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境界線の先の僕らにしか見えない隣人  作者: 伊勢海老
【第二章】赤い糸のおまじない
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第34話

その夜。

早速佐倉の元に板井から「みみず腫れになっていた傷がいつの間にか消えていた」と焦った様子で電話で連絡が入る。


「ぬいぐるみに適切な処置をしたので心配ない」と、彼に伝えると震えていた声も次第に落ち着いていく。

しかし、不安を拭えない板井に本当に安心なのかと念を押され、呪詛の原理や処置の仕方等を事細かに説明する羽目となってしまう。


あまりにも板井の話が長いので手持ちぶさたになりダイニングに備え付けられている棚から適当に本を取り出すと、電話をしながらパラパラと捲った。

『神道その成り立ち』と題された本の目次を指でなぞるが、その内容は全く頭に入ってこない。思わず溜め息が漏れる。


結局「ねぇ、まだぁ?」と電話越しにも分かる甘ったるい声が二人の会話を遮るまで彼は電話を切る事はなかった。


『あぁ、ごめん。佐倉くん、ありがとう。また連絡するよ』


「はい、どうも」


一人にはなるなとは伝えたが、懲りずに女性と共にいるとは思わなかった佐倉は呆れた様にそれに答え、通信を終えた携帯電話をテーブルに置く。


ふと時計を見ると時刻は22時を指していた。寝るにはまだ早い時間だ。

佐倉は温かい珈琲を淹れ、先程の電話で集中出来ずに中途半端になっていた本を読む事にした。


ぶるり、と身の毛のよだつ感覚に覚醒する。気付けば部屋を重苦しい空気が支配していた。

どうやら読書の最中に眠気に負けてしまったらしい佐倉は、ゆっくりと顔を上げると異様な気配がする室内を慎重に見渡す。


やがて彼は目線を玄関に繋がる廊下の方向に定めると「何者だ」と低く声で威嚇する様に、扉の向こうに感じる何者かに問う。

ややあって扉の向こうから掠れた女性の声が響いた。


「···違う」


その瞬間、部屋を包んでいた重い気配は消える。佐倉は急いで立ち上がり、廊下への扉を開けたが、相手は既に去った後の様で残滓すら感じ取れない。


「どういう事だ···」


廊下の先に広がる暗闇に、一人呟く彼の言葉は静かに溶けていった。

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