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境界線の先の僕らにしか見えない隣人  作者: 伊勢海老
【間章】駅前のベンチ
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第27話

各駅停車しか停まらない地元の駅のホームにボストンバッグを持った祐介は降り立った。


入学して1年目のこの夏は、課題やアルバイトに忙しかったので、久し振りの見慣れた地元の感覚に肩の力が抜ける。


迎えに来てくれるという母の車を待つ為に、改札から出ると目立ちやすい駅前のベンチに移動した。

持っていたボストンバッグを傍に下ろす。肌を刺す様な寒さに祐介は眉を寄せて、首に巻いているマフラーを口元まで上げた。


「お隣宜しい?」


不意に三十代の品の良さそうなご婦人に声を掛けられ顔を上げる。この寒空の中にパステルカラーの服を身に纏っていて見ている此方が寒くなりそうだ。


暫しの間の後、祐介は「どうぞ」と答えボストンバッグを避けてスペースを空ける。

嬉しそうに「ありがとう」と彼女は微笑むとベンチに腰掛けた。


「貴方も帰郷なの?私も娘が帰郷するって聞いて飛んで来たのよ」


「まぁ、そんなところです」


小声でぼそりと返答する祐介の様子も気にする事なく彼女は一方的に話し掛けてくる。どうやらお喋りが好きな様だ。


娘が四歳の時は何故か煮干しが好きでずっとしゃぶっていた事、男の子に玩具を取り上げられた友達を庇って喧嘩した事、卒園式の時に大好きな先生と離れるのが嫌で大泣きした事。


彼女は大切な宝物を自慢する様に、一つ一つ祐介に語りかける。


娘は小さい頃からお転婆で目を放すと、すぐに遠くに行くので手が掛かって仕方がなかったと遠い目をした。


優しい彼女の横顔が母親と似ていて、なんとなく面映ゆい。


祐介は先程から視界に入ってくる物が気になるフリをして然り気無く話題を反らそうと、彼女に問い掛けた。


「それは?」


「あぁ、コレの事かしら?娘が大好きな絵本なのよ」


手には『かえりみち』という少し汚れた絵本が抱えられていた。


帰り道が分からない女の子や動物達がお互いに助け合う話で、祐介も小さい時に読んで貰った覚えがある。


「きっと、優しい娘さんなんですね」


「えぇ、私の自慢の娘ですもの」


にっこりと彼女は娘を想い綺麗な微笑みを浮かべた。それに釣られて祐介も口元を緩める。


娘は彼女の全てなのだろう。照れや気恥ずかしさという気持ちは、彼女の心に触れているうちに自然と融解していった。


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