリンが二匹。
何処かで拾ってきたような短剣に、腐りかけた皮鎧の欠片を身にまとっている。
姉がうち漏らしたゴブリンが追加で、もう二匹。
こちらも、使い古した棍棒を闇雲に振り回している。
十把一絡げの有象無象とはいえ、手に獲物を持てば、十分な脅威になりえる。
今、手にしているウォーハンマーが、購入したばかりで、手に馴染んでいないことも、ロイにとっては、不運だった。
剣と違い、決定的なダメージを与えられる部位が限られている。
先端部に付いている鳶口が、敵の体に当たれば、かなりのダメージを、期待できるのだが、扱いに慣れていないので、今一つ期待通りの展開にならない。
ゴブリンどもの繰り出す攻撃を、左腕に構えた盾で受け流すのが、精一杯だ。
(何か突破口があれば…)
ゴブリンの剣を盾で受け止め、力ずくで押し返す。
バランスを崩したゴブリンの頭めがけ、ウォーハンマーを叩きつけた。
肉と骨が潰れる感触が、金属の塊を伝い、ロイの掌を苛立たせる。
返す刀ならぬ金属塊を振り上げ、もう一匹のゴブリンを打ち据えようとしたその時だ。
右の太ももに鈍痛が走る。
見れば、遅れて参戦したゴブリンが、こん棒片手に、奇声をあげながら、次なる獲物に照準を絞っているではないか。
「くあっ!」
敵を前に、弱味を見せてはならない。
声にならない悲鳴を無理矢理飲み込み、痛みの根元を睨み付ける。
ゴブリン二匹は、醜悪な笑みを浮かべ、これ見よがしに棍棒を構えている。
前後を挟まれた形になるロイ。
お互いに、次の一撃を繰り出すタイミングを探っている。
どうしても、間合いがはかれない。
じりじりと距離を詰めてくるゴブリン。
(一か八か、か)
二匹を背に向けるのは、あまりにも、危険すぎる。
当たれば、一撃で葬ることは出来るだろう。
とにかく、頭数を減らすことを最優先に、動くべきだ。
と、なれば。
二匹のゴブリンの方に、向き直り、猪突猛進、突っ込んでいき、盾を投げつける。
当たる、当たらないは二の次。
とにかく突破口を見出だすために、隙を作らねばならなかった。
思いがけない行動に、ゴブリンたちも、一瞬、動きが止まる。
その瞬間を見逃すロイでは、無い。
たまたま、手前にいたゴブリンが不幸だったようだ。
ウォーハンマーの先端が、着ていた皮鎧を突き破り、肋骨すべてを破壊し尽くした。
血泡を吐いて地面に這いつくばるゴブリンを飛び越え、もう一匹にウォーハンマーを振り下ろさんとした時だった。
先ほど負傷した脚に激痛が走る。
想像をはるかに越えた痛みに、思わず膝から崩れ落ちた。
(しまった!)
異変に気づいたゴブリンが、狂喜乱舞して、襲いかかってきた。
盾を投げ捨てたのが、裏目に出てしまった。
棍棒の一撃を、ウォーハンマーのシャフトで受け止める。
激痛で、思うような動きがとれない。
調子づいたゴブリンは、太鼓でも叩くかのように、何度も打ち据える。
反撃に転じたいロイに、さらなる悲劇が降りかかる。
視界の片隅に、もう一匹のゴブリンが入り込んだからだ。
錆びた短剣を握りしめ、ギラついた目で、様子を伺っていた。
両手が塞がっている今、奴にとって、絶好の機会がやって来た。
弓から放たれた矢のように、ゴブリンが突っ込んでくる。
身をかわそうとしても、目の前のゴブリンを振り払うこともできない。
ロイは、棍棒を受け止めているウォーハンマーをねじり、力の向きを変えた。
バランスを崩したゴブリンが、つんのめる。
がら空きの顔面めがけ、力任せに拳を叩き込んだ。
二度、三度と殴ったあとに、肘を鋭角的に打ち込んでいく。
半ば意識を失いかけているゴブリンの脳天に、改めて、ウォーハンマーを叩き込んだ。
しかし、もう残りのゴブリンが、間近まで迫っている。
顔面を殴り付けた際、小指と薬指を骨折したようだ。
武器を握ることもできない。
咄嗟に、予備用としてぶら下げていた短剣を構えるが、構えただけだ。
戦闘できるか、どうか、かなり厳しい状態なのは、間違いない。
ゴブリンは、動けないロイに、容赦なく刃を振り回す。
かろうじて、致命傷は避けているが、鎧の隙間や破損箇所から、血が滲み出してきた。
ロイは、手にした短剣を闇雲に振り回し、牽制する。
しかし、狂気にとりつかれた魔物は、攻撃の手を休めない。
剣を逆手にかまえ、とどめの一撃を突き刺そうとしていたのが、ロイの緑の瞳に映し出された。
が、その剣は、ロイには届かない。
ふぅっと、ゴブリンの体が、宙に浮き上がった。
激しく首をかきむしりながら、抵抗しているが、ずるずると地面の上を引きずられていく。
目を凝らせば、どうにか確認できるくらいの細い糸が、幾重にも首に巻き付いている。
ゴブリンの体を手繰り寄せているのは、ロイよりも小柄な少女だった。
肩の辺りで切り揃えられた黒髪が、ゆらゆら揺れる。
小悪魔のような笑みを浮かべながら、手にした鋼の糸で、ゴブリンの首を絞め上げた。
「ロイロイくん、無様だねぇ~」
そのゴブリンの体を足で踏みつけ、身動きとれなくしたところを、眉間に一突き。
絶命したことを確認すると、糸を弛め、手のひらに隠す。
「カズサさん、ありがとうございます」
脱力して動けないロイ、そんな彼にすっと手を差し出す。
その手を握り、立ち上がろうとしたロイだが、カズサは振り払う。
「そうじゃなくて」
尻餅をつき呆然としているロイに、冷静に言い放った。
「金貨二枚ね~」
「なんの話ですか?」
「命の助け賃。マイスゥイィートのロイロイくんだから、格安に負けとくよ~」
「金、取るんですか?」
「あら、払わない?払わないなら、ゴブリンの死体にカンカンノウ踊らせるわよ?」
カンカンノウがなんなのか、ロイには全く理解できないが、カズサの言うことだから、きっととんでもないことに違いない。
「手ぐらい貸してくれても良いじゃないですか…」
「おっとこの子でしょ、そこは意地見せる所じゃないかな、と思うよ、ボクは」
カズサは、不満げな態度を隠そうともしないロイには、目もくれず、二匹のゴブリンの懐を探っている。
死体から金銭を漁るカズサの姿に、若干の嫌悪を感じてはいたが、危ないところを助けてもらったのは、間違いない。
「宿に帰ったら、払いますから、貸しといてください」
「いいわよ~、貸しが増えなきゃね~」
カズサは、ゴブリンの持っていた短剣を皮紙で包み、ナップサックに放り込んだ。
「そんなものまで、持っていくんですか?」
呆れ顔で見ているロイの鼻先に、人差し指を突き出し、左右に振る。
