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境界線の先の僕らにしか見えない隣人  作者: 伊勢海老
【第一章】徒歩15分のアパート
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第7話

刑に処される罪人はこの様な気分なのだろうか。

アパートの階段を上る足取りは、ひどく重い。

気を抜けば今朝の光景が頭に浮かびそうになるので眉間に皺を寄せた。


廊下の突き当たりにある自宅の扉に恐る恐る鍵を挿すと同時に隣の家の扉が開く。


休日出勤だろうか、しっかりとスーツを身に纏っているが何処か疲れた表情の女性と目が合った。

引っ越した当初に挨拶をしたきりで、すれ違う事もなかったので、少し気まずい。


挨拶もそこそこに扉を開こうとノブに手を掛けると隣人から声が掛かる。


「あの···」


声を掛けられた方を向くと、肩から掛けている鞄の紐をキツく握って彼女が渋い表情をしていた。

何か迷惑を掛けただろうかと一考するが、思い当たる節がない。


「朝方に物音が気になったんですけど···」


「あ、ハイ。···スミマセン」


衝撃的な体験で失念していたが、今朝は大きな声を出したしバタバタと家を出た事を思い出す。


明け方から騒がしくしてしまったので、さぞ迷惑だっただろう。彼女の疲れた表情はその所為かもしれない。

祐介は頭に手をやり平謝りをした。


「幽霊なんて冗談でも笑えない」


聞こえるか、聞こえないか程度の声量でボソリと呟いた彼女の言葉に、祐介はそこまで聞こえていたのか、と苦く笑う。

すると、佐倉が後ろから服を引き、聞こえる程度に「前の住民の事を聞け」と囁いた。


無茶を言うな、と得意ではない分野に戸惑いを隠せないまま、しどろもどろに言葉を探す。


「あー、朝は、なんというか、寝惚けてご迷惑をお掛けして申し訳ないです、本当に」


「気を付けて下されば結構ですので···まだ、何か?」


彼女は目を泳がせながら話し掛ける様子を不審に思ったらしい、一刻も早く立ち去りたいオーラがありありと感じられる。


一向に話の終わりを切り出さずに胸の位置まで手を上げたり下げたりしている祐介の姿を一瞥すると彼女は階段の方へ歩を進めた。


明日からご近所の評判は最悪のものだろうが、此処まで来てしまった以上は引くに引けない。


「あの!···正直嫌な寝惚け方をしてしまったので気がかりで···。以前住まわれていた方は問題なかったのかなと思いまして···、はは」


彼女を引き留めたものの、口をついて出たのは、なんともストレートな言葉と情けない笑いが混じったものだった。


悲惨な姿に後ろで佐倉が嘆息したのを感じた。祐介自身も自らのあまりの不器用さに自己嫌悪を感じ顔が熱くなる。


話し掛けられた事で半身をこちらに向けた彼女は少しの間の後に口を開く。


「前に住んでた方とは殆ど交流がなかったのでわかりません。···104号室のお爺さんが昔から住んでるみたいなので気になるのでしたら、その方が詳しいと思います」


何か思うところがあったのか、これ以上自ら関わりたくないからか、そう告げると彼女は足早に廊下の先の階段へと姿を消した。

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