第32話
二人は熊のぬいぐるみを隅々まで調べる。
足の裏、お尻部分、胴体と丁寧に改めていると、ふわふわとした長い毛に隠れて首の後ろの部分に縫い付けたであろう赤い糸を見付けた。
「ど、どうすればいいんだ?」
状況は確実に呪われている事を示している。
先程大きな声を出して注目を浴びてしまったのを反省したのか、板井は小声でこっそりと佐倉に問うた。
「赤い糸に、ぬいぐるみ···。素人が行った亜種の呪詛の可能性が高い。板井先輩、【一人隠れんぼ】って知ってます?」
「名前くらいは聞いた事あるけど詳しくは···」
【一人隠れんぼ】は降霊術の一種で、ぬいぐるみ、米、爪、赤い糸、塩水、刃物を用いて行われる儀式だ。
ぬいぐるみに米を詰めて肉体に見立て、自らの爪を入れる事で自身の写し身とする。
降霊術とは名ばかりで、その実態は陰陽道の呪詛に似ているのだ。
佐倉は目の前にある熊が、元々はインターネットによって広がった【一人隠れんぼ】の亜種だろうと仮説を立て、概要を彼に説明した。
「ぬいぐるみの中身は恐らく何らかの仕掛けがしてあると思いますが、術者がどういった意図で行ったかが分からない以上、下手に中を見るのも危険です」
原因の根幹が不透明な事が不安で、何も言えずに真っ青な表情を浮かべる彼に佐倉は「落ち込むのは早いですよ」とへらりと笑って告げた。
「呪詛は【解呪】や【呪詛返し】で簡単に打ち破れます」
呪いに使われているモノさえ掴めば打ち破る事は容易な事だ。熊のぬいぐるみが呪詛であると分かった今、炎による浄化で充分だろう。
問題はその先で、術者が再び動く可能性があるいう事だ。
呪詛は何度でも行う事が出来る。術者がもう行わないと約束しない限り危険は続いていると思った方が良い。
「なので板井先輩には、最近怨みを買った覚えがないか詳しく思い出して頂きたい」
「怨みか···」
正直、心当たりは腐る程ある。
一晩限りの女や、手酷くフッた女数えだしたらキリがない。
板井の派手な女性関係まで聞いていなかった佐倉は、彼の答えに「では、考えておいて下さい」と目を細めて冷えた視線を送った。
気まずい空気が流れるが、一先ずぬいぐるみは佐倉が処分する事、今日は一人にはならない事をお互いに約束する。
佐倉は念の為に白檀の香を彼に渡し、身の危険を感じたら焚くようにアドバイスをしてから席を立つ。
何かあったらすぐに連絡する様に彼に伝えると、ぬいぐるみを抱えて佐倉は食堂を後にした。




