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境界線の先の僕らにしか見えない隣人  作者: 伊勢海老
【第一章】徒歩15分のアパート
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第16話

よく利いた出汁の中に野菜や肉が鍋の中にふんだんに入れられている。どれも柔らかくなっていて美味しそうだ。

ふわりと香る湯気が今は夏前だという事を忘れさせてくれそうになる。


佐倉は自分の分の取り皿には少しポン酢を入れていた。しっかりと味がついているので、そのままで充分食べられるが、その方が好みだと言う。

二人は手を合わせて食前の挨拶を済ませると、佐倉は野菜、祐介は肉から手を付けた。


久し振りの手の込んだ料理に感動して黙々と食べ進めていると不意に佐倉が口を開く。


「さっき言ってた暖簾な、麻で出来てるんだ」


麻には邪気払い、要は魔除けの効果があるらしい。

正確には大麻がそれに該当する様で、古くから神社の注連縄や鈴緒に用いられているという。


「この部屋は魔除けだらけだよ」


よく見るとダイニングの片隅に備え付けられている棚には、どこから持ってきたのか石製の勾玉、バルコニーに続く掃き出し窓を彩るカーテンのレールの部分には目玉模様の装飾が多々あった。彼が言うように、自分には分からないが要所要所に点在しているのだろう。


「へぇ、これ全部調べて置いてんの?」


辺りを見回し感心した祐介。

佐倉はくたくたになった白菜を口に運び、さも当然といった表情で「怖いからな」と言う。

正直、意外な返答に祐介は目を丸める。

気分を害した様子もなく彼は続けた。


「君も体験したから解ると思うけど、普通じゃない事が起こるって怖いだろ?だから調べるんだ」


興味があった訳ではない。必要だったからだ、と告げられ、その言葉に祐介は彼の孤独を垣間見た気がした。

だが、今は二人で対処が出来る。先程の決意が嘘にならない様に少しの間の後に彼に問う。


「今回の事、俺に出来る事はある?」


「···事が上手く運ぶか分からんが、策は二つ考えてある。一つは君にしか出来ない事だ」


策の一つは、お祓いが出来る実力のある霊能力者に頼る事。

但し、本当に能力があるかどうかを精査する必要がある。

『本物』に当たるまで時間の掛かる可能性があるので、【奴】との長期戦を覚悟しなければならない。


アルバイト先や帰宅の最中に姿を現すといった現象が起こり始めている今、時間を掛ける事そのものがリスクとなるだろうとの事。


もう一つは、【奴】の目的を知る事。

今の祐介は【見える】という諸刃の剣がある。

【奴】は祐介に限定して現象を起こしているので直接のコンタクトを計り、相手の目的や執着を取り除くといった具合だ。


不安な点があるとすれば、そもそも二度遭遇した女の霊が【奴】とは確証がないという事と、もし相手の目的が祐介を害する事であれば今以上に活発化する可能性があるという事。


「どちらも俺にリスクがあるなら···、早く解決する方を取りたい」


不確かで結果も保証されていないが、逃げ回るのはもう辞めだ。

祐介は自分を鼓舞する様に鍋の中の最後の肉を頬張った。


「決まりだな。今夜鬼門の方向の守りを弱める」

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