二、三度舌打ちをし、その指で、ロイの額を小突く。
「ちっちっち…、てぃ!」
「あいたぁ!」
「んー、ナイス、リアクション!」
「なんなんですか、もう…」
カズサは、ゴブリンの懐に入っていた薄汚れた皮袋も、ナップサックにしまう。
「そんな死体あさりみたいな真似してまで、お金が欲しいんですか?って、思ってる?」
「いや、まあ……」
ずばり、本音を読み取られたロイは、ばつが悪そうに言葉を飲み込む。
「だよね~、わかる、わかる。よく言われるんだわ、それ」
カズサは、なんの屈託のない笑みを浮かべながら、静かに言葉を並べた。
「でもね、それがボクの仕事なんだよ」
序章3 気忙しいのはカズサ・ツガル
「ロイ!そっちに行った!」
リリィの悲鳴にも似た叫び声が、飛び込んでくる。
「どんだけ余裕ないのよ、リリィたん」
オーク一匹相手に、もた付いている新米戦士の慌てっぷりが、カズサには、たまらなく滑稽に思える。
「オークくらい、なんとかしなさいね~」
問題は、もう一人の新米。
今も、ゴブリン二匹に悪戦苦闘している。
そこに、さらに二匹増えるとなると、指を咥えて見ているわけにはいかない。
儀式の警護は、一時中断するしかない。
「マーティ、そっちはどのくらいかかるの?」
そっち、と、指差した大地は、低い地鳴りをあげ、時々、紫色の発光を放っていた。
澱んだ空気が、周囲に漂い、息苦しささえ感じる。
「んー、浄化十五分、封印十五分、安定に五分…くらいっすかねえ」
マーティは、先ほどから、ブツブツと呟きながら、地面に塩や清められた水を巻いている。
その度に、大地がもがいているかのように、うねりを上げていた。
決して、手際よくとは言えない手つきで、木札を一枚ずつ並べていき、六芒星を形成していく。
その札には、聖印が刻まれていた。
カズサは、その後ろ姿に、肩をすくめた。
「おっそ!二十分で終わらせてね~」
「姐さん、きっついなあ」
「大丈夫、やれば出来る子なのは、わかってるから」
「なんかご褒美は?」
「上質のワイン、奴等におごらせよう」
カズサが、拳を突きだす。
マーティは、塩を降る手を休め、拳を合わせた。
「はーい、ノリノリで乗りまーす」
「じゃ、頼むね」
パーンと、互いの掌を弾かせ、その場を立ち去ろうとしたが、ふと、足が止まる。
小柄な少女が、大木に寄りかかって、子猫のように丸くなっている。
自分の身長と同じくらいの樫の木の杖を抱きながら。
「ティティちゃん、チャッチャッと片付けてくるから、マーティの子守り、頼むね」
「兄様と姉様は大丈夫?」
少女は、腹をすかした子猫のようなか細い声で、様子をうかがいながら、尋ねる。
「リリィたんは大丈夫、たぶん」
「兄様、は?」
「ボクに任せておきなさい」
ティティは、こく…と、頷くと、杖を強く抱き締める。
「なんかあったら、遠慮なくぶっ放していいからね」
「うん…」
カズサが、ティティの頭を撫で上げ、抱き寄せる。
「ティティちゃん、行ってくるね」
「お願い…します」
カズサは、ティティから、離れると、一目散にロイのもとへ走る。
五メートル程のところで、距離をとり、周囲の気配を探る。
耳を済ますと、目の前の戦闘をじっと見つめている気配に気づく。
三匹のゴブリンが、ロイの背後から、不意打ちを狙っていたのだ。
「何匹叩いても沸いてくるね、キミタチは」
これ以上、ロイの負担は増やせない。
カズサは、忍び足でゴブリンの背後をとり、少しずつ距離を詰める。
ナップサックから、吹き筒と吹き矢を三本取り出す。
「ごめんね、容赦しないよ、ボクは」
さらに、吹き矢に液体を塗る。
ドラゴンベノム。
竜殺しの秘薬と呼ばれる強力な毒だ。
ゴブリン一匹仕留めるには、十分すぎて、お釣りが来る量を塗り込んである。
構えるが早いか、三本の矢を立て続けに、ゴブリンに打ち込む。
犠牲となったゴブリンは、自分に何が起きたのかすら、気づくことなく、ただ、一瞬の痛みだけを感じた後、絶命した。
風が揺れる。
異変に気づいたゴブリンが、二手に別れる。
一匹は、獲物を求め、戦っている仲間のところに、歩を進める。
もう一匹は、倒れている仲間の元に走った。
地面に伏している体を揺さぶったその時だった。
背後から、口を塞がれる。
息苦しさに、身をよじり、逃れようとするが、それを振り払うことは出来なかった。
喉元を冷たい刃が滑り去っていった。
カズサは、ゴブリンの背後に立つと、布で口を塞ぎ、喉笛に短剣の刃を滑らせる。
叫び声と吹き出す鮮血のすべてを、手にしていた布が吸いとる。
生暖かい温もりが、カズサの手を汚した。
ゴブリンが息絶えたのを確認すると、残りの一匹を仕留めにかかる。
「ロイロイくん、もう少しだけ頑張ってね~」
ニヤニヤが止まらないのは、なぜだろう。
あの金髪坊やが泣きそうな顔をして、ゴブリンどもに囲まれている。
盾を投げつけたり、闇雲に獲物を振り回したり。
足掻きに足掻いているその姿は、前に見たなにかに似ている。
なんだったか、思い出せない…。
「なんだっけ?なんだっけ?なんだっけなあ……」
そうやって、思い悩んでいるうちに、右手に肉を切り裂く感触が伝わってきた。
視界が血の赤に染まる。
「あ、忘れてたよ、キミのこと」
とどめのもう一刺し、脇腹をえぐる。
考え事が過ぎると、周囲の状況が目に入らなくなる。
「やばいね、気を付けないと」
そう言いながらも、視界にはゴブリンの攻撃に耐えるロイしか入っていない。
物言わぬ肉塊を放り捨て、気配を断つ。
ロイを狙うゴブリンは、今にも薄汚れた刃を突き立てんとしている。
近接戦闘に割ってはいる余裕はない。
投げナイフ、吹き矢など、飛び道具で、対応したいところだが、万が一ということもある。
乱戦の中に飛び道具を打ち、味方に当たったなんて、洒落にもならない。
刺突武器は、使えない。
「あれを使うか…」
ズボンのポケットから、束ねられた糸を出す。
「ロイロイくん、キミはお金がかかる子だねえ」
糸の端を引っ張り出し、一巻き、右の掌に巻き付ける。
束ねられた糸の輪の中に、ロイを狙っているゴブリンを入れる。
「高いんだよ?これ」
狙いをつけ、糸を投げつけると、風を切る音が、ゴブリンの首に走った。
カズサが、手首を返すと、糸はゴブリンの首をからめとる。
さらに、力を加えると、その糸は首に食い込み、呼吸を阻害する。
カズサは、餌に食いついた魚を手繰り寄せる釣り人のように、糸を巻き取っていく。
