第8話
二人は彼女を見送ると顔を見合わせる。
「どう思う?」
口火を切ったのは佐倉だ。
「交流がないからなんとも、ね···、隣の人だって久し振りに見たし···。絶対サイコなオカルト野郎だと思われた···」
緊張を解く為に息を吐き出すと、色々な意味でどうとでもなれと諦め半分の思い切りがついたのか、自宅の扉を一気に開く。
部屋に入ると、今朝出たままの光景が広がっていて胸を撫で下ろす。
さっさと着替えを済まし、手早く荷物を纏めようと壁掛けに吊ってあるリュックを手に取り、替えの衣服やノートパソコン、大学に必要な資料等、思い当たる端から詰めていく。
「104号室の人は俺の部屋の下じゃないから挨拶してないんだよ。ゴミ出しの時に見掛けた事はあるかもしれないけど、顔ははっきりと思い出せ、ひっ!」
ベッドの端にある衣装ケースから服を引っ張り出そうとした小さく悲鳴が上がる。
何事かと佐倉が近付くと座り込んだまま祐介がケースの上を指す。
そこには泥々とした生臭い物に混じった大量の髪の毛があった。
「なんなんだよ!くそっ!」
今朝の恐怖が甦った為かパニックになり、手当たり次第近くにあった物をソレに向けて投げる。
佐倉はそんな祐介を諌め、大丈夫だとゆっくり語り掛けて落ち着かせた。
充分に落ち着いた頃を見計らい、手持ちの携帯でソレの写真を角度を変えながら念入りに撮影をする。
制止する声が聞こえたが、お構い無しに今度は泥々とした物を直接手にして中に混じっていた髪の毛を取り出すと両端を持ち長さを計る。
随分と長い髪の毛から察するに女性の物だろう。
「お前、呪われるぞ···」
青い顔の祐介が距離を取って引き攣った表情を浮かべている。
あまりの所業に最早制止する言葉も無い様だ。
「その可能性は考えてなかった」
一通り観察し終えると、彼は何時もの気の抜けた笑顔でそう言うと何事もなかったかの様に台所の水道で手を洗い、少ない自分の荷物を纏めて玄関に立った。
「さ、君も荷物はもう纏めただろ?不動産屋の前に爺さんに話聞こうぜ」
頼もしいのか、間が抜けているのか、よく分からない友人と居ると不思議と行動力が湧いてくる。
祐介は待ってくれ、と暫く帰る予定のない部屋から慌てて出る事になった。