第21話
日記は思いの外あっさりと見つかった。
始発電車に乗り込んで祐介の自宅に向かった二人が「これでそのまま其処に置いてあったら驚きだよな」という話をしていた矢先の事である。
玄関に乗り込むと祐介の所有している靴が全て出されていた。
彼女の無言の主張。それは事の真相を知ってしまった祐介に、もっと早く気付いてあげられたらと、自責の念を抱かせるには充分過ぎるアプローチだった。
佐倉に肩を叩かれ、気を取り直して彼女が日記をしまっていた台所の戸棚を開くが、引っ越しをして来た際に無作為に置いた荷物に視界を阻まれる。
ベッドの近くに置いているローテーブルを持ち出し足場の代わりにすると幾分ましになったので、手前の荷物からリレーの様に佐倉に渡す。
暫く開けていなかったので埃が凄い。朝日を反射させてキラキラした埃が舞い、祐介の少し長い前髪に容赦なく注ぐ。
「マジか···、あったよ!」
ローテーブルの足元が荷物だらけになった所で、おおよそ2年分の埃をたんまりと被った彼女の日記を発見した。
人が亡くなったので特殊清掃が入った事も想定をしていたが、彼女は早い段階で発見されたのか、···はたまた業者の手抜かりか。何にせよ日記を見つける事が出来て良かった。
女性の日記を読むのは申し訳ないが、手がかりである以上は仕方ない。祐介と佐倉は頷き合うと、カサカサに水分の飛んだ表紙を捲る。
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○月×日
今日は入社して初めての研修日。
早速上司に怒鳴られた。結構理不尽な事で怒るって有名みたい。あの人の部署に配属されたくないな。
○月△日
同期の飲み会に誘われて参加。
松岡くんは家が近いみたい。
○月○日
あと一週間で研修終了。
バタバタしてて日記がなかなか書けなかった。
あっという間だったけど、心配して連絡をくれたお母さんに感謝だなぁ。
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日記の最初の方は何の変哲もない、ごくごく普通の女性の日記そのものだった。
運の悪い事に折り合いの良くない上司の部署への配属、同期との他愛のないやり取り、プライベートの友人関係。なんだか急に悪い気がして頁を捲る指を早める。
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△月×日
課長のパワハラがひどい。
私だけじゃなくて、母子家庭だからってお母さんの事まで悪く言うなんてあり得ない。
△月○日
何時も私の事を励ましてくれる松岡くん、格好良いなぁ。同期の子に相談したら彼女はいないみたい。
△月◎日
お母さんから野菜届いた、これで美味しいご飯が食べられる!課長なんか知るもんか!
△月△日
松岡くんに告白された。
嬉しかったけど、いきなり触られて怖かったから逃げちゃった、明日からどうしよう。
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×月○日
気落ちばかりで日記を書いてなかった。
もしも私が死ぬ事があったら、お母さんに届くのかな。もしもなんてなければいいけど。
×月△日
毎日松岡くんが家にくる。
家の外で何を言ってるの?怖い。
×月◎日
今日は駅からつけられてた。会社では普通なのに。
×月×日
お母さん、助けて。
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最後は飛び飛びとなっていた日記は其処で終わっていた。