足元まで、引きずり倒し、眉間に一突き。
一瞬、ロイの顔に安堵の表情が浮かんだのを、カズサは見逃さなかった。
あぁ、思い出した。
あれは、おもちゃ相手に格闘している生まれたての仔犬だ。
爪も牙も生え揃っていない仔犬が、蹴鞠や棒切れ相手に、孤軍奮闘している姿に、そっくりだ。
「無様だねえ、ロイロイくん」
やっぱりニヤニヤが、止まらない。
序章4 マーティ・ラネルズ、儀式に手こずる
「ロイ!そっちに行った!」
封印用の聖札を揃えていたマーティの手が止まる。
あの声の様子では、リリィ姉ちゃん、かなり、焦っているようだ。
伝説の妖怪、泣き女でも、もっと上品な声で泣くに違いない。
泣き言言わない弟くんの方がましなのか…。
いや、泣き言言っている余裕も無いのか…。
護衛役のカズサに目をやると、生き生きとした表情で、戦いの支度を拵えている。
(楽しそうですねぇ…)
横目で、様子を伺っていると、視線に気付いたのか、こちらに目を向けてくる。
「マーティ、そっちはどのくらいかかるの?」
「んー、浄化十五分、封印十五分、安定に五分…くらいっすかねえ」
二割増しくらいで言ってみたが、そんな駆け引きが通用する相手でもなく。
「おっそ!二十分で終わらせてね~」
これだ。
「姐さん、きっついなあ」
熟練の僧侶でも、三つの儀式を終わらせるのに、三十分はかかるはずだ。
それを、二十分で終わらせるなんて、無茶にも程がある。
「大丈夫、やれば出来る子なのは、わかってるから」
アナタニ、オレノナニガワカルノデスカ!と、訴えたい気持ちを飲み込んで、精一杯の笑顔を取り繕ってみせる。
「なんかご褒美は?」
「上質のワイン、奴等におごらせよう」
「はーい、ノリノリで乗りまーす」
乗れるかっっ!
「じゃ、頼むね!」
胸の支えを飲み込みつつ、慌ただしく走り去るカズサの背中を見送った。
どうやら、前線は大混乱らしい。
斥候役のカズサも、参戦しなければならないくらい、追い込まれている。
最強戦士様の息子だか高名な魔法使い殿の娘だか知らないが、自分の仕事が勤まらない輩に、現場を荒らされたくはない。
(新米なら、新米らしくしてればいいんですよ…)
魔法語が刻まれた魔剣。
傷一つ無い盾。
実戦経験は、まだ数回だと言う。
経験に不釣り合いな装備一式。
親の加護という奴か、今の段階では、宝の持ち腐れだ。
世間知らずの御坊っちゃまが、人生修行なのか、一攫千金ねらいなのか、仕事屋に登録。
名声と富を…なんて、夢物語でも期待してるのか。
(世の中、そんなに甘くないですよ?)
それでも、リリィとロイみたいなのは、いない訳ではない。
口減らしのために、家を追い出された貴族の次男、三男が、立身出世のために、腕一本で身をたてる。
無い話ではない。
だが、このティティからは、別な『匂い』を感じる。
そもそも、兄弟と言う割りには、上二人に似ていない。
リリィ、ロイ、共に、柔らかい金髪、若干たれ目、顎の形などの外見は言うに及ばず、どことなくにじみ出る育ちのよさと言うか、世間ずれしていると言うか、まあ、間抜け……と言うか……。
末の妹と言うが、年のころはどう見ても十歳前後。
鞄に荷物積めて、学校に通っていてもおかしくない年齢だ。
白髪に近い編み込まれた銀髪は、腰まで伸びている。
どことなくつり目の瞳は、濃い青。
癖なのか、時折、遠くをじっと見つめている。
自分の背と同じくらいの杖は、魔法の杖は、ずいぶんと年期が入っている。
彼女があと五年育ったとしても、リリィのような顔立ちにならないのは、なんとなく想像できる。
魔法使いらしいが、ここに来るまで何度かあった魔物との小競り合いでは、魔法を使う前に、片付いてしまっていたので、実際の実力は未だに未知数。
普段から、無表情なのだが、ロイがピンチらしいと、聞いたときは、さすがに不安げな顔をしている。
どうやら、人並みに肉親を心配する気持ちがあるとわかったので、なんとなく、ホッとしているマーティだった。
今も、ティティは、杖を抱き、木のうろを背にして、身を縮めている。
マーティが気にかけているほど、ティティは気にしていないようだ。
(まあ、俺は俺の仕事をするだけだ…)
マーティは、作業を再開した。
『混沌の渦』は、異世界からこの世のにあるはずの無い『気』を呼び寄せる扉のようなもの、と、されている。
その『気』を求め、妖魔や死霊が跳梁跋扈し、また、ある種の魔導師は、禁呪を発動させるために、それを使う。
先の大戦で、黒の導師と呼ばれる魔法使い一団が、禁呪を用い、時空をねじ曲げ、 異世界との接点を設置し、『気』の扉を、至るところに解放した。
魔導師たちは、そこを拠点にして、怪物を使役し、魔力を増大させ、戦局を優位に運んだ。
王国は崩壊寸前まで追い込まれたが、『白の導師』ロゼ・クレソニアス、『森林のエルフ王』シュトロハイン、『探求にのめり込む魔術師』トラスト・ザ・オールドファームらの協力により、魔力の供給を断ち切る方法が産み出された。
これにより、戦局は逆転し、王国はかろうじて、存続を維持することが出来たのだ。
「我、地母神シェマカーナの敬虔たる僕マーティ・ラネルズ。願い奉らんと欲す。汝が作りし、恵み溢るる大地、今、邪なる気に汚され、生命の息吹、再生の寝床、無限のやすらぎたる働きを阻害、停滞、破壊、更なる悪しき理に招き足らんとす忌まわしき気のながれを、祖の力を用い、祓い、浄め、地の理、水の理、気の理を、正しき流れに導きたまわんことを欲す…………」
マーティが浄化の呪文を唱えると、地に置いた聖札が、その響きに呼応するかのごとく、燐の炎のように青白く光る。
大地の方は、紫色の光のうねりが、呪文を打ち消さんと、地鳴りをあげる。
巨大な牛蛙でも、生息しているような低いうなり声が、あちこちで沸き上がる。
『混沌の渦』の力が大きければ、大きいほど、抵抗力が高まり、術の妨害も激しくなる。
(こ、こいつは、けっこう激しいですよ)
『混沌の渦』の封印は、大地の浄化、邪気の封印、封印の固定の三段階の手筈を踏まねばならない。
一番最初の大地の浄化さえクリアしてしまえば、残りは封印呪符、結界符の設置だけだ。
しかし、初手の浄化こそが、最大のハードルであり、要となる。
(こ、これは………)
予想以上に、抵抗が激しい。
淀んだ紫色の光の隙間から、時おり、深緑の霧のようななにかが、沸き上がってくる。
(や、やばくないですか……?)
