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境界線の先の僕らにしか見えない隣人  作者: 伊勢海老
【第二章】赤い糸のおまじない
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第33話

怖がらせるだろうと思って板井には言わなかったが、首筋の傷が減っている様子がまるでカウントダウンの様に思った佐倉は学食を出たその足で川を目指した。


彼は比較的近くにある三十メートル程の幅の大きな川に到着すると、伸びすぎた草で見えにくくなっている遊歩道への階段を下りていく。


大きな川に沿って造られている遊歩道なだけあって散歩中の老人等、ちらほらと人影が見える。普段からそのコースを回っているのだろう、彼らは見ない顔の佐倉を不審そうにじろじろと見回した。

佐倉はそんな視線などお構い無しに、落ちている太めの木の枝を集めながら水辺まで行くと、水の届かない砂利場に座り込んだ。


手元にある枝を適当広めに組み上げると、川に来る前に寄ったコンビニで買った新聞紙を丸めて木枠の中に入れ、ある程度形が安定したのを確かめる。

新聞紙を厚めに纏めてライターで着火して作った火種を中に丸めた新聞紙に近付けると上手い具合に燃え移った。


パチパチと小気味の良い音を立てる炎の真ん中に、火の粉が周りに散らない様にぬいぐるみをそっと置く。

完全に燃え尽きるまで暫く時間が掛かるだろう。


佐倉は火の番をしつつ、片手で携帯端末をチェックすると祐介から連絡が入っている。今日のサークル活動のミーティングについての用件の様だ。

言われて思い出したが、すっかり忘れていた。


『悪い。今日行けなくなった』と送信した瞬間、炎がパチリと高く鳴いて弾ける。

弾けた火の粉が微かに手の甲を焼いたので僅かな痛みを感じた。


ふと炎の様子を見ると可愛らしい熊のぬいぐるみは見る影も無くなっている。胴部分が溶ける様にゆっくりと燃えていき、呪詛の核であろう厚紙で作られた呪符が露になると炎に呑まれていく。

呪符に書いてあるハートで囲ってある【縁】という文字も、鬼という文字に囲われた板井の名前も燃えて灰となっていった。


日も傾いてきた頃、二時間燃え続けて全てを灰にした炎は燻りながら沈下する。温度が下がりきったのを見計らい、残りの新聞紙を簡易塵取りとして使って残らず集めた灰を目の前の川へと流す。


一仕事終えた佐倉は川に向かって大きく背伸びをするとポケットから珍しく煙草を取り出し火を付けた。

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