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境界線の先の僕らにしか見えない隣人  作者: 伊勢海老
【第二章】赤い糸のおまじない
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第31話

「君が佐倉くん?」


時間は午後13時。待ち合わせ時間にぴったりに大きめの紙袋をぶら下げて、目の下を隈で真っ黒にした板井が学食に現れた。


「ご紹介に預かりました、佐倉です。お伺いしていたよりも随分お辛そうですね」


相手が一つ年上な事もあってか、佐倉は丁寧に答えると彼に着席を促す。

彼は一つ頷くと、佐倉の正面にあたる位置に腰を落ち着けた。


「何処まで聞いてる?」


「麗奈さんから一通りは。念を押しますが、僕もスペシャリストという訳ではないので期待はしないで下さい」


「···大丈夫、話は聞いてるよ」


情けない表情をした板井は、藁をも掴む気持ちで佐倉の事をじっと見つめる。

佐倉は何処吹く風で、彼を上から下までゆっくりと眺め「傷を見せて下さい」と言う。


遠慮のない振る舞いに躊躇っていた板井だったが他に頼る手段がない為、おどおどと彼に首筋を晒した。


首筋に走っている爪痕の様な一筋の痛々しい真っ赤な傷は、周囲がぷっくりとみみず腫れになっている。


「何か憑いてそうなのは分かるけど、はっきりしないな···」


佐倉は口元に手をやり、ブツブツと呟きながら角度を変えて彼の首筋を見つめた。

時折、首筋を通り抜け背後を見る佐倉に気味の悪さを感じるが彼は何も言わずにジッと堪える。


「そちらの紙袋が?」


「あ、あぁ···、例の熊のぬいぐるみだよ」


「首筋の傷は減ってるんですよね?病院には行かれました?」


「昨日行った。原因は分からないとしか言われなかったけどね···」


佐倉の一方的な問答が終わると、二人の間には暫しの沈黙が訪れた。


ややあって、考えを纏める様に佐倉は米神を揉むと口を開く。


「今、僕にははっきりと霊は見えません」


可能性は二つ。

一つは板井自身が恐怖する様な偶然が重なっただけで心霊現象ではないという事。

しかし、首筋の傷の説明がつかないので可能性としては低い。


もう一つは【呪詛】の可能性。

神仏や精霊に祈念して相手を呪う方法で、色んな条件や方法がある。

呪いを受けた対象に直接影響する為、第三者である佐倉の目には見えないという可能性だ。此方の線が濃厚だろう。


「の、呪いっ?」


板井は引き攣った様な声を上げると椅子から勢いよく立ち上がった。

「落ち着いて下さい」と佐倉は彼を宥め椅子に座り直させると、彼が持参した紙袋を指し結論を告げる。


「呪いの場合、恐らく原因はソレです」

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