自分が苦しいときは、敵も苦しい…、そう自分に言い聞かせ、再び呪文の詠唱に入る。
誰に頼ることもできない。
マーティは、孤独感と戦いながら、ひたすら、浄化の呪文を、唱え続けるしかできなかった。
普通、『混沌の渦』が発見された場合、封印の前に、慎重な下調べが行われ、それに見あった法力を持つ僧侶が、教会から派遣される。
しかし、担当した僧侶の手に余る場合もある。
『混沌の渦』の魔力が、暴走を始め、魔物を呼び寄せたり、地震を引き起こしたりするケースが確認されている。
ただ、そんな事例は百件に一件、有るか無いか…、それくらいの確率だった。
マーティは、一瞬、我が耳を疑った。
なにかが近づいてきたような足音が聞こえるからだ。
足音は、カズサが走っていった方向とは、真逆から、向かってくる。
しかも、複数。
大地の削れる音がするその先には、 白い骸骨が死んでいるのを忘れたかのように、歩いていた。
「スケルトンが、なぜ?」
生なき骸骨が歩いてくるなど、明らかに、自然の生態系の枠をはみ出した魔物以外の何物でもない。
目視確認しただけでも、十体はいる。
スケルトンが、群れなしてさ迷うなど、あり得ない。
使役している何者かが存在しているはずだ。
(死人使いが近くに?)
マーティは、呪文の詠唱をやめ、メイスを手にした。
使役している術者を探している時間はない。
とにもかくにも、スケルトンを破壊し、身の安全を守らねばならない。
狂暴な鉄の塊を振り回し、頭数を減らす。
それまでに、三人が戻ってくれば、形勢逆転は間違いない。
時には、異教徒。
時には、魔物。
神の教えに従わぬ者、神の教えを聞き入れぬ物、神の敵に回ったもの。
僧侶は、そういったモノに出会ったとき、神の御力を見せつけるため、戦士並みの戦闘訓練を積んでいる。
マーティも、僧籍に身を置くものとして、それなりの鍛練はしてきた。
だが、悲しいかな、マーティはそちらの分野には、才能が無かったらしく、あまり、戦績は芳しくはなかった。
それ故、仕事の依頼を受ける際は、戦士や魔術師などの攻撃のエキスパートと共に、チームを組むことが多かった。
今回も、戦士二人、魔術師、斥候がそれぞれ一人と、自分自身が前線に参加しなくても、事足りる編成だった。
しかし、今の事態である。
頼れるのは、自分自身………。
「あっ!」
自分自身以外にも、守らねばならない存在がいたことを、思い出した。
マーティは、ティティが身を寄せていた木の方を見た。
「は、はい?」
マーティは、一瞬、我が目を疑った。
ティティは、魔法の杖を眼前に突き立て、呪文の詠唱に入っていた。
「時の砂の流れ、支配するは我。我が身の回りの時の砂は、激流の滝の水のごとし。五の刻みは十の刻みとなる……」
魔法の杖から、白光が溢れだし、ティティの体を包む。
さらに、詠唱が続いたが、そのティティの所作は、もはや、人のそれではなかった。
その動きの早さたるや、『目にも止まらぬ』とは、こう言うことを言うのだろう、全ての動きが二倍の早さで、進行していたのだ。
「開け、光の門、担え、光の矢、我が敵を撃て!」
ティティの頭上に、五本の光の矢が並ぶ。
ティティが、右手を中空に突き出し、手のひらを回す、ドアノブを捻るがごとく。
その瞬間、光の矢が、ホウキ星のように飛び去り、スケルトンの体を破壊していく。
それから、休む間もなく、次の五本の矢が放たれ、残りのスケルトンが、地に帰った。
「へ?」
スケルトンが姿を表してから、消え去るまで、どれ程の時間が経過したのだろう。
まばたきしている間に、地面には、大量の人骨が散乱していた。
マーティは、振り上げたメイスを、地面に降ろし、ティティを見た。
ティティは、また、木を背に寄りかかり、魔法の杖を抱きしめた。
「ダイジョウブナノ」
その口調は、必要以上に早口だった。
(まさか……、時を操る禁呪……)
古代語魔法の一節に、時を操る危険な禁呪があることを、聞いたことがある。
使い方を誤ると、我が身を滅ぼしかねない危険な呪文なので、一般に伝授することが禁止されている。
(光の矢の数が五本と言うことは…)
光の矢は、それ一本だけでも、致命傷を与えることができ、決して外れることのないと言う特徴がある。
魔術師にとっては、攻撃呪文の要となる魔法の一つだ。
魔法には、難易度に応じた『階位』と呼ばれるランクがある。
魔法の矢自体は、階位一の魔法だが、ランクが上がるごとに、扱える矢が一本ずつ増えていく。
ティティは、一度に五本の矢を使用できたので、最低でも階位五の魔法を扱えるのだろう。
魔術師学園で、指導者として教壇にたつものでも、階位三が良いところだ。
階位五の魔術師など、王国に何人いるのやら……。
唖然として、立ち尽くしているマーティに、ティティが、声をかける。
「コモリタノマレテタカラ」
「あ、ありがとうございます…」
二倍速で言われると、なにやら、捲し立てられたような気がして、落ち着かない。
マーティは、封印の儀式の続きにとりかかることにした…。
序章5 ティティ・バグナール、焼きもちをやく
「地母神シェマカーナ、神の恩恵におき、これなる地が永遠に恵みを与えたまわん事願い奉り、永き世に渡り、本来の働きを………」
マーティの儀式も大詰めに差しかかっている。
疲労困憊のリリィ、ロイも、カズサの手を借りながら、合流し、一息ついていた。
回復用のポーションを飲み、万が一に備える。
怪我のダメージは、ほとんど回復していく。
しかし、肉体的な疲労は別物であり、さらに、精神的なそれはいかんともしがたい。
「有なるものは無に帰し、無なるものから有を産み出す。大地の力、すなわち、神の御力」
粛々と呪文の詠唱が、大地に染みていく。
地のうねりも消え、緩やかな地鳴りも次第に収まっていた。
その間、カズサはスケルトンの残骸、すなわち、人骨の破片を幾つか拾い集めていた。
「ティティちゃん、お願いできるかな?」
「はい」
カズサが集めた白い骨片を、羊皮紙の上に並べ、『魔力感知』の呪文を唱えた。
