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境界線の先の僕らにしか見えない隣人  作者: 伊勢海老
【第一章】徒歩15分のアパート
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第17話

佐倉の寝室は一風変わっていた。


八畳程の部屋の四隅には炭と水晶の原石らしいものが小さな箱に入れられ鎮座している。

暖色を基調に整えてある雰囲気が少女趣味に感じるが、佐倉の事なので何か意図があるのだろう。


寝室に入って直ぐの足元に置いてある炭の入った箱をあらかじめ取り除いておく。其処は北東で鬼門を表す方位だ。


昔から幽霊は鬼門を通って現れると考えられている。其処が今日の祐介の寝床になるらしい。

人間は眠りに落ちると肉体的にも精神的に無防備になるという。今回の計画は、所謂『夢枕に立つ』と顕される現象を巧く利用する事を前提にしている。


二人が共に寝てしまうと、あまりにも無防備になる為、佐倉が寝ずの番を買って出た。

【奴】の死角となる様に身を潜めて危険があったら祐介を起こすという手立てだ。


時計は0時を示し、準備は整った。

シャワーを浴びて寝間着のTシャツと短パンに着替えた祐介は落ち着かずにそわそわしている。


「はぁー···、緊張してきた寝れるかな···」


「リラックス、リラックス」


佐倉は電子レンジから出来立てのホットミルクを二つ取り出すとスプーンで表面に出来た膜を取り除いてから、すっかり片付けられたダイニングテーブルの上に置く。ご丁寧にシュガーポットも添えて。

礼を言い、熱いまま一口啜ると、ほわっと口の中に仄かな甘味が広まった。


「蜂蜜入れといた」


「げ···」


彼はイタズラっぽく笑うと、同じくマグカップに口をつける。しかもまだ砂糖を足すらしい。

彼とはとことん味覚が合わないみたいだ。


此方の反応にきょとんとしている佐倉に思わず笑みが溢れた。それを見た佐倉も可笑しそうに言う。


「いいね、余裕あるじゃん」


「よく言うよ···」


談笑をしていると緊張が解け、冷たくなっていた身体が程好く暖まる。緩やかな眠気が押し寄せ、瞼が重たくなった。


ここで眠れないという風にならないあたり、意外と神経が太い様だ。

三分の一程マグカップにホットミルクを残しているが床に入る事にする。

先に寝ると告げると寝室の入口に用意された客用の布団にもぞもぞと潜り込んだ。


佐倉はホットミルクを飲み終えたのか、暫くすると入口の祐介に気を遣いながら入って来たのを霞がかった意識の端で捉える事が出来た。

それが眠る前の記憶の最後となる。


···真っ暗だ。何もないだだっ広い真っ暗な空間がただただ目の前に広がっている。

祐介は何故こんな所にいるのか理解が出来ず、辺りを見回した。よく目を凝らすと遠くに人の輪郭らしきものが見える。

とりあえずその方向を目指し歩く事にするが、足がひどく重い。


やっとの思いで目的とした人影の近くまで行くと、その人の様相が判った。

長い髪に隠れている顔は可愛らしい。柔らかな印象の顔に比べ、シャープな輪郭が何処かアンバランスだ。

だが、華奢な彼女に真っ白なワンピースがよく映えていた。


声を掛けようとすると、何も言わずに彼女は表情ないまま一点を指差した。そこには見覚えのあるものがある。


深緑色のシンプルな造りの祐介の自宅のドアだ。

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