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境界線の先の僕らにしか見えない隣人  作者: 伊勢海老
【第一章】徒歩15分のアパート
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第2話

結局その晩は、飲み会の解散後に渋る佐倉に無理を言って泊まって貰う事になった。

彼の言葉が祐介の恐怖に対する決め手となってしまったのは言うまでもない。


最寄り駅で降車すると、飲み物を買う為に道すがらコンビニに寄る。

客人用の歯ブラシを買い物かごに入れ、店内を見て回っているのとは反対に佐倉は熱心に調味料や酒のコーナーを物色していた。

塩や酒、何の用途かアルコール除菌スプレーを買い物かごに。


困惑する祐介を尻目にさっさと会計を済ます。

どうやら彼は関心のある事に集中をするタイプの様だ。


「俺はな。見えはするが霊能力者みたいな力はない」


店を出て暫く歩くと佐倉は呟いた。

ピタリと歩みを止めた祐介を見ると吹き出す様に笑う。


「何て顔してるんだよ」


絶望感で真っ青な顔を笑われて良い気はしない。

普段大人しい祐介も、これには眉を吊り上げた。


「基本的な事は知ってる。本当に弱いモノを追い祓う程度だけどな」


「【見える】タチだ、って話だっただろ?」


「見えはするけど祓えない。世の中単純に霊感あるだけの人間なんてごまんといる。ソイツら全員に霊を祓える力があったら霊能力者なんて職業ないだろ」


そう言われると筋が通っているので納得する。

世間では、弱い心に付け込む霊感商法という詐欺もあるというが、目の前の男は現実的な意見をはっきり述べた。

元来慎重な性格で、幽霊なんて全く信じていなかった祐介は彼の姿勢に、少し思いを改めた。


「・・・悪い」


「仕方ないさ、俺も詳しく説明しなかったし。飲み会で無闇に怖がらせて悪かったな」


道中、電柱や自販機の影や暗がりに怯えていた祐介。

悟られない様にと不安を押しとどめていたつもりだったが、傍から見ても挙動がおかしく見えていたのだろう。


「今のところは大丈夫みたいだ」


佐倉曰く、幽霊は大まかに二つのパターンに分類出来るらしい。

人や動物といった生き物に憑くモノ、場所や物に憑くモノ。前者は移動して憑いてくる事が多く、後者はその場に留まる事が多いという。


「問題は俺の家か」


「多分。入居時の条件はどうだった?」


「家賃はちょっと安かったけど、駅から徒歩15分だからだと思ったくらい。不動産屋も何も言わなかったし」


その15分は大した距離ではない。実際、祐介のアパートは目前に迫っていた。


階段のみの古いアパートで、外側に面した共用の廊下には防犯用の灯りが常時点っている。

此処が自宅だと佐倉に示すと、二階角部屋を目指す。


ふと、友人の家に訪れる事はあったが、自宅に人を招くのは初めてだと気付く。

何時もと違う行動は緊張するものだ。

これが恐怖に苛まれていなくても同じ様に感じるのだろうな、と脳裏に思いながら祐介は自宅への扉を開いた。


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