対象の物品に、魔力が付与されていると、力の強弱に合わせ、光を放つ。
「示せ、力の源、波動の源、魔力の源」
呪文の響きに呼応し、幾つかの骨片が、青白く発光する。
その結果に、カズサの顔が曇る。
ティティは、それらをより分けると別な呪文を唱える。
「鑑みる魔力の流れ、類い分け識す、地、水、風、火……、陰、陽、光、闇……、使役、召喚、創造、付与………」
今度は、『魔力鑑定』の魔法だ。
物品にかかっている魔法を分析、鑑定する事ができ、幾つかに分類されている魔法を識別できる。
ティティが、カズサに目配せをする。
「闇属性の使役。間違いなく、『死人操り』で動いてるスケルトン」
カズサの眉間に、深いシワが刻まれている。
「召喚師じゃなく、屍人使い?」
ティティは、無言で頷く。
口を尖らせたカズサは、深く息を吸い込んだ。
「あの…、カズサさん?」
「どうしたのかな?ロイロイくん」
「珍しく深刻な顔をしているので、何かあったのかな?と、思って…」
「珍しく?」
ロイの方に向き直ったカズサは、満面の笑みを浮かべている。
その顔を見たロイの安堵の思いが、後悔に代わるまで二秒とかからなかった。
ロイの左脇腹に、カズサの右フックが二、三発めり込む。
鎧の隙間をピンポイントで、狙いうっているので、ダメージの軽減は、期待できない。
「ふげらぁ………」
声にならない悲鳴をあげたロイが、膝から崩れ落ち、大地に突っ伏した。
「ロイロイくん、珍しく…なんだって?」
笑顔の裏に隠された何かに気付いたロイは、丘に上がった金魚のごとく、口をパクパクさせている。
「何か言い残したことはある?」
「き…、今日も……、素敵な笑…顔でず…ね」
「よろしい」
何がよろしいのか、全く理解できないが、今はこれ以上ダメージを追うわけにはいかない。
「で、カズサさん、何か問題でもあるんですか?」
これが本題。
「んー、簡単に言うとね、悪い魔法使いがスケルトンを操って悪いことをしてるんだよぉ~」
「カズサ、はしょり過ぎ…」
ティティも、口を挟んでくる。
「ロイロイくんなら、これくらいでいいかな~なんて」
「そっか…」
同意してしまう妹も、いかがなものかと、思うが、それも仕方ない。
心持ち、妹の自分を見る目が蔑んでいるような気もしないでもない。
誤解以外の何物でもないのだが、自信を失っているときは、どことなく卑屈になってしまう。
妹の活躍を耳にしているので、兄としては、自分の立場が下降していくのが、心苦しかった。
だが、自分に実力が無いのは、致し方ない事実なのだから、そこは受け入れていかなくてはならない。
「そんな事言わずに教えて下さい!お願いします!」
育ちのよさと言うものなのか、世間知らずなのか、素直に頭を下げているロイ。
「ボクのことを師匠と呼びなさい!」
「はい!師匠!」
この間、一秒。
即答である。
(このワンコめ…)
思わず、吹き出しそうになった。
言わせてる自分が照れてしまう。
今、ロイに犬の尻尾が生えていたら、激しく左右に振っていただろうし、猫の尻尾なら、垂直に立ち上がっていたであろう。
「まずね、スケルトンに限らずアンデッドな連中は二種類に分けられるのよ」
不死系に分類される怪物、魔物が、この世界で活動するには、魔術師の呪文で魔力の供給を受けなければならない。
その魔法系統は、異世界の住人を呼び出し使役する召喚師と、死体を使い指揮下に置く屍人使いの二種類に分けられる。
召喚師の呼び出した不死系の怪物は、全体に魔力を帯びており、上位の魔物は魔力を付与している武器しかダメージを与えられないなど、特徴がある。
屍人使いは、『混沌の渦』の魔力を使い、あらゆる生物の死体を指揮下に置く。
死体に魔力を付与させ、術者に忠実な下僕を作り出す。
「と、言うことなんだよ」
「なるほど」
カズサの解説に聞き入っていたロイが、神妙な面持ちで頷く。
「わかってくれたかな」
「はい、師匠!」
胸の前で、握りこぶしを作り、自信に満ち溢れた顔を見せる。
「よろしい」
うちのワンコは、極めて優秀だ。
思わず頭を撫でたくなる。
「ところで」
「なんだい、ロイロイくん」
「屍人使いのスケルトンだと、何が問題なんですか?」
「期待を裏切らないな、キミは!」
カズサは、激しい脱力感に襲われていた。
(うちのワンコは、つくづくおバカだな…)
ここまで世間ずれしているのも、ある種の才能なのかもしれない。
ロイにしてみれば、分からないことを素直に聞いただけなのに、なぜ、こんなにカズサが呆れ顔で落胆しているのか、不思議でしょうがない。
「兄様」
ティティが、兄の背中を、杖で軽くつつく。
「どうした?」
ロイは、膝をおり、ティティと視線を合わせる。
「杖で人を叩くのはよくないぞ?」
「ごめんなさい」
上目使いで、兄を見上げる。
「おーい、その杖で………」
スケルトン十体、瞬殺したんだよ~、と、突っ込みをいれたカズサだったが、途中で言葉がかき消された。
(サ、サイレンスの無詠唱呪文……)
対象者の回りの空気の振動を制止させ、範囲内の音を消し去る呪文だ。
しかも、呪文の詠唱が無かった。
高ランクの魔法使いなら、このレベルの魔法は、発動の意思さえあれば、行使できる。
口を挟んでくるな、という意思表示だろう。
一瞬、ティティの鋭い視線が向けられたのを、見逃さなかった。
「召喚師のスケルトンは、呼ばないと増えません」
「ほう」
「屍人使いのスケルトンは、死体がある限り、増えます」
「なに?」
「回りに死体が、十あれば十、百あれば百、千あれば千」
「増えるのか?」
「はい」
「そんなに増えたら、大変じゃないか!」
「大変です」
「カズサさん!何とかしないと、大変です!」
ロイが世間知らずすぎるのか、ティティが賢すぎるのか、はたまた、その両方なのか……。
いずれにしても、五つ以上年下の子どもに、説得されて、納得している兄の姿を見るにつけ、
「キミの頭のなかが大変だよ」
喉元まで出かかった言葉を、グッと飲み込むカズサだった。
そしてまた、ティティの隠しきれない敵意。
(なんで、ボク嫌われてるの?)
