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境界線の先の僕らにしか見えない隣人  作者: 伊勢海老
【第一章】徒歩15分のアパート
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第18話

何故、彼女がそれを指したのか、知っていたのか解らない。思わず彼女の方を向き直ると既に其処にいなかった。


指し示された自宅の扉と特徴的な真っ白なワンピースの彼女が結び付き、【奴】であろう事を悟る。

その時に初めて、これが夢である事に祐介は気が付いた。計画は成功しているのだ。


敵意を見せなかった彼女が伝えたかった事とは一体何なのか、この扉の向こうに答えがあるのだろうか。ドアノブに手を掛け様とするが、動作は固く小さく震えた。反対側の手で腕をしっかりと持つと儘よ、と言わんばかりに力強く扉を開く。


真っ暗な中に居たため、目映い光が祐介の瞳を射す。

目を開くと其処はセピア色の自室があった。只、自分の部屋とは随分と雰囲気が違う。ベッドの位置は違うし、見た事のない簡素なデスクがある。

不思議な光景に暫し入口で呆然と佇んでいると、後ろから溜め息が聞こえ扉が開く。


其処にはスーツを身に纏った先程の女性が買い物袋を片手に無表情に立っている。慌てて飛び退こうとするが、彼女は祐介が存在しないように、そのまま靴を脱ぎ台所に荷物を置いた。


ジャケットをハンガーに掛けると、シャツのまま料理に取りかかる様だ。米を研ぎ炊飯器にセットしている。一通り準備が出来ると食事を摂り、食べ終わると流しで皿を洗う。


洗い物に一息吐くと、彼女は台所の上に備え付けられている戸棚からノートを取り出し、珈琲を淹れて彼女はデスクに向かった。手元のノートに何かを書き綴っている。

彼女が着替えを用意して入浴の準備をしているのには祐介も流石に目を反らす。


『俺は一体···何を見せられているんだ』


目の前で彼女の日常が営まれているのは解る。

それ以外に何があるというのだろう。


明日の準備をしている彼女が新しいスーツとシャツを出して、直ぐに着替えが出来る様に整えている、その表情はひどく暗い。


突然、ガチャリと鍵のかかったドアノブが回される音が響く。

扉が開く訳もなくガチャガチャという不気味な音だけが繰り返される。それに気が付いた彼女は耳を塞ぎ蹲った。


異様な雰囲気に祐介が戸惑っているとドアの外から男の声が聞こえる。


「美沙子···美沙子居るんだろう?今日もお疲れ様。課長の話、大変だったね。大丈夫だよ、僕が守ってあげるからね、いずれ出世をしたら課長を更迭してあげるから···」


美沙子とは彼女の事だろう。

声はだんだんと小さくなっていき、やがて聞き取れないぼそぼそとしたものとなるが、暫くすると「今日は疲れているんだね、また来るよ」と言い残し声の主は階段を下りていった。


彼女は蹲っていたが、やがて顔を上げる。

恐怖に引き攣る表情が祐介の網膜に焼き付いた。


早送りのテープで再生される情景を見ている様に彼女の日常を何日も垣間見たが、男は彼女の部屋を毎晩訪ねて来る。

ひどい時は一時間も二時間も部屋の外に居る様子を祐介は何も出来ずに眺めていた。


そして事件が起こる。

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