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境界線の先の僕らにしか見えない隣人  作者: 伊勢海老
【間章】駅前のベンチ
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第28話

「あれ?祐介?」


コロコロとキャリーバッグを引いた麗奈が駅構内から姿を現した。暖かそうな手袋をはめた手を振り、此方まで歩み寄ってくる。


隣に居たご婦人は跡も残さず姿を消していた。


【そういった類いのモノ】は大抵の場合、人目を気にせずにその場に留まる事が多い。

祐介はいつもと違う現象を疑問に思うが、正直【彼女ら】の行動は読めないので、検討はつかなかった。


考えても仕方がないと、気を取り直して立ち上がり麗奈の方を向き直る。彼女の出で立ちを見て、分かりきった事を確認する様に尋ねた。


「麗奈も帰郷?」


「うん、同じ日だったんだね。ウチ、お父さんしか居ないから休みは帰れって五月蝿くてさ」


仕方が無さそうに笑う彼女からは嫌そうな気配は微塵も感じない。内心は家族と会いたいという気持ちが溢れているのは見て取れる。


彼女の穏やかな微笑みが、ふと先程のご婦人の重なった。


「···麗奈は『かえりみち』って本知ってる?」


「なっつかし!それ子供の頃凄く好きだった絵本だよ!」


嗚呼、やっぱり。


家族思いの一面は母娘の共通する部分らしい。


「お母さんがよく読んでくれてたって、お父さん言ってたな」


懐かしむ様に彼女は母親の事をポツリポツリと語って聞かせた。祐介は何も言わずに時折頷き、彼女の話したい事に只、静かに耳を傾ける。


すると突然、耳につく甲高いクラクションの音が辺りに木霊した。


近くに白い車が停まったと思うと、フロントガラス越しに彼女と雰囲気の似た男性が此方を睨み付けているのが見える。

彼女との関係性も、大凡想像がつき祐介は思わず苦く笑う。悪い虫がつかないのか心配なのだろう。


麗奈は顔を引き攣らせた。彼女が多くを語らないのは、いつもの事なのだろうか。


「ごめん。お父さん来たから、もう行くね」


「また新学期に」


「でも、どうして急に『かえりみち』の事なんて気になったの?」


喉に小骨が刺さっている様にモヤモヤとしていたのか、数歩、歩みを進めると彼女は振り返り、祐介に問い掛けた。


もうすぐ年が明けるので疑問は年内に晴らしたいと言った所だろう。その行動は彼女らしいと言えば彼女らしい。


「んー···、通り掛かったお母さんが持ってたから気になっただけ。俺も昔読んで貰った事あるし、麗奈はどうかなって思ってさ」


亡くなった身内が近くにいるのに言葉を交わせないという事は残酷だ。祐介は言葉を濁して返答する。

彼女はパッと明るい表情で「そっか、きっと素敵なお母さんだろうね」と笑うと、父親の待つ車へと小走りに向かった。


彼女を見送り暫くすると、携帯にコールが掛かった。着信に【母】と表示がされている。

恐らく近くの駐車場に到着したのだろう。


「···もしもし?母さん?」


母に掛ける声が柔らかくなる。


この年末は親孝行をしようかな、と祐介は暖かな陽射しに照らされてキラキラと光が反射する道を母親の待つ方向へと歩み出した。

【間章】完

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