早く、子守りから解放されたい。
カズサの嘘偽りの無い本音である。
「終わりましたよ」
これまた、全身に疲労感を漂わせたマーティが、息も絶え絶えに、合流してきた。
一連の儀式に、かなり手こずったようだ。
早めに、協会に戻り、対策を練らなければならない。
死体があるかぎり、不安は尽きないのだから。
6 カズサ、探索する
マーティの儀式も、無事終了し、協会から受けた仕事は、一段落した。
しかし、スケルトン襲撃というおまけがついた以上、はい、おしまいと、手ぶらで帰るわけにはいかない。
それなりの手土産を持ち帰らないと、お偉いさん方に会わせる顔がない。
探索に出向きたいところだが、単独では心もとない。
しかし、マーティ、ティティの二人は、魔力の回復のために、最低六時間の休息が必要だ。
ロイかリリィが、二人の護衛をしなければならないので、同時に、この場を離れられない。
そもそも、今の二人のコンディションを考えると、探索の手伝いなど、無理強いはできない。
(ここから先は、ボクの仕事だしね)
マーティは、儀式終了に伴う神への感謝の祈りを捧げている。
ロイは、疲労回復のため、鎧の留め金を外し、地面に横になっていた。
仮眠の筈だったが、完全に寝入っている。
その側には、親猫に寄り添う仔猫のように、ティティがくっついていた。
半まなこで睡魔と格闘しているリリィに、探索に出向くことを伝え、この場から離れた。
「一時間で帰るから」
リリィは、頭をコクコク、右手をヒラヒラさせ、かろうじて意思表示だけは示していた。
素人に毛が生えた程度の訓練しかしていなければ、こうなる。
戦闘だけに集中できるわけではない。
移動にかかった時間は、すべて、疲労に代わる。
特に、前衛の戦士は、頑丈な鎧、攻撃力の高い武器を揃えれば揃えるほど、身体的負担が増えていく。
これもまた、経験を積んでいかないと、分からない感覚だ。
「水分はちゃんと取るんだよ」
カズサの問いかけに、リリィが、力なく拳を握り、親指を立てる。
説得力は、全くない。
何事もないことを祈るが、有事の際は、自力で切り抜けてもらいたい。
カズサは、屍状態の仲間を尻目に、探索を開始した。
十体ものスケルトンが、群れなして歩いてきたのだ。
その足取りを追うことなど、それほど難しいことではない。
倒れている草、踏み荒らされている地面を、順繰りに追いかけていく。
十分も歩いただろうか、草原を抜けると、建物が見えてきた。
屋根の上には、何かのシンボルらしきものが、しがみついている。
囲いで覆われた敷地内には、打ち捨てられた墓石が、あちこちに埋もれていた。
「教会?墓地?」
郊外に建てられた埋葬施設だが、建物も朽ち果て、かつての面影はない。
戦禍に巻き込まれ、住民も、避難してしまったのだろう。
長らく人の手も入らなかったので、廃墟と化してしまっていた。
カズサは、周辺の気配を探りながら、注意深く、足跡を追う。
案の定、その先は、廃墟へと続いている。
万が一に備え、ショートソードを抜き、身構えながら、歩を進ませた。
共同墓地に足を踏み入れると、やはり、いくつかの墓を安置している地面が、隆起し、地中から、何かが這いずり出てきた形跡があった。
中には、上半身だけしか、抜けきれなかったスケルトンが、力尽き、地に伏せていた。
『混沌の渦』を、封印したので、魔力の供給が絶たれたのだろう、活躍の場に間に合わなかった骸骨は、虚しく地に帰るしかなかった。
「ごめんね」
カズサは、用心のため、地に出ている上半身の背中を踏みつけた。
かなり、古い骨だったらしく、たいした抵抗もなく、背骨は砕けた。
「ん?」
その骸骨の墓石に、貼られている一枚の羊皮紙が、目に留まる。
葉書一枚ほどの大きさで、なにやら、文字が書いてある。
「これか…」
他の墓にも、かなりの数の羊皮紙が、貼られており、そのほとんどが、掘り返されたように、地面が盛り上がっていた。
この羊皮紙が、スケルトン使役の呪符である可能性が高い。
持ち帰れば、重要な手掛かりになるのは、間違いない。
そ…と、手を伸ばす。
が、なぜか、躊躇してしまう自分がいる。
ぴり…と、首の後ろがひりめく感触がする。
呪符を剥がす、それだけのことなのだが、何か嫌な予感がする。
「触らない方が良い奴だね」
理由はない。
自身の勘働きが、カズサを制止している。
マーティやティティの魔力が回復してからでも、遅くはない。
物理的な罠なら、見つけてしまえば解除も出来るが、魔法がらみの罠があったら、見つけることすら出来はしない。
「無理はしない、無理はしない」
気持ちを切り替え、墓の周りを調べる。
掘り返された土の上に、複数の足跡が見受けられる。
サイズや靴底の跡を見比べると、最低でも二人以上の人間が、『居た』らしい。
足跡は、墓地と建物を何度か往復していた。
根城にでも使っていたのか、中を調べれば、手がかりの一つも見つかるかもしれない。
歩を進めようとするが、緊張の糸が絡まっているのか、最初の一歩が踏み出せない。
「なんだろうねえ~」
自分の勘を信じるなら、『何かある』に違いない。
ただ、その『何か』がなんなのか、わからないから、体が動かない。
そんな状況にありながら、知らず知らずのうちに、両の口角は上がっていた。
にんまり…。
「迷わず行けよ、行けばわかる…らしいよ?」
一足踏み出し、気配を探る。
カズサ以外に、動く気配はない。
地面に残された足跡を追いかける。
あと数メートルで、廃墟にたどり着く……。
「あ、窓…」
木枠から何から、腐り落ち、ぽっかりと壁に空いた穴が、数個点在する。
その中で、一区画だけ、布のようなもので塞がれている箇所があった。
四方が止められている新しい布は、カーテンと呼んでも差し支えないくらい、場違いなものだった。
「あれかな?」
半ば、確信して、足を早める。
柵を跨いだその時だった。
柵を囲う杭の何本かが、わずかながらに、燐光のように青く光った。
「あ…」
カズサは、瞬時に何が起きたか、悟った。
廃墟に近づくものが現れたときに備え、結界の呪符が柵に貼られていた。
それが発動したということは……。
「やっちまったかな?」
カズサは、踵を返し、来た道を一目散に走り出した。
残りの墓から、スケルトンが湧いてくる、そんなシチュエーションだけは、避けなければならない。
走りながら、墓の方に目をやるが、スケルトンが発生する様子はない。
「ハッタリ?」
建物に近づけないようにするための小細工だったのかもしれない。
或いは、中にいる者に、侵入者の存在を知らせるための警告の可能性もある。
いずれにしても、単独で対処するのは、難しい。
早々に、仲間と合流する必要がある。
あと一息で、墓地から抜け出せる、そう思った瞬間、目の前が白い霧に覆われた。
全身が総毛立つ。
