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境界線の先の僕らにしか見えない隣人  作者: 伊勢海老
【第二章】赤い糸のおまじない
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第37話

すっかり日が落ちて暗くなった道をバイト終わりの祐介は慣れた様子で辿っていた。

目的地は佐倉の家。転がり込んで暫く時間を共にした彼の家までの道筋は体がしっかり覚えている。


途中、二人でよく立ち寄ったスーパーの近くを通るので差し入れを購入しようと寄り道をする事にした。


珈琲をよく飲む彼に、茶請けにすると相性の良い菓子を幾つか見繕って買い物篭に入れる。

菓子を選んでいると意外と甘いものが好きな彼の喜ぶ顔が目に浮かんだ。


早々にスーパーで用を終えた祐介は、乾いた音を立てるビニール袋を腕に引っ掛けたまま佐倉のマンションのインターホンを押す。ややあって『祐介か』と、カメラで確認したらしい佐倉からの応答があった。


「差し入れ持って来たから入れてくれよ」


カメラに映る様に腕に掛けたビニール袋を高く上げる。いつもなら突然の訪問にも二つ返事をするのだが、佐倉は沈黙するばかりでエントランスのドアを開く気配がない。


『···駄目だ。今日は帰れ』


やっと返答があったかと思えば断りの言葉がインターホンを通してエントランスに響く。

真面目に通っている大学にも顔を出さないくらいだ、何か事情があるだろうと踏んでいた。断られる事も想定内だった祐介は溜め息を吐くと彼に問う。


「それって麗奈が持ち込んだ相談が原因?」


『聞いてるのか?だったら···』


「だったら?他に相談出来る奴いんの?一人で知恵絞るより二人の方がいいだろ」


『全く···いつかと逆だな』


インターホン越しに苦笑いが聞こえ『上がれよ』と佐倉が了承する。沈黙していたエントランスのドアは彼の意を汲んでゆっくりと開く。

そのまま直進して十人は入れるだろう広めのエレベーターで彼の住まうフロアを目指す。


目的のフロアを踏むと生臭い湿度を帯びた空気がフロア一帯に漂っていた。まるでそれは何処かで何かが腐っている様な臭いで思わず祐介は薄手のシャツの上に羽織ったカーディガンで鼻を押さえながら顔をしかめる。


その場に長くは留まりたくはないので、足早に通路を抜けて佐倉の自宅のチャイムを鳴らす。

彼は先程のやり取りで観念したらしく、今度は抵抗なく扉が開いた。


「君は変な所で頑固だな」


そう言って姿を現した佐倉の顔は何処か疲れが見える。扉を開いた左手首に包帯が覆っていて痛々しい。


「色々言いたい事あるけど···、とりあえず何があったの?」


いつも飄々としている彼の弱っている姿に祐介は内心動揺するが、何とか平静を装い問い掛けた。

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