邪気の塊が、カズサの行く手を塞ぐ。
それは、みるみるうちに、人の形をとり、空中を飛び回る。
「『墓場の霧』か!」
墓場を漂う怨念が霊体化した不死系モンスターだが、明らかに、トラップの発動で、発生したものだ。
白い霧は、老婆の上半身を形作り、鋭く伸びた爪と乱杭歯をむき出しにして、襲いかからんとしている。
「悪趣味だね!」
ショートソードを左手に持ち変えるのと同時に、二本のダーツを投げつけた。
しかし、その鋭い先端は、怪物の体をすり抜け、放物線を描き、力なく地面に転がり落ちた。
「やっぱり、悪趣味だ……」
予想通り、非実体系の不死モンスターは、普通の武器では、ダメージが与えられない。
魔力が付与されているか、神の祝福を受けているか、そのどちらかだ。
ダーツを投げつけたのは、確認のためで、ダメージは期待していない。
疑問が確信に変わったところで、次の手を打つ必要があった。
腰の皮袋から、小瓶を出し、中
の液体を、体全体に振りかける。
「金貨三枚の値打ちはあるよね」
多分……という言葉を飲み込む。
『聖水』は、邪悪な波動を遠ざける働きがある。
気休めに、と、思いながらも、万が一に備えて、教会から購入していたものだ。
その場凌ぎかもしれないが、無いよりはマシだろう。
効力のあるうちは、攻撃されることはない。
その代わり、こちらにも攻撃手段はない。
となると、カズサに与えられた数少ない選択肢の中で、最も最良なのは……。
「走って逃げる!」
墓地から出てしまえば、呪文の効果範囲から外れるかもしれない。
万が一、単独行動できたとしても、マーティかティティの呪文さえあれば、手間取る相手ではない。
とにかく、メンバーと合流できれば、問題ない。
時には、墓石を飛び越え、時には、伸び放題の木の枝を掻い潜り、身体能力をフル回転させ、墓場の運動会をクリアしていった。
視界の片隅に、柵の外れが見える。
これを乗り越えれば、目処がつく。
カズサは、目前の墓石の脇をすり抜けた。
墓場の霧よりも、はるかに早く、出口にたどり着く。
それを確信した、その瞬間。
「んなぁ!」
急に、右足を引っ張られた。
体勢を崩し、地面に転がる。
見れば、出掛けに粉砕したスケルトンの上半身が、文字通り、カズサの足を引っ張っていた。
墓場の霧の妖気に反応したのか、残されていた呪符が、青白い光を放っている。
あちこちの地面が隆起を始めた。
「こんのぉ!」
左足の踵で、スケルトンの腕を蹴りつける。
墓場の霧も、間近に迫っている。
「しつこいのは、好きじゃない!」
側頭部を、力一杯蹴りつけると、頭蓋骨が宙を舞う。
既に、二、三体のスケルトンが、上半身まで、地上に這い出していた。
カズサは、スケルトンの手首をぶら下げたまま、走り出す。
しかし、老婆の亡霊が、寸前まで近づいていた。
鉤爪が、何度かかすめていく。
体を翻して、かわしてはいるが、追い付かれるのは、時間の問題だ。
(聖水の効力が有効なうちに、逃げ切らないと…)
ふと、違和感を感じる。
聖水の効力が有効ならば、なぜ、スケルトンに足元をすくわれたのだろう…。
「粗悪品かよ!」
たいした効果も期待できないことが判明した以上、とにかく全力で逃げるしかなかった。
いつ終わるとも知れないおいかけっこに、業を煮やしたのは、墓場の霧の方だった。
人の形では、効率が悪いのを悟ったのか、体全体を霧散させ、カズサの周囲に付きまとい始めた。
懸命に振り払うが、小蝿を払うのとは訳が違う。
次第に、霧の密度が濃くなり、カズサの肩にのし掛かってくる。
見れば、両肩に老婆の両手だけが、しがみついていた。
ショートソードで、切り付けてみるが、焼け石に水、何ら代わりはない。
老婆の顔だけが、カズサの眼前に広がり、視界をふさぐ。
口が割けんばかりに開かれ、その奥でミミズのようにうごめいている舌が、カズサの喉を締め上げた。
息が詰まり、意識が遠退いていく。
死者の好物は、生者の活力だ。
吸い上げられる感触が、カズサの脳を鷲掴みにした。
(こんなところで……)
醜悪な笑みを浮かべた老婆が、カズサの頭に噛みつこうと、さらに、大口を開けた。
身体中の力が抜けていく。
薄れ行く意識を、繋ぎ止めたのは、聞こえるはずのない怒声だった。
「師匠、伏せて!」
いるはずのないロイが、墓場の霧の頭部を、剣で一刀両断している、そんな光景がカズサの意識に飛び込んできた。
言われるまでもなく、立っている力なんて、残っていない。
地面に、膝から崩れ落ちていく。
「ロイロイくん、キミ、なんでこんなところにいるんだい?」
聞くに耐えないだみ声を残して、墓場の霧は消えていった。
数体のスケルトンが、襲いかかってきたが、ロイがものの数分で殲滅してみせる。
手にしている剣は、リリィが使っていた魔法の剣だった。
「やればできる子だよね、キミは…」
薄れ行く意識のなか、自分を抱き止める手に体を預ける。
ロイの首に、手を回し、ぐいと引き寄せる。
「し、し、し、ししょーっ」
すっとんきょうな声を張り上げるロイの頭を両手でつかむと、わしわしと、なで回す。
「よーし、よし、よし、よーし、よし、よし」
その手触りを堪能するだけ堪能した瞬間、意識がシャットダウンした。
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7 カズサ、酔いつぶれる
『高貴なるブルドック亭』は、今宵も賑っていた。
喧騒に包まれた店内を給仕たちが、気忙しく注文取りに走る。
その合間を縫って出来上がった料理を運び、そしてまた、新たな注文を受けていた。
一仕事終えた荒くれものが、生の実感を噛みしめるために、飲み、食い、そして、感慨にふける。
陽気に騒ぐ集団もいれば、ひたすら酒をあおるだけのものもいる。
紙一重のところで、生き延びることができれば、うまい酒も飲みながら、明日の展望を語ることもできる。
そのわずかな差で、この酒場に帰ってくることができなかったものは、いずれ記憶の片隅からも、その居場所を失うこととなる。
「なんだい、辛気臭い顔してさ」
カズサはジョッキになみなみと注がれた果実酒を一息に飲み干した。
「師匠、ペース早くないですか?」
その正面に座るロイが、顔色を窺いながら、ちびりちびりとエールをなめるように飲んでいる。
「いいの!今日はとことん飲むの!」
その辺で用聞きをしていた給仕をとっつかまえ、代わりの酒を注文する。
店に入って一時間も経っていないのに、もう三杯目が空になった。
マーティは教会の用事。
リリィは旅の疲れが抜けず、二日ほど寝込んでいる。
出不精のティティに見送られ、ロイはただ一人呼び出された酒場へと出向くことになった。
「はい、今回の仕事料」
三人分なので、かなりの量になる。
それにしても、約束の金額より多いような気がする。
「師匠、これ…」
「高く売れたんだよ、情報が」
ロイの疑問を察したカズサが、先んじて説明をする。
『混沌の渦』周辺で、アンデットが確認されたという事象は、戦時中でもなかったことだ。
このことを重く見た組織の上の方は、早々に対策部隊を設立し、終息に向けて動くという。
カズサたちが、探索しようとした教会跡にも、腕利きたちが探索に出向くことになるだろう。
今回の一軒にかかわる出来事のすべてが、『情報』としての価値を持ち、それに見合っただけの追加報酬が支払われた。
そのおかげで、ロイたちは、予期せぬ恩恵に与れることとなったわけだ。
「みんな魔法の剣を持っていくんだろうね」
不貞腐れながら、五杯目の酒を煽っている。
「安物の聖水には、気をつけろって言ってやればよかった」
「言わなかったんですね」
ぎこちなく愛想笑いを浮かべるロイを一にらみする。
「覚えておいてね、この世の中で絶対敵に回しちゃいけないのは、教会と…」
「教会と?」
「酔っぱらったボクだよ!」
どうやら酔っている自覚はあるらしい。
カズサにしてみれば、自分が関わった仕事だから、自分の手で解決したいという気持ちが強い。
ましてや、予期せぬ出来事とはいえ、敵に背を向けて逃げ出す羽目になったのだ。
憤懣やるかたない。
自力で仲間を探すか、そうでなければ、探索隊に無理やりにでもねじ込んでもらうか、いかなる手段を用いても、借りを返すつもりだった。
しかし、上層部の鶴の一声で、それもままならず、地団駄を踏む羽目となった。
そのとばっちりを一手に引き受けているのが、忠犬ロイロイだったりする。
カズサとしては言いたいことが山ほどあるのだろうが、曲がりなりにも、命を助けてもらった手前、
むやみと当たり散らすわけにもいかず、かといって甘やかすこともできず、とりあえず、酒の席につき合わせている。
「ロイロイ君、あのね」
程よく酔いが回ってきたのか、眼が座り、ろれつが回らなくなってきた。
七杯目のジョッキを傾けながら、吐き出すようにつぶやく。
「金貨2枚、出しなさい」
机に突っ伏しながら、右手だけ差し出す。
「あ、はい」
命の助け賃の請求だ。
ロイもすっかり忘れていた。
慌てて、革袋から、金貨を出し、カズサの手に握らせる。
カズサは、テーブルに顔を伏せたまま、金貨を差し出したロイの手首をつかむ。
「隙あり…だよ、ロイロイ君…」
一度受け取った金貨を、また、ロイの手のひらに戻し、
「これで貸し借りなしだからね…」
「はい…」
「ありがと、ね…」
「はい?」
消え入りそうなくらいか細い声で、カズサがつぶやく。
ロイが聞き返そうとしたその時だ。
「あの、」
若い女性がそっと話しかけてきた。
「申し訳ございません」
淡い青と白い僧衣をまとい、首から戦の神のシンボルをぶら下げている。
色白で華奢な指先は、おおよそ争いごととは無縁の世界に身を置いている証だ。
「カズサ様で、お間違いないでしょうか?」
名前を呼ばれたカズサは、むくりと上半身を起こすと、うつろな目で女性を眺めた。
「カズサ様に何の用かな?取り次げばいいのかな?」
女性は、困惑したような表情を見せる。
「名乗り遅れました。ワタクシ、闘神シェマカーナに使えるミーナと申します」
「カズサは、ボクだよ」
相手が名乗ったので、こちらも名乗ってみる。
だが、警戒心が薄れたわけではない。
「あの、お礼を申し上げたくて…」
腰に下げていたカバンから、白い布の包みを取り出した。
「ありがとうございました…」
彼女が開いた包みの中には、一本の短剣が入っていた。
刃こぼれなどがあり、かなり使い込まれていたが、きれいに手入れが成されている。
「あぁ…」
カズサは、ひらひらと右手を振り、
「いいんだよ、いいんだよ。お互い様だから…」
興味なさげに対応する。
「その剣がどうかしたんですか?」
気になったロイが、口をはさんでくる。
「よしなよ、ロイロイ君」
カズサがそれを制するが、ミーナは頭を振って話し出した。
「こちらは…」
短剣を布でくるみなおすと、
「先日、魔物退治の依頼を受けた方がいらっしゃったのですが、残念なことになり…」
そっとそれを、鞄にしまい込んだ。
その瞬間、ロイにもおおよその予測はできた。
勝者が敗者から戦利品を奪い取るのは、世の習い。
討伐隊が、悪の魔物が貯めこんだの財宝を報酬の一環として手にするがごとく、魔物どももその敗者の装備一式をはぎ取り、我が物とするのも至極当然のこと。
そしてまた、その魔物は、戦利品片手に洋々と悪事を働く。
いつか自分が退治され、その獲物を手放す時がくる時まで。
その短剣は、カズサが駆逐した魔物の手から、巡り巡って、元の持ち主の関係者のところに戻った、ということなのだろう。
「本当にありがとうございました」
たかが、短剣一本。
よっぽどの値打ち物でない限り、そんなものを気に留めることない。
戦場に出向くものの遺品が、親族の手に届くことなど、ほぼ有り得ないのだ。
それ故。
「ご家族に遺品を渡すことが出来そうです」
されど、短剣一本。
その思いが、親族のところまでたどり着き、魂の安らぎを迎える。
ごく稀に、そんなところにまで、気を遣う輩もいる。
ミーナは、今一度、深々と頭を下げ、その場を立ち去った。
ロイはその後姿を見送ると、カズサに尋ねた。
「あの時の?」
「今、気づいた…?」
カズサは、八杯目の酒を頼むと、また、テーブルに顔を伏せた。
「ロイロイ君の太ももに刺さってたやつだよ」
くすくすと笑いながら、テーブルに置かれた果実酒を眺める。
ばつが悪そうに、肩をすくめるロイ。
「明日は我が身…かもね…」
自嘲気味に笑ってはみたが、ロイは気づきもしない。
「ねぇ、ロイロイ君。あんなゴブリンごときにてこずってちゃ…ダメだよねぇ~」
「は、はい…」
「もう少し、強くなってね、お願いだから…」
「はい、それはもちろん!」
「ボクも、もう少し頑張る…から…」
「はい…」
「いつも、ボクがまもってやれるとはね、限らないの…ね」
「は、はい」
それだけ言い残すと、酔いつぶれて、寝息をたて始めた。
自分がもっと強ければ、彼女にこんなことを言わせなくてもよかっただろう。
一人前の戦士として、実力があれば、彼女の力になれたことだろう。
そもそも、男として女性に守られているというこの状況が、すでに情けないことなのだ。
人として、戦士として、そして、男として、認められなければ。
次に依頼が来るその日に備え、ひたすら修練するのみ。
「強くならなきゃ」
カズサだけではない。
リリィやティティ、パーティーを組んだ仲間、自分が関わる全ての人を守れるくらい、強くならなければ…。
それはそれとして…。
当面の難題は、この酔いつぶれたカズサを、どうしたらいいのか。
途方に暮れるロイであった…。
第一話 完